ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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16. さよならバイバイ!? ドミノとピィ ① ▼

「とうちゃーく!」

「すごいな。デパートもあるし、オレンジ諸島のタマムシシティってところか」

「ミャウ!」

 

 オレンジ諸島最大の面積を誇るマンダリン島。ナオト達が今いるのはその島一番の大都市、ビッグシティである。

 大都市ということもあってオレンジ諸島では見慣れないビルも数多く建ち並んでおり、今まで訪れたどの町よりも発展しているのが一目で見て取れる。店には本土から最新流行の品々が入荷されるので、今時な女の子であるフルーラにはなくてはならない街だ。

 

 何でもつい最近まで地下道に潜む謎の怪物による被害が多発していたらしいが、街の活気を見る辺りそれも解決したらしい。その騒動の元凶と発覚した市長が選挙で落選したりと、色々あったようではあるが。

 

「オレンジ諸島にあるとは思えないぐらい立派な街だな。さすがにミアレシティには劣るけど」

「何それ、自慢?」

「いや、別にそんなつもりじゃ……」

 

 次のジムがあるというユズ島を目指す一行は、そこまでの連絡船に乗るためにこの街に立ち寄った。

 もちろん、最初はフルーラの船で直接ユズ島に向かおうとしたのだ。しかし、何せ本来の持ち主同様年季の入っている船だ。エンジンの調子が目に見えて悪くなってきたので、修理に出すがてら街に繰り出そうということになったのである。

 

「俺は適当に街を回って、足りなくなってきてる物資を調達しておくよ」

「そ。じゃあ終わったらポケモンセンターで落ち合いましょ。ほら、行くわよナオト」

 

 タケシの言葉に頷くと、フルーラはナオトの手を取って歩き出し始めた。

 柔らかい感触にドキリとするナオトだが、すぐに我に返って慌てて踏み止まる。

 

「ま、待てって!」

「何よ?」

「いや、僕は特に足りない物もないからポケモンセンターで休もうと思ってたんだけど」

「せっかく来たのにそんなのもったいないわよ。私が色々案内したげるから黙ってついてきなさい!」

「ちょっ、アイ! 止め──おい、引っ張るなバカ!」

 

 抵抗むなしく、力勝負で負けて引きずられていくナオト。

 小さくなっていくその情けない姿を、アイは苦笑いしながら片手を振って見送った。

 

「アイちゃんはナオト達と一緒に行かないのか?」

「ミャウミャ」

「そうか。良い子だな、アイちゃんは」

 

 偉い偉いとタケシに頭を撫でられて嬉しそうに微笑むアイ。空気が読める出来た子だ。

 

「サトシとカスミも今頃どこかでナオト達みたいに……いや、あの二人に限ってそれは有り得ないか」

「ミャ?」

「ああ、なんでもないよ。それじゃあまずはフレンドリィショップにでも行ってみよう」

「ミャウ!」

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 ビルという名のコンクリートの木々が建ち並ぶビッグシティ。

 その一角にあるこじんまりとした公園で、ホームレスのような風貌の女が自動販売機の下を這うようにして漁っていた。

 

「ねぇママ。あの人なんであんなにボロボロなのぉ?」

「シッ! 見ちゃいけません!」

 

 その姿を見た子供が母親の手を引っ張って女を指差すが、母親は娘に汚いモノを見せまいと抱き寄せて腕に隠す。

 そんな親子を女がギロリと睨みつけた。「ヒッ!?」と悲鳴を上げた母親が慌てて子供を連れて公園から去っていく。それを見送ると、女は自動販売機の下から拾ったお金でミックスオレを買い、出てきた缶を引っ掴んで勢い良く飲み始めた。

 

「ングッ、ングッ、プハーッ! ……あーくそ、なんか文句あるのかってんだよチクショーめ」

 

 女──ドミノは去っていた親子への文句をブツブツと呟きながらジュースの入った缶を握りしめる。

 誰も人がいないのを確認してから自動販売機の下を漁っていたが、やはり人の出入りが多い公園は悪手であった。

 

 なぜ彼女がこのビッグシティにいるのか、それはもちろんナオト達を追いかけてきたからだ。

 船で移動しているナオト達を、時には他人の船を盗んで乗り捨てたり、時には燃料を盗んで元々持っていた小型ロケットエンジンで空を飛んたり、時には海を泳いで島から島へと渡って追いかけ続けたのである。

 こんな缶ジュースもろくに買えない状態でそこまでして追いかけるなんて、ある意味健気と言わざるを得ない。

 

 閑話休題。

 溜まりに溜まった疲れを癒やすため、ドミノは残りのジュースを呷ろうと缶を傾けようとした。

 

「…………」

 

 が、ピタリとその手を止めてしばし考え込む。

 缶を持ち上げていた腕を下ろし、もう片方の手で懐からモンスターボールを取り出して放り投げた。

 

「ピィ!」

 

 光と共にボールから出てくるピィ。

 地面に降り立ってキョロキョロと辺りを見回しているその好奇心の塊に、ドミノは手に持った缶ジュースをスッと差し出す。

 

「ピ?」

「……ほら、あんたも喉乾いてんでしょ。あげるわよ」

 

 いらないんなら私が全部飲むけど。不本意だと言いたげに目線を反らしながら、そう加えるドミノ。

 差し出された缶とドミノを見比べていたピィであったが、「ピィ!」と嬉しそうに鳴くとその小さな手で缶ジュースを受け取ってチビチビと飲み始めた。

 

「はぁ……いい? 飲んだ分はしっかり働いてもらうからね」

「ピグッ、ピグッ」

 

 聞いているのか聞いていないのか、ピィは美味しそうにジュースを飲み続けている。

 我ながら甘くなったものである。ドミノは溜息を吐くと、傍にあったベンチに腰を下ろしてピィが飲み終わるのを待った。

 

 

 

「──え、もしかして、ピィちゃん?」

 

 

 

 ふいに、そんな声がドミノの耳に届く。

 声のした方を振り向いてみると、そこにはスーツケースを片手に可愛らしい服を着た女性が信じられないといった目でピィのことをじっと見つめていた。その目は、やがて確信に変わる。

 

「やっぱり、ヒメのピィちゃんだわ! ピィちゃん!」

「ピィ?」

 

 感極まったように駆け寄ってきた自分のことをヒメと呼ぶ女性はそのままドミノの横を通り過ぎ、ピィを抱きしめた。

 その拍子にピィの手からジュースの缶が零れ落ち、カランと乾いた音を立てて地面を転がっていく。

 

「ああ、嘘みたい! こんなところで再会できるなんて! ヒメのこと覚えてる?」

「ピ? ピィピィ!」

 

 腕に抱かれているピィは女性の顔を見ると、覚えがあるのか満面の笑みを浮かべてはしゃぎだす。

 それを見たドミノは理解した。ピィはダイダイ島のポケモンセンターから勝手についてきたポケモン。つまり、この女性はピィの元々のトレーナーであるということだ。

 

「まあ、だいぶ汚れているわね。早くホテルに戻ってキレイキレイしましょうね」

「ちょっと! 待ちなさ──」

 

 ピィが連れて行かれる。そう思った途端、ドミノは無意識の内に静止の声を出す。

 しかし、女性は今の今までドミノの存在に気づいてなかったのか、彼女の方を見てギョッと顔を強張らせた。

 

「な、何アナタ、汚らしい!」

「ピィ!」

「見ちゃダメよ、ピィちゃん!」

 

 無邪気にドミノの方へ手を伸ばすピィ。女性は咄嗟にその腕でドミノからピィを隠した。先ほどの親子のように。

 

「はぁ? 誰が汚らしいですって? 大体そのピィは──」

「お金なら恵んであげるから、これ以上ヒメ達に近づかないでちょうだい! さ、行きましょ。ピィちゃん」

 

 チャリンチャリンと硬貨が数枚投げ渡される。普段なら秒で飛びつくその音だが、今のドミノにはとても煩わしく感じられた。

 地面に落ちた硬貨に視線がいっている内に、女性はピィを連れて公園を出て行ってしまう。

 

「…………」

 

 黙って地面に落ちている硬貨を見下ろすドミノ。

 これだけあれば、安めのランチを食べることぐらいはできるだろう。

 

「……ふんっ」

 

 ドミノは乱暴にその硬貨を拾って懐に仕舞い、女性とピィが去っていった方向から背を向けた。

 悲しんでなどいない。勝手についてきて、勝手にはしゃいで、勝手に楽しんで、勝手に帰っていっただけのことである。

 

 今まで散々迷惑をかけられてきたのだ。厄介払いができて、それに金も手に入ったらならむしろ喜ぶべきだろう。

 あんなチビがいなくても自分の身一つでジャリ達のポケモンを奪ってみせる。エリートだった頃はずっとそうしてきたのだ。

 

 そのまま歩き出そうとして、踏み出そうとした右足のつま先にコツンと何かが当たった。

 見ると、目に入ったのはピィが落とした缶ジュース。まだ残っていたのか、飲み口から少しばかり中身が流れ出ている。

 

「……ッ!」

 

 ドミノは湧き上がってきた衝動のままに缶を引っ掴むと、思いっきりそれを投げ捨てた。綺麗な放物線を描いて飛んで行った缶は、公園の池に落ちて小さな水飛沫を上げる。

 それを見届けることなく、ドミノは逃げるようにして足早に公園を去っていった。

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

「…………」

「♪」

 

 向かい合った席に座るナオトとフルーラ。

 上機嫌な様子のフルーラだが、一方でナオトは身を隠すように縮こまってジト目で彼女の方を睨みつけている。

 

 二人の間のテーブルに置かれているのは、一本のジュース。

 それだけなら特に差し障りはない。問題なのはそれに刺さっているストロー。飲み口が絡み合うようにして二股に分かれているのだ。

 

 そう。俗に言うペアストローである。

 

「ちょっとナオト、何してんの。早く飲みなさいよ」

「お前なぁ!」

 

 ガタッと机に手を突いて席を立とうとするナオト。

 しかし、周りから注目されていることに気づいて咳払いと共に座り直す。

 

「……フルーラ。お前なぁ、こんな恥ずかしいの飲めるわけないだろ。何でこんなの頼んだんだよ」

「何言ってんのよ。カップルで注文したら半額なんだから、飲まないと損じゃない」

 

 散々デパートの中の色んな店を連れ回され、そろそろ小腹が空いてきた辺りでこのカフェの前を通りがかったのだ。

 目ざとくカップルに対してのキャンペーンが実施されていることに気づいたフルーラが嫌がるナオトの首根っこを引っ張って今に至るというわけである。

 

「僕とお前はそういう関係じゃないだろうが」

「じゃ、今だけそういう関係ってことにしとく? それなら文句ないでしょ」

「は? え、今だけって……え?」

 

 予想外の返しにナオトは思わず顔を赤くし、戸惑いに口が回らなくなる。

 

「ん? 今だけじゃ嫌?」

「なっ!? そ、そんなわけないだろっ! ……ったく、からかうのもいい加減にしろよ」

 

 腕を組み、そっぽを向いて不貞腐れるナオトを見て、くすくすと笑うフルーラ。

 本当にからかいがいのある男である。とは言っても、フルーラからしたら全部が全部冗談だったわけでもなかったわけだが、完全にからかわれたと思っているナオトがそれに気づくことはない。

 

 そんなナオトが顔を反らした先には、お互いの主人の隣に座ったブースターとシャワーズが憮然とした表情でポフレが積まれた皿を眺めていた。

 

「ブゥ……」「…………」

「もう、シャワーズもブースターもポフレ食べないの? せっかく頼んだのに」

「カップル扱いにされたからだろ? そこを気にしてるんだよ」

 

 このカフェは人間のみならずポケモン相手のキャンペーンも行っていたのだ。カップルのポケモンを連れているお客にはポフレも割引すると。

 ちなみに、ポフレとはポケモン向けのお菓子のことだ。人間が食べても美味しい、カロス地方ではポピュラーな品である。このカフェではトレーナー向けに他にもポロックやポフィンなど色々な地方で有名なお菓子を揃えているらしい。

 

「というか、なんでこの二匹なんだ? コイツラどっちかって言えば仲悪いと思うぞ」

「そう? 結構お似合いだと思うんだけど」

「ブスタァッ!」「シャワッ!」

 

 フルーラの言葉に対して同時に文句を投げかける二匹。そんな彼らをフルーラはストローに口をつけながらチラリと見やる。

 

「ほら。息ピッタリじゃない」

「いや、怒ってるんだけど」

「照れ隠しよ照れ隠し。ホント、ブースターってどっかの誰かさんにそっくりよね」

 

 シャワーズの気の強さも誰かさんにそっくりだよ。

 渋々桃色のスイートポフレを食べようとしたブースターの前足を自分のだとばかりにピシャリと尻尾で叩くシャワーズを見て、ナオトはそう心の中で溜息を吐いた。

 

 

 

 そんなこんなで軽食を食べ終えた二人。

 カフェを出て、ブースターとシャワーズを連れたまま隣のビルに繋がる連絡橋を渡っていた。ナオトの手には食べ切れなかったポフレが入った袋が握られている。

 

「で、次はどこ行くんだ?」

「あれ? そろそろポケモンセンターに行かないかって言う頃かと思ってたんだけど」

「お前の顔見てたらまだまだ連れ歩く気満々なの分かるって」

 

 ナオトの言葉に、フルーラは思わず足を止めてその瞼をパチクリとさせる。

 目を反らしている彼を見て、口元を緩ませた。

 

「……ふ~ん。ま、あんたの顔に出る癖が移っちゃったのかもね」

「僕のせいかよ」

「別にそんなこと言ってないでしょ。それじゃあ次は──」

 

『本日もビッグデパートにお越しいただき、誠にありがとうございます。ご来店中のお客様に、大変ラッキーで耳寄りなお知らせがございます』

 

 その時、フルーラの話を遮るようにしてアナウンスが流れ始めた。どこかで聞いたことのあるような声だ。

 

『三階、服飾品売り場にてゲリラタイムセールを開催いたします。驚くなかれ、なんと店頭に並んでいる商品が端から端まで軒並み99%オフ!』

「えっ!?」

 

 耳を疑うようなアナウンスに驚きの声を上げるフルーラ。対してナオトはその割引率を胡散臭げに思いつつも、服飾品売り場というワードを聞いて顔をげんなりとさせている。

 ここまででいくつもの服飾品店に連れ回され、流行りの服や水着の試着姿を見せつけらてきたナオト。さすがに下着売り場まで連れて行かれそうになった時は死ぬ気で拒否したが……とにかく、ファッションに目がない彼女も当然このセールに飛びつくのだろうと思ったのだ。

 

「なんか怪しいけど、お前どうせ行く──」

「ナオト! 逃げるわよ!」

「え?」

 

 しかし、予想外の言葉を口にするフルーラ。

 傍にいるシャワーズを連れて急いでこの場を離れようとしている彼女に、ナオトは首を傾げる。それはブースターも同じだ。

 

「おい、何そんなに慌ててるんだ?」「ブゥ?」

「何ぼうっとしてんの! タイムセールは警報みたいなものよ! 早くしないと──ッ! 来たッ!」

 

 何が? と疑問を口にする前に、ナオトは自分の足元がぐらぐらと揺れていることに気づいた。

 地震かと呑気に思っている中、フルーラが青い顔で凝視している方向に目をやる。

 

「……な、なんだ!?」

 

 連絡橋の向こう側の方から、大量の何かが視界を埋め尽くさんばかりの煙を巻き上げながらこちらに迫ってきている。

 それは──主婦という名の鬼の大群であった。

 

「「わああぁーーっ!!?」」

「ブァーッ!?」「シャ、シャワッ!?」

 

 サイホーンなんて目じゃないくらいの怒涛の勢いで連絡橋を渡っていく主婦達。恐らく、先のアナウンスを聞いて我先にとやってきたのだろう。

 逃げる間もなく、ナオト達は彼女らの波にさらわれる。慌ててフルーラはナオトの腕を掴もうとしたが、視界一杯の脂肪の塊にもみくちゃにされてあっという間に引き離されてしまった。

 

「──ゲホッ! ゲホッ! ナ、ナオト! 大丈夫!?」

 

 ようやく主婦達が通り過ぎて視界が晴れる。辺りを見回してナオトの安否を確かめるフルーラ。

 

「あ、あれ? ナオト?」

「シャワ?」

 

 しかし、そこにはシャワーズと踏み荒らされた観葉植物だけ。ナオトとブースターの姿はどこにもなかった。

 

 

 




前回遅れそうと書きましたが、前編は間に合いました。
良い具合にバランス良く分割できなかったせいで、普段より短めな感じになっています。

元々はヤンベラの町(無印編第102話『ニドランのこいものがたり』の舞台)でカップルコンテストが開かれて、それにナオト達とドミノが参加するという話を書いていました。
タケシが偶然居合わせた母親のミズホに誘われて無理やり参加させられるとか、ハナダ美人三姉妹登場させたりとか色々やってたんですが、いかんせんぐだぐだになってしまったので全く別の話に書き直した次第です。

■地下道に潜む謎の怪物
無印編第104話『ちかどうのかいぶつ!?』の話。
もちろん解決したのはサトシ達。

■サトシとカスミ
首藤氏曰く、二人のフラグらしき描写はカスミの存在を目立たせるためのブラフだったらしい。
というか、カスミはサイドストーリーでケンジとなぜかいい感じになっている。
しかし、そのケンジはSM編でオーキド研究所を訪れたにも関わらず影も形もなくなっていたのだった。きっとお使いに行ってたんだよ。きっと。



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