真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第81縁:朱螺と朱螺。

「鏡・・・さん?」

 

 名乗った女性をまじまじと見つめる一路。

不思議と、既視感がある。

 

(・・・あれ?)

 

 何故だか解らないがピンと来た。

来てしまったら、納得してしまう。

 

「朱螺さんの血縁の方ですか?」

 

「どうして?」

 

 思わず声に出して聞いてしまった一路に対して、鏡は先程と同じ様な言葉を、今度は立場を逆にして問う。

 

「どうしてって・・・似てる気が・・・して。」

 

「似てる?アタシが?朱螺 凪耶に?」

 

 面白そうに一路と写真を見比べる。

何かマズい事を言ったのだろうかと、一路はじんわりと冷や汗をかく。

 

「えと、その、微笑んだ時の印象が・・・。」

 

 穏やかな瞳で静かに、そして興味深そうに微笑む姿が、鷲羽を見る朱螺の顔に似ている気がなんとなくしたのだ。

 

「天下の天才哲学士に似ていると言われるのも、悪くはないわねェ・・・あなたの方は似ているようには見えないけど。」

 

 朱螺を名乗っていても、朱螺ではない一路。

そして、朱螺の名は持っていなくとも、何処か朱螺に似た女性。

構図としては滑稽な感もあるが、少々自分の思い込み過ぎだったかと、急に恥ずかしくなってくる。

余りにも稚拙過ぎたか。

 

「僕はこっちに来る時に、そう名乗れと言われただけなので。」

 

「名乗れ?それはまた・・・誰に?」

 

 そう言われて、思わず写真を見る。

写真の白眉 鷲羽、その人を。

その空気を察してか、鏡はふぅんと一人相槌ともとれる吐息を吐く。

 

「それで、どう?宇宙は?」

 

 どうと問われても、漠然とし過ぎて答えに困る。

 

「どうって言われても・・・まだよく解らないです。でも・・・。」

 

「でも・」

 

「白眉 鷲羽に、朱螺 凪耶に、出会えた人達に誇ってもらえる・・・う~ん、最低でも笑って、やれる事をやったって言い切れる自分でいたいなとは思います。」

 

「あら、それは大変ね。」

 

「大変です。でも、やらないと僕は鷲羽さんがつけてくれた、朱螺の名は名乗れないと思うんです。」

 

 母が亡くなってから、期待される事が皆無だった自分の意地のようなものだ。

幼稚だとは思うけれど、頑固さでは負けない。

 

「・・・それ程大層な名前じゃナイんだけどねェ・・・。」

 

「え?」

 

「いや、こちらの話よ。」

 

 オホホホと持っていた扇で口元を隠して、鏡は何とかその言葉を誤魔化す。

鏡とて、白眉 鷲羽が何かと気にかけているという人物を見てみたいとかねてから思ってはいたが、何としてでもという程でも無かった。

何より、"今のところは"鷲羽が望んでいるわけでもない。

ただ何となく来たついでに、滅多にない些細な感傷と共にここに出向いただけなのだ。

ただの偶然。

そう偶然でいい。

必然性を感じる必要はないと切って捨てる。

ただ、咄嗟に出た名前が鏡だったというのは拙かったが。

 

「僕が今、ここにいられるのは、出会った人達の、皆のお陰で、僕は誰かと繋がる事だけでここまで来られたから・・・。」

 

 一路は自分の耳元に手を伸ばす。

鷲羽がくれたイヤーカフは宇宙に出て以来、着けたままだ。

 

「きっとそういう意味で、鷲羽さんの隣にいた朱螺さんも、朱螺さんの傍にいた鷲羽さんも幸せだったんじゃないかなって思うんです。」

 

 朱螺 凪耶は、遺跡発掘調査中に事故に巻き込まれて行方不明となっている。

しかし、本当に行方不明なのか、そして事故に合ったのかすら定かではない。

何の為に、何を求めて遺跡発掘をしていたのかすら不明なのだ。

これには様々な憶測を呼んだのは言うまでもない。

と、一路はここで気づく。

鷲羽も朱螺 凪耶も、行方不明で生死不明だ。

特に鷲羽は数千年単位で行方不明になっている・・・と、いう"建前"のはずだ。

しかし、鏡は鷲羽が"今も生きている"という前提で話す一路に驚きもしていない。

 

(鷲羽さんが、生きているのを知って・・・る?)

 

「・・・そうね、それはそうかも知れないな。」

 

 一路がそんな疑問を感じ始めた時、鏡が口を開く。

鏡が、眩しいモノでも見るかのように壁に飾られた写真を見上げるので、一路は疑問を口に出す機会を逃してしまった。

そして、思わずつられて一路も背にした写真を見上げる為に振り返る。

 

(・・・・・・友達か。)

 

 やはり、周囲の人間と連絡を取るには、NBの力を借りねばならないだろう。

しかも、早急にだ。

 

「・・・僕は・・・守る事が出来るんだろうか・・・。」

 

 この期に及んで、まだ一路は何もかもを背負いながらやり通そうとする想いが何処かにあった。

少なくとも、最後の行動を起こす段階においては、自分自身のみであろうと。

 

「やってみなさないな。やれるところまで・・・たとえ結果が解りきっていても、可能性はゼロじゃないわ。」

 

 背にかけられた声に、言葉に、一路の背が震える。

背中を押されるような、優しく厳しいソレと同じ感触はあの時の地球で聞いた鷲羽のモノに似ていて・・・。

一呼吸の間の後、一路が振り返ると、もうそこには誰の人影もなく、まただった広いひんやりとした空間に一路一人だけになっていた。

何故、鷲羽の事を知っているのか、朱螺との関係はなんなのか、そんな事を聞く事も出来なかったが、そんな事はどうでもよかった。

 

「・・・・・・ありがとうございます。」

 

 そして一路は再び写真に向き直る。

やがて、その写真の前からも、誰もいなくなった。

 

 




朱螺の行方不明説に関しては、一路の認識としてこうしておきました。
今後の展開で、どちらかというと一路が朱螺が何処かで生きている可能性が鷲羽と同じように高いと思っている方がいいので。

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