All I need is your love   作:なぁのいも

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『UMP40』あなたと私、どちら側?

 

 逃げる。逃げる。逃げる。UMP40は逃げる。軽やかな足取りで、時折手を叩いて誘い込むようにして。

 

 40は逃げている。自分に迫り来る鬼から。自分を捕まえようとする指揮官と言う鬼から。

 

 それは彼女が指揮官から大目玉を食らってチェイスが始まったとか、そういうことでは無い。

 

 なんてことは無い、今日も40は指揮官との鬼ごっこに興じているのだ。

 

 指揮官と鬼ごっこをするときの役割はいつも決まっている。指揮官が鬼で、自分は逃げる役。それは運命から親友を、姉妹を、逃がそうとした過去のように。

 

 40は今日も逃げる。自分を捕まえようとする鬼から。自分に厄災を振りまこうとする存在から。

 

 が、そんな悲惨な背景は露にも感じさせない。彼女は笑いながら駆けているから。晴れやかに微笑みながら爽やかさを醸し出しながら逃げているから。

 

 そう、今の彼女は――追われることを楽しんでいるから。

 

 今思えば蘇る前の彼女は死、へと繋がる一本道で、運命という鬼から永遠と逃げる鬼ごっこをしていた。

 

 立ち止まることは許されず、後戻りも出来ず、唯々走り続ける鬼ごっこ。その先にあったのは断崖絶壁。滑落してしまったら命が助かることが無い絶望に切り立った崖。

 

 彼女が鬼に対して出来たことといえば、幸い一人しか居なかった鬼の注意を自分へと引きつけて、同じように逃げ惑う存在を逃がすための囮となったことだけ。

 

 彼女自身も、鬼に捕まることは防いだが、崖から自ら飛び降りることを選んで――彼女の一度目の生は終わった。

 

 40はずっと逃げ続けていたのだ。身勝手な人間達から自分の身を戒める枷をつけられながらも、運命という邪悪な鬼から。欲望に塗れた邪悪な舞台の上でずっと。一つの希望をすくい上げる為に。

 

 そんな彼女が生まれ変わって鬼ごっこを楽しんでいるのは、なんとも数奇な事だろうか。

 

 今の彼女の指には誓約の証と言う枷がつけられて、指揮官という運命の相手という名の鬼に追われる。

 

 条件だけで言ってしまえば、蘇る前と変わらないように聞こえる。

 

 けれど今はそれを楽しんでいる。楽しめてる。そして、何よりも違うのは――彼女は指揮官という鬼を捕まえようとしている点だ。

 

 誓約の指輪と言うのは確かに強力な証だ。

 

 自分は指揮官にとって特別な存在になれたのだと言う確かな烙印。この世界に発信しても誇れる唯一無二の印。

 

 だが、それだけでは足りない。指揮官には――40のものになったと言う証は何も存在していない。

 

 つまり、自分はただ指揮官という鬼に捕まり続けてるだけにしかならない。

 

 足りない。それだけでは足りないのだ。それに性に合わない。

 

 40と言う溌剌な人形にはただ捕まっているだけ、逃げ回ると言うのは合わないのだ。

 

 だから彼女は――自分を追う鬼を――指揮官を完全に捕まえ自分のものにすると決めたのだ。

 

 彼女は天真爛漫な見かけによらず、頭が切れてクレバーだ。

 

 かつて、友を繋いでいた滅びの運命と言う鎖から救い出した過去があるように。

 

 彼女は策を弄する事が出来る。緻密で、綿密に練られた策を。

 

 だから、今回も一つの策を投じた。大袈裟なものではない。大それた事でも無い。よくある方法だ。グリフィンのネットワークにウィルスを仕込んだ。それだけのこと。

 

 自分の好きな時に、自分の好きなだけグリフィンの施設をコントロールを得られる。ただ、それだけの電子戦に特化した彼女にとって、かつて回路を書き換えたこともある40からすれば子供が戯れで創った粘土細工のように、単純で簡単なウィルスだ。

 

 彼女はこのウィルスを使って、指揮官を引き連れてグリフィンから脱走する腹積もり。

 

 自分を追いかけてくれる、自分に夢中になってくれている鬼を自分のものにするために。

 

 ――あぁ、でも。今はまだ早い。

 

 これは毒ではなく、病なのだ。ジワリと染みるように宿主を侵し、気がついた時には全てが手遅れになる様な病。厄災のウィルス。

 

 グリフィンのコントロールの掌握率もまだ60%と言ったところ。まだまだ不安定。今の段階でバレてしまっては二度目の生も台無しとなる。慎重に事を進めるのは、40の見た目によらず得意だ。

 

 それに――何よりも鬼を自分へと惹きつける必要がある。

 

 自分の仕掛けた罠へと誘導する必要がある。自分と共にこのトリカゴから逃げ出した後も、常に共に飛び立ってくれるようにする必要がある。

 

 幸い時間はある。好きなだけ策を弄し、彼を心の奥底から惹きつけ、逃さないようにするための時間が。

 

 ――あぁ、楽しみだなぁ。

 

 40の頬が自然と緩む。彼は気付いてないだろう。追いかけている筈の自分が、追い詰められていることには。そもそも彼は気づいていないだろう。この鬼ごっこに参加していること自体を、彼の足下には目の小さい網が張り巡らされていることに。

 

 そこで、UMP40は足を縺れさせる。今日の楽しい鬼ごっこはここで終わりだと告げるように、前のめりに倒れた40の背に指揮官の大きな手が乗せられる。

 

「ふぅ。捕まえたぞ」

 

 今日も40は指揮官に捕まった。今はそれでいい。今はまだ捕まる側で。一瞬捕まるだけで、これから先指揮官を永遠に捕まえていられるのなら安い代償だ。

 

 指揮官が40の手をとり、引っ張って起き上がらせる。40はその勢いに乗って指揮官に飛びつく。

 

「えへへ〜しっきかーん♪」

 

 ――捕まるのはどっちかな?

 

 その言葉を40は飲み込みながら、彼の肩に額を乗せて彼女は淫蕩に微笑んだ。

 

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