真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

67 / 184
第67縁:乙女の園へダイレクトアタック!

「痛たぁ~。」

 

 互いに部屋の中へという事しか考えていなかったせいもあり、二人はもんどりうつようにして室内に転がっていくのだが・・・もう説明はいらないだろう。

所謂、"二度ある事は三度ある"だ。

 

「もぅ、スケベ!」

 

 あぁ、また殴られるんだな、そういう学習だけは一路にも出来た。

以前の時と違って、生体強化した一路も今回は拳の軌道が見える。

だが、ここで避けてしまっては火に油を注ぐだろう事は目に見えている。

一度ならず二度までも。

仏の顔は三度までだが、乙女にはそんな余裕などあるはずがない。

甘んじてそれを受け入れようと覚悟を決める。

なぁに、今度は自分も生体強化をしたのだ、気絶する事なく耐えられるだろう。

 

(あれ?そういえば・・・。)

 

 そこで一路の顔面に拳がヒットする。

幸い顔の横からだったので、鼻血を噴き出す事はなかったが、それでも悶絶しながら部屋の壁に激突するまで転がっていった。

しかし、予想の通り意識まで持っていかれる事はない。

・・・少し、奥歯がグラついている気もしたが。

 

「・・・な、何よ、気持ち悪い。」

 

 殴られた一路が笑顔を浮かべて起き上がったのだ。

殴られても嬉々として起き上がる様はエマリーの指摘した通り気持ち悪い。

それは(そういう)側なのかと勘ぐりたくなる程だ。

 

「いや、生体強化しても気絶しただけだったなって。」

 

 そして、今回はダメージを受けただけ。

同じ力で殴ったとしても、生体強化前と強化後とでのダメージの差が少な過ぎる。

という事は、元から加えられた力が違うという事だ。

 

「ちゃんと力加減してくれてるんだね。」

 

 前の時も、今回も怒って思わず殴ったにも関わらず、手加減されている。

そこにエマリーの優しさと分別を感じたのでった。

 

(でも、殴られてはするんだけど。)

 

 そこは自分が原因なので、否は言えない。

 

「本当は殴り殺された文句は言えないんだからねっ。」

 

「うん、仰る通りです。」

 

 乙女の肌は真珠の肌、宝石と思え。

少し言い過ぎな感はあるが、流石に二回目となるとぐぅの音も出ない。

しかし、一路の素直な反省の態度も、エマリーにしてみれば拍子抜けというか、あっさり過ぎるようにも感じられる。

だが同級生の胸をあんな風にするというのは、エマリーにとっても、いや、事、アカデミーという場所においては、重要な意味を持つのである。

科学が魂の領域に触れても尚、オカルトめいたモノは存在するのだ。

 

「もしかして・・・ワザとやってる・・・の?」

 

 特にエマリーは自分の生まれ育った環境のせいで、幼い時に聞かされていて身近にある分、ソレを信じ易い傾向にあった。

 

「はひ?ワザと?」

 

 何でそんな自殺行為を自らやらねばならないのだろう?というより犯罪だと思うのは一路の側だ。

地球の法律とそこは相違ないという点も既に学習済みである。

 

「だって・・・あなたアタシをおヨメっ。」 「誰か来る!」

 

 闇夜の中を逃げ惑う事で神経が過敏になっているのだろう、一路は部屋に来る人間の気配を的確に察知していた。

 

「あーっ!もうっ、次から次へと!」

 

 何で自分がこんなメに。

その憤りを以って、エマリーは一路の首根っこを引っ掴むと、近くにあったベッドの布団を開き、力任せにそこに放り込む。

 

「ぶべっ。もう、乱暴だぐげぇっ。」

 

「つべこべ言わず詰める!」

 

 抗議の声を一路が上げようとしたのも束の間、今度はエマリーがショルダーアタックで飛び込んで来たのだ。

これでも気絶しないのだから、自分は本当に生体強化されたんだなぁと痛みを堪えながら、端に詰める。

なんとか二人が一緒の布団におさまると同時に、一路が感じていた気配が室内に入って来た。

 

「あれ?エマ、布団に入るの早いね。」

 

「疲れた?大丈夫?」

 

 入って来た人数は二人。

そういえば男子も基本三人一部屋、或いは四人一部屋だという事を一路は思い出す。

 

(女子も同じなのかな?)

 

 ではルームメイトだろうか?

そんな事を考えながら、一路は身じろぎもせず、ただ聞き耳だけを立てた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。