真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第83縁:そして疑惑の・・・。

「いっちーは大丈夫でゴザルかなァ・・・。」

 

 目の前で流れてゆく荷の伝票に、ハンマー型の電子スタンプで消印を捺しながら、照輝は隣に座って同じ作業しているプーに語りかける。

 

「まぁ、少なくともアソコなら"安全"だと思うよ?」

 

 同じように伝票にスタンプしながら視線は動かさずに答える。

 

「成程。相変わらずプーは冷静でゴザルな。」

 

「・・・ヘマして自分だけが被害に遭うなら、自業自得で済むんだけれどね。」

 

 複雑な表情をしながら。

 

「あはは、まるでそちらの方が気が楽みたいに聞こえるでゴザルよ?」

 

 咎められたわけではないが、何故だかその言い方が癪に触った。

 

「照輝だって同じなクセに。」

 

 横でケラケラと笑う友人に呆れた声を上げる。

 

「如何にも。」

 

「いくらね、僕が利用出来るモノは何でも利用するタイプの人間だとしても、それくらいの分別はつくんだよ。」

 

 人として、越えてはいけない一線がある。

そんな事を言っている時点で、頭脳だけで上へとのし上がろうとする人間としてはどうかと思うが、そういうプライドの在り方があっても然りだと。

結局、再び笑い声を上げる照輝にゲンナリするしかない。

 

「何がどう安全なのかなーっ?」

 

「へ?」

 

「ん?」

 

 二人の会話に割り込む声。

 

「やほー。」

 

 プーと照輝の席の間、そこに小さな身体を更に小さく縮めてしゃがみ込む存在がいた。

黄両である。

 

「や、やほーでゴザる。」

 

 とりあえず、彼女につられてか、同じように挨拶を返す照輝の様子にこめかみを抑えずにはいられないのはプーだ。

 

「今、いっちーの話してたよね?よね?よね?何の話?アメちゃんアゲルから教えて♪」

 

 そう言うと黄両は懐から棒のついたスティックキャンディを3つ出して2人に見せると、徐に1つの包みを開けて口に含む。

 

「はぁ・・・。」

 

 確か、この人物は一路の見舞いに来ていた面子の中にいたな、とプーは思い出す。

 

(逆に考えれば、僕達よりうまく動けるかも知れないな・・・。)

 

 使えるモノは何でも使う。

その信条に誤りはない。

 

「そんなの貰わなくても、教えてあげるよ。」

 

 一路の安全性を考えるなら、その方が確率が上がるとすぐさま判断する。

用心に越した事はないのだ。

 

「えっ?いらないの?アメちゃん。」

 

「いる。」

 

 何やら話の論点がズレている気もするが、それはそれ、これはこれなのである。

2つのアメを自分と照輝で1つずつ受け取って、黄両がしたように口に入れる。

少し行儀が悪いが、そのままで話を続けようとしたのだが・・・。

 

「黄両!何やってんの?ちゃんと仕事してよ。」

 

 3人の輪に乱入する人影。

 

「あ、エマ。んとね、今2人にいっちーの話をしてもらおうとしてのさっ。」

 

 少々怒った様子のえマリーに黄両が胸を張る。

悲しい哉、そこはぺったりのっぺりだが。

 

「あぁ、ちょうど良かった。君にも手伝ってもらえると嬉しい。僕達の為じゃなく、"いっちーの為に"。」

 

 語尾を出来る限り強調する。

やり方が汚い。

それは当然解っている。

プーは幼い頃から、一族の中で賢い方だと言われてきた。

だからこそ、出来る事とそうでない事の判断が、常識を伴って理解してしまう。

それは可能性の途絶と言い換えてもいいのだが、世の中、簡単に諦めてはいけないモノがあるという事もプーはきちんと理解している。

ではどうすればいいのか?

それは、つまり、こういう事だ。

 

「一路の為に?」

 

 怪訝な顔をするエマリー。

 

「二人共、ゆっくりと視線だけを横にズラして。あぁ、もうちょい横。」

 

 声のトーンを一段落としたプーは、二人をそう促す。

その声に含まれる真剣さに仕方なく従うと・・・。

 

「見えるかい?取り巻きに囲まれてる、あの中心の。」

 

 無言で頷く。

言われた通り、何人かの取り巻きに囲まれた男子生徒が視界に入った。

 

「アイツ・・・確か前に授業で一路と・・・。」

 

「覚えているなら早いでゴザる。本当は男同士の友情を優先したいところでゴザるが・・・アレがいっちーに大怪我させた元凶でゴザるよ。」

 

 プーの考えを察して、そして他の人間を巻き込むという事に対する彼の罪悪感を減らす為に、照輝が背に腹は変えられぬとばかりに言葉を引き継ぐ。

 

「・・・・・・一発ブン殴ってくる!」

 

「だ、ダメだ、それはダメ。というか、君、意外と物騒だね。」

 

「そーだよ、エマ。"今は"ダメ。今、"()ったら"、いっちーが疑われるし、困っちゃうよー。」

 

 今にも飛び出しそうなエマリーの腕を掴んだ黄両の言葉に何とか思い留まってくれたようで、プーはほっとする。

そして、同時におや?と内心で首を傾げる。

今の黄両の言葉にだ。

"いっちーが疑われるし、困る。"

台詞単体で考えた時は、まさに彼女の言う通りなのだが、それ以前の彼女の言動を(それ程長く見たわけではないが)不自然に浮いたモノに感じられる。

 

(このコも意外とクセ者なのかも知れない。)

 

もっとも、ただの直感というヤツかも知れない。

ただ少々、こちらも発言内容が物騒な気したが。

 

「そう二人には我慢してもらってだ、お願いしたい。僕達はいっちーのルームメイトとして面が割れている。でも、君達は違うよね?」

 

「それって・・・?」

 

 ようやくプーの言わんとしている事がエマリーも解ってきた。

 

「それとなくアイツ等を監視くれないかい?」

 

「もし、何か少しでも不穏な動きがあれば、知らせて欲しいでゴザる。」

 

「りょーかいっ、合点承知でゴザるよー。」

 

 照輝の語尾をモノマネしながら黄両は敬礼をする。

 

「連絡先は、いっちーの回線コードのNBへ。」

 

「・・・て、NBは何処に行ったでゴザるか?」

 

「あれ?そういえば・・・艦には確実に乗艦していたんだけど。」

 

「確かにそれは拙者も見たでゴザるが・・・。」

 

 だが二人共、NBと一緒に部屋を出て来た記憶がない。

そして、NBが一路について行った覚えも無かった。

 

「・・・ロクなコトしなきゃいいけど・・・。」

 

「で、ゴザるな。」

 

 


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