真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第68縁:誰が悪いかと突き詰めれば・・・。

(そういえば、さっき何て言おうとしたんだろ?)

 

 身体は動かす事が出来ないので、思考だけが唯一の気を紛らわせる手段だった。

 

(おヨ・・・ネ?)

 

 よく解らないが、彼の脳裏に浮かんできたのは、田舎のおばあちゃんのイメージだった。

う~ん、惜しい。

しかし、それでは前述の"アタシ"という言葉に係らないという事に気づく。

となると・・・。

 

(アタシ・・・オトメ?)

 

 ダメだコリャ。

 

(う~ん・・・でも、乙女の胸を2回もってのは、正直許されるハナシじゃないしなぁ・・・。)

 

「それにしても、外うるさいね、何なのアレ?」

 

「あ、知らないんだ。なか、男子寮恒例の脱走イベントらしい。」

 

「大脱走、荒野に走れ。」

 

 会話が始まったようなので、今度はそちらに思考と意識を向ける。

顔は見えないが、一人はエマリーよりも低めのゆったりとした声音だ。

もう一人は抑揚のない高めの声。

 

「な、なんかB級映画みたい、それ。でも、男子ってほんっと、どーしよーもないんだから。」

 

(いや、うん、反論のしようもないです。)

 

 エマリーの言葉は、友人達との会話であるのだが、どう考えても一路に向けられているようにしか思えない。

 

「仕方ないよ、男子はエロに生きる生き物だから。」

 

 溜め息をつかれながら断言されてしまうと、少し泣きたくなってくる。

しかし、ここで声を出すわけにはいかない。

 

「男子と言えば、例のエロ少年はどうした?」

 

(例の?)

 

「例のって?」

 

 一路が思った事と全く同じ事をエマリーが問い返してくれたので、興味津々で聞き耳を立てる。

 

「エマの胸を揉んだエロ少年。」

 

(なっ?!)

 

 僕はエロじゃない!と大声で叫びたかったが、それも出来ないし、何より突っ込む点はそこではなかった。

寧ろ、その出来事をエマリーが周りの人間に言っているという点が問題なのである。

 

「どうもこうも、何の連絡もないわよ。全く、いくら合同授業がないからって、連絡の一つくらい寄越したってバチは当たらないわよね。」

 

 確かにそんな話は宇宙船内でした覚えはある。

しかし、一路だって今の今まで寮ではなく、リーエルと一緒に暮らしていたし、その日々は訓練づけだったのだ。

更に専用の端末だって持ってはいなかった。

NBが来てからは、彼を通してかろうじて通信する事は可能だったが、そうすると何故だかやたらと通販サイトらしきものを勧めるので、遠慮していたのだ。

 

「そう。困ったちゃんね。エマはこんなにもトキメキながら待っているのに。」

 

「トキメいてないっ!」

 

(ごめんね、エマリー。)

 

 まさか、そんなにも自分からの連絡を待っていたなんて、悪い事をしたなぁと単純に一路は思っているのだが、勿論、彼女達の言っている事はそういう意味以外も含んでいる。

 

「伝説の幕開け。」

 

「やめてよ!」

 

(ん?どんな伝説だよ、ソレ・・・。)

 

 きっとロクなもんじゃないだろうと直感する。

なんとういか、ばっさりと言ってしまうと、NBが日頃発言している内容と非常に酷似している気がしたのだが・・・。

 

「大体、そんなの迷信でしょ?!」

 

「いや、成功者はほぼ100%・・・らしい。」

 

「ひゃっ・・・で、でも、そんなの自己申告なんだから、当然じゃない!」

 

「楽しみ、楽しみ、くひひひひっ。」

 

「もうやめてってば!」

 

「しかし、それとは別に、会ってみたいものね、彼に。」

 

 彼というのは当然、自分の事なのだろうと暗闇の中で察する。

しかし、エマリーのこの拒絶反応というか、慌てぶりは何なのだろうかと首を傾げそうになるのを、今は布団の中だと思い出してかろうじて堪える。

 

「ワタシは伝説の真偽が気になる。」

 

「確かに。この星に入学しに来て初めて会った女性の胸を揉むかキスをすると結ばれる・・・て、何でキスか胸の2択なのかしら?」

 

(な゛っ?!うぶっ?!) 「ひゃっ?!」

 

 衝撃的なフレーズに一路は思わず身体が大きく動いてしまった。

そのまま顔を押し出す格好で、何やら絶妙な感触に阻まれたのだが・・・。

 

「どした?」

 

「ううん、何でも・・・。(ど、何処に触ってんのよ?!)」

 

 一路が正面衝突した先・・・。

 

(ふ、ふがっ!)

 

(ばっ、馬鹿!ダメだって、呼吸すんな!)

 

 それは突き出されたエマリーの・・・お尻だった。

 

(お、おヨメって・・・お嫁さんてコトォッ?!)

 

 衝撃的な展開。

これを衝撃的と言わずして、何が衝撃的だというのだ。

この後、エマリーが何とか二人の友人を部屋の外のに誘導する事に成功して、一路を正座させ説教をし、そこでようやく一路は解放された。

但し。

 

「さっきの会話は120%忘れなさい。いい?」

 

 有無を言わせぬ圧力をかけながら、エマリーに念を押された。

念を押されれば押される程、記憶に残るであろう事は互いに気づかずに。

ちなみに、一路がこの伝説の発端についての真相を知るのは、もっとずっとずっと後のお話。

 

 




昔からの天地無用を知っている人には懐かしい、どんなに各種○○版を入れようとも、このスタンスは崩しませんよ。

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