真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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という事で、前回と同じく章間の1ヶ月ちょいのお休みを頂いて、再開させていただきます。
改めてよろしくお願い致します。


一路、世界。
第76縁:ソラに出る前に。


「配属希望・・・?」

 

 ある日の夜の一路は、ぽっか~んと口を開けて、その言葉を吐いた。

あれから一ヶ月以上の時が過ぎ、ようやく傷の痛みも引いてきた頃、エマリーから通信入ったのだ。

正直、アドレスを交換した事すら、日々の特訓の中で忘れかけていたとは、痺れを切らして自分からコンタクトを取って来た彼女には口が裂けても言えなかった。

 

「進路希望みたいなモノよ。実際、希望を出したからって、なれるとは限らないけど・・・まぁ、もうすぐ始まる研修もその一貫ね。それの希望よ。」

 

 更にもう一つ挙げると、そんな実地研修があるのも忘れていた。

そもそも一路の目的はそこにはなかったのだ。

おのずと重要度が下がってしまうのは仕方ない。

 

「実際になるには倍率とか試験もあるけどね。」

 

「う~ん・・・。」

 

 困った。

しかし、自分にない技術を学ぶなら何でも良くはある。

その辺りは貪欲だ。

では、一路自身に必要なものといえば・・・一路はここに来た時にアイリに述べた事を思い出す。

と、同時に疑問が出て来た。

 

「あれ?でも、それを聞いてどうするの?」

 

 まさか自分と同じ希望を出すというわけではないだろう。

一路は首を傾げる。

 

「うぐっ・・・あ、アウラ、そ、そうよ、アウラが聞いてみたいって!」

 

 勿論、口から出まかせでそんな事実は一切ないのだが・・・。

 

「え?"あーちゃん"が?」

 

「あ、あーちゃんぅ?!」

 

 一路の口から予想外、今まで一度も聞いた事ないフレーズが飛び出て来て、エマリーは目を剥く。

 

「何ソレ?!」

 

「何って、アウラさんがそう呼んで欲しいって・・・あれ?皆もそう呼んでるんじゃないの?」

 

 何か問題が?と聞き返す一路に、エマリーは更に驚いた。

 

「なワケないでしょ?!大体ねぇ、何時そんな会話したのよ!」

 

「あ、いっちー。」

 

 無感情な声と共にひょっこりと画面に顔を覗かせたのは、噂のアウラだ。

しかも、さらりと一路をあだ名呼びして。

 

「あ、久し振りあーちゃん。」

 

「ん。」

 

 簡素な返事だったが、一路に向かって手を、とても控え目だが振ってくれている。

そこから見ても、機嫌が悪いというわけではないらしい。

本来ならば、こういう個人会話の回線は、周囲から覗かれたりしないようにシークレットウォールという隔離システムを使うのだが、特に聞かれて困る話でもないので、一路はそういった類いのモノは使っていなかった。

どうやら、エマリーもそれは同じだったようで、会話の中に自分の名がたまたま聞こえので、アウラは顔を覗かせたようだ。

 

「今、エマリーさんにね、研修の希望はどうするんだって聞かれて、あーちゃんは?」

 

「出来れば艦隊業務。」

 

 艦隊業務と一口に言っても、GPの船の種別は多い。

護衛艦もあれば、郵便・宅配業務の輸送艦もある。

 

「いっちーは?」

 

「僕?僕は・・・そうだなぁ・・・。」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさい!」

 

「ん?」

 

 割って入って来たのはエマリーだが、もともとこの通信はエマリーとの回線だったはずだ。

それは文句の一つも言いたくなるではないか。

 

「なんでアンタ達、そんな親しげなのよ?!」

 

「親しげって・・・?」

 

 きょとんとして一路はアウラを眺める。

あの事件依頼、アウラと会話するような機会は一路にはなかった。

エマリーが記憶を思い起こしても、アウラが一路と通信しているのを見た事がない。

元々アウラは寡黙なので、音声通信自体を使用しないのだ。

なのに、アウラと一路は自分のソレより遥かに親密度が上に見えるのは納得がいかない。

 

「えと、これのせいかな。」

 

 ごそごそと一路が取り出して見せた物体に、エマリーの顎がカクンと落ちた

 

「こ、こう、かん、日記ぃーッ?!」

 

 一路が彼女に見せたのは、実に原始的でレトロちっくな紙媒体のノートだった。

その表紙には可愛く手書きの文字で、"交換日記"と書かれていた。

ある日、突然一路のもとにコレが送られて来たのだ。

一瞬、呆気にとられはしたが、すぐにアウラが思い当たった。

そして、ナルホド、120%本気の人だったんだなと妙に納得してしまったのだ。

あとは簡単で、中身を開いて返事を書いて(文字や書式には相当手こずったが)、記載されたアドレスへ送る。

律儀に返事を書いて一路が疑問を挟まずに返してしまった為に、今までそれが続いていた。

お陰で互いの事は、学校のクラスメイトか、それ以上並みに詳しくなっている。

 

「じゃ、楽しみしてるから。」

 

 それだけ述べるともう興味なさげにアウラは通信画面からはけていった。

その表情は興味なさげに見えたが、本人の口から楽しみというのが出るのだから、これもまた120%本気でそう思っているのだろう。

そんなアウラはどこか憎めないものがあって、一路は苦笑してしまう。

 

「解った、すぐに書いて送るね。」

 

「あー、いっちーだー。いっちー、ちゃんとこの黄両様にもお返事ー!」

 

 画面も見なくても解る騒々しさは黄両だ。

 

「ま、まさか、黄両とも・・・?」

 

 彼女の台詞の内容にマリーは慄く。

 

「あ、なんか、この交換日記に黄両のコラムコーナーがあるんだよ。」

 

 交換日記にコラムコーナーがあるとは、何と面妖なと一路も思ったが、このコラム、GPの噂話から伝統、昔話、果てはオススメの菓子類・ファッションと、実に多岐に渡って書いており、意外と一路の学習に役立っていたりして、馬鹿に出来ない。

しかも、質問や感想、リクエストにまで答えてくれるので、至れり尽くせりなのだ。

そんな一路の気持ちを文面から察してか、アウラも自分達の交換日記に黄両が書く事を黙認していた。

但し、字数制限というか、ページの占有面積が厳しく規定されているらしい。

しかし、それでもきちんと起承転結が成り立っているのだから、たいしたものである。

人は見かけによらずで、黄両の事務処理能力は高いのかも知れないと思った。

 

(まさか、そんな原始的な方法が成立してるなんて・・・。)

 

 ただただ驚愕するばかりのエマリーだ。

シアと同じように一時期半失踪状態だった一路にヤキモキして、いざ連絡が取れたと思ったらコレなのだ、全く以て不本意である。

 

「とりあえず、どんなのがあるかよく解ってないから、色々と調べて考えてからにするね?決まったらすぐに教えるから。えと、この回線で・・・いいの?」

 

 恐縮しながら聞いてくる一路の声にはっと我に返る。

 

「勿論よ!」

 

 流石にルームメイトの二人にように自分も交換日記を、とは言えないえマリーは一路ろのホットライン構築に重点を置いて答えるしかなかった。

 


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