「諸君は実に優秀である!」
生徒達は首を丁度45度に傾げながら、教師である男の話を聞いていた。
何故か?
「よって、基礎体力を養う期間は終わった!雛鳥というものは何時か必ず飛び立たねばならんのだ!」
それは、彼等の前で大仰に頷いているピンク頭、天南 静竜が首にコルセットを巻いて斜めに傾げた状態だったからだ。
「なぁ、先生、なんであんななんだ?」
「さぁ?」
その場にいた誰もが思っている疑問を口にするプーに照輝は答える事は出来ない。
だが、一路には嫌な予感があった。
「人は何時、危機的状況に晒されるか解らん!しかし、そんな時こそ、こういった訓練が身についている事が重要なのである。」
もっともらしい事を胸を張って述べられても、現在の静竜の状態を見てしまった後では説得力もなる。
「昨夜も女子寮に侵入しようとしていた不貞の輩と相対したが、日頃の訓練のお陰でこうして無事でいる。諸君等も日々の鍛錬を軽く見る事がないように!」
(やっぱり・・・。)
一路は空耳だと思っていた昨夜の出来事を思い出していた。
あれは決して空耳などではなく・・・。
「しかし、天南特例のある先生の首をあんなにしてしまうとは・・・いやはや、世の中には強者が多いでゴザルな。」
「天南特例?」
「あぁ、君は知らないか。まぁ、先生は色々と規格外で・・・うん、回復力も身体のナノマシンのせいで、生体強化された人間の何十倍って寸法。」
「それをして一晩かけても治らぬダメージを与えるとは・・・。」
「そ、そうなの?」
激突した時の鈍い音、速度から考えてダメージを与えた箇所があれで済むとは確かに思えない。
ゴクリと喉を鳴らす。
「普通の人間なら、完全に骨折して即死だね。」
「それを捻挫レベルとは、いやはや。」
生体強化というものの凄さに一路は改めて驚き、そしてマジマジと静竜の姿を見る。
ちなみに照輝もプーも先日の大脱走(?)を成功させたせいか、笑顔満点なうえに一路との友情も一層深まっていた。
一致団結ならぬ、エッチ団結。
「・・・天南先生くらいにならないとダメなのかなぁ・・・。」
宇宙に出て、自分の生きたい、成したい事をなして生活していく為には、そのくらいのレベルでなければならないのだろうかという・・・そう、一路の完全な勘違いだ。
「「ナイナイ。」でゴザル。」
当然の如く、一路の言葉を二人は全否定する。
「あ、あのね、さっきも言ったろう?あれは特例。ト・ク・レ・イ。」
「寧ろ、珍獣レベルのド変態でゴザル。」
確かに二人共、天南の強さは認めているが、一路にはあぁなって欲しくはない。
というより、アレになるには相当アレでないと・・・しかし、純粋な一路ならば突っ走ってしまいそうで怖い。
「くぉらぁっ!聞いとるのか、そこの三人!」
静竜の怒鳴り声に三人共周りを見ると、他の生徒が四列に分かれていた。
喋っていたせいで、静竜の支持を聞き逃してしまったようだ。
「宇宙ではそういう油断が死を招くと今言ったばかりではないか!」
「す、すみませんっ!」
全く以ってその通りなので、一路と同様に他の二人も頭を下げる。
「いいか!もう一度言う。次回からの実戦形式の訓練の為に組み分けをする。各々、自分の生体強化レベルごとに分かれろ!」
どうやら左から1~4までのレベルに分かれているらしい。
ちなみに一番両脇の人数が少ない。
同じレベルでも、個体の戦闘力差はあるが、当面の目安のようだ。
一路もそれにならって・・・。
(確か、レベル2とかなんとか・・・。)
『一路クンは出身が出身だkら、レベル2相当くらいで丁度いいんじゃないかしら?』
リーエルやアイリがそう言っていたのを思い出した。
普通なら、精神や肉体が耐えられる範囲での高レベルを求めるモノなのだが、一路は逆にこの言葉にほっとしていたのだ。
シアにも説教されはしたが、やはり自分で努力して手に入れた力じゃないというのが引っ掛かってしまう。
こればかりは価値観の問題で、十六年間も地球に住んでいた一路にはなかなかどうして簡単に変えられるものではなかった。
と、まぁ、そんなこんなで一路は左から二列目、レベル2の集団の後ろへ移動する。
ふと友人達を見ると、プーは一路の後をついて来た。
「意外だな、君はもっと上だと思ってたんだけど?」
「こんなもんだって。」
プーの自分に対する評価が高いのは嬉しいが、過大評価されても困る。
そう、自分はまだまだこんなものなのだ。
(あれ?照輝は・・・?)
もう一人の友人は何処へ?
見回してみると、照輝は列の端にいた。
しかも端は端でも右端、レベル4の列だ。
列といっても、照輝の他には4,5人しかしない。
「ん?あ、照輝は特別だよ。しかし、照輝の他は皆、樹雷出身者か・・・。」
「樹雷?あれが・・・。」
「ま、樹雷出身が何だって話なんだけれどね。ここはアカデミー。自分達が宇宙の中心だとふんぞり返れる場所でもない。」
プーの物言いには棘が含まれているのが解る。
そんなに樹雷の星の人間はヤなヤツが多いのだろうかと一路は首を傾げたのだったが・・・。
(あれ?でも、阿重霞さんは樹雷の皇族だって・・・。)
一路の中の阿重霞は折り目正しい女性だった。
彼女の妹の砂沙美も非常に愛くるしい女の子で・・・。
「う~ん・・・。」
一体どちらが本当なのやら。
「檜山・A・一路。キサマは何をしている。ちゃんと私が言った通りに分かれんか!キサマはこっちだ!」
「え?あ、ちょっと?!」
再び静竜の怒声が鳴り響き、一路の腕が引っ張られる。
そのままズルズルと、レベル4の集団に放り込まれた。
「え?先生、でも、僕は・・・。」
「さ、授業を続けるぞ。」
静竜は一路の言葉に聞く耳を持たない。
「やはり、流石は一路氏と言ったとこでゴザルな。」
そう笑顔で声をかけてくる照輝に何を応えたらいいのか、ほとほと困り果てた一路だった。