ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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11. ピンクのポケモンじま ① ▼

 無事にクリスタルのイワークを助け──もといゲットしてポンカン島を出立したナオト達。

 一行は次のジムがある島を目指して大海原の上を進んでいた。

 

「いわタイプのポケモン全般に言えることだけど、イワークは定期的に身体を磨いてやらなきゃならないんだ。放っとくと、どうしても荒れが目立つようになるからな。多分、クリスタルのイワークも同じだろう」

「なるほど。分かった」

 

 フルーラが船を操縦する中、ナオトはタケシからイワークのことについて色々と教わっていた。

 ゲットしたクリスタルのイワークを育てるにあたって、いわタイプ──特にイワークの専門家とも言えるニビジムの元ジムリーダーに相談するのは理にかなっている。最も、あまり人付き合いが得意と言えないナオトが相談したそうにしながらも中々話を切り出せないでいたので、それを察したタケシが自分から話題を出してくれたのだが。

 

 ただ、クリスタルのイワークはいわタイプのポケモンではない。調べてみると、こおり・じめんタイプのポケモンであった。他にこおり・じめんタイプと言えば、今発見されている中ではいのぶたポケモンであるウリムーとその進化系のみ。希少種であると同時に、タイプ的にも貴重な存在ということだ。

 ちなみに、みずタイプの攻撃が効かなかったのは特性が"ちょすい"だったからだ。ちょすいはみずタイプの攻撃を無効にすると同時に傷を癒やすことができるのである。

 

「タイプが違うから、十分なアドバイスができなくてすまないな」

「いや、そんなことないよ。磨く時はどうしたらいいんだ?」

「柔らかい砂を研磨剤にしてブラシで磨くんだ。丁寧にやってやれば、その分イワークも喜んでくれるんだよ」

 

 それでも、さすがはイワークの専門家に加えて世界一のブリーダーを目指す男。ポケモンのことには詳しいナオトにも勉強になる知識を持っている。真剣にタケシの話を聞きながらメモを取るナオト。熱心にイワークのことを教わっている彼を見て、傍の手すりの上に座っている少女の姿のアイは嬉しそうに微笑んでいる。

 

 一方、フルーラはそんなナオト達の会話を船のハンドルに顎を乗せながらつまらなそうに聞いていた。

 その手には青く煌めく石。それを手の平で弄んで手持ち無沙汰な気持ちを誤魔化している。

 

 石の名はみずのいし。

 ポンタン島のマサミが、クリスタルのイワークを助けてくれたお礼にとくれた物だ。ナオトが言うには、この石を使えばイーブイはみずタイプのポケモンに進化するらしいが……

 

「ねぇイーブイ。あんたこれ使ってみ──」

「ブッ」

 

 傍らで毛繕いをしていたイーブイに聞いてみるも、即答でそっぽを向かれてしまった。

 

「ちょっとくらい考えてもいいじゃない! はぁ……もういいわ、あんたボールに戻ってなさい」

 

 溜息を吐いてイーブイをモンスターボールに戻す。イーブイのマイペースな性格からして進化を拒否することはある程度予想してはいたが、それでもポケモン初心者であるフルーラが進化に期待を抱いてしまうのは致し方ない。

 

「……あっ」

 

 そこで、フルーラは船の前方に何かを見つけて声を漏らす。その声に反応して振り返るナオトとタケシ。

 

「どうした?」

「見て。島が見えてきたわ」

 

 フルーラに促されて、指を差された方向を見やるナオト達。確かに水平線から島が浮かび上がってきているのが確認できた。

 

「そういえば、そろそろお昼時だな。せっかくだし、あの島でランチにしようか」

「賛成! もうお腹ペコペコだもの。ナオトとアイちゃんもいいわよね?」

「ああ。別に構わないよ」「ミャウ!」

 

 タケシの提案にフルーラ達は頷き、一行はその島に船首を向けるのであった。

 

 

 

 

「……これは」

 

 船の上から海を見下ろして眉を八の字にさせるタケシ。ナオトとアイも困ったように顔を曇らせている。

 島へ向けて船を進めたはいいものの、途中障害にぶち当たって行き詰まってしまった。幾つもの激しい渦巻きが島を囲んでいたのだ。これ以上近づけば、渦に巻き込まれて船諸共海に引きずり込まれてしまうだろう。

 

「……残念だけど、あの島でランチは諦めるしかなさそうだな」

「まあ、仕方ないよ」「ミャウ……」

「何言ってんのよ、あんた達」

 

 島で落ち着いてのランチは諦めるかという話になってきたところに、フルーラの何をバカなと言ったような口振り。ナオト達は思わず顔を見合わせて操縦席を振り返った。

 

「何って……見れば分かるだろ? こんな渦が囲ってる中を船が通れるわけ──」

「アーシア島の子なら、これくらいの渦なんてことないわ。さ、行くわよ。しっかり掴まってて!」

 

 そう言うや否やフルーラはアクセルを全開にして船の速度を上げた。ナオト達が慌てて手すりに掴まる中、船体は渦と渦の間の僅かな隙間に滑り込んでいく。

 一見上手く通り抜けられそうに見えた。だがしかし、やはり猛烈な渦の流れに船のハンドルが取られ、引きずり込まれそうになってしまう。

 

「おい! やばいぞ!」

「フルーラ、諦めよう! 船を戻すんだ!」

 

 傾いた船体の上で必死に手すりに掴まりながらそう訴えるナオトとタケシ。アイはナオトの足にしがみついている。

 

「冗談。ここまで来たら後戻りなんてできないわ」

 

 阿鼻叫喚の中、フルーラは不敵な顔で唇を舐める。そして、おもむろに操縦席の下に備え付けられた取っ手を引っ張った。

 すると、なんとギミックが作動して帆が開いたではないか。このモーターボートは帆船にもなることができる仕掛けになっていたのだ。

 

「は……?」

「ミャ~……」

 

 ナオト達が呆然としているのを横目に、フルーラは帆を操作する取っ手を器用に扱い、海から島の方へ吹く海風を利用して見事に船を渦から脱出させた。

 そのまま流れるような動作で浜辺に船をビーチングさせ、用済みとなった帆を仕舞う。

 

「……ふぅ。ま、ざっとこんなもんね」

 

 取っ手を離し、手の平を合わせてパンパンと叩くフルーラ。

 

「このバカ! 失敗してたらどうするんだよ!」

 

 案の定、顔面蒼白のナオトが文句を捲し立て始めた。しかし、若干腰が抜けて手すりを支えにしている状態なので迫力はない。

 

「失敗しなかったんだからいいじゃないの」

「そういう問題じゃないだろ! 大体ランチなんて船の上でもできるんだから、無理にこの島に来なくたって良かったじゃないか!」

「この程度の渦は時期によってはアーシア島にだって出来るわ! 渦越えができなきゃ船の運転はしちゃいけないことになってるくらいなんだから!」

「だからって──」

「まあまあ、二人共」「ミャウミャウ」

 

 本格的な喧嘩に発展する前にタケシとアイが間に入って仲裁する。二人はまだ文句ありげだが、とりあえずは落ち着いてくれたようだ。

 とにもかくにも、一行は渦囲む島に上陸することに成功したのだった。

 

「……で、上陸したはいいものの」

「うん。これは見事な断崖絶壁だな」

 

 ところが、この島は浜辺のすぐ目の前がタケシの言う通り反り立つ絶壁となっていた。ギリギリまで下がって仰ぎ見れば、自然豊かな緑が僅かに顔を覗かせているのが見て取れる。

 

「あの上で海を眺めながらランチできれば、最高だろうな」

「そうね。どこかに登れそうなところがあればいいんだけど……」

「ミャウ、ミャウミャ」

「うん? ……おい、あれ」

 

 フルーラ達が蔦でも降りてないか辺りを見回していると、ナオトがアイが指し示した先を見て彼女らに声をかけた。そちらの方向へ目をやると、そこにはフルーラ達の船とは別の船が停泊していたのである。砂浜には足跡が残っており、それが続く先の崖には縄梯子。島に自分達以外の者がいる証拠だ。

 

 その縄梯子を使って崖を登り、ナオト達は島の内部に入り込む。縄梯子を登った先の崖の上は、自然豊かな平原と森が広がっていた。遠くには山も見え、あちこちの木々にはピンク色の木の実が沢山生っている。

 振り返れば、見渡す限りの海。崖の上から眺めるそれはまさに絶景で、海風と共に香る潮の匂いが気持ちを落ち着かせてくれた。

 

「できれば、さっきの船の持ち主と会っておきたいけど……とりあえずはランチにするか」

「ええ! ……って、そういえばランチって言っても私達お弁当なんて買ってないわよ」

 

 そう。ポンカン島で買ったのは水と果物ぐらい。島と島の間隔がそこまで離れていなかったおかげで、今の今までナオト達はまともな食事をする際はポケモンセンターやレストランなどで済ませていたのだ。

 

「大丈夫。必要な食材は俺が買っておいたから」

 

 どこに仕舞っていたのか、タケシはおもむろに取り出したピクニックテーブルを組み立て、鼻歌を歌いながら食事の準備をし始めた。「ミャウ!」と鳴いてアイもそれを手伝う。

 

「そっか。タケシくんって料理できるのよね。ウチキド博士が言ってたわ」

「ぐふっ!? ウ、ウチキド博士……」

「あああっ、ごめんごめん! ほら、料理に集中して忘れましょ!」

 

 不用意な発言でダメージを受けたタケシを慌ててフルーラは励ます。

 弱々しく頷いたタケシの目からは大粒の涙が流れている。剥いているのは玉葱ではなくジャガイモだが。

 

 その時、ナオトのベルトホルダーに取りつけられたモンスターボールの内の一つが勝手にポンと開き、中からゲンガーが出てきた。

 

「ゲンゲラ!」

「えっと、タケシ。ゲンガーも何か作りたいって言ってるみたいなんだけど……」

「そ、そういえば、ナオトのゲンガーは、スイーツ作りが好きなんだよな。じゃあ、デザートを頼むよ。道具は、ぐすっ、俺のを好きに使っていいから」

「ゲン!」

 

 タケシの了承を得て、ゲンガーは嬉しそうに愛用のエプロンを着てテキパキと準備を始めた。

 オーブンや冷蔵庫もない場所でどうやってスイーツを作るのだろうかと思うだろうが、大体はポケモンの技で代用できるのである。

 

「し、しばらくかかるだろうから、出来上がるまで、て、適当にくつろいでてくれ……ズズッ」

「分かった」

「う、うん。ごめんね? ホントに」

 

 言われた通り、フルーラはタケシが用意したピクニックテーブルの椅子に座る。頬杖を突いてふと横を見れば、隣でナオトが布巾を使ってGSボールの手入れを始めていた。

 

(そういえば、サトシって子に渡すように言われてるんだっけ)

 

 フルーラは完全にGSボールの存在を忘れていた。致し方ない。妙に影の薄いボールだから。

 

「ねえ、ナオト」

「何」

「私、みずのいしをもらったはいいけど、イーブイの進化系のことよく知らないじゃない? そもそもポケモンの知識もあんまりないままだし。だから色々教えてよ」

 

 そう顔を近づけて強請るフルーラに、ナオトは少し顔を赤らめて腰を引く。条件反射的にポンカン島での水着姿を思い出してしまったのだ。フルーラはフルーラでまさか未だにナオトが水着のことを意識してるとは思っておらず、その態度に気づかないでいる。

 

「……ぼ、僕より、タケシに教えてもらった方がいいよ」

「タケシ君は料理中じゃないの」

 

 ごもっとも。溜息を吐いたナオトは、「それじゃあ」とポケットから何かを取り出してフルーラに手渡した。以前も目にした、カロス地方のポケモン図鑑だ。受け取ったその図鑑をフルーラはしげしげと眺める。

 

「前から思ってたけど、この図鑑って妙に次世代的よね。画面とか透けてるじゃない」

「気のせいだろ。とにかく、それ見れば最低限の知識は得られるから」

 

 そう言って、自分の作業に戻るナオト。GSボールを仕舞って、今度はコイキングとクリスタルのイワークが入ったモンスターボールを手入れし始めた。

 放り出されたフルーラは整った眉を上げていかにも不満げ。しかし、図鑑自体にも一応興味はあったので、とりあえずは楽しそうにお尻を揺らしながらスイーツを作っているゲンガーをスキャンしてみる。

 

『ゲンガー。シャドーポケモン。ゴースの最終進化系。突然寒気がするのは、ゲンガーが周りの熱を奪っているから』

「別にナオトのゲンガーは近くにいても寒気なんかしないけど」

「ゲンガー自身が寒気を出さないようにコントロールできるんだよ」

 

 ふ~んと相槌を打つフルーラ。

 なんだかんだ補足してくれる彼に少し気を良くしつつ、今度はタケシを手伝っているアイに図鑑を向けてスキャンしてみる。

 

『データなし。この世界には、まだ知られざるポケモンがいる』

「え?」

 

 しかし、どういうわけかゾロアの情報ではなくエラー的なメッセージが出てしまった。もう一度試みるも、やはり結果は同じ。

 

「ナオト、この図鑑壊れてるわよ。クルーズ船から放り出された時に海水被っちゃったせいじゃない?」

「壊れてなんかないさ。その図鑑はインド象が踏んでも大丈夫なほど耐久性バツグンだし、水に浸かっても壊れないんだぞ」

「インド象って何よ。でもほら、アイちゃんをスキャンしてもデータなしって出るわよ」

 

 ナオトはフルーラの話を聞いて、「ああ」と合点が行ったように頷く。

 

「なんでか知らないけど、アイだけは正常にスキャンできないんだよな。色違いなのが関係してるのかも」

「じゃあ、クリスタルのイワークもデータなしって出るのかしら?」

「いや、普通にイワークのデータが出たよ」

「……やっぱ壊れてんじゃない?」

 

 しつこく言っても、頑なに「壊れてない」と認めようとしないナオトに、フルーラは溜息を吐く。

 そこでナオトが作業の手を止めて顔を上げ、タケシの方を見た。相変わらず半ベソをかいているのをアイに慰められている。

 

「なんでタケシ君の方見てるのよ」

「……いや、料理ができる人がいると頼りになるなと思って」

「あら、ウチに泊まってた時私も作ってあげたじゃない」

「あのな、果物切るだけじゃ料理って言えないだろ」

 

 そう返すと、いい加減フルーラがすぐ隣を座っている状況に我慢できなくなったナオトは手入れしていたモンスターボールをテーブルに置き、腰を上げた。

 

「ちょっと、どこ行くの?」

「タケシを手伝うんだよ。アイ達が手伝ってるのに僕だけ何もしないのもどうかと思うし」

 

 そのままナオトはタケシの元へ行き、彼を手伝いながらようやく解放されたとばかりにイワークの話をし始める。

 

(……何よ、もう)

 

 暗に避けられて膨れっ面のフルーラ。テーブルにだらりと脱力したように突っ伏す。

 頰を擦りつけたままふと振り向けば、平原の先に鬱蒼と広がる森が目に入った。いかにもポケモンが住んでいそうな場所だ。

 

 そうだわ、と閃く。自力でポケモンをゲットしてきて、ナオトのヤツを見返してやろう。きっと驚くに違いない。

 思い立ったらすぐ行動のフルーラはポシェットを肩にかけ、ナオト達を置いて一人で森の方へと走っていってしまったのだった。

 

 

 

「…………あれ? ナオト、フルーラはどこに行ったんだ?」

「え? いや、知らないけど」

「ミャウミャー!」

 

 フルーラが森の中に入ってから少しして、彼女がいなくなっていることにようやく気付いたナオト達。

 

「話に入り込めなくて、退屈させてしまったのかもしれないな……」

 

 タケシが申し訳なさそうにしている横で、アイが元のゾロアの姿に戻って辺りの匂いを嗅ぎ始める。

 

「……ミャッ、ミャウ!」

「アイ、こっちか? ……あのバカ、一人で森の中に入ったのか」

 

 アイの指し示した方角を見やり、その先に生い茂る森を認めて頭を抱えるナオト。

 タケシもそれを確認すると、ふむと顎に手を添えて少しばかり考え、口を開く。

 

「ナオト、フルーラを追いかけに行ってくれ」

「え、僕が?」

「ああ。お前じゃなきゃ駄目だ。俺達はその間にランチの準備を済ませておくから」

「ミャウ!」「ゲンガァ!」

 

 と、ナオトに言い渡してスープを煮込んでいる鍋に向かうタケシ。なぜかアイとゲンガーも笑顔でいってらっしゃいと手を振っている。行かなかったら強引にでも放り出されそうだ。

 

「……ったく、分かったよ」

 

 ナオトはしょうがないとばかりに自分のバッグを拾い上げ、フルーラを追いかけるために森へと入っていった。

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 一方、視界を遮る草木を掻き分けて森の中を進むフルーラ。

 

 奥へ入っていく内に、森はどんどん深くなっていった。陽の光も少ししか差し込んでこない。普通の女の子というか子供であれば怖気づいて引き返すかするところだが、気の強いフルーラは物怖じしない。ズンズン森の奥へと進んでいく。

 

 ──ガサッ

 

「っ! 早速来たわね」

 

 草むらの動く音がフルーラの耳に届く。

 音のした方を振り向き、フルーラはポシェットから小さい状態のモンスターボールを取り出して身構えた。もちろん、ナオトから拝借した物ではなく自分で買った物だ。

 

「ナゾッ」

「あ、あれ?」

 

 草むらから出てきたのは、ナゾノクサであった。既にダイダイ島で出会ったことがあるポケモンだ。

 だが、それにも関わらずフルーラは驚いた。そのナゾノクサは記憶にある藍色ではなく、ピンク色の身体をしていたからだ。

 

「えっと……そうだ!」

 

 念のため、フルーラはナオトから借りたままのポケモン図鑑をポケットから取り出して確認してみる。やはり、図鑑に映し出されたナゾノクサの身体の色は藍色をしている。

 

「これって、もしかして色違いってこと?」

 

 無意識の内に高揚するフルーラ。何はともあれ、珍しいポケモンには違いない。ゲットすればナオトだって絶対に驚くはず。

 早速ゲットしなくては。ゲットするには……そう、まずバトルだ!

 

「出てきて! イーブイ!」

 

 宙に投げられたモンスターボールから開き、薄暗い森の中を光が照らす。それが収まると共に、柔らかい土の上にイーブイが降り立った。

 

「イーブイ、たいあたりよ!」

「……ブァ~」

「こらッ! 欠伸してんじゃないの! た・い・あ・た・り!」

 

 大声で指示を飛ばすフルーラにイーブイはやれやれとばかりに首を振って駆け出す。ナゾノクサはオロオロしていて避ける様子はない。

 

「ブイッ!」

「ナッゾォ!?」

 

 イーブイのたいあたりを受けたナゾノクサはボヨンボヨンと跳ねて地面を転がっていく。

 

「いいわよイーブイ! お願い、モンスターボール!」

 

 モタモタして逃げられてたら困る。フルーラは間髪入れず目をグルグル巻きにさせているナゾノクサに向けてモンスターボールを投げようとする。

 ──が。

 

「えッ!?」

 

 横から飛んできた黒いチューリップがフルーラの握っているボールを掠め取ったのだ。

 

「な、何!?」

「な、何!? と聞かれたら──」

 

 フルーラの漏らした言葉を繰り返す声がどこかから聞こえてくる。なんだか無駄に仰々しいBGMが流れてきそうな雰囲気と共に、目線の先の木の陰から何者かが現れた。

 

「普通は絶対答えない。それがホントのロケット団。でも──」

「またあんたね! ドミノ!」

 

 口上を遮られて思わずズッコケてしまうドミノ。

 

「ちょっと! 台詞を中断させるんじゃないわよジャリガール!」

「何よ、あんたそんなキャラじゃなかったでしょうが」

「うっさいわね! 貴方達ジャリ共に散々邪魔されてこっちはエリートから下っ端に格下げされたんだから! 無理やりテンション上げて行かないとやってられないのよ!」

「そ、そう。大変なのねあんたも……」

 

「ナ、ナゾ~」

 

 そんな話を呑気にしている間に、ナゾノクサは意識を取り戻して草むらの奥へ逃げていってしまった。

 

「ブイッ!」

「え? あ、そうだった! ピンクのナゾノクサ!」

 

 イーブイの鳴き声でようやくナゾノクサのことを思い出したフルーラが慌てて辺りを見回すが、時既に遅し。

 

「ナゾノクサなら、とっくの昔に逃げてったわよ」

「ええ!?」

 

 告げられた事実にフルーラがガーンッと落胆の顔を隠せず、右手に握ったモンスターボールを取り落とす。

 

「……もう、あんたが邪魔するからよ!」

「あら、人のせいにしないで欲しいわね。貴方がトレーナーとして未熟だっただけでしょう?」

「そっちだってポケモン初心者のくせに!」

 

 言い返すフルーラであるが、対するドミノは不敵な笑みを漏らし、自慢げな目を彼女に向けた。

 

「ウフフ、貴方みたいなマセジャリと違って、私はもうこの島で新たなポケモンをゲットしたのよ。それも、色違いのヤツをね」

「嘘っ!?」

「本当よ。今証拠を見せてあげるわ。出てきなさい!」

 

 ドミノが懐から取り出したモンスターボールを放り投げる。木々の隙間から覗く陽の光を僅かに反射しながら開かれるボール。

 中から出てきたのは、ピンク色の身体をした──まるでコイキングのようにボケッとした表情のポケモンであった。地面に降り立っても、口は半開きのまま。ピクリとも動こうとしない。

 

「見なさい! 全く素晴らしいわね、この島は。ピンク色をした珍しいポケモンがわんさかいるんだもの。このまま島中のポケモンをゲットしてサカキ様に献上すれば、またエリートに返り咲くこと間違いなしだわ!」

 

 心底愉快そうに笑い声を響かせるドミノ。

 

「……何か、どっかで見たことある気がするポケモンね。アーシア島に似たのがいたような……」

 

 フルーラはそう呟きながら、冷静に図鑑で確認する。

 

『ヤドン。まぬけポケモン。いつもぼ~っとしていて、何を考えているのか分からない。尻尾で餌を取るのが得意』

 

 表示されたのは、目の前のヤドンと同じピンク色の身体をしたポケモン。色々と察したフルーラは思わず吹き出した。

 

「ぷっ、あは、あはは!」

「な、何がおかしいのよジャリガール!」

「あ、あんたね。そのポケモンは元からピンク色なのよ? しかも……ま、まぬけポケモンですって。ひどいけど、あんたにお似合いじゃない! あははは!」

 

 お腹を抱えて大笑いするフルーラ。

 ドミノが持っていたポケモンを調べる端末は覚えている技の情報を表示する機能しかなかったのだ。

 

「っ! ……この、ヤドン! みずでっぽうよ!」

 

 癪に障ったドミノは眉を吊り上げ、ヤドンにみずでっぽうを命令する。

 

 

「………………ヤド?」

 

 

 ──しかし、ヤドンはぼ~っとしたまま間抜け面を晒すだけ。数秒経ってからようやく首を傾げたのみで、技を放つ様子は一向にない。

 

「~~っ!」「イブフフッ」

「ちょっと! みずでっぽうって言ってんでしょ!」

 

 手で口を塞いで笑うフルーラ。イーブイさえ笑いを堪えられないでいる。

 ドミノはもう一度みずでっぽうを命じたが、ヤドンは何を考えているのかよく分からない顔でやはり宙をぼけ~っと見続けている。

 

「この……さっさと攻撃しろっつってんだろうがッ!!」

 

 堪忍袋の尾が切れたドミノがヤドンの尻尾をドスッと思いっきり踏みつけた。

 

「……ヤッ」

 

 数秒遅れて、ついにヤドンが口からみずでっぽうを吐き出す。吐き出されたみずでっぽうは明後日の方向、草むらの方へと飛んでいく。

 

 

「…………グルルル」

 

 

 何やってんだかとフルーラが笑いを堪えていると、草むらの奥から唸るような低い鳴き声が聞こえてきた。

 その声の主は、草むらをガサガサと掻き分けてその体高1メートルほどの巨体が姿を現す。鼻先に鋭い角。岩のようにゴツゴツとした身体。

 

「あ、あれは……」

『サイホーン。とげとげポケモン。とにかく頑丈で攻撃力、防御力共に優れている』

 

 フルーラが図鑑で現れたポケモンを確認する。だが、図鑑の画像とはやはり色が違う。このサイホーンもピンク色の身体をしていた。

 

 ズサーッ、ズサーッ

 

 唸り声を上げながら前足で地面を引っ掻くサイホーン。いかにも怒っていますと言わんばかりにその顔を歪めている。

 よく見れば、背中の辺りがぐっしょりと濡れている。恐らく、先程のヤドンのみずでっぽうが当たってしまったのだろう。

 

「これは……」「ブ、ブイ」

「やな予感……」

 

 この後の展開を予想して、後ずさるフルーラとドミノ。

 

 

「グルルオォォーー!!」

「ひゃああぁーーー!!」

 

 

 案の定、熱り立ったサイホーンがフルーラ達に向かってとっしんを仕掛けてきた。

 脱兎の如く逃げ出すドミノ。フルーラは慌ててイーブイを抱え、少し遅れる形でドミノと同じ方向に逃げ始める。その間に、ドミノのヤドンはサイホーンにふっ飛ばされて星になった。

 

「ちょっとドミノ! あんたあっちに逃げなさいってば!」

「ジャリガールこそあっち行けってのよ!」

 

 並んで走るフルーラとドミノ。そんな不毛な争いを繰り広げている内に、サイホーンはドスドスと地面を揺らして砂を巻き上げながら二人の背後へどんどん迫ってくる。

 

「あいつ、どこまで奥に……って、やっと見つけた」

 

 そこへ、二人が走っている方向の先にある横の草むらから、フルーラを探しに来たナオトが現れた。状況を分かっていないナオトは仲良く並んで走っているフルーラとドミノを見て、驚きと困惑の混じった目を彼女達に向ける。

 

「おい、お前らいつの間に仲良くなったんだ?」

「「んなわけないでしょうがッ!!」」

 

 呑気に聞くナオトへ同時にツッコむ二人。やっぱり仲良いじゃないかとナオトはジト目を返した。

 

「サイホーンに追っかけられてるのよ!」

「サイホーン?」

 

 必死の形相のフルーラの肩越しに向こうを見やるナオト。ピンク色のサイホーンが迫ってきているのを見て、感嘆の声を上げる。

 

「色違いのサイホーンか! でも、発見されてるヤツよりも少し色が薄い気が……」

「もう、このポケモンオタク! 悠長に観察してんじゃないの! イーブイ、あんたは私の肩に乗って!」

「ブッ」

 

 ナオトの首根っこを引っ掴み、イーブイを肩に乗せて再び走り出すフルーラ。ドミノはとうの昔に彼女らを通り過ぎて先に逃げてしまっている。

 そうしてサイホーンとの追いかけっこを続けていると、視線の先に吊り橋が架かった谷が見えてきた。木製の吊り橋で、遠目から見ても経年劣化が激しい。

 

「さすがにあの橋を渡っては来れないでしょ! ナオト!」

「分かってる!」

 

 フルーラとナオトは迫りくるサイホーンから逃れるため、橋を渡り始める。縄が軋んで、恐怖心を煽る嫌な音が彼女らの耳に届く。

 が、劣化した見た目とは裏腹にしっかりした作りをしているようで、体重の軽いフルーラ達が乗って崩落する様子はない。これなら大丈夫そうだと、二人の顔に余裕の色が浮かぶ。

 

 しかし、橋を途中まで渡ったところで気付く。橋の向こう側に、先に逃げていったドミノが立っていたのだ。

 

「ハァイ♪」

 

 ドミノはニッコリと笑顔を浮かべてナオト達に手を振っている。フルーラ達の目線はそちらではなく、もう一方の手に注がれる。

 その手に握られているの、ナイフ。その刃先が、この橋の命綱とも言えるロープに当てられていた。

 

「あいつ……!」

「ナオト! 戻りましょう!」

 

 慌てて二人は回れ右して来た道を戻り始める。

 

「残念。もう遅いわ」

 

 しかし、無情にもナイフの一振りでロープは切られ、片方の支えを失った橋が一瞬にして立っていられないほど大きく傾き始める。

 

 必死に残ったもう片方のロープにしがみつく二人。ドミノがそのロープも切ろうとする様子はない。必死な様子を見て楽しんでいるようだ。

 ロープにぶら下がった状態で恐る恐る下を見下ろせば、谷底に結構な勢いで川が流れているのが見えた。

 

「……まずいな」

「でも、下が川で助かったわ」

 

 が、ナオトは駄目だと言わんばかりに首を横に振る。フルーラはロープにしがみつきながら首を傾げた。

 

「どうして? この高さなら落ちても大丈夫だってば」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「じゃあ何よ?」

 

 聞かれて、ナオトは視線を泳がせる。そして、もう隠せないとばかりに諦めの溜息を吐いて、答えた。

 

 

 

「…………僕、泳げないんだ」

 

 

 

 衝撃の事実に、フルーラは開いた口が塞がらない。

 

「え? え? ど、どういうことよ!? あんた、ナツカンジムで海上レースしてたじゃない!」

「ジム戦でそんなことするなんて知らなかったし、あそこまで来てやめるわけにもいかないだろ!?」

「そうだけど……あんたよくそれで無事にアーシア島まで流れ着いたわね!?」

「それについては全くもって同意見だよ!」

 

 フルーラがもっともなツッコミを入れ、ナオトがヤケクソ気味に返す。

 ロープにぶら下がりながら足をバタバタさせて口喧嘩をしている様はなんとも滑稽であった。フルーラの肩に乗っているイーブイはもはや考えることをやめた顔をしている。

 

「グルォォッ!」

「「あっ」」

 

 そこへ、追いついたサイホーンが勢い余ってもう片方のロープが繋げられている柱をその角で倒してしまう。

 当然、支えを失ったロープは柱ごと谷底に落下していく。ロープにしがみついていたナオト達ごと。

 

「うわああぁぁ!」「ナ、ナオト!」

 

 落ちながらナオトに手を伸ばそうとするフルーラ。しかし、その手が彼の手を握ることは叶わず、ドボンッ! と水柱を上げて川に落ちてしまう。

 

「あっはっは! ザマァみなさい!」

 

 ナオト達が川を流されていく様子を見て高笑いするドミノ。

 

「さぁてと……邪魔者はいなくなったし、この島のポケモンを根こそぎ頂いていこうかしらね」

 

 そう意気込んで橋を失った谷から背を向けようとする。

 

 

「────ャァァアア~~~……ドッ」

「ごッ!!?」

 

 

 ──が、そんなドミノの後頭部に先程サイホーンにふっ飛ばされたヤドンが落下、直撃した。

 バランスを崩したドミノはそのままふらりと前のめりになり、足を踏み外す。

 

「なぁんで! こうなんのよおおぉぉ…………」

 

 ナオトとフルーラに続く形で、ドミノもまた谷底に流れる川へと落ちる。

 それは、エリートから失脚した彼女の行く末を体現させるようであった。

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 昼食の支度をしながら、ナオト達の帰りを待っているタケシとアイ達。

 

「二人共、遅いな。どこまで行ったんだろうか」

「ミャウ……」「ゲン……」

 

 スープとデザートも出来上がって何時でもランチが食べられる状態だが、肝心のナオト達は一向に帰ってくる様子がない。アイ達も心配そうな顔つきで森の方を眺めている。

 肝心のナオトはコイキングとクリスタルのイワークが入ったモンスターボールをテーブルに置いたままにしているのだ。一応他にも後二匹ポケモンを連れているはずだが、それでも心配なことには変わりない。

 

「……よし。俺達もちょっと探しに行ってみるか」

「ミャ!」「ゲンガァ!」

 

 二人を探しに、タケシが椅子から腰を上げようとする。

 

 ──ブロロロロッ!

 

 その時、タケシの耳に車のエンジン音が届く。

 島の奥、ナオトがフルーラを追いかけていった森とは違う方向から、猛烈な勢いでジープが走ってくるのが見える。それは急ブレーキの甲高い音を立てながら華麗にドリフトを決め、土煙を巻き上げながらタケシ達の前で急停止した。

 運転していた人物が車から降りてくる。水色の制服を着た人物──ポケモンポリスのジュンサーだった。

 

「おおおッ! ジュンサーさん! こんなところでお会いできるなんて、何たる幸運! いや、これは運命に違いない! どうでしょう、この青く澄み切った海を見渡しながら自分と優雅にランチなど……」

「ミャア! ミャウミャ!」

 

 ジュンサーと分かった途端に歓喜の声を上げたタケシは、彼女の手を取って気取った口調でランチに誘った。アイがそんなタケシの服の裾を引っ張って、そんなことしてる場合じゃないでしょ! と怒っている。

 

 ──ガチャッ

 「え?」

 

 が、次の瞬間、彼女の手を握っていたタケシの両手に手錠が掛けられた。

 

「貴方を、立ち入り禁止区域への不法侵入の罪で逮捕します!」

「……えええええええぇぇぇーーーッ!!?」

 

 

 




次のジムへ向かうのに大体二つの島での話を書く形になっています。

後編は明日投稿する予定です。
本当は来週投稿するつもりだったんですけど、まあお盆スペシャルということで。

■タケシ
イワークの身体を定期的に磨く話については
無印編第193話の「タケシたおれる! あぶないキャンプ!!」から。
サトシ達が風邪を引いて倒れたタケシの代わりにイワーク達の世話をしようとしてかなり苦労する。タケシのありがたさとすごさが分かる回なのでオススメ。

■ナオトのゲンガー
ゴーストの頃からナオトの親代わりをしていた。
エプロン着てお尻をフリフリしながら料理しているゲンガーを想像してみて。
超かわいい。

■アイ(ゾロア)
どういうわけかポケモン図鑑でスキャンできない。
あくタイプにも関わらずエスパータイプの技が得意なのも謎に拍車をかけている。

■ピンクのサイホーン
なぜかピンク色の体をしているサイホーン。
というか、この島のポケモンはみんなピンク色をしている。
どうしてピンク色なのかは次の話で。

■ドミノ
ボス直々の指名による任務を失敗し、以降目立った成果も挙げられなかったのでエリートから下っ端に降格させられた。
汚名返上に必死になるあまりテンションがどこかの三人組のようなギャグ調になりつつある。アイツラも初登場時はクールな感じだったしね。
下っ端になったことで兵器が提供されなくなったので、今回の話で投げた黒いチューリップはマジックで黒く塗っただけのただのチューリップ。



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