真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第86縁:作為という名の無作為。

 正直な話、呆気に取られるというよりも納得してしまったというのが、一路にとって正しい認識であった。

プー達と一緒に見た業務連絡。

その映像に映った男の顔を何処かで見た事があるような気がしたのは、勿論一路の記憶違いでも何でもなく・・・。

 

「今回、オマエ達の研修を行う艦の艦長を務める"天南"コマチだ。研修といっても初期研修だ、気楽になどとは私の口からは言えぬが、よく見、よく聞き、多いに学習していって欲しい。」

 

 案の定、コレである。

益々・・・というより、どう考えても人選に作為があるとしか思えない。

映像の男ともそういえば、自分の特訓を眺めていた中にいた人物に違いなかった。

下手をしたら、今回の研修にプーや左京があるのも、偶然とは言えないのかも知れない。

と、そこでだから何だというのだろうという事に一路は思い至る。

一路にとって(左京の事は別として)何ら困るような状況ではない事に気づいたからだ。

 

(・・・これは、ひょっとして、後でお願いすれば稽古してもらえるのかな?)

 

 流石に以前の時のようなレベルの猛特訓は、研修もあるし身体がもたないが、これはこれでアリかも知れない。

その後、ブリッジ要員である一路達には当直のようなものがあって、3交代制であるという説明があった。

勿論、学生である一路達は、就寝時間を2時間程過ぎた辺りまでで、深夜を過ぎてからの当直はないとの事だ。

一路達は現在2時間の待機(自由)時間の後、就寝時間となる。

ただ、一路は運の悪い事に一番最後の当直で就業時間後2時間の担当になっていた。

その代わりといってはなんだが、起床時刻も2時間遅い。

一応、これに関しても加速睡眠という体感時間を圧縮してとる睡眠もあるのだが・・・。

 

(あれは、何か時間に対するありがたみが薄れそうなんだよね、何かおかしくなりそう。)

 

 まだどこか地球人の概念が邪魔をするのか、それともそれが人本来の時間との付き合い方なのかは解らないが、一路は出来れば遠慮願いたかった。

 

「いっちー?」

 

「ん?なぁに?」

 

 当直の割り振りが発表され終わると、アウラが声をかけてくる。

 

「当直、一緒よ。」

 

「あ、うん。」

 

 やはり、かなり作為を感じる。

こうなると何から何まで怪しく思えてくるが、何とかその言葉を飲み込む。

 

(あーちゃんも巻き込まれちゃったっていうんなら、ヤだなぁ・・・。)

 

 ルームメイトでも何でもない彼女が、自分の行動範囲内にいるというだけで、今この艦にいるとしたら・・・ちょっぴり憂鬱になる。

 

「いっちー?どうかした?」

 

「う、ううん、なんでもないよ?」

 

 あぁ、また愛想笑いだと、秘密ばかりは増えていくと苦々しく思う。

 

「当直までの時間は、何するの?」

 

 2時間程の自由時間。

仮眠というテもあるが、そんな気にはなれない。

どのみち睡眠時間は保障されているのだし・・・空いた時間にする事となると・・・。

 

「あ~、んと、"自主練"かな。」

 

 そういえば今日はまだ例の日課をしていない事に気づく。

研修期間だからとか、そんなのは一路にとってやらない理由にも言い訳にもならないのだ。

 

「自主練・・・。」

 

 キラーンっとアウラの目が輝いたように一路には見えた。

どう見ても興味津々といった様子だ。

 

「あーちゃん?」

 

「自主練・・・いっちーの自主練・・・。」

 

 ブツブツと繰り返すアウラに少したじろぎながら、これは言わないと後が怖いなぁと思った一路が口を開く。

 

「えと、あんまり見ても面白くないと思うけど・・・一緒に、来る?」 「行く。」

 

 速攻で即答される。

やはり興味津々らしい。

 

「いっちーの秘密、見たい。」

 

「いや、秘密でもなんでもないんだけどね・・・。」

 

 他の秘密は沢山あるけれど・・・と、思いつつ。

実際のところ、プーや照輝も見ているし、他にも見た事がある者は多い。

一路としても日課の方の練習は見られてとしても特に困るモノでもないと思っている。

そもそも何ら面白いものでもないとも。

まさか、それが知る人ぞ知る樹雷の、なんてカケラも思ってもいないのである。

 

「それでも見たい。」

 

「はいはい。」

 

 しかし、アウラのこの反応を見ると、自分に誰かが興味を持ってくれるというのも、満更でもないなと思ってしまう一路なのであった。

 


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