真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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好奇心とか煩悩とかって意外と人が進歩するのに必要だったりするんですけれどね・・・私自身はトマトを世界で一番最初に食べた人の勇気を尊敬します(謎)


第64縁:走る馬鹿野郎共。

 その瞬間はすぐに訪れた。

一路達がいるのとは別の茂みから人影が飛び出したのだ。

それを合図に次から次へと人が動く。

 

「行くでゴザル!」

 

 照輝の声で一路も走り出す。

 

「ある程度は集団にいた方が被弾率は減る!」

 

 集団の速度はかなり速い。

どうやら皆、強化された能力をフルに発揮しちえるようだ。

そしてこの人数。

一年の男子寮生の8割以上はいるのではないだろうか?

 

「なんと言うか・・・男って馬鹿だね。」

 

 そういう自分もその範囲に入っているのだが、声に出さずにはいられない。

 

「ま、男ってそんなもんだ。」

 

「で、ゴザル。」

 

 そうこうするうちに、先頭の集団の方から悲鳴と怒号があがり始める。

 

「来たな・・・。」

 

「何?!」

 

「警備ロボでゴザル。」

 

「どっちに逃げる?」

 

 こうしている間にも悲鳴の声との距離は近づいてくる。

 

「しまった!後ろからも来たでゴザル!」

 

 挟撃。

一番最悪のパターンだ。

道を逸れる事は出来ても、敷地の外に夜間は徒歩で出られない。

かといって、乗り物のある倉庫へのルートを外れても勝算はない。

 

(どうすれば・・・。)

 

 もう万事休すなのか?そう過ぎった時だった。

 

「くおおらぁぁぁぁぁーッ!坊ーッ!よくもこんな面白い事にワシを置いて行きよったなぁぁぁーッ!!」

 

 闇夜を切り裂く怒声。

いや、恨み節。

 

「NBッ!」

 

 声の主の正体を理解した一路は声を上げる。

すると見慣れつつある球体が目からビー・・・ムではなくライトの光を出しながら急速に接近してくる。

 

「坊!漢なら後ろでも横でもなく!前へやでぇッ!」

 

 ひょいっとNBが投げて来た物を咄嗟に掴む一路。

それが何なのかは、握った瞬間に解った。

宇宙に出てから一日たりともそれを持たなかった日はなかった。

使い慣れ、手に馴染みつつある木刀。

今回のイベントの概要を知らなかった一路は、部屋に置いてきてしまっていた。

一路にとっては、それだけで力が湧いてくるマジックアイテム。

 

「プー、照輝、行くよ!」

 

「心得た。」

 

「了解。」

 

 死屍累々のクラスメート達を視界に入れつつ、一路は前に進む。

倒れた者達の身体のアチコチに見るにも言うにも耐えないスタンプが刻まれていた。

 

「成仏するでゴザル。」

 

 照輝が手を合わせると、そこかしこから『俺達の屍を越えてゆけ!』というフレーズが返ってきた。

言っている事はカッコいいのだが、状況はすべからくアレである。

 

「二人共、僕が一振り叩き入れたら、全速力で駆け抜けて!」

 

 どんなに頑丈なロボットでも、狙う部位を間違えず全力で叩けば数秒は止まるだろう。

たかが数秒といっても、強化された肉体ならば数百mは距離を稼げる。

ただ今の身体で全力を出して叩けば、木刀は折れてしまうかも知れない。

こんな事で大切な木刀を折ってしまっては、申し訳が立たないので、多少の手加減はするつもりだった。

数秒間時間を稼げればいいのだから。

ただ、それで止まらなかったら仕方がない、今夜の失敗は土下座して二人に謝ろう。

そんな事を考えているうちに、宙に浮くタコのような球体のロボットが視界に入った。

NBを赤くして複数の足を生やしただけのような気もする。

正直言って、気持ち悪い。

 

「空中に浮いてるなら、叩き落せば!」

 

 紫電一閃!とまではいかない一撃だったが、それは見事に入ったと胸を張って言えるものだった。

少なくともこの一撃は、剣道のセンスがないと全に笑われる事はないだろうと思った。

 

「お見事!」

 

「そぉ~れっ、走れぇ~っ!」

 

 土煙を上げる程の全力ダッシュ。

流石に後方のロボットは振り切れたようだ。

一路達の近くにいた集団も一緒について来ている。

数は三分の一になっているだろうか。

 

「上々だ。」

 

 プーが喜びの声を上げると他の集団の面々も頷き、何やら全体的にもまとまりが出来てきているような気がする。

困難を共に乗り越える戦友ってヤツだろうか。

根幹の出発点は"煩悩"だが。

 

(・・・なんか・・・変だ・・・。)

 

 一路はそう思う。

この奇妙な連帯感の事ではない。

こういう時にこそ、冷静に考えるべきだと。

挟撃を回避、被害はないし大切な木刀も折れてない。

追っ手は後方。

それでも何か得体の知れない、よく解らないものが背中に張り付いているような・・・。

では、これを拭うにはどうしたらいい?

 

「・・・二人共、ちょっとこっち。」

 

 一路はなんとなくプーと照輝の襟を引っ張って集団の後方に沈んでいくと、そこから一本隣、というより5、6m程横合いの道に逸れ完全に集団から離脱する。

 

「どうしたでゴザル?」

 

「プー、こっちの道からも目的地に行ける?」

 

「ん?あぁ、少し遠回りになるけれど大丈夫だよ?」

 

 それを聞いて頷いて、一路はそのまま横道の奥へと歩を進める。

 

「どうかしたのか・・・い?」

 

 仕方なく先頭を進む一路の後を追いかけてプーが声をかけようとした瞬間、遠方で悲鳴が上がった。

 

「成程、待ち伏せか・・・挟撃すらも囮で罠だったってわけか。」

 

 全員をあおの場で討ち取るつもりならば何も挟撃でなくても良かった。

四方を包囲して、その輪を縮めていけばいい。

恐らくあの場で左右に逃げたとしても、伏兵が潜んでいたのだとうとプーは推測する。

 

「人は安心した時に隙や混乱が生まれるでゴザるからなぁ。」

 

 混乱が起きれば起きる程、討ち取る側が有利になるからだ。

 

「挟撃、伏兵、奇襲。あぁ、なんて素晴らしい授業だコト。一路、よく気づいたね?」

 

「へ?あぁ、あれってそういう事だったんだ。」

 

 全く理屈を理解できていないまま、ただ何となくで行動しただけだった。

プーの言葉は、一路の行動理由の後付けでしかない。

 

「勘も運も実力のウチでゴザルよ。」

 

「結果が全てだしね。」

 

 二人は苦笑しながらも、やっぱり一路を誘って良かったと思った。

自分達の人を見る目、評価は正しかったのだと。

 

 

 


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