ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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10. クリスタルのイワーク ② ▼

「……もうそろそろ十分は経つな」

 

 タケシが腕時計を見て眉をひそめる。そろそろ戻ってきてもいい頃合いだが、フルーラとコイキングは浮かび上がってこない。

 

「……」

「ミャウ……」

「どうしよう。お姉ちゃん戻ってこないよ」

「……誰か潜って様子を見てきた方がいいんじゃ……僕がパルシェンと一緒に──」

 

 そう話していた矢先、湖に泡がブクブクと浮かび上がったかと思えば、その場所からフルーラが勢い良く顔を出した。

 しかし、様子がおかしい。フルーラは湖に飛び込んだ時とは打って変わって余裕のない表情で岸へと急いでいる。

 

「おい! 何があったんだ!?」

「コイキングが……コイキングが、私を庇って!」

「何!?」

 

 岸に手をかけて状況を説明しようとするフルーラ。とにかく、ナオトはそんな彼女に手を伸ばして引っ張り上げようとした。

 ──その時である。

 

「ナオト!」

 

 タケシの声に反応したナオトがフルーラの手を掴んだまま湖の方へ視線を向けた。視線の先、湖の中心がまるで山のように膨れ上がったのだ。

 そして、激しい水飛沫と共に山が流れ割れ、正体を晒す。

 

「クリスタルの、イワーク……!」

 

 無骨な岩の身体ではない。水に溶け込むかのようや透き通った水晶の身体をしたイワークだ。噂に違わないその姿に、ナオトとタケシは目を奪われる。

 しかし、ナオトの目はクリスタルのイワークが現れると同時に湖からコイキングが吹き飛ばされていくのをしっかりと捉えていた。岸へと吹き飛ばされたコイキングは勢い良く地面に叩きつかれ、数度跳ねて力なく横たわる。そこへ、イワークが尻尾を振りかざす。

 

「っ! コイキング、戻れ!」

 

 ナオトが飛び出し、駆け寄ってコイキングに向けてモンスターボールを向ける。中心から赤い光が放たれ、その光に包まれたコイキングはボールへと収納された。が、空振ったイワークの尻尾が猛烈な勢いでナオトのすぐ傍を掠める。

 

「うわあッ!」

「ナオト!」「ミャウ!」

 

 振るわれた尻尾の風圧が襲い、ナオトは壁に叩きつけられてしまう。気絶してしまったナオトの元へフルーラ達が駆け寄る。

 

「イワーク! 俺達は敵じゃない! 話を聞いてくれ!」

「グオオオッ」

 

 タケシが声を張って語りかけるも、クリスタルのイワークはどういうわけか我武者羅に暴れて聞く耳を持たないでいる。十メートル近い巨大な体躯のイワークが動く度に水飛沫が散ってタケシ達に降り注ぐ。

 

「おかしい。クリスタルのイワークはこんな獰猛じゃなかったはずだ」

「フルーラ、一体何があったんだ?」

「わ、分かんないわ。何もしてないのよ。出会い頭に突然暴れ始めて……」

 

 動揺の混じった声で話すフルーラ。そんな彼女の手には湖の中を調べるために持っていた懐中電灯。

 それを見て、タケシは察する。恐らく、クリスタルのイワークは突然明かりを向けられて驚き、いわゆるこんらん状態となってしまったのだ。

 イワークはズバットと同じで普段から暗い場所で生活しているが、視力は退化していない。そんな生き物に対して急に強い明かりを向ければ、こうなってしまうのは当然のことだろう。イワークをパートナーとしているタケシは、そのことに気づかなかった自分を心の中で叱咤した。

 

 

「──ホネブーメラン!」

 

 

 その時、横からクリスタルのイワークを攻撃する者が現れる。投げられた骨はイワークの横っ面に命中し、行きと帰りの二撃でその巨躯を大きく仰け反らせた。

 

「お、お前ッ! どうしてここに!?」

 

 クリスタルのイワークを攻撃したのは、イサオの店で乱暴な態度を取っていたあの男であった。

 その傍らには、男の連れなのか帽子を目深に被った女の姿もある。

 

「よう。やっぱりイワークの居場所を知ってたんじゃねえか。ひでぇなぁ。小僧共には教えて俺には教えないなんてよ。しょうがないから後をつけさせてもらったのさ」

 

 どうやら、イサオがイワークのことを知っていると確信していた男はナオト達との会話を盗み聞きし、この離れ小島に向かう彼らの後を尾行していたようだ。

 

「ガラガラ。かえんほうしゃだ」

「ガラッ!」

 

 男は先ほどホネブーメランを投げたほねずきポケモン、ガラガラに命令する。ガラガラは頭に被った頭蓋骨の口元から燃え盛る炎を勢い良く吐き出した。

 

「グアオオオッ!」

 

 吐き出された炎が水晶の身体を赤く染め上げ、イワークが苦しそうに悶える。どうやら、このイワークはほのおタイプの技に弱いようだ。通常のイワークとは正反対である。

 

「やめてっ! クリスタルのイワークに手を出さないで!」

「よせ! マサミ!」

 

 イサオが止めるのも聞かず前に出たマサミは、クリスタルのイワークを庇うように両手を広げて男に食ってかかった。

 

「うるせぇな、ガキ。トレーナーがポケモンをゲットして何が悪いんだ」

「わたし知ってるんだから! あなた達、イワークをお金儲けに使うつもりなんでしょ!?」

「ゲットしたポケモンをどうしようがトレーナーの勝手じゃねえか。そのクリスタルのイワークを自分のコレクションに加えたいっていう奴がいるんだよ。たんまり報奨金を用意してるって話だぜ。これを逃す手はないだろ?」

 

 男の言い分を聞いたタケシは握った拳を震わせ、明確に怒りを露わにする。

 

「そんな理由でポケモンをゲットしようだなんて……お前ら人間じゃねぇ!!」

 

 その妙な気迫に男は一瞬たじろぐ。が、すぐに気を取り直して再びガラガラに命令を出した。

 

「な、なんとでも言え。ガラガラ、もう一度かえんほうしゃだ!」

「ガララッ!」

「させないぞ! 出てこい、イワーク!」

 

 ガラガラの攻撃に対して、タケシがモンスターボールを投げて自分のイワークを出す。ガラガラのかえんほうしゃはイワークの岩の身体が壁となって打ち消された。当然、イワーク自身にもほとんどダメージはいっていない。こうかはいまひとつだ。

 

「くそ……おい、何ボサッとしてんだ! テメェもあの小僧のイワークを攻撃しろ!」

 

 男は苛立ちを混じえながら傍らの控えている女にもそう促した。女は黙ってモンスターボールからピィを繰り出す。

 

「シャドーボールよ」

「ピィ!」

「イワーク! 弾き返せ!」

「グオオッ!」

 

 放たれたシャドーボールを、タケシの指示を受けたイワークが尻尾を使って強烈な勢いで弾き返す。

 

「ガラッ!?」

 

 弾き返されたシャドーボールは見事ガラガラに命中した。吹き飛ばされ、地面を転がるガラガラ。

 

「おいっ! 何やってんだ!」

「あら、貴方のポケモンがどんくさいからでしょう?」

 

 謝る素振りも見せない女。男はこの女と組んだことを後悔しているのか、忌々しげに舌打ちを零す。

 

「……チッ、ガラガラ! さっさと起きろ! けたぐりだ!」

「ガ、ガラッ!」

「イワーク! いわおとしで近づかせるな!」

 

 慌てて起き上がって駆け出すガラガラ。迎え撃つタケシのイワークが周辺の地面や壁を砕いていわおとし攻撃を行うが、身軽で小さいガラガラはそれを避け切り、あっという間にイワークへと肉薄する。そして、掬い上げるようにして得物のホネを振るいイワークを殴りつけた。圧倒的な体格差にも関わらずイワークの巨体が大きく浮き上がり、引っ繰り返って地面を揺らす。

 

「グ、グオオッ」

「イ、イワーク!」

 

 けたぐりは相手が重いほど威力が上がるかくとうタイプの技だ。加えて、かくとうタイプの技はいわタイプのイワークにこうかばつぐん。倒れたイワークの元へタケシが慌てて駆け寄った。

 

「アイちゃん、ナオトをお願い。こうなったら……出てきて、イーブイ!」

「僕も協力するよ! パルシェン!」

 

 フルーラがモンスターボールからイーブイを出し、イサオも加勢するべくパルシェンを繰り出した。地面に降り立ったイーブイは相変わらず素っ気ない態度だ。

 

「ブイ」

「お願いイーブイ! クリスタルのイワークを助けるのよ! スピードスター!」

「……ブッ!」

 

 とりあえず言うことは聞いてくれるみたいだ。イーブイがスピードスターを放ち、星型の光線が男のガラガラに向かって飛んでいく。

 

「ガラガラ! なげつけろ!」

「ガ、ラッ!」

 

 迎え撃たんと男がガラガラになげつけるを命令する。ガラガラの投げたふといホネがイーブイのスピードスターを打ち消した。

 

「パルシェン! まもるだ!」

「パルッ!」

 

 スピードスターを貫通してそのままイーブイにホネが直撃するといったところで、イサオのパルシェンが間に入りまもるでイーブイを助ける。まもるによるバリアで弾かれたホネはガラガラの手元へと戻っていった。

 

「あ、危な──」

「ピィ、ソーラービーム」

 

 助かったと思った矢先、横合いから光が襲う。ピィによるソーラービームの追撃がイーブイ達を襲い、パルシェンのまもるのバリアを破った。くさタイプ技のソーラービームはみずタイプのパルシェンに大ダメージを与える。パルシェンは倒れ、巻き添えを食らったイーブイもやられてしまう。

 

「イーブイ!」

「パルシェン!」

 

 それぞれのポケモンに駆け寄るフルーラとイサオ。雑魚は片づけたとばかりに男は獲物へと目を向け、モンスターボール片手に傷ついたクリスタルのイワークの元に近づいていく。

 

「よし、さっさとクリスタルのイワークをゲットしておさらばするか」

 

 モンスターボールを掲げ、イワークに向けて投げようと構える。

 

 

「そうね。それじゃあ、サヨナラ」

 

 

 しかし、男がそのボールを投げることはなかった。突如として背後から光が襲ったのだ。女の連れているピィが男に向けてソーラービームを撃ったのである。

 

「あ? ぐわああぁぁーーッッ!!」

「ガラアアァァーーッ!!?」

 

 男はガラガラ諸共吹き飛ばされ、洞窟の天井に空いた裂け目から放り出された。

 

「……さてと、邪魔者は消えたことだし、ゲットさせてもらうわよ。クリスタルのイワーク」

 

 女──ドミノが帽子を上げて正体を現す。クリスタルのイワークの噂を聞きつけたドミノはナオト達の話を盗み聞きし、彼らを退けるために男を利用したのだ。

 このイワークをゲットしてボスに献上すれば、汚名返上は確実。返り咲くどころか、以前よりも高い地位に上り詰められるかもしれない。無意識に口端を歪めるドミノはモンスターボールを取り出して構え、投げた。

 

「ダメッ!!」

 

 マサミが叫ぶが、無情にもボールはドミノの手を離れ放物線を描いてクリスタルのイワークへと向かっていく。

 

 

 

 そして、ボールがヒットし、クリスタルのイワークが光に包まれる。

 

 

 

「──は?」

 

 しかし、命中したのはドミノの投げたモンスターボールではなかった。一瞬早く、別の方向から飛んできたモンスターボールがクリスタルのイワークを捕らえたのだ。

 光に包まれてボールに収まったイワーク。そのまま地面に落ちたボールは数秒ほど震え、ポンッという音と共にその動きを止めた。

 

「……悪いな。クリスタルのイワークを渡すわけにはいかないんだ」

 

 ボールを投げたのは意識を取り戻したナオトであった。ナオトはボールを拾ってアイに渡す。

 千載一遇のチャンスをふいにされてしまったドミノはその整った顔を歪めた。

 

「ジャリボウヤ……横取りなんてマナー違反じゃないのかしら?」

「お前にマナーをどうこう言われる筋合いはない」

 

 ナオトはドミノが連れているピィをちらりと見やる。何が面白いのか、ドミノの周りを楽しそうにはしゃいでいる。

 

「そのピィ……まさかボンタン島のポケモンセンターにいた?」

「勘違いしないでちょうだい。コイツが勝手についてきたのよ。戦力にならなかったらとっくの昔に放り出してるわ」

「ピィ!」

 

 嬉しそうに纏わりつくピィを足で退かすドミノ。

 今までの素振りからして、どうやら彼女はポケモンの扱いにそこまで慣れていないらしい。恐らく、いつもあのチューリップの兵器で任務をこなしていたからだろう。しかし、今それは手元にない。ボンタン島でナオトが奪った物が最後だったのだ。

 

「前回は不覚を取ったけれど、今回はそうはいかないわよ」

「望むところだ。アイ、ボールを守っててくれよ」

「ミャウ!」

「よし。ゲンガー! 行ってくれ!」

 

 ナオトはアイを控えさせ、ドミノのピィにボールから出したゲンガーで迎え討つ。

 

「ゲンガァ!」

「ピィ、ソーラービーム!」

「ピィイ!」

 

 さっさと勝負を終わらせるつもりか、ドミノは再びピィにソーラービームを命令した。ソーラービームは太陽光によるチャージが必要だが、ピィはその時間を待たずソーラービームを発射させる。どうやら、先ほどの会話中にチャージを済ませていたようだ。

 

「ゲンガー! 受け止めろ!」

「ゲェンッ!」

 

 ナオトの指示通り一直線に向かってきたソーラービームを両手で受け止めるゲンガー。

 

「だ、大丈夫なの!? ナオト!」

 

 隅でイーブイを労っていたフルーラが彼らの無茶な行動に焦りの声を上げる。

 しかし、彼女の心配は杞憂であった。数メートルほど押されたものの、ソーラービームはゲンガーの手に押し潰されて消失したのだ。

 

「ゲンガーのタイプはゴーストとどく。どくタイプのポケモンにくさタイプ技はさほど通用しないんだ」

「……あらそう、ご丁寧にどうも。だったら次はこれよ。シャドーボール!」

「ピピィ!」

 

 煽るようなナオトの説明にドミノは眉をひそめ、続けてシャドーボールを命令した。

 

「こっちもシャドーボールだ!」

「ゲン、ガッ!」

 

 ナオトもゲンガーのシャドーボールで対抗する。

 お互いのシャドーボールが衝突して爆発、土煙を巻き起こす。

 

「ピィ、すてみタックルで突っ込みなさい!」

「ピピピ!」

 

 間髪入れず命令を受け、土煙を破ってピィがすてみタックルでゲンガーに突撃する。ピィの身体がゲンガーにぶつかった瞬間、決まったとドミノは唇を歪めた。

 

「なっ!?」

 

 しかし、ピィはそのままゲンガーの身体をすり抜け、その向こう側の地面へ顔面が削れる勢いで突っ込み、ひっくり返ってしまう。

 

「ゴーストタイプにノーマルタイプの技は効かない。人が育てたポケモンを奪ってばかりいるからそんなことも知らないままなんだ。ゲンガー! ヘドロ──いや、シャドーボールだ!」

「ゲンッ!」

 

 反撃とばかりにナオトはゲンガーに攻撃を指示した。フェアリータイプのピィに対してこうかばつぐんのヘドロばくだんを指示しようとしたが、ピィを気遣ってだろうか途中で考え直し先程と同様のシャドーボールに切り替える。

 

「ちょっと、ひっくり返ってないで起きるのよ!」

「ピ、ピィ~」

 

 ピィは倒れた体勢からじたばたしている内に横へ転がり、運良くゲンガーのシャドーボールを間一髪のところで避けることができた。

 

「っ……そうだわ。ピィ、シャドーボールよ!」

「ピィ!」

 

 そこで何か思いついたのか、ドミノは起き上がったピィに再びシャドーボールを命令する。

 

「避けろ、ゲンガー!」

 

 放たれたシャドーボールを、ナオトの指示を受けて最低限の動きで避けるゲンガー。それを見て、ドミノはやっぱりと口端を上げた。

 

「ソーラービームの時と違ってシャドーボールは対処する。つまりそれは、ゲンガーにとってシャドーボールは弱点となる技ってことね?」

「……確かにそうだ。でも、当たらなければそんなの関係ない」

「フフ……悪役にはねぇ、こういう戦法があるの。ピィ、あのジャリに向かってシャドーボールよ!」

「ピッ!」

 

 悪どい笑みを浮かべて、再びピィにシャドーボールを命令するドミノ。

 目標はゲンガーではなく、少し離れた場所でバトルを見ていたマサミであった。マサミは自分に迫ってくる黒い塊を呆然と見つめている。

 

「マサミ!」

 

 イサオが慌てて駆け出そうとするが、とても間に合わない。

 

「ゲンッ!」

「ゲ、ゲンガー!」

 

 咄嗟に一番近くにいたゲンガーが間に滑り込み、マサミを庇う形でピィのシャドーボールを受ける。

 

「ゲ、ゲンッ……!」

 

 こうかはばつぐんだ! だが、ゲンガーは後ろにいるマサミを巻き込むまいと傷を負いながらもその場に踏み止まった。

 

「ミャウ!」

「ゲンッ、ゲンゲン!」

 

 クリスタルのイワークの入ったモンスターボールとフルーラの服を持ったアイが慌てて駆け寄ろうとするが、ゲンガーはそれを手で制する。

 

「アハハッ! これで避けることができなくなったわね!」

「あんた、ホント最低!」

「妹を狙うなんて……こうなったら二対一が卑怯だなんて言わせないぞ! 行け、リザード!」

 

 妹が狙われたことでいきり立ったイサオがもう一匹のポケモンが入ったモンスターボールを投げようとする──が。

 

「させないわよ。ピィ、シャドーボール!」

「ピィー!」

「ッ! ゲンガー!」

 

 状況が不利になる前にドミノがシャドーボールを命令した。

 さすがに弱点タイプのわざを二発まともに食らってしまえばひとたまりもない。ナオトはゲンガーを助けようと地面を蹴って駆け出す。

 

 

「──ピッ!?」

 

 

 シャドーボールが放たれると思われたその瞬間、大きな岩の塊がピィを吹き飛ばした。

 

「すまない! 待たせた!」

「タケシ!」「タケシ君!」

 

 ピィを吹き飛ばしたのはタケシのイワークだった。

 タケシは厳しい顔つき──目はいつも通りの糸目だが──でドミノを見据える。

 

「この糸目が……なんでまだ動けるのよ!?」

「俺のイワークの頑丈さを甘く見てもらっちゃ困るな! イワーク、たいあたりだ!」

「グオオオ!」

 

 その体躯の巨大さにそぐわない素早さでピィに迫るイワーク。イワークが地面の中を掘り進むスピードは時速80キロ。初めてその動きを見たトレーナーがド肝を抜くのは言うまでもない。

 

「ピ、ピィ! 避けなさい!」

「ピピィ!」

 

 ピィは慌てて起き上がってコロコロと転がるようにしてイワークのたいあたりを避ける。だが、その体勢はあまりにも隙だらけであった。

 

「ッ、そこだ! ゲンガー! 10まんボルト!」

「ゲンゲラ、ゲンッ!」

 

 その隙を見逃さず、ナオトの指示によってゲンガーが放った10まんボルトが放たれる。イワークのたいあたりを避けることに専念していたピィはそれに反応することができず、まともに電撃を浴びてしまう。

 

「ピィイイーーッ!」

「ピィ!? クッ……戻りなさい!」

 

 フラフラと目を渦巻かせて倒れるピィ。戦闘不能に陥ったピィを、ドミノは舌打ちと共にモンスターボールに戻した。

 

「あの男を排除するタイミングを間違えたわね……でも、タイプ相性ね。覚えたわ。次は必ずそのイワーク諸共ポケモンを頂いていくから覚悟しなさい!」

 

 戦力を失ったドミノは煙幕を張り、洞窟から離脱する。

 追いかけてジュンサーに突き出すこともできるが、それよりもクリスタルのイワークが心配だ。ナオト達は煙が晴れるまでその場を動かず待つことにした。

 

 

 

 

「ゴホッ、ゴホッ……もう大丈夫だ。出てこい、クリスタルのイワーク」

 

 ようやく煙が晴れ、ナオトはクリスタルのイワークをモンスターボールから出す。

 光と共にボールから出てきたイワークは、激しいバトルの跡が残る洞窟内を見渡している。どうやら、思ったよりもダメージはなさそうだ。光を当てられたことによるこんらん状態も解けて落ち着きを取り戻している。

 

「クリスタルのイワーク!  この島はお前を狙って沢山の人間が集まってきてる! この場所は危険なんだ! だから、別の安全な所へ移住してほしい!」

「ミャウ! ミャウミャ! ミャウ!」

 

 改めて、この島から離れるよう説得するナオト。イリュージョンを解いたアイも必死にイワークに事情を伝えている。

 

「…………」

 

 しかし、イワークは湖を去る様子を見せない。それどころか、何か話をしたそうにアイに目線をやった。

 

「ミャ?」

 

 首を傾げたアイが近づき、イワークの口元に耳を立てる。

 そして、話を聞いたアイは頷き、なぜか嬉しそうにナオトの元に駆け戻ってきた。

 

「アイ。イワークはなんて言ったんだ?」

「ミャウ! ミャウミャウ!」

「……え? 僕と一緒に行きたい、だって!?」

 

 どうやら、イワークはナオトにゲットされた以上彼のポケモンとして共に行きたいと言っているらしい。

 

「本当に、そうなのか?」

 

 信じられないとばかりに確認するナオトに、イワークはその大きな頭をゆっくりと動かして頷いた。

 

「ずっとこの島に暮らしていたから、どうせ離れるなら外の世界を見て回りたい。そんなところだろうな」

 

 クリスタルのイワークの心情を察して、タケシが感慨深そうに頷く。

 このイワークは元々島を離れたいという気持ちがあったのだ。しかし、ずっと住み続けてきた場所を離れるということはそれなりの決断力と切っ掛けがいる。タケシも大勢の弟妹達を養うために、ずっと故郷のニビシティを離れられないでいた。だから、イワークの気持ちが良く分かるのだろう。

 

「僕からも頼むよ。君達なら、安心してクリスタルのイワークを任せられる」

「お兄ちゃん、お願い! イワークを連れてってあげて!」

 

 イサオとマサミがそう懇願する。

 

「……分かった。よろしくな、イワーク」

「グオオッ」

 

 ナオトはクリスタルのイワークの申し出を受け入れ、モンスターボールへと戻した。

 

「良かったじゃない、ナオト!」

「……そうだな」

 

 自分のことのように嬉しそうにするフルーラ。こう言ってはなんだが、相当珍しいポケモンをゲットできたことは間違いない。どんなトレーナーだって諸手を挙げて大喜びするだろう。

 だが、ナオトはあまり嬉しそうにしていない。加えて、未だ服を着替えておらず水着姿のままの自分にも目が行っていなかった。そのことに若干の不満を覚えたフルーラはそんな彼にズイッと近づく。

 

「何よ。もっと嬉しそうにしなさいってば」

「ちょっ、お前はさっさと服を着ろバカ!」

 

 肌と肌が触れ合いそうになる寸前で慌てて飛び退くナオト。その様子を見てフルーラは気分良さげにクスクス笑った。

 だから気づかなかったのだろう。からかうのに夢中で。ナオトの表情が不安の色を滲ませていたことに。傍らにいるアイが気遣わしげに彼を見ていることにも。

 

(……ナオト?)

 

 ナオトの表情が優れないことに気づいたのは、アイを除けばタケシだけであった。

 

 




前回急にお気に入りの数が増えてビックリ。
とりあえず、みんなAmazonプライムでアニポケ全話見よう!
ポリゴンは見れないけどね!

■クリスタルのイワーク
リージョンフォームがない時代に登場したイワークの亜種。
タイプは特に明言されているわけではないが、この作品ではこおり・じめんタイプという設定。マンムーと同じ。
特性はちょすい。なのでみずタイプの攻撃は効かない。
通常のイワークよりぼうぎょの種族値が低いが、その代わりすばやさが高め。

■ガラの悪い男
ただのやられ役。
アニメに出てきた悪役モブの誰かから拾ってくれば良かったかも。




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