一路を知る者。
彼の周りにいる者も含め、ここまでの彼の物語を識る人間は承知していると思う。
彼は基本的に温厚だ。
自分を嘲笑する人間の声を聞き流せるくらいに。
ただそれは、彼の怒りの沸点がどうという問題ではない。
寧ろ、彼はイマドキの若者だ。
ただそれくらいの事では、彼の怒りの起爆剤にはならないというだけ。
では何がそれにあたるのか。
簡単に説明するならば、コレである。
周囲の誰もが呆然と無言で見守る中、つかつかとコマチの横まで一路は進み出る。
「オマエは魎呼さんじゃない。」
声、姿形は確かに一路の知る魎呼に瓜二つだ。
しかし、一路は確信している。
目の前に映し出されている者は、魎呼ではない。
魎呼が宇宙人だというのは一路も知っているが、全くの別であると。
だからこそ、魎呼を真似て攻撃しているように感じるのが許せない。
一路は魎呼が本当に正真正銘の伝説の宇宙海賊だったとは知らないのだ。
「オマエが!その姿で、その声で、魎呼さんを真似て悪事をする事を僕は認めない!」
自分の今置かれた立場など関係ない。
「・・・一体全体どうすると言うのですか?」
「どんな事をしてでも止めてみせる。」
彼女の挑発的とも見えるその笑みに、一路は自分のこめかみの血管がブチっと音を立てて切れる錯覚に陥る。
「少年、名前は?」
そう問われて、一路はゆっくりと口を開く。
「檜山・朱螺・一路だ。」
それは宣戦布告、決闘の名乗りにも聞こえて・・・。
「条件の追加です。彼を少々の時間、こちらで預からせてください。命と心身の保証は致します。」
一路の名乗りを受けて、彼女は静かにそう述べたのだった。
「ねぇ、一路?」
全くもって怒りが治まらない。
それは自分がそれを許せないし、許される事ではないと思っているからだ。
確かに海賊から自分達を解放してくれたとも考えられはするが、それにしてもだ。
世の中には自分に似た人間は3人はいるという。
広い宇宙、それ以上いてもおかしくはない。
でも、これはあんまりだ。
そう考えながら、一路は念の為に木刀を腰にさす。
心なしか、身が引き締まったような気がするから不思議だ。
「聞いてるの!」 「うわぁっ?!」
突然、耳元で大きな声が聞こえて、一路はひっくり返りそうになった。
「急に大きな声を出さないでよ、エマリー。」
「そっちが応えないからでしょ?何度も呼んでいるのに。」
そこには皆がいた。
プーや照輝だけではない、アウラも黄両もだ。
向こうが出した条件、これは飲まざるを得ない。
今も巨大戦艦の砲門はこちらをロックしているだろう。
妙な真似などしないように。
「まぁ、大丈夫だよ。安全は保証するって言ってるし。姿形はアレだけど、言っている事に嘘は感じないし。」
そうして一路は、彼女の艦へ赴く事になったのだ。
移動は艦と艦のフィールドを通路のように張っているので、宇宙服はいらない。
逃げ出せないように相手がそう指定してきた。
木刀さえあれば、一路としては他はどんな服装でも構わない。
「やっぱり僕達も・・・。」
「プー?相手は僕一人を指名してるんだから。」
その気持ちだけでも受け入れようと一路は笑う。
「ねぇ?そもそもあの伝説の宇宙海賊魎呼とはどういう関係なの?知り合いみたいだけど?」
「ん~、実は未だに僕もよく解ってないんだけど・・・。」
彼女達の言う伝説の宇宙海賊と、地球に居る魎呼とでは、一路にはどうしても結びつける事は出来なかった。
宇宙人なのはそうなのだが、一路の知る魎呼は時に豪快で、でも優しくて、姐御肌で、天地の事が大好きな、基本的には普通の女性とそう大差はなかった。
これは後年、天地の弟である剣士も同様の印象を抱いているので、あながち間違いではない。
「きっと向こうに行けば解るだろうから、帰ったら教えるよ。」
正直どういうカラクリかは解らないが、自分自身の事に関しては最低限隠さなければならない事もあるので、何とか誤魔化すしかないだろう。
どう誤魔化すかは、これから無い脳みそを絞らなければならないので、かなり憂鬱ではあるが。
それでも色々と問いたださねばならない事もあるので行くしかない。
「いっちー・・・気をつけて。」
「ありがとう、あーちゃん。行ってくる。」
次回!ついにその正体が明かされる・・・ウボァ。