あなたの笑い顔が見たい。

そんなピエロが女の子のために頑張る話です。

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ただあなたの笑顔のために

 街に現れる多芸なピエロ

 ジャグリングに一輪車、帽子からハト

 求めるお代はあなたの笑顔

 笑えば飴玉プレゼント、笑わなければ死ぬほど笑わせられる

 

 街の公園にはいつからか、ピエロが来るようになった。

 寄って来る子供たちには風船を配り、いつも楽しいショーを見せる。

 今日はホッピングで跳ねながら両足を左右で叩いている。

 

「ほっ! はっ! あらっ?」

 

 リズミカルに叩けていたが、気付けば転落。失敗したピエロは顔をぶるぶると横に振る。

 だがホッピングは勝手にピエロの周りを跳ね回っていた。

 わざとらしくむくれるピエロだが、パッとジャンプをするとホッピングを捕まえる。そして今度は綺麗に着地をした。

 

「ギブミースマイル!」

 

 芸達者なピエロに観客の子供たちは拍手喝采。とびきりの笑顔を向けていた。

 近くにいた親たちもピエロの芸に驚き、思わず笑顔を浮かべている。

 

「ふーん」

 

 子供に飴玉を配るピエロを、公園の外から眺める少女がいた。

 今時の女子中高生らしくお洒落に着飾っている。これから駅前へ出かけるところで、ふとピエロを見つけた様子だ。

 街のピエロの噂は聞いていた。常に一人だがショーに代金を求めることなく、子供達に披露しているようだった。

 しかし、無反応のまますぐに少女はその場を立ち去った。映画やゲームなんかのフィクションに慣れ切ってしまった現代っ子にピエロのショーは地味に見えるのである。

 次見かけた時はSNSにでも上げてやろう、などと考えながら少女は歩いて行ってしまった。

 

 ピエロがその後姿をジッと見つめていたことも気付かずに。

 

 

 

 それからすぐのことだった。

 不運にも路地に連れ込まれた少女を三人の男たちが囲む。

 さしずめ、目当ては金か身体だろう。良からぬことを考えているのが透けて見えるほど、下品な笑みを浮かべている。

 

「い、いや……」

 

 少女は目に涙を浮かべる。

 これから自分がどんな凄惨な目に遭うか、想像もしたくなかった。

 大声で助けを呼ぼうにも、何か抵抗すれば乱暴されるという恐怖が勝ってしまいうまく声が出ない。

 

「大人しくしてれば痛くはしないからさ」

 

 ヘラヘラと軽い口調で男が喋るが、白昼堂々と女の子を襲う連中の言葉など全く信用できない。

 少女が腕を捕まれ、なすがままに服を剥ぎ取られそうになる──その時だった。

 

「ハーイ」

 

 その場に不似合いな声が割り込んできた。

 

「なんだ? コイツ」

「なんでこんなとこにピエロがいんだよ」

 

 先程公園にいたピエロがジャグリングをしながら、一同に近付いてきた。三つのボールを巧みに回していたが、一斉に投げると全てが頭の上に落ちてきてしまう。

 ピエロはわざと失敗しておどけて見せるが、この場のギャラリーは誰一人笑わない。

 

 今はそんな場合ではない。少女が暴漢に襲われている。そこにピエロはどう考えても不似合いだ。

 

 しかし、ピエロはそんなことお構いなく、今度は何処からともなくシルクハットを取り出した。中身はどうやら空っぽのようだ。

 ピエロが指で三つ数え、ハットの縁を叩くと中から白いハトが飛び出してきた。

 マジックショーで見る定番のネタだが、それでも笑うものは誰もいなかった。寧ろ、男たちは苛立ちすら覚えている。

 

「ギブミースマイル?」

「もういい失せろ!」

「なんなんだお前は!」

 

 とうとう場の空気をぶち壊したピエロに男たちが怒り出す。彼らにとっては女の子で遊ぶいい雰囲気だったのに、目の前のピエロは邪魔なだけだ。

 一方で、少女の方もただただ恐怖で身を震わせていたのに、ピエロは芸を見せるだけで自分を助けてくれようとしない。やはり、ただ不要な存在だった。

 ピエロは笑顔が貰えないと分かると、ハトを出し続けるシルクをその場に置き、ダメだこりゃと言わんばかりに肩を竦めた。

 そして、ポケットから玩具の拳銃を取り出した。既に銃口からは旗が出ており、どう見ても殺傷能力はなさそうだ。

 

「なんだ? そんな玩具で俺たちを脅そうってのか?」

「やれるもんなら」

 

 そこから先の言葉が男の口から放たれることはなかった。

 ピエロが笑顔のまま引き金を引いた瞬間、男の頭はシャボン玉のように弾け飛んだのだ。

 周囲には血肉や体液が散乱し、他の男や少女の顔を汚す。ピエロが作り出したおちゃらけた雰囲気から一転、そのピエロがあまりにも残酷な場に再び作り替えた。

 頭のなくなった死体が倒れると同時に、傍にいた男が尻もちを付く。驚愕のあまり言葉すら上手く発せられないようだ。

 

「う、そだろ……?」

「ほ、本当に殺りやがった!? ああああああああ!!」

 

 数瞬前から態度を一変して顔を青ざめさせる男たちとは裏腹に、ピエロは笑顔を全く崩すことなく拳銃を向ける。

 殺される。そう判断した男たちは情けない悲鳴を上げながらピエロから逃げ出した。

 

 一人残された少女は、目の前で起きた状況が一体何なのか把握できずにいた。

 柄の悪い連中に絡まれたと思ったら、ピエロが現れ男の内一人の頭を玩具の拳銃で吹き飛ばした。

 現実らしくない状況に混乱し、しかし悍ましさから怯え切っていた。

 そうした中でもピエロは甲高い笑い声を絶やさない。

 手に持っていたはずの拳銃はその辺に放り捨てられていた。すぐ近くにはシルクハットが未だにハトを出し続けている。

 

 男達は路地から出ようと必死に走っていた。

 だが、全ては遅かった。男達の行く手を、頭上を飛ぶ無数のハトが遮る。

 ハトは男達に一斉に群がると、皮を剥ぎ、肉を啄み、目を抉っていく。助けを呼ぶ悲鳴も、苦痛に泣き叫ぶ声も、じわじわと処刑するハトには関係なく、白い羽が赤黒く染まる頃にはその場に二人分の骨と服の繊維しか残らなかった。

 

「あ、あ……」

 

 見るも無残な光景が立て続けに起き、いよいよ目から涙を流して身体を震わせる少女。

 そんな彼女に対し、ピエロはまたしても問いかける。

 

「ギブミースマイル?」

 

 笑え。

 ピエロの要求はそれだけだ。

 少女は必死に口元を歪ませて笑顔を見せようとする。が、足元の首なし死体に、すぐ向こうには食い散らかされた人骨。

 どう頑張っても、恐怖の方が勝って笑顔など作れそうもない。

 

「ノー?」

 

 ピエロは笑顔のまま頷き、泣きじゃくる少女を優しく撫でた。

 大きな手袋をした手は温かく、敵意を持たないものだった。

 もしかしたら、このピエロは最初から自分を助けるために来てくれたのかもしれない。やり方こそ残酷だが、自分には危害を加えないのかも。

 少女はピエロの手に自然と心を落ち着かせていった。

 

「さぁ、笑わせてあげる」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 とある街の路地裏。

 そこで奇妙な集団死亡事件が発生した。

 

 死体の内一つは首から上がなく、周囲に頭部と思われる破片が散らばっている。また、凶器と思われる銃のようなものが見つかったがどう見てもプラスチック製の玩具であった。

 

 内二つは、悪臭漂う白骨死体。何かに食い荒らされたと思われる跡を残し、微かに残った肉には蟲が湧いている。付近には鳥の羽根が複数落ちているのが発見された。

 

 そして、最後の死体は少女のものだった。

 他の死体よりは原型が残っているが、何より酷い有り様なのはその顔だった。口元は大きく裂かれており、まるで満面の笑顔を浮かべているようにも見えた。切り裂かれた時のショックで少女は死んだようである。

 

 犯人は未だに見つかっておらず、そもそも人為的に出来ることかすら分からないまま、この事件は迷宮入りすることとなった。

 

 

 

 

 街に現れるピエロの活躍

 求めるお代はあなたの笑顔

 笑えば飴玉、だけど気を付けて

 笑わなければ死ぬほど笑わせられる

 

 さぁ、ギブミースマイル?


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