真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第74縁:特別な存在。

「僕ってそんな臭いかなぁ、照輝。」

 

 襲いかかる拳を紙一重でかわしながら尋ねるプーに、同じく相手の攻撃をいなしながら照輝が鼻をくんかくんかと動かす。

 

「プー、また拙者のリンス使ったでゴザルな?」

 

 照輝が眉根を寄せ、抗議の声を上げる。

 

「あれ?ごめんごめん。ほら、僕、一回で結構な量使っちゃうからさぁ、すぐなくなっちゃうんだよ。」

 

 全身を毛で覆われてるものだからつい、と笑って誤魔化すプーに照輝は呆れるしかなかった。

 

「今度から名前書いておくでゴザルよ。」

 

 こうしたやりとりの間にも、相手の攻撃は飛んで来てるのだが、一向に二人に当たる気配もない。

 

「何でだと思ってるね?確かにワウ人は武闘派と頭脳派両極端で、後者の僕は強化レベルも2だ。」

 

 ワウ人は基本的に戦闘能力が低い者の方がやや多い。

しかし、中には獣そのもののように強い者がいるのも確かだ。

プーはそういうタイプではなかった。

だから、この世界で生き残る為には自分の武器、頭脳をフルに活用するしかない。

 

「君達の動きは授業中に見せてもらった。なら、予測して最適解で避ければいい。つまりだ、星闘士(セイント)には同じ技は通用しない。」

 

 決まったとばかりにドヤ顔をカマすプーだが、その場にいる全ての物が怪訝な顔をしていた。

 

「プー?その、せいんと?って何でゴザルか?」

 

「ん?あぁ、僕の親戚・・・その人もGP隊員なんだけど、仕事で太陽圏の監視衛星駐在になった時に見まくってた地球のアニメだよ。何でも地球の衛星放送見放題だったんだって。」

 

「激しいまでの職権乱用でゴザル。著作権も何もあったもんじゃないでゴザル。」

 

「それが何と、彼等は素手で星を砕くんだ。」

 

「何と?!誠でゴザルか?!」

 

「そう、こんな風にして、さ・・・。」

 

 プーが拳を開き、掌を相手に見せて構える。

どう考えて胡散臭い。

というより、何かが起こるとは思えない。

 

「ライトニングボ○トーッ!」

 

 再びプーの毛が逆立ったかと思うと、拳から光が走り、一瞬にして目の前の相手がガクガクと激しく痙攣して倒れる。

 

「と、まぁ、イメージ的にはこんなカンジ。静電気ヨロシク、毛が逆立っちゃうのはいただけないね。照輝、リンス変えた方がいいんじゃない?」

 

 潤いが足りてないよ?と肩を竦める。

 

「プーみたいな超帯電、いや蓄電体質は購買層に入ってないでゴザルよ。どれ、こんなカンジでゴザルか?」

 

 照輝が同じように全力で繰り出す正拳突きを繰り出すと、ボッ!と音がして衝撃波が巻き起こる。

まるで指向性を持った竜巻のように、左京の周囲にいた取り巻き達を薙ぎ倒してゆく。

あとに残ったのは、左京と彼を守るように立つ2人の男。

 

「どうやら、あの二人でゴザルな。」

 

 二人共、一路がレベル4だと信じていた。

一路をあそこまでボコボコに出来るとしたら、同程度のレベルだと考えるのが妥当だ。

よって、照輝の一撃に耐えられる人間が可能性が高い。

 

「全く、野蛮だな。」

 

 自分を守る二人が未だ健在であるが故か、左京は一向に態度を変える気配がない。

ここにきて、プーも照輝も、彼が"そういう"ヤツなのだとはっきりと認識する。

 

「野蛮?複数で一人の人間をボコボコにするのは野蛮じゃないのかい?悪いけど、ワウ人の五感は騙せないよ?」

 

 プーは知っていた。

知っていて一路にああ言ったのだ。

これ以上、彼が自分を責める事がないように、或いは多少なりでもそれが軽減されるように。

 

「言いがかりも甚だしい。」

 

「・・・拙者、こう見ても今回の件、相当腹が立っているんでゴザルよ。」

 

 にこやかに微笑む照輝に、口を開こうとしていたプーが嘆息する。

勿論、プーだって腹が立ってはいた。

だが、それはどちらかというと自分への割合の方が多い。

だから、今回の事は一路には話さないでおこうと決めて、左京の元へ出向いた。

 

「どちらかというと、自分自身へという方が大きいでゴザルな。一路氏は拙者達の身どころか、心までも守ろうとしたでゴザル。対して、そちらも含め拙者達はどうでゴザル?一路氏のように友を護ろうと全力を注いでいるでゴザルか?」

 

 そう考えた時、照輝は自分の器の小ささに慄いた。

 

「しかし、結局、こういった手段しか拙者には取れぬ。」

 

 そしてなんと未熟者なのだろうと。

きっとこういう報復行動のようなものは一路は一切望まないだろう。

これは自分達の自己満足でしかないのだ。

 

「故に、拙者も"出し惜しみ"はしない事にしたでゴザルよ。」

 

 照輝は上半身を丸める。

ミシミシと音を立てる照輝の上半身。

 

(これが・・・。)

 

 どんどん大きく膨張する照輝の筋肉をプーは眺める。

肉体の変形、それも加速的な。

 

(話には聞いてたけど・・・ガギュウ人・・・。)

 

 一説には、ほぼ絶滅したと言われる少数民族だ。

驚異的な敏捷性と膂力、そして硬質化した皮膚を持つ戦闘民族とも言える存在。

しかし、とても穏やかな種族。

だから、普段はその姿を封印する事を選んだのかも知れないなとその光景を眺めながら思う。

眺めていたのはプーだけではない、その場にいた誰もが目を奪われいた。

そう、全員が見ていたはずなのだ。

それにも関わらず、照輝の姿は視界から消えていた。

 

「うっ。」 「ぐぅっ。」

 

 変わった事と言えば、左京の前にいた二人が"同時に"短い呻きと共に地に倒れたくらい。

 

「拙者はそっちとは違うでゴザル。骨を砕いたりはしないでゴザルよ。」

 

 突然自分の眼前に現れた照輝に思わず尻餅をつく左京。

 

「な・・・。」

 

 認められぬ、認めたくない現実に左京はただ唇をワナワナと振るわせるしか出来なかった。

取り巻き、護衛、権力、そういったモノを一つずつ剥いでいった末の、ただの学生、雨木 左京という人物。

 

「アンタさ・・・もしかしなくても、自分を特別な人間だとか思ってたりしてるのかな?」

 

 照輝の背後からプーも左京に歩み寄る。

 

「だとしたら、勘違いしているよ。"真に特別な人間"ってのはね、本人が何も言わなくても、態度に出さなくても、自ずと周りにいる人間が何かしたい、力になりたいと動いてしまう者の事を言うんだよ。」

 

 カリスマとか、そういう類いのものじゃない。

例えば、友人の為に常に何か自分が出来る事はないだろうかと考える事、それが第一歩。

 

「友人の為に何かしたいって思うのと何ら変わりはないんだ。」

 

 そう、弱っちくても、不器用でも、ましてや家柄とか出身なんてそんなのは全く関係ない。

本人のそういう点なんて、"友"という"特別な"存在の前では何ら気にする事ではないのだ。

 

「だから、もし、これ以上いっちーに手出しするような事があれば僕達が許さない。」 「でゴザル。」

 

 そして、それでもう用はないとばかりに、くるりと左京に背を向ける。

 

「さぁて、帰るかぁ~。」

 

「お腹が空いたでゴザルな。」

 

 何時の間にか照輝も普段の姿に戻っている。

上半身が裸なのはアレだが。

 

「今日は運動したから、ご飯がさぞかし美味しいだろうね。シャワーを浴びて早速食べよう。」

 

「リンスは貸さないでゴザルよ?」

 

「しつこいなぁ、しつこい男は嫌われるよ?」

 

 二人は何事もなかったかのように歩き出す。

左京を置いて。

 

「それをプーが言うでゴザルか?!あぁ、それはそうと、プー?」

 

「ん?」

 

「さっき言っていたセイントとかなんとかのアニメはまだあるでゴザルか?拙者も視てみたくなったでゴザル。」

 

「何だよ、結局興味あるんじゃないか。あるある、コピーしてあるよ。」

 

「・・・本当に著作権侵害も甚だしいでゴザル。」

 

 帰りも帰りで騒々しい二人を左京は呆然としたままで見送る。

これが一路がいなくなるまでの間に起きた出来事である。

ただ、二人は知らなかった。

 

「校内乱闘。便所掃除二週間ってところかしら。」

 

 左京を探し出す為にNBを連れて来た事に対する代償を。

そして、結果としてNBを通して一部始終をアイリに見られていた事に。

ちなみにこの裁定が下された後、二人はこれくらい安いもんだと笑って便所掃除をこなしていたという・・・。

 

 

 




ダメっ、絶対ダメっ! 違法コピーは犯罪ですっ。
次回で、宇宙編の一つ目の章を区切る予定です。

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