真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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第95縁:跳ねる兎と疑問符。

(木刀、持ってくれば良かったな。)

 

 床を蹴りながら一路はそんな事を考える。

ブリッジには必要ないと部屋に置いてきたままの木刀。

相手の攻撃を木刀如きでは防げないと解っていても心の問題だ。

 

(ん?そういえば前、監視ロボを叩き壊せたよ、ね?)

 

 あれも相当硬い金属で出来ているはずである。

となると、自分の持つ木刀は、実体弾くらいは叩き落とせるのではないだろうか?

そう思えなくもない。

 

(て、あれ、本当に木だよね・・・?)

 

 自分の記憶が正しければ、あれは地球を出る時に餞別に天地から貰った何の変哲もない木刀・・・のはずだ。

はずなのだが・・・。

普段の実技授業、監視ロボットの件、そして最近ではコマチ達との特訓とひっきりなしの出番があり、その何れも耐え切った。

完全地球産である木刀一本だけでそれに対応するなど、何故自分は今まで気にしてこなかったのだろうか?

柾木家の面々に対する信頼の表れか、はたまたどの場面も今日のような戦いの場ではなかったからだろうか?

 

(命のやり取りなんて、僕にはどうやったって無理だろうし・・・。)

 

 木刀で人を昏倒させるくらいならまだしも、命を奪う事なんて自分には到底無理だ。

たとえ今のようにレーザーの光が飛び交うような場面でもだ。

一路は何とかそれらを躱し、コンテナの影に隠れる。

レーザー銃にくらべ質量の加減が出来ない実体弾では、船体を傷つける恐れもあるし、何より予測不可能なレベルの跳弾による同士討ちが怖い。

 

(どのみち木刀は使えないや。)

 

 流石に木刀でレーザーは跳ね返せない。

だが、そういう意味で船体に配慮した最低限の出力で、半ば威嚇目的の射撃のお陰で、今のところ大事には至ってはいない。

 

(確か、レーザーは貫通時に身体を焼くから、出血は少ないんだよね。)

 

 相手だって確実にケリをつけたいならば、こんなおっかなびっくり銃を撃つより、白兵戦のような近接戦闘の方が楽なはずだ。

それが今、一路にとって幸運な方向に進んでいる。

再びコンテナから飛び出し、次のコンテナに移る。

当然、光線の雨と嵐に見舞われるが、やはり的確に狙い撃ちという意思は感じられない。

第一、それだったら銃口は最小限しか見せないはずだ。

銃口さえしっかりと見ていれば、直進しかしないレーザーは軌道を読める。

 

(こっちは一人で、向こうは圧倒的な数的有利があるんだもんね。)

 

 要するに余裕綽々なのである。

逆に言えば、それがつけいる隙。

そこしかないとは思う。

思うのだが、彼等の撃退が現在の勝利条件ではない。

寧ろ、敗北条件へと繋がる可能性がある。

撃退した彼等が報復に艦隊戦を挑んできたら負けるのだ。

では、この場合の勝利条件とは何か?

一番は逃げおおせる事なのだが、逃げる事に関して現在は大局的ではなく・・・。

 

(皆、早く!)

 

 チラリと視界の隅に映る人影に注意しながら、一路は囮を演じる。

時に多く姿を敵に晒し、時に細かく出たり隠れたりを繰り返す。

この場面に至っては、勝利条件はこの場にいる皆の退避だ。

逸りそうになる心を抑えながら、一路は必死に海賊達の視界へと躍り出る。

 

「あっ。」

 

 その時だ。

一人の人影が、皆のいる集団から離れ海賊達に顔を見せたのである。

人影、それは雨木 左京。

彼に他ならなかった。

 

 


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