真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第89縁:あっちもこっちも緊迫で。

「僕は無駄な事が嫌いだ。解るね?」

 

 周囲の人間にそう告げる左京達は、貨物室にいた。

ここにはこの艦が現在輸送中の品々が格納されている。

 

「そもそもこんな事自体、無駄な事なのだが、それもこれも以前の・・・いや、声に出すのも無駄だな。」

 

 忌々しいとばかりに話を打ち切る。

そんな様子をエマリーは当然ながら、覗いていた。

 

(就業時間外に貨物室に来るなんて・・・。)

 

 やはりロクな事ではないのは確かなようだと確信する。

 

「では、急いでマーカーを打ち込んでくれたまえ。」

 

(マーカー?)

 

 それが何かは解らないが、彼等の目的がそれを設置、或いは起動させる事だとしたら、やらせるわけにはいかない。

エマリーは覚悟を決めて、大きく息を吸い込む。

 

「アンタ達!何やってんの!」

 

 室内に盛大に響き渡る声に、早速作業を始めようとした左京の周囲の者達は辺りを見回す。

 

「何を?とは、それはここにいるアナタこそ何を?」

 

 その中で一人、左京だけが何処にいるかも解らないエマリーに冷静に言葉を返す。

彼の言う通り、こんな所に同じようにいるエマリーも、ある種の同罪ではあった。

が、エマリーも馬鹿ではない。

そのくらいの事は、しっかりと考えている。

 

「アンタ達の会話と行動は、記録させてもらったわ!」

 

「・・・成程。そこまで愚かではないらしい・・・しかし、数の計算も出来ないようではね・・・。」

 

 左京は顎で自分の取り巻き達を促す。

瞬間、エマリーは弾けるように駆け出そうと踵を返すのだが・・・。

 

「キャッ?!」

 

 突然の衝撃が貨物室内を揺らし、室内灯が薄明るい非常灯に切り替わる。

 

「ふむ。」

 

 左京がいち早く現状を認識して声を上げた。

 

『あーあー、テステス、マイクテス、本日はお日柄も良く、絶好の海賊日和だぁっ!!』

 

 室内に響くその声は、的確にその場にいた者達の疑問に答えていた。

 

『と、まぁ、ここまで言やぁ、話は解るな?抵抗なんて無駄な事をせずに積荷をよこしやがれっっ!』

 

(こ、こんな時に?!)

 

 慌てふためくエマリーをよそに、左京はじっと動きを止めたまま、そして・・・。

 

「早かったな。」

 

 

 

「まず最初に一発決めて、主導権を握ってからの要求か・・・教科書通りの海賊行為だな。」

 

 艦内に響き渡る大声を聞いてコマチは一人、ブリッジの最上段の自分の席でそう感想を述べた。

 

(海賊に教科書通りも何もなんじゃないだろうか・・・。)

 

 呟いたコマチの言葉を聞いて、微妙な表情で一路は彼女を見上げる。

同じようにブリッジ要員は皆、コマチに視線を向けて、艦長である彼女の判断を待っていた。

ふと、思案しているコマチと一路の視線が合う。

特に何があるわけでもなく、数秒、ほんの数秒だ。

二人は無言で見つめ合ったまま・・・。

 

「よし、檜山、ちょっとこっちへ来い。」

 

 以前呼ばれた時よりかは緊迫感が増したが、未だどこか犬猫を呼ぶような響きを保ったままで。

 

「何でしょう?」

 

「まず、一番最初に聞いておく事だが、オマエ、"変な能力"とかはないな?」

 

「はぃ?」

 

 何処かで聞いた様な台詞。

 

「以前も違う方に聞かれましたけど、ありませんよ?何ですか、ソレ?」

 

「ふむ。自覚がないだけなのか・・・?」

 

「いや、だから・・・。」

 

 どうにもこの件に関しては、変な先入観が先行している気がして、信じてもらえない。

 

「まぁいい。さて、現状だが、相手はああ要求しているが、オマエだったら、どう対応する?」

 

 どう対応するかと問われても、自分は艦長研修しているわけでもなく、目の前には正規の艦長のあなたがいるだろうという言葉を飲み込むと数秒考える。

何も難しい問いではない。

ただ思い出すだけの作業。

 

「教本通りに積荷を渡して、見逃してもらう事に専念します。」

 

「つまらん答えだな。」

 

 つまらないと言われても、教本通りなのだから、そういう問題ではない。

 

「基本的に積荷の、特に高価な物には保険をかけていますし、こちらは研修艦です。研修生は戦力に数えずに非戦闘員とみなすべきです。」

 

 全く以て、一路の言う事は全部が全部正論だった。

その証拠に模範的なこの解答に他の生徒、そして正規クルーまでが頷いている。

だが、コマチは微妙、はっきり言って不服そうな表情をしているのは、彼女が海賊出身だからだろう。

 

「応戦しようにも相手の戦力が解らない限り、艦隊戦はまだしも、白兵戦は無理で・・・。」

 

 と、言いかけて、一路は止まる。

"思いついてしまった"からだ。

 

「・・・・・・無理なので、仕掛けるとしたら・・・"白兵戦で奇襲を仕掛ける"しかないと思います。」

 

 言ってしまってから一路は後悔した。

コマチが何とも言えず・・・あえて、一言で述べるとしたら【血湧き、肉踊る】という喜々とした微笑みを浮かべていたからだ。

 

「ほぅ?」

 

 うっすらと微笑むコマチの笑みに、蛇に睨まれた蛙の如く硬直する一路の後ろで、コマチの副官(この艦の副艦長でもある男)の嘆息する声が聞こえたような気がした。

 

 


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