真・天地無用!~縁~   作:鵜飼 ひよこ。

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気づけば99話。
次で100話ですか・・・三桁は久し振りの投稿話数です。



第99縁:ここは寒くて、暗くて・・・。

「デカい・・・。」

 

 フィールドに満たされ、擬似的に作られた筒状の中を一路は自動で移動してゆく。

自分のいた艦から、謎のへと。

視界の隅に、未だ小さな爆発を繰り返している海賊船を見て、そして自分が行く先の艦を見た感想。

 

「ホンマやな。全くどうして今の時代、こんな代物を造るか、よぉ理解出来へんわ。」

 

「だよねぇ・・・え?」

 

 独り言だったはずの一路の言葉に反応がある。

だが、独り言というのはそもそも一人だから言うのであって・・・と、考えたところで再び現実に戻る。

 

「え、NBィ?!」

 

「どーも、ワシです。てかぁ?」

 

 緊張感のカケラもなくNBは至って普通に応えを返す。

 

「何で、ここにNBが・・・?」

 

「だって、そりゃあ、こんなオモロイ事態になっとんのに、誰も彼もワシの存在を忘れおってからに。つまりは、ワシと坊は一心同体っちゅー事や。」

 

「いやいや、要約出来てないし。というか、話飛んでるし。」

 

 しかし、一体どうやって移動する自分の流れに乗って来たのかは首を捻るばかりだし、今更引き返すわけにもいかない。

 

「僕一人って言われたのに。」

 

「まぁ、大丈夫やろ。ワシは坊のサポートロボットやし。」

 

「しょうがないなぁ、一緒に行こうか。」

 

「そうこなアカン。それでこそ坊や。」

 

「褒めたって何も出ないよ?」

 

 最早、このロボットの器用さと要領の良さに一路は呆れるしかない。

 

「けど・・・巨大な船だなぁ。これで生体反応がないなんて信じられない。」

 

 

「ホンマやなぁ。」

 

 移動前にせめてできる限り相手の戦力を確認しようとすると、生体反応1と出た。

これだけ巨大な船を動かすのに乗員が彼女1人とは考えられない。

かといって、こちらの走査を妨害されているというわけでもないようなので、何か特殊なプログラム、例えばNBや雪之丞のようなサポートロボットを使用しているのか・・・。

 

(該当艦はデータベースに無し、予想出力、予想竜骨による設計思想の近似値は・・・双蛇・・・眉唾モノね。)

 

 NBを通してアイリが分析した結果だ。

今はまだ大丈夫だが、中に入ってしまえば恐らく映像を受信する事はかなわないだろう。

今のうちに記録データを取れるだけ取ってしまわねばならない。

 

「あそこから中に入るみたいだよ?」

 

「何が出るんやろな。」

 

 そう呟いたNBだったが、結果は何も出なかったが正解だった。

 

「・・・何か・・・寒い・・・。」

 

 地に足をつけた一路がぽつりとこぼす。

 

「あん?艦内温度25.2度、湿度も・・・あー、そこまで寒かないやろ?」

 

 艦内の有害物質、酸素量、その他諸々を瞬時に計測し終えたNBが答える。

第一、一路の身につけている制服は、完全体温調節が可能な船外服のインナーだ。

そんな寒さを感じるはずがない。

 

「寒くて・・・寂しい船だ。何かの抜け殻、空っぽの揺り籠みたい。」

 

 通路の先、何もない空間を凝視して一路は眉根を寄せる。

 

「こんな寂しい船で暮らしている人は、どんな人なんだろうね、NB。」

 

「・・・あのな、坊?」

 

 NBは針金のように細い手足を器用に折り畳んで肩を竦める。

本当は首も傾げたかったが、彼に首はないので、円盤のようにはめ込まれた表情の面の部分だけがくるりと角度をつける。

 

「確かに全ての海賊が100%悪いヤツっちゅー考えはワシもどうかと思う。けどな、それでも相手は海賊なんや。解るか?海賊なんやで?」

 

 何を呑気なと嘆息してみたくもある。

情を持つなとは優しい一路には言えない。

だが、必要以上に情を持つのは危険でしかない。

一路の周囲の人間は、難儀しているというのを容易に想像出来る一言だ。

 

「そうだね。さっきも・・・凄く怖かった。」

 

 複数の人間が自分を傷つけに、危害を加えに来る。

そんな悪意、命のやりとり。

思い出すと足が震えて来そうだ。

自分でもなんて危険な事をと今にして思うのだから、きっとそれだけあの瞬間は夢中だったのだろう。

 

「せや。それが海賊、それが戦いや。」

 

「そうだよね!だって魎呼さんの名前を騙るくらいだもんっ!」

 

 グッと拳を握り、次々と廊下にあるゲートをくぐる。

 

「あ、いや、そういう事やなくてな・・・。坊?聞いとるか?」

 

「大体さ、あんな優しい魎呼お姉さんが、海賊なワケないじゃないか。」

 

 ※海賊デス。

 

「あ~、もうええわ。」

 

 一路の中の魎呼像がカッチリと確定して、どうやっても崩れないと理解したNBは、何を言っても無駄だと悟る。

世の中、知っておいて損はない事があるが、知らなくていい事もある。

おいおい知る事となるだろう。

 

「それにさ、昔は海賊だったとしてもだよ?今は普通に地球で暮らしてるんだしさ。大事なのは、今どうしてるかじゃない?僕なんかちょっと前まで、世界で一番不幸ですって顔をして引きこもってたし・・・さ。」

 

 だからといって母の死を引きずっていたあの時間の全てが無駄だったとは一路は思わない。

弱虫だとは思うが。

だからこそ今の自分を見て欲しい。

芽衣にも全にも、そして灯華にも。

 

「せやな。」

 

 宇宙に出てからの一路の、その境遇を知り、そのうえで傍にいる唯一の存在であるNBは、短くそう呟いて同意するだけだった。

 

「しっかし、そう考えると坊を呼びつけた理由てなんやろな?」

 

「ん?口封じじゃないかなって思ったんだけど?だって僕が偽物だーって皆の前でバラしたようなものでしょう?」

 

「あぁ。でも、本人は否定せんかったし、まぁ、肯定もしとらんが。けど、坊の身の安全は保証する言うてたしな。守るかどうかが別やで?」

 

「守るよ。」

 

「あん?」

 

「あの人は守る。そういう人だよ。」

 

 今まで会った事もない相手に何をとNBは訝しげに一路を見るが、彼の表情はそれを確信しているように見える。

 

(戦闘があった直後だから?彼、さっきから直感で動いてるわね。)

 

 意外に妨害電波の類は無く、アイリとNBの通信は確保されていた。

それが一路を害する事はないという先方の約束の一部なのかも知れない。

果たして、これが一路の能力といえるかどうかは、まだ検証が必要とだけ考える。

 

「だとしたらやで?他に口封じ言うたら、記憶操作の類いしかないで?」

 

 この方法ならば、自分が害されたという認識すら抱く事なく、それすらも消してしまえるだろう。

 

「う~ん・・・そういうのも違う気がするけど・・・。」

 

「じゃあ、もう残るは好奇心やな。」

 

「は?」

 

「味方なのか、敵なのか、どのみち相手を知らんとアカンやろ?この目でまず見るのが一番や。」

 

 確かに一理ある。

実際、一路だって、彼女に会うという事が指示されたからというより、会って一言『ふざけるな!』と言ってやりたいというのもあるからだ。

 

「ま、ともかく、会ってみてからやろ。推測だけじゃ埓があかっ・・・?」

 

「ほぶぅっ?!」

 

「???」

 

 今、一瞬にしてNBの視界から一路の姿が消えた。

 

「坊?」

 

 NBはすぐさま自分の視覚情報を疑ったが正常だ。

ハッキングされた形跡も、瞬間移動させられた痕跡もない。

では、自分が認識出来ない何かが起きた?

数コンマ秒でそういう結論に至った直後、背後でドコンッと鈍い音が聞こえた。

 

「わ、私、興奮してますっ!は、は、初めてです!初対面で私と魎呼さんを間違えなかった人はーッ!!!」

 

 よく理解出来ない。

理解出来ないが、一路が壁際に仰向けに倒れ、女性に馬乗りになられている事だけが、事実としてNBには理解出来た。

 

「ヤレヤレ。難儀な()っちゃな、ホンマ。」

 

 

 




あ、バレバレの正体判明まで話がいかなかった・・・orz

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