ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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13. ちょうせん! ネーブルジム! ① ▼

 その後、ピンカン島でジュンサーにこってり絞られたナオトとフルーラ。

 

 ジラルダンのことを伝えたところ、どうも報奨金をかけて密猟行為を扇動している輩がいることは既にポケモンポリス側も把握していたらしい。

 それがナオト達が会ったジラルダンという自称コレクターで間違いないだろうと判断したジュンサーは、本部に連絡して彼について調べてくれることになった(ちなみにドミノについてだが、ナオト達は彼女のことをすっかり忘れていた)。

 

 さて、ジュンサーに見送られて海を進むナオト達は、船の上でピンカン島での出来事を改めてタケシやアイに話していた。

 

「それにしてもポケモンをコレクションにしようだなんて、ひどい奴がいるもんだな。人間じゃない」

「ちょっと言い過ぎな気が……」「ミャウ……」

 

 憤るタケシの言葉に苦笑いするフルーラ。その傍らで、少女の姿のアイが悲しげな表情を浮かべる。

 むしろ、人間だからこそあのような所業ができるのかもしれない。ポケモンが人間をコレクションしようなどと考えはしないのだから。

 

「でも、ナオト達のおかげでなんとかなったんだよな?」

「ブースターと進化したシャワーズが頑張ってくれたおかげだよ。後、バタフリー達も」

「バタフリー?」

「ええ。ピンクの子と、普通の色をした子。そういえば、普通の色をした子は黄色いスカーフを首に巻いてたわね」

 

 "黄色いスカーフ"と聞いて、タケシがハッとした表情になる。

 

「元々誰かのポケモンだったのかもしれないな」

「そうかもね。って、どうしたの? タケシ君」

「え? ああ! いや、なんでもないさ」

 

 少し様子が変わったタケシにフルーラが首を傾げて尋ねたが、タケシはそうかぶりを振って答えた。そしてナオト達から視線を外し、果てしなく広がる海を眺め始める。

 

「……そうか。元気でやってるんだな」

 

 笑みと共に小さく呟かれたその言葉は、さざ波の音に掻き消されてナオト達の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 さて、それからしばらくして、今ナオト達がいるのはネーブル島。ナオトがオレンジリーグに挑戦していると聞いて、ジュンサーがこの島にジムがあることを教えてくれたのだ。

 ネーブル島は島の中心に雲を突き抜けるほど高い急な円錐形の岩山が聳えており、標高の高い場所は雪による白化粧で飾られているのが見て取れた。

 

 砂浜に船をビーチングさせて辺りを見回すが、ジムらしき建物は見当たらない。何軒か石造りの家が建っているが、空き家のようで人っ子一人見受けられず。一見して寂れた印象しか持てない島であった。

 

「本当にこの島にジムがあるの?」

「ジュンサーさんが言ってたんだから、あるに決まってるだろう!」

「でも、どこにも見当たらないじゃない」

「……ないなら、ここに俺がジムを作る! ジュンサーさんのために!」

 

 ジュンサーを嘘吐きにしたくないタケシが奮起する。そんな彼に白い目を向けるフルーラ。

 一方で、ナオトは彼女らから離れてアイと共に空き家を覗いて回っていた。

 

「本当に誰もいないな……」

「ミャウ」

 

「──やあ、ナオト君!」

 

 そこへ、横から突然爽やかな声がかかる。驚いてナオトが振り向くと、そこにはダイダイ島で会ったダンが片手を挙げて立っていた。

 

「ダ、ダンさん!」「ミャア!」

「待ってたよ。順調にジム巡りが進んでいるようで何よりだ」

 

 朗らかに笑うダン。その笑い声を聞きつけて、フルーラとタケシが駆け寄ってくる。が、タケシはダンの姿を目に入れた瞬間に固まってしまう。

 

「ダンさん! って、そういえばネーブルジムのジムリーダーは確かダンさんだったわね」

「その通り。うん? タケシ君はどうしたんだい?」

「あ……ええと、気にしないであげてください」

 

 トラウマを刺激されてか、背中を向けて砂浜にのの字を書くタケシ。微かに嗚咽の混じった声が聞こえるが、どうしようもないので放っておくしかないだろう。

 

「あの、本当にここにジムがあるんですか? 見渡す限り無人の家みたいですけど」

「ははは! 大丈夫だよ、ナオト君。ちゃんとジムはあるから。さあ! フーちゃんもタケシ君も僕についてきて!」

 

 そう言って、ダンはリュックサックを背負い直して島の奥へと歩き始める。「フ、フーちゃんって……」と、慣れない呼び名に苦笑いしながらもフルーラはその後についていく。ナオトは相変わらず自分とは大違いの明快闊達なダンに圧倒されながらも彼女の横に並んだ。

 

「ミャウミャ! ミャウ!」

「……うう、わ、分かった。行くから、押さないでくれ」

「ミャア……」

 

 塞ぎ込んでいるタケシの背中をアイが押してあげる。それでも覚束ない足取りをしている彼に、さすがのアイも溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 ジムがあるという場所までダンの案内で向かうナオト達。

 山の方へ向かっているので、てっきり麓にジムがあるのかと思っていたナオト。しかし、土壁に囲われた鉄製の門を開けた先にはロープウェイ乗り場。その奥には登山道の入り口しかなかった。

 

「そこにある看板を読んでごらん」

 

 首を傾げていると、ダンがそう言って看板を指差した。

 

「ええっと、『挑戦者諸君、ネーブルジムにようこそ。このジムではまず、挑戦者諸君に山登りをしてもらう』……って、はあ!?」

 

 言われた通り読んでみて、ナオトはその予想外の内容に素っ頓狂な声を上げた。続く文章を読んでみると、山を登る際はポケモンの力を借りずに登らなければならないのだという。ルールを破ると、その時点で失格になってしまうらしい。

 

 ただでさえトレーナーらしからぬ運動神経の鈍さを持つナオトは愕然とする。

 すぐ先には整地された山道が見えるが、それも途中で途切れている。頂上を目指すには、切り立った岸壁をよじ登る形になるだろう。カロス地方のとあるジムでは挑戦者にボルダリングを行わせるらしいが、生憎ナオトはそのジムには挑戦せず他のジムでバッジを獲得していた。

 

「私達付き添いも登らないといけないの?」

「いや、付き添いの人はロープウェイを使ってくれて構わないよ」

 

 見れば、ダンの言う通り山道入り口の傍にロープウェイ乗り場があった。無人の島にポツンとあるロープウェイ。ちゃんと動くのだろうか? フルーラは不安の色を乗せてタケシと顔を見合わせた。二人の不安を察したのか、ダンが心配ないとばかりに笑った。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと整備はしてあるから」

「ダンさんはどうするんですか?」

「万が一のことを考えて、ナオト君を先導する形で同行するよ」

 

 ダンの話を聞いて、フルーラはナオトの方を振り返る。彼は青い顔をして目線の先にあるはるか雲の上まで伸びた険しい岩山を見上げている。

 

「ねえナオト、あんた大丈夫? 私も一緒に登ったげよっか?」

 

 後ろ手を組み、下から覗き込む形でからかうようにそう持ちかけるフルーラ。

 

「ひ、一人で大丈夫だって。これ、預かっててくれ」

 

 そんな彼女にナオトは意固地な態度で肩にかけていたバッグを押しつけた。ダンが背負っているようなリュックサックなどならまだしも、ショルダーバッグでは登山の邪魔になってしまうからだ。ご丁寧にベルトのモンスターボールも全部取り外してバッグに入れている。

 

「アイ。お前もロープウェイに乗るんだ」

「ミャウミャウ! ミャア!」

 

 ナオトの言葉にイヤイヤと首を横に振るアイ。イリュージョンを解いて元のゾロアの姿に戻り、ナオトの肩に飛びついた。一緒に行くと言いたいらしい。モンスターボールに入れたりなんてしたら、約束を破ったと一生口を利いてくれなくなりそうだ。ナオトは「ったく、しょうがないな」と溜息を吐いた。

 

「じゃあナオト。先に頂上で待ってるわね」

「ナオト、気をつけるんだぞ」

「ああ。分かってるよ」

 

 フルーラとタケシがロープウェイに乗り込んだことを確認した後、ナオトは覚悟を決めるように一つ深呼吸する。

 

「それじゃあ行こうか。ナオト君」

「……はい」「ミャウ」

 

 先導するダンに続き、ナオトとアイは山道を登り始めた。

 これ自体は特に問題はない。急な坂道ではあるが整地されているし、この程度であればカロス地方を旅している間に何度も経験してきた。

 

 だが、問題はこの後だ。

 十数分ほどかけて坂道を登り終えたナオトは、目の前に聳え立つ岩壁を見上げた。当然頂上は雲に隠れて見えない。下手をしなくても落ちれば死ぬが、命綱らしき物も見当たらず。いわゆる、フリー・ソロというスタイルで登るのだろう。

 

「ナオト君はロッククライミングの経験はあるかい?」

「いえ……」

「それじゃあ、僕の登り方を参考にするといい。よく見てるんだよ」

 

 ダンはにこりと笑ってみせると、軽い身のこなしで飄々と岩壁を登り始めた。ここのジムリーダーというだけあって、今まで何度もこの山を登ってきたのだろう。慣れた様子でどんどん上へ登り、あっという間にその姿が小さくなっていく。

 

「すご……」「ミャア……」

「さあ! ナオト君も登っておいで!」

 

 上から声を掛けられ、ナオトは目を閉じてもう一度深呼吸する。

 そして、危なかっしい手つきで岩の出っ張りに手を掛け始めるのだった──

 

 

 

 

 

 

 山をよじ登り始めて数十分。

 ナオトはなんとか山肌を登り続けているが、当然その様子は素人丸出しでスムーズとは言えないものであった。

 

 気晴らしのつもりで乗ったクルーズ船が嵐に襲われ、助かったと思いきやなぜかオレンジリーグに挑戦することになり、そしてどういうわけかロッククライミングをしている。ここ最近の自分の道程は波乱万丈過ぎではなかろうか? ナオトは頭が痛くなるのを我慢しながら岩の出っ張りに手を伸ばす。 

 ポケモントレーナーならロッククライミングの経験くらいあって当たり前のように思われるかもしれないが、別にそんなことはないのであしからず。というか、こんなことが日常となっているポケモントレーナーがいたら会ってみたいものである。

 

 標高が高くになるにつれて、吹き付ける風の強さが増していく。南国にいるのが嘘のように冷たい。それに身体を震わせつつも、足を滑らせないよう慎重に時間をかけて上へ上へと登る。

 

「ミャウ?」

 

 少し上の足場へ先に登ったゾロアの姿のアイが心配そうにナオトを見下ろす。

 まだ半分といったところだが、ナオトの息は荒い。元々ない体力は既に底を尽きかけているようだ。

 

「はあ……はあ……だ、大丈夫さ」

 

 アイに笑って答え、ナオトは手近な岩の出っ張りに手を掛ける。しかし、強風に煽られてその手が滑りバランスを崩してしまう。

 

「う、あッ!?」「ミャア!」

 

 慌てて別の出っ張りに手を掛けて何とか事なきを得るナオト。ホッと安堵の溜息を吐く。

 

「大丈夫かーい!?」

「は、はい!」

 

 上から声を掛けてきたダンに答えるが、ナオトが無理をしているのは一目瞭然であった。

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

「ホントに大丈夫なのかしら……」

 

 山肌をよじ登るナオトをロープウェイの窓から見ているフルーラ。

 覚束ないロッククライミングを続けるナオトに忙しない様子でブツブツ文句を言っている。

 

「何かあってもダンさんが助けてくれるんだから、心配ないさ。いい加減座って落ち着いたらどうだ?」

 

 さすがのタケシも呆れた顔でフルーラのことを見ている。

 

「……タケシ君。これお願い」

「は? えっ!?」

 

 しかし、フルーラはそんなタケシの言葉が耳に入っていないのか、ナオトのバッグをタケシに投げると突然ロープウェイの扉を開け放った。山の斜面に沿って登る風がロープウェイの中に入り込み、フルーラとタケシの髪を激しくなびかせる。

 

「何するつもりなんだフルーラ!? お、おい!」

 

 慌てるタケシを無視して、なんとフルーラはそのままロープウェイを飛び降りてしまった。

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 ようやく三分のニほどまで登り切ったナオト。

 

「ミャウ! ミャウミャ!」

 

 上からアイがミャウミャウと励ますように声をかけてくる。彼女がいる場所は足場の広い出っ張りになっていた。ここまで登ったら休憩しようと言っているのだろう。ナオトも後少しで休憩できると分かると表情が明るくなる。

 

 そのせいだろう。

 緊張の糸が解れてしまったナオトは、盛大に足を踏み外してしまった。それによって、手で掴んでいた出っ張りも滑り放してしまう。

 

「しまっ──」

「ミャッ!?」

 

 アイが悲鳴を上げる。ナオトははるか下の地上へ向かって落ちていく──

 

 

 ──ことはなかった。

 

 

「……え?」

 

 滑り落ちる彼の手を、いつの間にか近くにいたフルーラの華奢な手が掴んだのだ。二人分の体重を支えるため、ナオトの手を掴んでいない方の腕を出っ張りに引っ掛けるようにして回している。

 

「お前、なんで!?」

「~~ッ、いいから! 早くどっか掴みなさいよ!」

「あ、ああ!」

 

 必死な顔でそう訴えるフルーラを見て、ナオトは慌てて手近な出っ張りを掴む。

 そうして彼女の手を借りて、何とかアイのいる足場まで辿り着いたのであった。ナオトはその場に尻もちを突いて大きく息を吐く。

 

「はあ……はあ……ッ」

「ミャウ」

「……だ、駄目だアイ!」

 

 冷たい風に身体を震わせる彼の腕にアイが飛び込みその毛皮で温めようとしてくれるが、ナオトはそんな彼女を手で抑えた。

 

「ちょっと! 温めようとしてくれただけでしょ?」

「だって、ポケモンの力を借りたら失格になるじゃないか」

「別に技を使うわけじゃないし、それくらいならダンさんだって許してくれるわよ。きっと」

「……でも」

 

 フルーラはそう言うが、ナオトは言葉を濁して上を見上げる。先を登っているであろうダンを気にしているのだろう。

 

「はあ、しょうがないわね」

 

 そんな彼を見たフルーラは小さく溜息を吐くと、首にかけていた水筒を手に取った。中のお茶を蓋に注ぎ、「はい」と差し出す。

 

「こんな寒いトコに来るとは思わなかったから、あったかくはないけど」

「あ、ああ。悪い」

 

 少し戸惑いながらも受け取るナオト。アイに少し飲ませてから口に運ぶ。言った通りお茶はぬるかったが、若干身体は温まったし乾いた喉を潤すには十分であった。

 

「ナオト。毎回思うんだけど、あんたそんな運動神経と体力で良く今まで旅してこれたわね」

「それについては何も言えないよ……」

 

 フルーラの言葉にナオトは頭が痛くなる。

 分かってはいたが、今まで多くの場面でポケモンの力に頼ってきたことを改めて自覚させられた。ナオト自身、身体を鍛えようとはしているものの、元々身体が弱い方なのか結局上手く行かず仕舞いとなっているのだ。感謝の気持ちも込めて、ナオトはアイの頭を撫でる。アイは目を細めて彼の手に頭を押しつけた。

 

 どうも話を聞くと、フルーラはロープウェイから飛び降りてきたらしい。それができること自体驚きだが、だとしても無茶をするものである。

 しかし、どうしてそんな無茶までしてここまで来てくれたのだろうか?

 

「あ、あのさ……お前なんで──」

「フルーラ」

 

 理由を聞こうとするナオトを遮るようにして、フルーラが突然自分の名前を口にした。

 首を傾げるナオトに、彼女は次いで口を開く。

 

「お前じゃなくて、フルーラ。ナオトって全然私の名前呼ばないじゃない。タケシ君のことは普通に呼んでるのに……」

「そ、そうだっけ?」

「そうよ。覚えているだけでも……二回くらいかしら? 一緒に旅してるんだから、名前ぐらいちゃんと呼びなさいよ」

 

 なんでそんな細かく覚えているんだ。頭を抱えるナオト。別に呼び方なんてどうでもいいだろうに。

 

「ミャウ!」

「ほら、アイちゃんだってちゃんと名前で呼べって言ってるわ」

「え、ホントか?」

「ミャ!」

 

 そうだそうだとばかりに頷くアイ。ナオトは困ったように頬を掻いた。

 

「さ、試しに一回呼んでみて」

「ええ……」

 

 胡座をかいた足の間に両腕を置き、目線を反らして顔を赤らめる。

 

「何もじもじしてんのよ。ほら早く!」

「わ、分かったよ」

 

 急かされ、なぜか背筋をピンとさせてコイキングのように口をパクパクさせる。

 名前を呼ぶだけだ。なのに、どうしてこうも緊張してしまうのか。ナオトはよく分からない自身の心情に心の中で首を傾げつつ、意を決して顔を上げた。

 

「……フ」

「フ?」

「……フ、フルー……ラ」

 

 たどたどしいことこの上ないが、それでもフルーラは「……ま、及第点ね」と呟いて答えた。顔を反らしているのは笑いそうになっているのを隠すためだろうか?

 とりあえず満足したのか、さてと膝とお尻についた土埃を叩いて立ち上がるフルーラ。

 

「もう十分休憩したわね。後もうひと踏ん張り、頑張りましょ」

「ああ」

 

 そうして再び岩肌を登り始めるフルーラの後を追うナオト。

 出っ張りに手をやりながら考える。この登山をさせる意味が自分一人の力で困難を乗り切ることにあるのなら、彼女の力を借りることで失格扱いになってしまうのではないかと。

 

 

 

 

 数十分後、ナオト達はどうにか切り立った岩壁を登り切った。

 フルーラに手を貸してもらって這い上がったナオトは、燃え尽きたようにごろんと転がって仰向けになる。

 

「お疲れ、ナオト君。よく頑張ったね」

 

 そんなナオトをダンが登る前と同じ爽やかな笑顔で出迎えた。さすがというべきか、全く疲れた様子がない。

 

「あ、はい……」

 

 上半身を起こすが、気まずけに俯き加減で対応するナオト。フルーラと一緒に登ってきたことから、彼女の手を借りたことは一目瞭然だ。

 しかし、ナオトの表情を見て察したのか、ダンはフッと笑うと優しい手つきで彼の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ。失格にはしないから」

 

 ダンの言葉に、ナオトは信じられないとばかりに目を見開いて顔を上げた。

 

「確かにできることなら独力で登り切って欲しくはあったけど、人の手を借りちゃいけないとはルールに書いてなかったからね」

「良かったじゃない、ナオト!」「ミャウ!」

「あ、ああ」

 

 ホッと心の中で胸を撫で下ろすナオト。

 嫌々始めたジム巡りの旅。挑戦に失敗すれば旅もそこで終わりになってくれるかもしれないのに。フルーラの手を借りて起き上がったナオトがそれに気づくことはなかった。いや、例え気づいていたとしても、今の彼ならきっと気づかないフリをするだろう。

 

「さあ、頂上まで後もう少しだ。頑張ろう!」

 

 しかし、まだ山登りは終わりではない。頂上までここからしばらく坂を登り続けなければならないのだ。そこにロープウェイの終着点と山小屋があるらしい。

 岩壁をよじ登り切ればすぐ頂上かと思っていたのでげんなりとした顔をするナオト。

 

「ミャ!」

「ほら、しっかりしなさいナオト! ダンさんに置いてかれるわよ!」

「わ、分かってるって」

 

 フルーラとアイに背中を押され、ナオトは溜息を吐きながら歩き出す。

 しかし、その足取りはどことなく軽快なものであった。

 

 

 

 

 急な傾斜を登っていく内に、いつの間にか目に映る風景は見渡す限り銀世界となっていた。辺りの地面は白く染め上げられ、頭上に広がる曇り空からはしんしんと雪が降り注いでいる。

 

「……ッ」

 

 ナオトの傍を歩いていたフルーラが寒そうに両腕を抱く。ナオトは長袖を着ているが、彼女はキャミソール。そして寒さとはさほど無縁の島育ちだ。恐らくクライミング中も自分以上に寒かったに違いない。

 

「ほら、寒いならこれ着ろよ」

 

 ナオトは着ていたオレンジ色のベストを脱ぐとフルーラに投げ渡した。肌は隠せないが、ないよりはマシだろう。フルーラは目をパチクリさせながらナオトと受けとったベストを見比べている。

 

「いいの?」

「ぼ、僕は長袖だし、カロス地方を旅してた時は年中雪景色の街に滞在してたこともあるからな。多少は寒さに慣れてるんだよ」

 

 ぶっきらぼうに答えるナオト。フルーラは「ふ~ん」と言いつつ、ニヤニヤした視線を彼へ向けた。

 

「……何だよ?」

「べっつに~」

 

 ジト目を返すナオトに、満更でもない様子で笑みを浮かべてナオトのベストを羽織るフルーラ。

 

「ミャア」

 

 何となく居心地が悪くなったナオトの足に、二人のやり取りを見てかアイが自分も構えとばかりに身体を擦りつけてくる。

 ナオトは気恥ずかしさを誤魔化すように彼女を抱き上げて歩を早めた。

 

「あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」

 

 文句をぶつけながらフルーラはその後を追う。

 そんな様子を、ダンが少し先から微笑ましげに眺めていた。

 

 

 




ちょっとラブコメさせすぎだろうか? いやでもそれがメインだし。
砂糖が供給過多になってたら申し訳ない。次回でネーブルジムは決着がつきます。

■ネーブルジムの山登り
普通に死ぬ。
なお、アニメではポケモンの手を借りずという文章に加えて"独力で"とちゃんと看板に書いてあるので、本来ならフルーラに助けてもらった時点で失格扱いになると思われる。

■カロス地方のボルダリングをさせるジム
ショウヨウジムのこと。
アニポケではゲームに出てきたジムの他に複数のジムが存在する設定となっているので、ナオトは自分の運動神経のなさを顧みてそのジムへの挑戦を避けた。




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