ポケットモンスター -Hello My Dream- 作:PrimeBlue
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ルギア爆誕懐かしいなぁ。久しぶりに観るか!
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やっぱフルーラ可愛いなぁ。彼女がヒロインのSS探すか!
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全然ないやんけ!
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せや! 自分で書いたろ!
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ミュウツーの逆襲もリメイクされるし、ついでにあの子も出したろ!
というノリで書き始めました。ルギア爆誕本編終了まで下書きは出来てる状態です。
ちなみに、主人公の外見イメージはBWのエリートトレーナー。
夜の帳が下りる中、声を潜めたような静かな風が見渡す限りの草原を撫でていく。
草むらの中で眠っているであろう者達を起こさないように。
だが、今宵においてはその気遣いは無用なものであった。
生い茂る草むらの間を吹き抜けた先──丘を越えた向こうで、星々の輝く空に似つかわしくないほどの明かりが辺り一帯を照らし出していたからだ。
その光のもと、ドーム型の建物の中からは人々の喧騒が遠くからでもはっきりと響いて聞こえてくる。
怒り、呆れ、焦り、嫌悪、嘆き、そして恐れ……あらゆる負の感情が入り乱れて醸し出される歪んだ色。
夜の太陽とも見紛うようなほど明るい光は、皮肉にもその色によって氷のような無情な冷たさを運んでいた。
そんな光景を、丘の上からいくつもの小さな瞳が覗く。
この星の不思議な不思議な生き物、ポケットモンスター。縮めてポケモン。
彼らはただ静かに、その光を見下ろしていた。
『ええ……カロスリーグ・デルニエ大会。決勝戦の試合開始時間はとうに過ぎておりますが、対戦相手であるナオト選手は一向に姿を現す気配がありません……あっ! 試合放棄と見なしたのでしょうか。今、審判がタクト選手の元へ不戦勝を告げに近づこうと────』
◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓
船から生じる引き波の音が耳を擽り、潮の香りを乗せた風が髪をなびかせる。
視界一杯に広がるのは、見渡す限りの大海原と真っ青な空。
少年、ナオトの憂鬱な気分を嘲笑うかのような天気晴朗ぶりであった。賑やかな喧騒が僅かに届く中、それに溜息を一つ混ぜる。
「ミャウ!」
デッキの手すりに肘をかけて夕方でもないのに黄昏る彼の背中に、無邪気で拙い声がかけられた。言葉というより鳴き声のようなその声に反応して、ゆっくりと振り返る。目線を下に向ければ、ナオトと似た青い髪に純白のワンピースを着た幼い少女が眉尻を下げて彼を見上げていた。
少女は後ろで組んでいた手を前に出し、ナオトの腕を片方の手で掴んで引っ張る。
「おい、どうした? お腹が空いたんなら、適当に取ってきてもいいんだぞ。クルーズ料金に含まれてるんだから」
「ミャウ、ミャ!」
そんなナオトの適当な返事に、少女はブンブンとかぶりを振って癖のついた長い髪を揺らす。暗に食いしん坊と言われたと思ったのか、頬を少しだけ膨らませて今度は両手でぐいぐいとナオトの腕を引っ張った。
「っとと、分かった分かった。ついてこいって言いたいんだろ? そんなに引っ張るなって」
「ミャ!」
少女に腕を引かれて、ナオトはデッキを後にして船内へと入っていく。
ナオトと少女が乗る船──サントアンヌ二世号には、大勢の乗客が乗船している。それは何もクルーズ船だからというだけではないだろう。なんせこの船は、大海原を股にかけて世界一周する船なのだから。
旅客定員数は六百を優に超える富裕層向けの豪華客船であるが、ナオト達の周りにいる乗客達からはそういった裕福な出で立ちの者はあまり見かけない。
もちろん、それには理由がある。前に退役直前で売却予定だった先代のサントアンヌ号がカントー地方クチバシティの沖で沈没した影響で、後継であるこの二世号の集客率は格段に落ちてしまっていた。毎年満員御礼であったこの世界一周クルーズ。ここで閑古鳥が鳴いてはお先真っ暗なため、なんとか集客率を上げようとしたクルーズ会社が今年に限り大幅な値下げをしたのだ。
必然的にチケットも争奪戦となったわけだが、それについてはナオトは不戦勝。世話になっていた人物からそのチケットを渡されたのである。カントー地方に一度行ってみたかったんでしょ? と。
カロス地方のヒヨクシティから出港して、ガラル、オーレ、イッシュ、そしてカントーなどを寄港地とするこのクルーズは、事前に申請すれば途中下船が許可される。せっかく渡されたチケットを無下にするわけにもいかなかったので、ナオトは気晴らしを兼ねてカントー地方目指して乗船したのである。何となく乗っちゃいけないような気はしたが。
ナオトと同じような考えで乗船した者も多いのだろう。先程から人間ではない生き物──ポケモンを連れた者達とすれ違っている。コマドリポケモンのヤヤコマを肩に乗せた者。桃色の被毛と眉間に皺を寄せた顔つきが際立つようせいポケモンのブルーを抱いて歩く者。少し目線を巡らせるだけでも様々なポケモンが視界に入った。
発見されているものだけでも七百種類は超えていると言われている。この船に乗船しているポケモンだけで、ひょっとしたら百種類を超えているのではないだろうか。
そんなポケモンを連れた者達のことを、人はポケモントレーナーと呼ぶ。彼らはポケモンを友達として、家族として、そしてパートナーとして傍に置いている。
中には、そのポケモンと共に大きな夢へと向けて歩んでいる者もいるはずだ。ポケモンを育てることを生きがいにしたブリーダー。ポケモンに騎乗して速さを競うレーサー。トライポカロンという大会でポケモンとのパートナーシップを魅せるパフォーマーや、ポケモンの魅力を競うコンテストで優勝を目指すコーディネイター。
そして、ポケモンバトルに励む者。各地方のジムを巡って、ポケモンリーグという名の地区大会出場を目指す者。そこで優勝し、その先のはるか雲の上であるチャンピオンを志す者もいるだろう。もしかしたら、トレーナーの頂点として君臨するポケモンマスターを夢見る者もいるかもしれない。
ナオトも、以前はそんな夢見るトレーナーの一人であった。
さて、大勢の乗客達の間を縫って、吹き抜けになっているショッピングモールに入ったナオト達。船の上であるということを忘れてしまいそうなほどの空間──大型客船故に揺れもさほど気にならない──が視界のはるか先まで一直線に伸びていた。
少女はナオトの手を引いたまま、モールの一角……柱の陰に隠れてあまり目立たないような場所に足を向ける。そこには周りの豪華絢爛さに相応しくない地味な見た目の屋台と水槽が置かれていた。
「ミャウッ」
「これは……」
その水槽には、赤い鱗が目立つさかなポケモン──コイキングが入っていた。何も考えていないようなぼけっとした表情のまま狭い水槽の中を浮かんでいる。
水槽に両手を当てて、憐憫の眼差しでコイキングを見つめる少女。
コイキングは、図鑑公認の最も弱くて情けないと言われているポケモンだ。通常、ポケモンにはタイプというものがある。例えば、ほのおタイプのポケモンはそのタイプの技を得意としているのは周知の事実であろう。
そして、目の前のコイキングはみずタイプのポケモン。しかし、みずタイプの技を全く何一つとして覚えないのだ。それがコイキングが最も弱いと言われる所以である。
一説にはハイドロポンプというみずタイプの技の中でも高い威力を誇る技を覚えたコイキングもいるというが、実際にそんなコイキングを連れたトレーナーをナオトは見たことがない。
「やあやあ、坊ちゃん!」
少し席を外していた屋台の店主、これまた豪華客船にそぐわない白いねじりはちまきをした無精髭の目立つ親父がナオトと少女を認めて早速接客とばかりに声をかけてきた。
「見てよこのポケモン! 鯉の中の鯉、鯉の王様! コイキングだよ! 坊っちゃん、知ってるかい? このコイキングは黄金を運んでくれるんだぜ! コイツは一回に千個のタマゴを産むんだが、その産まれた千匹のコイキングがまたタマゴを産むとどうなると思う!? コラッタ算だよラッタ算! ピカチュウ算でもサンド算でもいいや! とにかく、一匹一万で売れるコイツがそんな大量のタマゴを産んでくれたらあっという間に大儲けできるって寸法さ!」
身振り手振りを混ぜながら、一気に商売文句を捲し立ててくる店主。ナオトは呆れた表情を出さずにはいられなかった。
一体どこの世界ならコイキングが一匹一万円で売れるというのだろうか? どこかの地方にあるホップタウンという町ではコイキングのはねる力を競う大会が開催されているらしいが、そのリーグに優勝したコイキングなら一万円どころかそれ以上の価値はあるかもしれない。だが、そもそもポケモンの売買は世界的に禁止されているはずだ。
思わず店主から目を離して、少女の方を見やるナオト。彼女は眉尻を下げて、懇願するような目でナオトを見上げている。
ナオトはしょうがないなとばかりに小さく笑みを浮かべると、店主に向き直って口を開く。
「そんなに大儲けできるなんて、すごいですね」
「そうだろそうだろ! どうだい!? 普通なら一万円のところ、坊っちゃんにだけは特別に産卵セットと育成セットに英才教育セット、さらに純金製のモンスターボールをつけて三万円で譲ったげるよ!」
いらない物を添えて値上げさせるとは大した親父である。ポケモンを収納しておけるモンスターボールも純金製というが、ただのメッキだろう。こんなのに騙される者がいるのならぜひ見てみたいものだ。
しかし、そんな馬鹿でもある程度時間が経てばさすがに騙されたと気づくはず。恐らく、バレない内に次の寄港地であるイッシュ地方のホドモエシティでトンズラするつもりなのだろう。
「純金って、普通のモンスターボールより重くて使い難そうですけど……」
「いやいや、そんなことはないよ! 中は空洞だからね! 良かったら実際に持ってみてごらんよ!」
そう言って、店主は黄金色に輝くモンスターボールを差し出してきた。よく見てみなくても安っぽい。ナオトはそれを受け取ると、「へえ」と呟いて触り始める。
「今がチャンスだよ坊っちゃん! この機会を逃したら──」
「ところでおじさんさぁ……ポケモンの売買が禁止されてるってこと知ってる?」
被せるようにしてナオトが告げてきた言葉を受けて、店主の売り文句がピタリと止まる。
「これがバレたら大変だろうね。ポケモン取扱免許も剥奪されるだろうし。船のスタッフに話せば、次の寄港地のホドモエシティで──」
「じょ、冗談だよ坊っちゃん! このコイキングは坊っちゃんにタダで譲ろうと思ってたんだ! タダなら、売買にならないだろう? そ、それじゃあおじさんは急用を思い出したから!」
ナオトが言い終わらない内に店主は目にも止まらぬ速さで屋台を畳み、煙を巻き上げならあっという間に人混みの中へと逃げていってしまった。逃げ足の速さを鍛える暇があったら全うな商売をして欲しいものである。
後に残されたのは、コイキングの入った水槽だけ。ナオトは少女と顔を見合わせて、お互いに笑みを交わした。
「じゃあ、コイキングを海へ返しに行こうか。アイ」
「ミャウ!」
そうして、再びデッキへと出たナオト達。早速金メッキを剥がしたモンスターボールからコイキングを出すため、それを宙に向けて放り投げた。
通常なら白い光と共に中のポケモンが姿を現すのだが、今回は通常とは違う青い光がコイキングの姿を形作った。この青い光は、ポケモンとモンスターボールとの繋がりを断って逃したことの証なのだ。
出てきたコイキングはデッキの上でビチビチと元気良く跳ねている。先程と変わらないぼうっとした顔をしているが、心なしか嬉しそうにしているのが感じられた。ナオトはそんなコイキングを優しく抱え上げると、デッキの柵越しに眼下の海へと放す。小さな水柱を上げて海に落ちたコイキングは少しして海上に顔を出し、過ぎ去っていく船の上のナオト達を見上げた。
「じゃあな、コイキング! これからはあんな悪いヤツに釣り上げられないよう気をつけるんだぞ!」
「ミャアミャア~!」
手すりに肘をかけながらコイキングに手を振るナオト。隣にいる少女──アイも手すりの隙間に足を引っ掛け、身を乗り出しながら手を振って別れの挨拶をした。
「……さて、小腹も空いてきたし、ちょっと軽食を取れるところでも探すか」
「ミャ!」
手すりから降りて嬉しそうに微笑むアイ。なんだかんだ、彼女はナオトと比べれば食いしん坊なのは間違いない。ミルクとケーキが好きな相棒のために、ナオトは手頃なカフェを探そうと海に背を向けてポケットから船内図を取り出そうとする。
そんなナオトの背中に突然ドンッと衝撃が走り、前のめりになってしまう。誰かがぶつかってきたのかと振り返ってみると、そこには先程放したばかりのコイキングが海水を辺りに撒き散らしながらビチビチと跳ねていた。大型客船故に海からデッキまではかなりの高さがあるはずだが、跳ねて戻ってきたとしたら相当の力を持っていることになる。
「おいおい、なんで戻ってきたんだ。自由になれたんだぞ?」
ナオトはコイキングに駆け寄ってそう声をかけるが、彼はただ跳ねるだけで何も答えない。テレパシーでも使えないとポケモンは人の言葉を話せないので当然ではあるが。
「ミャウミャ、ミャ」
どうしたものかと困り顔で頭を掻くナオトの服の裾をアイがくいくいと引っ張った。アイの方を見やると、彼女はじっとナオトを見上げる。なぜだか分からないが、不思議と彼女の言いたいことは言葉にせずともなんとなく分かってしまう。
「……僕について行きたいって、そう言ってるのか?」
ナオトの言葉にアイはにっこりと笑って頷く。コイキングも肯定するように一際高く跳ね上がる。
正直に言って、ナオト自身はあまり気乗りしなかった。それは何も相手がコイキングだからというわけではない。が、逃しておいてここで放っておくのも無責任が過ぎるだろう。
「はぁ、分かったよ。あまり良い主人にはなれないと思うけど、これからよろしくな。コイキング」
ナオトは先程解放したばかりのモンスターボールを持ってコイキングに触れる。するとボールが独りでに開き、コイキングは赤い光に包まれてその中へと入っていった。その場に屈んだナオトがコイキングの入ったボールを拾うと、アイがそのボールを指先でツンと突いてよろしくねと笑いかける。
「まあ、素晴らしいわ!」
ふいに、ナオトの耳にそんな興奮気味の黄色い声が届く。
声のした方を振り向くと、アイよりもまとまった青い長髪に赤いヘアバンドをつけた少女が目を輝かせてナオト達の方を見ていた。素材の良さそうな服装に手に持ったレースの扇子を見るに、富裕層の者であることは間違いない。
後ろに控えているのは人間に似た身体をしているかいりきポケモンのワンリキー、ゴーリキー、カイリキーだ。少女と筋肉ムキムキマッチョマンが並んでいる光景は何ともシュールである。
「私、ポケモンをゲットするところを初めてみたの! ゲットするにはバトルをしなきゃならないって聞いたことがあるけど、あれは嘘だったのね!」
「いや、基本はそうだから別に嘘ってわけじゃないと思うけど……えっと、君は?」
「あっ、ごめんなさい。私、アヅミというの。後ろにいるカイリキー達は私のボディガードよ。それでこの子が……あら? スイートハニーコダックちゃん! どこなの? スイートハニーコダックちゃん!」
自己紹介していたアヅミというお嬢様は、急にキョロキョロと辺りを見回し始める。
「スイートハニーって何だよ……」
「ミャミャ?」
「ん? ……ああ。えっと、アヅミって言ったっけ。君のコダックって、ひょっとしてアイツのこと?」
アイが指差した方向にナオトが視線をやると、赤いスカーフを首に巻いたあひるポケモンのコダックがよたよたと歩き去ろうとしていた。アヅミも遅れてその方向を見て、慌ててコダックの元へと駆け寄る。
「あっ! もう、ダメじゃないスイートハニーコダックちゃん! 勝手にどこかへ行っちゃ!」
「コダ~……」
アヅミに抱きかかえられるコダック。このまま無視して立ち去るわけにもいかないので、ナオトはコダックを抱えている彼女の元へ歩み寄った。
「ゲットしたことがないって言ってたけど、そのコダックやカイリキー達は?」
「ああ、この子達はお父様やお母様から贈られたポケモンなの。いつも傍にいて欲しくて出しっ放しだから、モンスターボールもほとんど触ったことがないわ」
「……なるほどね」
ナオトは改めてアヅミのコダックを見やる。その身体はふっくらとしていて健康そのもの。黄色い被毛は毛並みが綺麗で毎日ブラッシングしてあげてるのがひと目で分かった。スイートハニーと呼ばれているだけあって、大切にされているのだろう。
しかし、そんなコダックが浮かべているのはどこか不満の色を混ぜた困った表情。アイが近づいて「ミャア?」と声をかけると、コダックは「コッパァ~……」と何か訴えるように鳴いた。
「あのさ、そのコダック。過保護なのもいいけど、もうちょっと自由にさせてもいいんじゃないか?」
「あら、ダメよそんなの! スイートハニーコダックちゃんったら少し目を離すとすぐどこかに行っちゃうんだから! 自由にさせて怪我でもしちゃったら大変だわ!」
「それはそうだけどさ……」
これはだいぶ拗らせているようだ。ナオトの予想だと、このコダックは家で大人しくているより外で思いっきり遊ぶのが好きな──いわゆるわんぱくな性格をしていると思われる。壊れ物のように扱うのはかえって関係を悪くするだけだろう。しかし、ナオトはアヅミの勢いに押されてそれを上手く説明できないでいる。
「──ちょっと、いいかしら?」
そこへ、ふいに誰かが声をかけてきた。今日はやけに他人から話しかけられる日だ。億劫に思いながらもナオトが声のした方を振り向くと、そこには長い金髪の少女が腕を組んで射抜くような目で彼を睨みつけていた。ナオトよりも一つか二つ年上だろうか。深紫色の服を着て、前髪をヘアピンで留めている。
「君、間違ってなければカロスリーグ・デルニエ大会に出てたナオト君よね?」
「いや、人違い──」
「誤魔化したって無駄。顔写真が載ってる出場者リストだって持ってるんだから」
ナオトは咄嗟に他人の振りをしようとしたが、問答無用で説き伏せられてしまう。だったら聞くなと文句を言いたくなるが、無論口にはしない。
「私はアヤカ。私もデルニエ大会に出場してたんだけど、覚えてる?」
「……えっと」
「覚えてないわよね。無理もないわ。私はあのダークライ使いに当たってベスト8止まりだったし、君とは対戦せず仕舞いだったから。知ってる? 結局あの大会、ダークライ使いが優勝を辞退したから異例の優勝者なしになったのよ」
「……へえ」
ナオトは心底どうでも良さげに返す。それに対して、アヤカはおもむろに懐からモンスターボールを取り出した。小さい状態のそれをボタンを押すことで手のひら大のサイズにし、ナオトへ突きつけるようにして向ける。
「君に、ポケモンバトルを申し込むわ」
「ええ?」「ミャッ!?」
急にバトルを申し込んできたアヤカにナオトは素っ頓狂な声を出し、アイは眉を釣り上げた。その声を聞きつけてか、周りの乗客達が好奇の視線をナオト達に向け始める。
「何驚いてるの? 君もトレーナーなら、目が合えばバトルするってことが常識なのは知ってるでしょ? 丁度このデッキにはバトルフィールドがあるわけだしね」
「まあ! バトルだなんて、せっかくのクルーズなのだから喧嘩はしちゃダメよ!」
「ポケモンバトルは喧嘩じゃないわ。さあ、私の挑戦を受ける? それとも怖気づいて逃げるのかしら?
ボールを突きつけたまま、ナオトを挑発するかのように問いかけるアヤカ。
「ミャウ!」
その時、アイが声を上げナオトを庇うように両手を広げて前に出た。アイの身体が不思議な色合いで発光し始め、アヤカやアヅミ、周りの野次馬達も目を見開く。
光が収まると、そこには青い髪の少女ではなく子狐のような見た目をした生き物がいた。被毛は濃灰色をしているが、ふっくらとした首周りと尻尾は黒い。青く染まったたてがみや眉が一際目立っていた。
「おい、あれってもしかしてゾロアか? 珍しいな」
「珍しいどころじゃないぞ。ありゃ色違いだ!」
姿の変わったアイを見て、野次馬達が一気に色めき立つ。
わるぎつねポケモン、ゾロア。イリュージョンという特性を持ったポケモンで、人や他のポケモンに化けることができるのだ。通常のゾロアのたてがみや眉は赤い色をしているのだが、アイは突然変異か何かで異なる色をしている。加えて、身体の大きさも平均と比べて小さめだ。
「へえ。あの可愛らしい女の子、大会に出てたゾロアが化けた姿だったのね」
「ミャ!」
アイは耳を畳み、尻尾を立ててアヤカを威嚇している。ナオトはそんなアイの頭を撫でて「大丈夫だから」と落ち着かせた。それを受けて、心配げにナオトを見上げながらも下がるアイ。
「……分かった。受けるよ。それであんたが満足するなら」
「そうこなくちゃ。満足するかどうかは、君次第だけどね」
ナオト達はデッキに用意されたバトルフィールドに移動した。
バトルが始まると聞いて、野次馬の数も先ほどよりも幾分か増えている。クルーズ船上で行われるイベントの一つとでも思われているのだろうか? アヅミもコダックが観戦したいとせがんだためか、近くにあるベンチに心配げな顔をしたまま腰を下ろしている。
「では、僭越ながら私が審判をやらせてもらおう」
野次馬の中に混ざっていたジェントルマンがそう申し出てきた。別に審判はいなくてもいいが、やってくれると言うならやってもらおう。
トレーナーポジションに立ち、お互いに向かい合うナオトとアヤカ。
「出てきなさい! アブソル!」
アヤカが手に持っていたボールをフィールドに向けて放り投げた。光と共に現れたのは、白い毛並みに黒い角と尻尾を持ったわざわいポケモンのアブソル。
このポケモンと出会うと、災いや不幸をもたらすと言われている。もちろん、実際はその通りではない。あくタイプということも相まってそんな噂が流れているのだろうが、同じあくタイプのゾロアと同様図鑑の説明や分類には人間の偏見が含まれているのがさほどだ。
……とは言っても、今のナオトにとっては間違いでもないのかもしれない。
「……頼む。ゲンガー!」
対して、左腕を振りかぶってナオトが繰り出したのはシャドーポケモンのゲンガー。紫色の身体をした、そこにいるだけで周囲の温度を低くするというゴーストタイプのポケモンだ。しかし、出てきたゲンガーを見て野次馬達が疑問の声を漏らす。それは対戦相手のアヤカも同様であった。
「ふうん。さすがに
「…………」
「そのゲンガーも大会で大活躍だったわよね。でも、あくタイプのアブソルにゴーストタイプのゲンガーを出すなんて、どういう了見かしら? 相性が不利でも勝てるっていう余裕の表れ?」
そう。ポケモンのタイプには相性があり、ゴーストタイプのポケモンはあくタイプの技に弱いのだ。当然、あくタイプのポケモンであるアブソルはそれらの技を得意としている。またその逆も然りで、ゴーストタイプの技はあくタイプのポケモンに対して効果はいまひとつ。舐めていると言われても仕方がなかった。
「違う。ゲンガーは僕が生まれた頃から一緒にいる、連れているポケモンの中で一番の古株なんだ」
「ふうん、相性よりも付き合いの長さを優先したってことね。それじゃあ負けても文句は言わせないわよ。アブソル! サイコカッター!」
「シャァッ!」
アヤカが片腕を振り下ろして技を指示する。指示を受けたアブソルが自身の角を大きく振り回し、紫色に発光する斬撃をゲンガーに向けて飛ばす。先手必勝とばかりに放たれたそれの速度は目を見張るものがあった。
「避けろ、ゲンガー!」
「ゲンッ!」
「連続でサイコカッターよ!」
ゲンガーは迫る斬撃を鮮やかに側転して回避。続いて繰り出されるサイコカッターも最小限の動きで避けてみせた。速度は速いが、その動きは一直線。軌道を予測すれば避けるのは容易い。
「やるわね。ならこれはどう? アブソル! あくのはどう!」
間髪入れず、次の技をアブソルに指示するアヤカ。あくエネルギーを纏ったオーラがアブソルから放出され、ゲンガーに襲いかかる。今度は攻撃範囲が広く軌道もいびつだ。これでは先程のように避けるのは難しい。しかも、ポケモンのタイプと技のタイプが一致していれば、その威力は通常以上となる。
「ゲンガー! 10まんボルトだ!」
「ゲン、ガァッ!」
ナオトの指示を受け、ゲンガーの全身から電撃を放たれる。ほどばしる電撃がアブソルのあくのはどうを相殺した。それによって、煙が勢い良く巻き上がって視界が塞がれてしまう。電気の焦げた匂いと潮の香りが混ざり、野次馬達の鼻を刺す。
「今よアブソル! シャドークロー!」
煙の中を割って出たアブソルがゲンガーの死角から襲いかかった。不意を突かれたゲンガーの身体をアブソルの鋭い爪が抉る。が、大振りのその攻撃はアブソルに決定的な隙を生み出す。
「ッ! ゲンガー、きあいパ──」
絶好のチャンスであった。ゴーストタイプ技のシャドークローはゲンガーにとって弱点。だが、幸いにも急所には当たっていない。当たっていたとしても、鍛え上げたナオトのゲンガーなら耐えてくれただろう。反撃しようと思えばできたのだ。しかし、ナオトは反撃の指示を出せなかった。
「……あくのはどう!」
「シャゥッ!」
アヤカがとどめの一撃をアブソルに指示した。間近で放たれたあくエネルギーがゲンガーを包み、上空へと吹き飛ばす。宙に飛んだゲンガーはナオトの目の前に落ち、仰向けに倒れてぐるぐると渦巻いた目を晒した。
「ゲンガー、戦闘不能! よって勝者、アヤカ!」
審判を申し出たジェントルマンがゲンガーに戦闘不能を言い渡し、その手を勝者であるアヤカに向けて掲げる。
「やっぱアブソルの勝ちか」
「当然だろ。それにあのゲンガー、相性が悪いとはいえ最初から防戦一方だったじゃないか。はっきり言ってバトルに向いてないよ」
野次馬達は予想通りの結果を前に各々好き勝手に悪態を吐く。
そんな中でアヤカは勝利に喜ばず、黙ったままアブソルをモンスターボールに戻した。そんな彼女にジェントルマンが歩み寄る。
「君のアブソル。実に素晴らしかった。どうかね? 私のラッタと交換するというのは──」
何やらほざいているジェントルマンを無視して、アヤカはゲンガーを労っているナオトの元に近づいていく。
「お疲れ様、ゲンガー。ごめんな」
「ミャウ……」
「ゲンゲン……」
倒れたゲンガーを抱えて、モンスターボールに戻してやるナオト。申し訳なさそうにしている彼と心配そうに覗き込んでいたアイに、ゲンガーはモンスターボールの赤い光に包まれながらも気にするなとばかりに身体を横に振ってくれた。
そんな彼らの前にアヤカが立つ。それに気づいたナオトが立ち上がろうとした、その時だった。
──パンッ
乾いた音がバトルフィールドに響き渡り、ナオトの視界が揺さぶられる。アヤカが彼の頬を叩いたのだ。
「……何、今のバトルは? いえ、今のはバトルなんて呼べるものじゃないわ」
眉をひそめたアヤカがナオトをこれまで以上に睨みつける。その刺すような視線からは、怒りと嫉妬、そして悔しさの色が感じ取れた。
「あの10まんボルト。私の記憶ではもっと威力があったはず。やろうと思えば、アブソルのあくのはどうを打ち消してそのまま攻撃することもできたわよね」
「…………」
ナオトは叩かれた頬に手をやりながら、視線を反らして答えない。そんな彼に構わずアヤカは続ける。
「それに君、終始受け身の体勢で全く攻撃に出なかった。大会の時とまるで真逆だわ……私のポケモンなんて、戦う価値もないってこと?」
「……そういうわけじゃ」
「じゃあ、やっぱり怖いのね。他人のポケモンを傷つけるのが」
「──っ!」
アヤカの言葉に、ナオトは無意識に反応して肩をピクリと震わせる。
「確かに、準決勝のあのバトルはひどかったわ。でもあれは──」
「ミャウ! ミャウウ!」
続けて文句を並べようとするアヤカを、横から再び少女の姿に化けたアイが割って入って止めた。それによって興がそがれてしまったアヤカは一つ深呼吸をし、己の中の憤りを鎮ませる。
「……私、君に期待してたのよ。もしかしたら、あのダークライ使いを倒してくれるんじゃないかって。それぐらいあの時の君はすごかったもの……でも、期待した私が馬鹿だったみたいね」
そう言い残すと、アヤカは踵を返してデッキを後にしていった。集まっていた野次馬も興味を失くしたかのように散り散りになってバトルフィールドから離れていく。その中で一人、コダックを抱いたアヅミがカイリキー達を連れ立ってナオトに歩み寄った。
「だ、大丈夫?」
「……ああ。みっともないとこ見せたな」
「そんなこと……でも、やっぱりバトルって怖くて危ないのね。スイートハニーコダックちゃんには絶対にさせられないわ!」
「コダッ!?」
違う。本当のポケモンバトルはこんなものじゃない。もっとワクワクして、胸が熱くなって、心から楽しいと感じられるものなのだ。だが、今のナオトがそれを彼女に教えることはできないだろう。
「……きっといつか、君にバトルが楽しいって教えてくれる人と出会えるさ」
「?」
ナオトの言葉に首を傾げるアヅミ。なぜだか、ナオトにはそう思えてならなかった。
下書き4000文字だったのが肉付けしたら5倍に膨れ上がったという話。
仕方ないので分割しました。そのせいでフルーラのフの字も出ないことに。次回、分割した残りは明日投稿します。
■コイキング売りの親父
無印編第15話「サントアンヌごうのたたかい!」でロケット団のコジロウにコイキングを三万円で売りつけた詐欺師。
後のシリーズでも度々顔を出しており、コイキング以外も売っていたりする。
なお、今後登場する予定はない。
■ジェントルマン
同じく無印編第15話に登場。
サトシのバタフリーとバトルしたが、形勢不利と判断した途端強引に引き分けにしてバトルを中断させた調子のいい男。かなりの交換好きのようで、バタフリーのことを気に入ってラッタと交換しようと申し出る。
なお、今後登場する予定はない。
■アヅミ
AG編第140話「コダックの憂鬱!」のゲストキャラ。
カントー地方に屋敷を持つ大金持ちの令嬢。カイリキーを初めとしたかいりきポケモンを引き連れている。コダックのことを溺愛しており、呼びかける際は常にスイートハニーとつけるのを忘れない。
なお、今後登場する予定はない。
■アヤカ
XY編「最強メガシンカ~Act I~」で登場したエリートトレーナー。
「破壊の繭とディアンシー」ではオープニングでサトシとバトルしており、そのバトルでは勝利したが後に本編のカロスリーグ準々決勝で敗北している。
この作品の時系列ではまだメガシンカに必要なアイテムを持っておらず。
なお、今後登場する予定はない。
■タクト
DP編シンオウリーグ・スズラン大会の準決勝でサトシに勝利したダークライ使い。またの名を伝説厨。
なお、今後登場する予定は……あるかも。