ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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2. サントアンヌ2せいごうのひげき! ▼

 あのバトルから数日が経過した。船は寄港地であるイッシュ地方のホドモエシティに到着したが、ナオトはあれから出不精になってしまって港に着こうが自分の部屋から出ず仕舞いである。

 

「ゲンゲン~」

「ああ、ありがとうゲンガー」

「ミャウ!」

 

 可愛らしい柄のエプロンを着たゲンガーが焼き立てのチーズケーキを運んできてくれた。部屋にこもってやっていることと言えば、今のようにスイーツ作り好きなゲンガーが作ってくれたケーキを食べたりしながらテレビをぼうっと眺めているだけ。

 ちなみに、見ているのはポケモンポリス24時という番組。怪傑ア☆ギルダーという覆面ライダーが事件現場にしゃしゃり出てジュンサーを困らせているのは見てて恥ずかしくなったが、アイが熱心に見ていたのでチャンネルは変えれなかった。ナオトのせいで外に出れないのだから当然である。

 

 ところで、アヤカはホドモエシティで途中下船したが、去り際彼女はナオトの部屋を訪れて言葉を残していった。イッシュ地方や他の地方を回ってバトルの技を磨き、またポケモンリーグに出場すると。

 どうしてそんなことをわざわざ伝えに来たのかとナオトが聞くと、アヤカは気まずげに先日のことを謝ってきた。彼女もあの時はカッとなっていて、後から公衆の面前で少し言い過ぎたと思い始めたのだという。全面的に悪いのはナオトなのだから、別に気にすることはないのだが。

 

「もし君が立ち直ることができたら、どこかのポケモンリーグでまた会えるかもしれないわね。その時は今度こそ私を満足させてちょうだい」

 

 そう言い残して、アヤカはサントアンヌ二世号を後にしていった。

 

 

 次の日にはホドモエシティから出港し、船は次の寄港地があるカントー地方のクチバシティへ向けて再び海を渡り始めた。ナオトはアヤカが部屋を訪れたことで多少は外出するようにはなったが、やはり一日の大半は部屋で過ごすのが常となっている。

 とは言っても、これは何もナオトだけというわけではないだろう。事実、他の乗客の中にも寄港地に着くまでは部屋にこもる者が徐々に増えてきている。いくら船が大きいとはいえ、さすがに出発してから二週間以上も経てば多少の飽きが来てもおかしくはない。もちろんクルーズ会社側も船上イベントやショーを毎日用意してはいるが、それらが合わない人間には効果は今ひとつだ。

 

 それはアヅミも同様であったのか、彼女は度々ナオトとアイを自分のスイートルームに招待してくれた。退屈しのぎなのだろうが、アイがアヅミのコダックと楽しそうに遊んでいるのでナオトにとってはありがたかった。

 ちなみに、アイは少女の姿のままだ。彼女は普段から人間の姿でいることが多い。色違いのゾロアということで無駄に目立って良からぬ輩に狙われるというのもあるが、彼女自身がその姿でいることを気に入っているようだからだ。

 

「ナオトさんもカントーが目的地だったのね! 私はカントー出身なのよ! カロスへは飛行機で旅行しに行ったんだけど、帰りはこのクルーズを利用することにしたの。あ、そうだわ! カントーに着いたらぜひウチの屋敷へ遊びに来てちょうだい! スイートハニーコダックちゃんも喜ぶわ!」

「……まあ、機会があれば」

 

 ナオトが口を開く間もなくアヅミはペチャクチャペチャクチャと話し続ける。

 無論その後も長い時間世間話に付き合わされたわけだが、聞かされる話はほとんどスイートハニーコダックちゃんの話ばかりだったのは言うまでもない。

 

 

 ──そうして、窓から見える変わらない景色を眺め続けるだけの退屈な日々を過ごしながら、あっという間に一週間と少しの日数が経過した。

 

 

 

 

「順調に進めば明日にはクチバシティに着くはずだったんだろうけど……」

「ミャウ……」

 

 ナオトとアイは部屋の窓から覗く景色を見て、不安げに声を漏らす。

 次の瞬間、空に光が走って窓を白く照らした。「ミャッ!?」と驚いたアイがナオトの腕にしがみついて顔を埋める中、遅れて雷鳴が轟く。

 

 時刻は太陽が沈んで間もない夜。

 窓越しに見える景色はいつもの月明かりを映した穏やかな海ではなく、荒れ狂うような波と降り注ぐ大雨。

 カントー地方を目指していたサントアンヌ二世号は、それまでの順調な航海が嘘であったかのような突然の大嵐に直面していた。

 

「このまま部屋にこもってるのはまずいな。とりあえず、外に出よう」

「ミャ」

 

 ナオト達は部屋を出ると、船内の様子を伺うためひとまず大広間の方へと向かうことにする。 

 

「おいっ! 大丈夫なのかこの船は!?」

 

 大広間へ急ぐ中、ナオトの耳にそんな怒鳴り声が届く。廊下から顔を出してみると、ロビーに人集りが出来ていた。

 

「さっきからすごい揺れだぞ! あちこち軋んでるし、今にも沈みそうじゃないか!」

「そうよ! きっと、先代のサントアンヌ号みたいに──」

「お、落ち着いてくださいお客様! この二世号は、先代と違って絶対に沈んだりしません! ご安心を!」

 

 その時、凄まじい衝撃音と共に船体全体が激しく振動する。先程までの高波や風による横揺れと違って、明らかに何かが船底にぶつかったような縦揺れであった。

 

「な、何だ? 今の揺れ」

「まさか、岩礁に乗り上げたんじゃ……」

「嘘! だってここ海のど真ん中よ!?」

「でも、カントー地方近海には岩礁地帯がいくつかあるって……」

 

 そう呟かれた言葉に、その場に集まった者達全員の顔が青褪める。先程までの騒ぎが嘘だったかのように辺りは静まり返り、船を叩く波と雨の音が無情に鼓膜を打つ。

 

「ご心配なくー! この船は、絶対に沈みませぇーん!」

 

 その声に反応して、乗客達が廊下の先──出入り口から覗くプロムナードデッキを見やる。そこには、いつの間にか下ろした救命艇に乗って船から脱出しようとしている船長の姿があった。

 

「嘘だろおい!」

「だからサントアンヌなんて不吉な名前の船に乗りたくないって言ったのよ!」

「俺達も早く救命艇に乗って脱出するぞ!」

 

 一斉に騒ぎ出した乗客たちが廊下から飛び出し、プロムナードデッキの上のダビットから救命艇を次々に下ろしていく。その中にはクルーズのスタッフ達も混じっていた。肝心の船長が先に逃げてしまったのだから、形振り構う必要もなくなったということだろう。まるでアリアドスのように群がる彼らは我先にと下ろした救命艇の中へと乗り込み始める。

 

「僕達も早く乗らないと……アイ、元の姿に戻って。僕から離れるなよ」

「ミャウ!」

 

 ゾロアの姿に戻ったアイを肩に乗せて、駆け出すナオト。他の乗客達に続いて、人の波に埋もれそうになりながらもプロムナードデッキに出ようと急ぐ。しかし、他のトレーナーと比べてあまり鍛えているとは言えないナオトは怒涛の勢いに押されて波の外──出入り口とは違う人の少ない方向へと弾き出されてしまう。

 

「──ッ! くっそ! 冗談じゃないぞ!」

 

 悪態を吐きながら、ナオトは反対側のデッキへ向かおうかと視線を巡らせる。その視線の先で、カイリキー達を連れて辺りをキョロキョロと見回している少女を見つけた。アヅミだ。

 

「あ、ナオトさん!」

「アヅミか! 良かった。君も早く救命艇に……」

 

 アヅミを救命艇に誘導しようとするナオトだったが、当の彼女はそれに従わず焦った顔で忙しなく辺りを見回している。

 

「何してるんだ! 早く脱出しないと──」

「コダックちゃんが! 私のスイートハニーコダックちゃんがいないの!」

 

 泣き叫ぶように訴えたアヅミの言葉に、ナオトは「何だってっ!?」と口を開く。

 寝ていたアヅミが騒ぎに気づいて目を覚ますと、既にそこにはコダックの姿はなかったらしい。恐らく、彼女が寝ている隙を狙って船内を探検しに行ったのだろう。どうしてこんな最悪のタイミングでそれを決行してしまったのか。ナオトは舌打ちしたくなる気持ちを抑えて、目尻に涙を溜めてパニックを起こしかけているアヅミを見やる。

 

「一体どこにいっちゃったの! スイートハニーコダックちゃん!」

「アヅミ」

「どうしよう! どうしよう! このままじゃ……」

「アヅミッ!!」

 

 この船に乗ってから一度も上げたことがないような大きな怒鳴り声を上げて、無理矢理アヅミのパニックを抑えつけるナオト。彼女はビクリと肩を震わせて目を見開いた。

 

「……アヅミ。僕がコダックを探してくる。君は先に救命艇に乗っててくれ」

「で、でも……!」

「いいから! 必ずコダックを見つけて戻ってくる! 行くぞアイ!」

「ミャ!」

「あっ! ナオトさん!」

 

 アヅミの静止を聞かず、ナオトはアイと共にプロムナードデッキに背を向けて駆け出し始めた。乗客達という名の波の流れに逆らいながら。

 ロビーを抜けて誰もいなくなった大広間に入って辺りをざっと見渡すが、コダックらしき姿は発見できず。それを確認したナオトは大広間から出て、レストランなどのお店があるモールに入る。アイと共に手分けしてモール内を走りながらあちこり覗いて回るが、やはり見つからない。

 

(どこかの店にでも入り込んでつまみ食いしてるかと思ったけど、違ったか……!)

 

 このまま虱潰しに探していたらとてもじゃないが間に合わない。焦燥感に駆られる中、ナオトは眉間に皺を寄せて必死に頭を回転させる。

 あのコダックは、主人であるアヅミの過保護な考え方に嫌気が差している節があったのは確かだ。だが、だからと言ってアヅミのことを嫌っているというわけではないだろう。本当に嫌っていたら、彼女のことを傷つけてでも逃げ出そうとするはずである。

 

 ならば、部屋から抜け出したコダックがこんな状況で向かう先は──

 

 そこまで考えると、ナオトは踵を返して走り出した。アイがその後を追い、肩に飛び乗る。

 入り込んだのは、ナオトの部屋もある居住区。徐々に船が傾いていく中、ナオトは縋る思いでエレベーターに乗り込む。幸いにも、エレベーターは動いてくれた。焦りで手元が狂いそうになりながらもパネルを操作し、上へと向かう。向かう先は、最上階だ。

 

 最上階に着いて扉が開くと同時に飛び出すナオト。レッドカーペットが敷かれたきらびやかな内装の廊下を踏み荒らしながら一直線に目的の部屋へと向かう。ここまで長く全速力で走り続けるのは何時振りだろうか? 部屋の前に辿り着いたナオトは、両手を膝につけてゼエゼエと肩で息をしながら呼吸を整える。

 そして、祈る思いで扉を開けた。

 

「やっぱりここだったか……!」

「ミャウ!」

 

 ナオトの予想通り、赤いスカーフを巻いたコダックはそこにいた。部屋の中──彼の主人であるアヅミのスイートルームに。

 不安そうにキョロキョロと部屋の中を歩き回って、入れ違いになって出ていった主人を探している。ナオトはそんな彼の元へ急いで駆け寄った。

 

「コッパァ?」

「ミャウ! ミャウミャ!」

「コダック、もう大丈夫だ! お前の主人の所へ連れてってやるからな!」

 

 説明もほどほどにナオトは掻っ攫うようにしてコダックを脇に抱え、急いで来た道を戻ろうとする。

 しかし、その途中で廊下の明かりがふっと消えた。船の底に空いた穴から海水が入り込んだ影響で、電気系統がやられたのだ。すぐさまエレベーターのパネルを押すが、当然無反応。扉はその口を閉じたまま開く様子を見せない。

 

「くそっ! こんな時に!」

 

 まだ非常階段で降りるという手があるが、この二十階以上の高さがある居住区を悠長に階段で降りていたら恐らく間に合わないだろう。

 そう考えて視線を巡らせたナオトの視界が、一瞬白く染まる。稲光が窓を通して暗くなった廊下を照らしたのだ。薄まる光の中、その窓を見つめるナオトの耳に雷鳴が轟く。

 

「……アイ、コダック。しっかり捕まってろよ」

「コダ?」

 

 何するつもり? と言いたげなコダックを無視して、深呼吸をして目を閉じる。アイはナオトが何をしようとしているのか察したのか、返事の代わりにぎゅっと彼の肩にしがみついた。

 そして、意を決したようにナオトは目を開ける。怖気づいてなんかいられない。足に力を入れ、一気に駆け出す。

 

「──おおおおぉぉッ!!」

「コパアアァァーッ!!?」

 

 慣れない雄叫びを上げながら一気に駆け出し、目の前の窓に飛び込んだ。

 パリンッと割れて飛び散った窓ガラスが頬に切り傷をつける中、ナオトは嵐の中に放り出される。そんな彼の視界を再び稲光が遮り、雨が容赦なく身体を濡らす。そのまま重力に従って真っ逆さまに落ちるナオトの目線の先に傾いた甲板が近づいていく。

 

「アイ! じんつうりきだ!」

「ミャッ!」

 

 落ちながら出されたナオトの指示にアイが応える。アイが念じると同時に、青白い光がナオト達を包んだ。エスパータイプの技であるじんつうりきの力によって落下速度が徐々に低下していく。しかし、嵐に煽られて精度に乱れが生じたためか減速が足りない。このままではかなりの速度を保ったまま甲板に激突してしまう。

 

「ク、クワッ!」

 

 状況を察したコダックがその目を光らせ、ねんりきを発動する。アイのじんつうりきにコダックのねんりきが加わったことで、落下速度は見る間に減速していく。そして間一髪、甲板スレスレの所で落下を止めることに成功した。ナオトはアイとコダックに技を解除させて、着地する。

 

「よくやったアイ! それにコダックも、ナイスアシストだ!」

「ミャウ!」「コッパァ」

 

 一息吐いている時間はない。ナオトは急いで二匹を連れて救命艇がある場所へ走る。

 最短ルートを通ってアヅミと別れた場所に近いプロムナードデッキに移動すると、丁度彼女がクルーズのスタッフに引っ張られて無理やり救命艇に乗せられようとしていたところだった。どうやら、あれが最後の救命艇のようだ。カイリキー達の姿が見えないが、恐らくモンスターボールに戻したのだろう。

 

「さあ、早く乗って!」

「待って! まだスイートハニーコダックちゃんが! それにナオトさんも!」

「もう待ってる時間はない! 諦めるんだ!」

「ちょっと、それは困るな!」

 

 ナオトは急いでアヅミの元へと駆け寄る。コダックを抱えたナオトがやってくるのを見たアヅミは破顔して彼を迎えた。

 

「ナオトさん!」

「ほら、もう離すなよ」

 

 そう言って、ナオトはコダックを彼女の手に渡す。アヅミは愛しのコダックが自分の腕に中にいることに感極まったのか、大粒の涙を流しながら彼を溢れる感情のままに抱きしめた。コダックは苦しそうに困った顔を浮かべながらもされるがままになっている。

 

「間に合ったようで良かった。さあ、感動の再会は後回しにして、早く乗って!」

「あっ!」

 

 スタッフに引っ張られて、アヅミはコダックを抱きかかえたまま救命艇の中に入れられる。ナオトもそれに続こうと救命艇の入り口に足をかける。

 

 

 ──その時、船が鈍い音を立てて大きく傾いた。

 

 

「うわっ!」「ミャア!?」

 

 船が急激に傾いた影響で、ナオトは足を踏み外す。すぐにも降ろそうとしていた救命艇は安全装置が解除されており、そこに衝撃が加わったことでダビットから海上へ降下してしまう。

 もはや海面に対して垂直に近い状態になったデッキの上を転がり落ちていくナオト。アイにじんつうりきを指示する余裕もない。ぐるぐると回る視界の中で必死に掴める場所を手探りで探すが、それは悪手であった。伸ばしていた左腕が転落防止の柵に強くぶつかり、そのまま海へと投げ出されてしまう。

 

「ああっ! ナオトさん! 早く助けないと!」

「おいバカ! 何やってんだ!」

 

 海に落ちたナオトを助けようとアヅミが救命艇のハッチを開けようとするが、周りの者達がそれを許さない。今ハッチを開けてしまえば海水が流れ込んで自分達が危険に晒されてしまう。

 

「でも、ナオトさんが! お願い! 誰かナオトさんを助けて!」

 

 アヅミが必死に訴えるが、誰もが黙りこくるばかり。沈痛な面持ちで少女の訴えを拒否するしかなかった。そんな居た堪れない空気の中、救命艇に備え付けられた無線から船長の声が届く。

 

 

『えー、皆さん。点呼を行います。ここにいない人は返事をしてください! …………うん。全員無事。良かった良かった』

 

 

 頭がどうかしているのではないかとしか思えないその言葉は、当然ナオトの耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 船外のアトラクションに使われていた物だろうか、荒波に浮かんでいた木材の破片に必死にしがみつくナオト。落ちた際に打ちつけた左腕から走る激痛が意識を削ぎつつある中、息も絶え絶えになりながらも覆い被さる雨と波に耐える。

 幸い、一緒に落ちたアイとは離れ離れにならずに済んだ。ナオトがしがみついている木材に乗ったまま、じんつうりきを使ってナオトを浮かばせようとしているが、足場が悪く荒波が襲ってくる状況では集中が乱れて上手くいかない。

 

「……アイ。僕のことはいいから、モンスターボールに戻れ。そうすれば、少なくともお前は助かる」

「ミャッ!? ミャウ! ミャウ!」

 

 ナオトの言葉に、アイはイヤだと首をブンブンと横に振るわせる。雨とも涙とも分からない水が散らばった。

 痛みでまともに動かせない左腕を木材の上に乗せて、右腕でベルトのホルダーからモンスターボールを取り出す。それを持ち上げ、アイに向けた。

 

「ミャア!」

「悪い、アイ」

 

 止めようとするアイの身体を、ボールの中心から放たれた赤い光が貫く。その光に包まれて、アイは悲しげな顔を残したままボールに収納された。

 

「……ああ、くそ」

 

 ナオトは下半身を海に沈めたまま力無く木材の上に倒れ伏す。薄れゆく意識の中で、ここ最近の出来事が走馬灯のように頭に思い浮かぶ。

 カロスリーグでの事件を境に何事に対しても無気力になり、ここ一年ずっと怠惰な生活を送り続けていた。自殺願望というほどでもないが、このままこんな生活が続くなら生きていてもしょうがないのではないかと考えたこともなかったわけではない。

 

 そんな自分が、何を今さらと嘲笑われるかもしれない。

 でも、それでも、ポケモン達はこんな不甲斐ない自分を健気に支えようとしてくれている。その中には、問題を抱えたまま解決できていないポケモンもいるのだ。

 そうだ。まだ自分にはやるべきことが残っている。

 

 だから──

 

 

「…………僕はまだ、死ぬわけには……」

 

 

 その言葉を最後に、ナオトの意識は深い闇の底に沈んでいった────

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 場面は移って、ここはカントー地方の南──オレンジ諸島の果てにあるアーシア島。

 嵐の影響でオレンジ諸島近海は荒れに荒れていたが、それも昨日までの話。今朝からは雲一つない青空。嵐の分を取り返さんと言わんばかりにカンカン照りの晴天だ。

 

「──ん~! いい天気!」

 

 島の住人である少女が気分良く穏やかな潮風を受けながら伸びをしている。彼女は昨日の嵐で憂鬱な気分になっていた気持ちを晴らすために浜辺へ散歩に出ていた。

 嵐が過ぎた後は何か良いことが待っている。そんな話があったかどうかは定かではないが、沸き立つ気持ちに押されるようにして少女は砂浜に足跡をつけていく。そこへ、丘の上から少女の姉らしき人物が声をかけてきた。

 

「フルーラ! 朝ご飯できたわよ!」

「はいはーい」

 

 フルーラと呼ばれた少女は片手をひらひらさせて呼びかけに答えた。

 

「はいは一回で結構! あんた、ご飯食べ終わったら笛の練習があるの忘れてないでしょうね? もうすぐお祭りなんだから」

「練習なんて必要ないわよ。私もうお姉さんより上手だって言われてるんだから。それにもうすぐたって、まだ一ヶ月以上もあるじゃない」

「まだじゃなくて、もう一ヶ月と少ししかないの! いいから、早く戻ってご飯食べちゃいなさい!」

「はーい」

 

 唇を窄めて文句を返す少女に、姉は口答えは許さないという態度で叱りつける。少女は「せっかく何か良いことがありそうな予感がしてたのに……」とぶつくさ文句を言いながら浜辺を出て丘を登ろうとした。

 

「……あれ?」

 

 その途中で、岩の影に見慣れない物があるのが目に入る。気になった少女は何気なしにその場所を覗いてみた。

 

 

 ──そこには彼女と同い年ぐらいの青い髪をした少年がうつ伏せに倒れていた。

 

 

 弾かれたように少年の元に駆け寄る少女。一瞬ドザえもんかと思ったが、口に耳を近づけて息があることを確認。そのことに安堵した少女は、島育ち故の応急処置の知識からひとまず気道を確保するために少年の身体を横向きに寝かせようとする。

 

 その時、改めて少年の顔を間近で見た少女は目を見開いた。

 

 顔は整っているが、特別優れているというわけでもない。それでも、少女の視線は少年に釘付けとなっていた。まるで吸い寄せられるように。無意識に、固く目を閉じた少年の頬に触れようとする。

 

「……っ!」

 

 しかし、触れようとした寸前で少女は我に返る。慌てて立ち上がり、急いで姉を呼びに走り出した。

 

「──お、お姉さん! ちょっと来て!」

 

 

 




■怪傑ア☆ギルダー
BW編第57話「快傑ア☆ギルダーVSフリージ男!!」のゲストキャラ。
パートナーのアギルダーと共にホドモエシティの平和を守るために日夜戦う戦士。
なお、今後登場する予定はない。

■フルーラ
「ルギア爆誕」のゲストヒロインにして今作のヒロイン。
アーシア島の巫女で、流れ着いたサトシに対して出会い頭に歓迎のキスをする。
サバサバした性格をしているが、責任感は人並み以上に強い。


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