ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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今回、原作の展開とあまり変わりがありません。
ご容赦ください。



24. ジラルダン、ふたたび ▼

 火の島を目指し、叩きつけるような激しい雨と荒波を掻き分けるようにして船を突き進めるフルーラ。その船には彼女を追いかけてきたカスミとケンジも同乗していた。

 

「でも、正直見直したわ」

「何が?」

 

 ひどい揺れにも構わず、ふいにカスミが口を開いてフルーラにそう告げた。フルーラは彼女の方を振り向いて首を傾げる。

 

「ナオト君を連れていかなかったことよ。弱い男の子を守ってあげるのがホントの女の子だものね」

「あら、気が合うじゃない」

「ちょっ、前! 前!」

 

 その横で、あたふたと慌てるケンジ。見ると、前方から船を覆い潰すほどの高さの波が迫ってきていた。

 

「任せて!」

 

 波を前にして、フルーラはポシェットからモンスターボールを取り出して投げた。宙でボールが開き、光が夜闇と降り注ぐ雨を照らす。

 

「シャワッ」

「嘘っ! シャワーズ!?」

 

 中から出てきたシャワーズを見て、カスミが驚きを含んだ歓声を上げる。

 

「シャワーズ! ハイドロポンプよ!」

「シャワアァ!」

 

 ハイドロポンプを指示されたシャワーズは、その小さな口から想像できないほどの大量の水を迫る大波に向けて怒涛の勢いで放出する。みずでっぽうの比ではないそれは見事に大波を撃ち抜き、二股に割いてみせた。フルーラ達の船はその間を難なく通り抜けていく。

 

「いいなぁ、シャワーズ……」

 

 船頭に着地したシャワーズを見ながら、羨ましそうに呟くカスミ。

 

「そう? この子誰に似たのかってくらい性格きついわよ。ゲットしたばかりの頃なんてちっとも言うこと聞いてくれなかったんだから」

「上等! わたし、みずタイプのポケモンを極めるのが夢なんだもの!」

 

 カスミは拳を握ってそう豪語する。彼女のフルーラに対しての一方的な悪感情はいつの間にか雨に流されていた。

 対するフルーラも散々ガンを飛ばしてきていたカスミが話してみれば意外と気が合うことが分かって、思わず笑みを浮かべている。

 

「ふ~ん。それならまずはナオトのコイキングに勝てなきゃね」

「え? コ、コイキング?」

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 少し時は戻って、一方のナオト。

 彼は集会所を離れた後、村を適当にあちこち歩き回っていた。タケシには寝ると言ったものの、フルーラと喧嘩している状態で彼女の家に厄介になるなんて厚かましい真似は気が引けたからだ。

 

「あ、アイツ、例のバトルで負けた奴だ」

「オレンジリーグに挑戦してるって聞いたから、もっとできるかと思ってたんだけどな」

「ちょっと、よしなさいってば」

 

 そうして村を歩いている間、ナオトに注がれるのは住民達の蔑んだ目。普段なら少し気になる程度で済んでいただろうが、集会所での出来事のせいかナオトは無性にその視線から逃げたい気分に追い立てられていた。

 

 結果、彼は自然と足を向けたのは村外れの人気のない所。以前にも訪れた、例の古びた祭壇がある岬と続く洞窟だ。

 

「……はぁ」

 

 嘆息し、洞窟の入り口の壁に背を預けてドサリと腰を下ろす。

 

「ミャア」

 

 その隣に立ったアイが、ナオトの頭をよしよしと撫でた。励ましているつもりであろうそれを振り払うわけにもいかないし、する気力もないのでナオトはされるがままだ。

 ナオトの頭を撫で終えたアイはそのままぺたんと地面に座り、どこからか拾ってきた木の棒で土弄りをし始める。

 

「……アイ、ごめんな。ゲンガーを出すから、一緒にお祭りを楽しんできていいぞ」

「ミャウミャ」

 

 退屈なのだろうと思ったナオトはそう言って謝り、ゲンガーの入ったモンスターボールを手に取ったが、アイは首を横に振って笑顔を返した。お神輿や氷像を見て回ってもう十分楽しんだと言いたいのだろう。

 自分のことを気遣ってくれていることを嬉しく思いつつも、トレーナーとして不甲斐なさすぎる有様に申し訳なさを感じてしまうナオト。

 

 そこでふと、ナオトはあることを忘れていたことに気づき、バッグに手を入れる。中から取り出したのは、ウチキド博士から受け取ったGSボール。サトシに渡すよう頼まれたのだが、すっかり忘れてしまっていた。

 

 まあ、明日にでも渡せばいいだろう。

 そう呑気に考えるナオトの頭上に、間もなく暗雲が立ち込め始める──

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 何とか荒波を越えて火の島にまでやってきたフルーラ達。

 あれほど激しく降り注いでいた雨はいつの間にか止んでしまっていたが、未だ風は吹き荒れている。

 

「「わぁっ!?」」

 

 島に着いたことで少し気が緩んでしまったせいか、フルーラ達の船は波に攫われて船ごと高い岩山に乗り上げてしまった。

 そのすぐ近くの岩浜には、同じような形でみっちゃんの船が座礁しているのが見える。フルーラ達の悲鳴を耳にして、みっちゃんが船から顔を出した。

 

「貴方達、助けに来てくれたの!?」

「そうだけど、逆に助けが必要かも……」

「ああ~……みたいね」

 

 岩山の上にポツンと残されたフルーラ達の船。もう一度高波が来てくれでもしないと降りるのは難しいだろう。

 

「あの、サトシはどこにいるんですか?」

「彼なら島の頂上に向かったけど……」

「ええっ、嘘!」

 

 フルーラは信じられないとばかりに口を開く。

 こんな状況でまだ操り人の儀式を続けようとしているのか。頼んだのは彼女自身だが、やる方もやる方である。

 

「うわっ!?」

 

 その時、フルーラ達の船が強風に煽られて独りでに前へと動き始めた。船底がゴリゴリと嫌な音を立て、そのまま岩山からずり落ちようとする。

 

「わ、わわ、落ちるッ!」

 

 だがそこはフルーラ。冷静に操縦席の下にある取っ手を引っ張り上げる。そうして、以前ピンクのポケモン達がいた島でやったように帆を展開させた。

 広げられた帆が風を受け止め、眼下の岩浜に落下しそうだった船はぐわりと宙へ舞い上がる。フルーラは器用に取っ手を扱って帆を操作し、安全な速度で見事に頂上へと続く階段の上に着地してみせた。

 

「すごい……」

「で、でもっ」

 

 カスミが慌てた声を漏らす。

 無事に着地した船だったが、再び帆が強風に押され階段を削りながら上へと登り始めたのだ。

 

「ちょうどいいわ。このまま頂上まで行っちゃいましょう! サトシ君もいるわけだしね!」

「あ、あんたも大概ね……」

 

 そうして船は風の向くままに階段を滑走し、一気に宝が納められた祭壇がある頂上付近まで登りつめる。

 しかし、その視線の先でフルーラ達に背を向けた状態のまま何やら高らかに口上を述べている男女とポケモンらしき姿が目に入る。

 

「銀河を駆けるロケット団の二人には!」

「ホワイトホール、白い明日が──「ちょっと! そこどいてッ!」

「「えっ? ひゃあああぁぁーーッ!?」」

 

 間一髪で迫るフルーラ達の船を避けた二人組とポケモン。

 彼らが空けた道を通り、一行は石造りの門を潜って頂上に辿り着く。以前フルーラがナオトと一緒に足を踏み入れた場所だ。祭壇の前にはみっちゃんの言った通り、サトシとピカチュウがいた。

 

「「サトシッ!」」

「カスミ、ケンジ! それにフルーラさんも!」「ピッカ!」

 

 サトシの無事を喜ぶ一行であったが、サトシの手に握られている宝の珠を見たフルーラは呆れた顔で声を上げる。

 

「あのねぇ! 送り出した私が言うのもなんだけど、こんな天気の中でここまで来るなんて、あんたどういう神経してるわけ?」

「えっ? いや、でも、ピカチュウがさ……」

 

 ピカチュウに目を寄越し、困ったように頭に手をやるサトシ。

 カスミもフルーラに同意するように頷いた。

 

「ホントよ。こいつに付き合ってるあたしの苦労が分かるでしょう?」

「ええ、もちろん。カスミはサトシ君のことが好きなんでしょ? ようするに」

「ち、違うわよっ!」

 

「──ちょっと、アタシ達を轢き殺しかけておきながら何くっちゃべってんのよ」

「そうだそうだ!」

 

 そんな会話を繰り広げていると、横から女性と男性の声が割って入ってきた。

 見ると、先ほど轢きかけたばけねこポケモンのニャースを連れた謎の二人組があちこち汚れた状態でフルーラ達を睨みつけていた。着ている服はどことなくドミノの服に似ている。

 

「大体、アンタ達みたいなジャリ共が男女交際スキだキライだで揉めるなんて十年早いのよ!」

 

 二人組の片割れ、赤い長髪の女がそう悪態を吐く。

 

「あら、私達もう独り立ちできて結婚も出来る年齢なんだから、むしろ十年経ったら遅いくらいだと思うんだけど。というかあんた達誰よ?」

「こいつら、ロケット団のムサシとコジロウ! まあ簡単に言うと、サトシのピカチュウのストーカーね」

「へえ、私達もロケット団のドミノって女にストーカーされてたのよ。ホント、ロケット団ってロクなことしないのね」

 

 フルーラは話題に出しながらドミノのことを思い浮かべる。

 ビッグシティでロボットごと自爆して以来顔を見ていないが、今頃どこで何をしているのだろうか?

 

「失礼なガキ共だニャ。むしろニャー達はロケット団としてロクなことしかしてないのニャ」

「その通り。ロケット団の鏡とは、まさに俺達のことを言う」

 

 二人の会話を聞いたニャースが心外だとばかりに口を器用に動かして喋る。コジロウがうんうんと頷きながらそれに同意した。

 

(うん? 今あのポケモン喋らなかった?)

 

 フルーラがそう首を傾げた──その時だった。

 空に浮かぶ暗雲に、突如電撃が走ったのだ。

 

「な、何!?」

 

 見上げると、そこにはピカチュウの比ではない電撃をその身に纏った、まさに雷を体現したような怪鳥が空を舞っていた。

 

「あ、あれって、もしかしてサンダー……?」

 

 三鳥の内の一体であるファイアーと接触したことがあるフルーラは、その姿と纏っている神気を感じ取ってそう推察する。その特徴的な鋭い翼は羽ばたく度に煌めき、バチバチと身に宿した膨大な電気エネルギーを空気中に放電させている。

 しかし、雷の島にいるはずのサンダーがどうしてファイヤーの縄張りであるこの火の島に? 

 

「ギョーオ!」

 

 サンダーが祭壇の真上に舞い降りると、島全体が彼の膨大な電気エネルギーを受けてぼんやりと青く輝き始める。

 

「ピカ、チュゥゥーッ!」

 

 そんな中、ピカチュウが微弱な電撃をサンダーに向けて飛ばし始めた。

 

「ピカチュウ、何やってるんだ!?」

「そうか、きっと会話しようとしてるんだよ! でんきタイプのポケモンは電気で言葉を交わすことができるんだ!」

 

 ケンジがそう解説すると、サンダーからピカチュウに対して電気ショックを返してきた。微弱ではあるが、勢いの強いそれにピカチュウは弾き飛ばされてしまう。

 

「ッ、ピカ!」

「ピカチュウ!」

 

 転がってきたピカチュウを受け止めるサトシ。彼らの元へ、ニャースが会話の内容を聞くべく駆け寄った。

 

「ピカチュウ、サンダーは何て言ってたニャ?」

「ピカ、ピカピカ、ピカチュウ」

「ふむふむ……『この島の主はもういない。我々の主人も姿を現さない以上、私は私の好きにさせてもらう。この島はもう私の島だ』と言ってる?」

 

 ニャースがピカチュウから会話の内容を聞いて通訳しながら首を傾げる。

 

「我々の主人?」

「サンダーやファイヤー達に主人がいるってこと? そんな……」

 

 サトシ達やフルーラがそんな疑問を浮かべる中、サンダーがふいに上空を睨んだ。

 

「ギョォーッ!」

 

 そして、雲へ向けて放電する。

 その電撃に吸い寄せられるようにして現れたのは、島を覆い隠せるほどの巨大な飛行船。城のような形をしたそれは、所々鉄骨が丸出しで建設途中を伺わせるような出で立ちをしている。

 

「ナニナニ、何なのよアレは!?」

 

 ムサシが慌てふためく中、その飛行船の下部から四角形の形をした機械が幾つも飛び出してくる。

 

「あれって、まさか……!」

 

 それに似た物を見た覚えがあるフルーラが思わず声を漏らす。

 

「ギョア―!」

 

 近づいてきた機械を迎え撃たんとサンダーが飛び立つ。だが、機械は二手に分かれ、その片割れがフルーラ達の元に向かって来た。

 

「「「わああぁぁーっ!?」」」

 

 フルーラ達を囲った機械から電磁波がほどばしり、船ごと拘束されてしまう。その中にはロケット団の連中も含まれていた。

 そのまま宙を舞い、一行は飛行船へと連れ去られてしまうのであった。

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 雨が降ってきたために洞窟から出られなくなったナオトとアイは、止むのを待っている間にいつの間にか眠ってしまっていた。

 そんな彼の肩を、誰かが揺り動かす。

 

「──ナオト……ナオト、起きろ!」

「うっ……タ、タケシ?」

 

 ナオトが目を覚ますと、寝ぼけ眼の視界に映ったのはずぶ濡れの身体をしたタケシであった。今の今まで、ナオトのことを探していたらしい。

 目を擦ったナオトはタケシの姿を再度見て首を傾げる。彼の肩や頭には見慣れぬ白い粉のような物が積もっていたのだ。

 

「……は? な、何だこれ!?」

「ミャ……? ミャウッ!?」

 

 ナオトと続けて起きたアイはタケシ越しに洞窟の外を見て、眠気が吹き飛ばされるほど驚く。降っているのは雨ではなく、南国に似合わぬ雪であったのだ。

 

「雨はしばらくして止んだんだが、今度は雪が降り始めてな……」

 

 タケシが肩に積もった雪を払いながら話す。

 明らかに異常気象である。一体何が起こっているのだろうか?

 しばし呆然としていたナオトであったが、ハッと我に返る。

 

「……そ、そうだ。タケシ、フルーラは?」

「こんな天気の中サトシを送り出してしまったから、責任を感じてカスミ達と一緒に火の島へ向かったよ」

「そんなっ……大丈夫なのか?」

「フルーラの操縦の腕はナオトもよく知ってるだろう? ヨーデルさんも長老さんの家に避難してるみたいだから、俺達もひとまずそっちに向かおう」

「あ、ああ……」

 

 そう言って、タケシは洞窟を出て長老の家へと向かい始める。

 ナオトもアイを連れて彼の後に続くが、その顔は終始落ち着きがなく心ここにあらずといった様子であった。

 

 

 

 長老の家に着くと、長老とヨーデル、それに他に避難してきた島民達がテレビに釘付けになっていた。

 

『この深層海流、異常の中心はオレンジ諸島・アーシア島辺りと思われます。さらに原因は不明ですが、世界中のポケモン達がアーシア島を目指して移動し始めているようです』

「ヨーデルさん」

「タケシ君! 良かった、ナオト君見つかったのね」

 

 ナオト達はそのままヨーデルに並んでテレビに目を向ける。

 この報道はヘリコプター内から中継されているようだ。そのヘリコプターにはポケモン研究の世界的権威として有名なオーキド博士、それにウチキド博士が同席していた。

 リポーターがオーキド博士にマイクを向け、この異常気象についての解説を求める。

 

『アーシア島近辺には三つの島が存在し、そこにはそれぞれ火、雷、氷の神が住まうという言い伝えがある。話に出た深層海流はその神々の力によって作り出されたものなんじゃ。この海流は全ての生命の故郷である同時に、この星の気象と自然の調和を司る場所でもあるというわけじゃな』

『はあ。つまり、どういうことですか?』

『その神々のパワーバランスが何らかの原因で崩れた、ということです。ポケモン達は、自然界の滅亡を予感して集まってきているのだと思います。この星に住む生き物として何かしないではいられないという、その本能に従って』

 

 このままでは、世界は滅亡の道を辿ってしまう。オーキド博士とウチキド博士はそう語った。

 

「そんな……フルーラ」

 

 ヨーデルがこの大変な状況の真っ只中にいる妹のことを心配して、顔を曇らせる。

 

「……ッ」

 

 ナオトも同様にフルーラを案じて顔を歪ませる。早く助けに向かわなければ。しかし、自分が行って何かできるのかという思考がその行動を思い留まらせる。

 そんな彼の肩を、タケシが掴んで振り向かせた。

 

「ナオト、フルーラ達を助けに行こう」

「ミャウッ」

 

 アイもナオトの服の袖を掴んで、タケシと同様に訴えている。

 

「……でも、僕が行ったってしょうがないだろ。むしろ、こんな体たらくじゃ逆に迷惑かけるだけだ」

 

 しかし、ナオトはそうかぶりを振って答えた。

 その言葉に眉を潜めるタケシ。彼は窓を見て雪が止んでいるのを確認すると、おもむろにナオトの腕を乱暴に掴んで引っ張り始める。

 

「……ちょっと一緒に来い」

「ちょっ、な、何だよタケシ!」

 

 ナオトは突然のことに戸惑いながらも、逆らってはいけない空気を感じて大人しく従う。アイもあたふたとその後を追うのであった。

 

 

 

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 謎の機械によって飛行船の中へと連れて行かれたフルーラ達とロケット団は、船から降ろされて鳥籠型の檻に閉じ込められてしまっていた。

 

「ギヤーオ!」

「ギョォーッ!」

「サンダー……それに、ファイヤーまでいる!」

 

 両隣には機械の輪で拘束された状態のままのサンダーとファイヤーがいた。

 ファイヤーは以前ナオトとフルーラを襲った、あのファイヤーだろう。火の島にいなかったのは、サンダー同様捕まっていたからだったのだ。

 

「これは……」

 

 サトシ達がその二体に注目している中、フルーラは目の前にあるショーケースの中の石版を檻越しに見て目を見開く。その石版には、アーシア島の岬にある石碑と同じ内容が書かれていたのである。

 

 その時、中央に聳えていた柱が突然下へと下がり始めた。

 降下するその柱の上には、人一人が座ることができる玉座が備え付けられている。そこに座っている人物を見て、フルーラが声を上げた。

 

「やっぱり……あんただったのね!」

「招待状もなしに誰がやってきたかと思えば、いつか出会った娘ではないか」

 

 その人物──ジラルダンは、以前会った時と同じ紳士的な笑みを浮かべたまま、招かれざる客を歓迎する。口振りからして、フルーラ達は彼の意図せずして巻き込まれてしまったようだ。

 

「ジラルダン! あんた、よりにもよってファイヤー達を狙ってたなんて!」

「知ってるの?」

「前にピンカン島でピンク色のトランセル達を同じような方法で捕まえようとしてたの。自分のコレクションに加えるとか何とか言って。その時はナオトと一緒に止めたんだけど……」

 

 それを聞いたジラルダンは檻に閉じ込められている者達を順に見比べ始め、「彼は一緒ではないのかね?」とフルーラに尋ねた。彼、とはナオトのことだろう。

 

「ナオトならいないわよ」

「そうか……彼とはぜひ改めて交渉したかったのだがね」

 

 本当に残念そうに呟くジラルダン。

 そこへ、隅にある扉が開いて一組の男女がフルーラ達のいるコレクションルームに入ってきた。二人共胸にRのマークが書かれた服を着ているが、男の方はなぜか仮面を被っている。

 

「アイツら、もしかしてロケット団?」

「なんですって!? ちょっと、そこどきなさいよ!」

 

 彼らを見たケンジの呟きを聞いてムサシがサトシ達を押し退けようとする中、仮面の男がジラルダンに向かって口を開いた。

 

「どうやら、サンダーの方も無事に捕獲できたようですね」

「ああ、見ての通りだよ。やはり、キャプチャーリングの耐久性を改良するよう頼んだ私に間違いはなかったようだね」

 

 皮肉るような態度のジラルダンに、仮面の男は「フンッ」と小さく鼻を鳴らす。

 その男の影に隠れる形でいた女の顔を見たフルーラは、あっ! と声を上げた。金髪の巻毛に切れ長の目。間違いない、ドミノだ。

 

「ドミノ! あんた、ジラルダンとグルだったのね!」

 

 フルーラの糾弾に対して、ドミノはそっぽを向いて知らん顔を決めている。

 

「ほお……元Aクラスナンバーズのお前が、まさかあんな子供と知り合いとはな」

「はんっ、知らないわよ。あんなガキ!」

 

 仮面の男の嫌味な言葉に、ドミノはそう乱暴に返す。

 そして、今度はムサシとコジロウが男を見て声を上げた。 

 

「あっあっ、貴方様は! ロケット団最高幹部の……」

「仮面のビシャス様!?」

「ニャ―達、巻き込まれて掴まってしまったんですニャ! 早く出してくださいニャ~!」

 

 ロケット団はそう助けを求めるが、ビシャスと呼ばれた男は仮面の上からでも分かるぐらいに眉をひそめた。

 

「誰だ? コイツらは」

「さあ。どうせ下っ端の下っ端でしょう」

 

 ゴミを見るような目で彼らを一瞥する二人。

 

「そんなことより、残るはフリーザーだけだ。そっちはどうなっている?」

 

 ビシャスの問いに対して、ドミノが腕に抱えていた端末を操作して答える。

 

「フリーザーは氷の島から移動を始めたみたいね」

「では、私は捕獲作業に戻らせてもらおう。君達は引き続きキャプチャーシステムの調整を続けたまえ」

 

 ジラルダンはそう言って玉座に座り直し、柱を上昇させて天井の上へと移動していった。

 

「……そいつらが妙な真似をしないよう監視しておけ」

 

 ビシャスはドミノにそう言いつけ、コレクションルームを出ていく。

 それを見届けたドミノは檻に近づいて檻越しにフルーラを煽り始めた。

 

「いい気味ね、ジャリガール。貴方みたいなピーピーうるさいガキはその鳥籠の中がお似合いよ」

「なんでロケット団があんな奴と協力してるんだ!」

「そうよ! ポケモンをコレクションにしようだなんて、捕まえるなら正々堂々とバトルしてゲットしなさいよ!」

 

 サトシとカスミが文句をぶつけるが、ドミノは「ハッ!」とせせら笑う。

 

「ロケット団の辞書に正々堂々なんて言葉があると思って? あのジラルダンっていう紳士気取りはスポンサーよ。伝説のポケモンを自分のコレクションに加えるために、ロケット団に投資してあのキャプチャーシステムと捕獲用のリングを開発させたってわけ」

 

 どこか他人事な態度でそう話すドミノ。フルーラはそんな彼女を檻の柵を握って睨みつける。

 

「ドミノ、あんた自分達が何をやってるのか分かってるの? このままじゃ、世界が大変なことになるのよ!」

「ど、どういうこと?」

 

 突然話のスケールが上がったことに戸惑うカスミ。フルーラは先ほど見た石版を牢越しに指差した。

 

「火の神、雷の神、氷の神に触れるべからず。されば天地怒り、世界は破滅に向かう……アーシア島に伝わる言い伝えは本当だったのよ!」

 

 事実、飛行船の窓から覗く空は吹雪が舞っていた。こうしてファイヤー達が捕らえられたことで世界は異常な状態に陥っているのだ。

 

「分かったら早く檻から出して! あんただって世界を破滅させたいわけじゃないでしょ!?」

「そ、そうだ! 世界がなくなったら、悪いこともできなくなるぞ!」

「世界の破滅を防ぐため、世界の平和を守るため、愛と真実の悪を貫くのがロケット団でしょうが!」

 

 フルーラに加えて、コジロウとムサシも説得に加わる。

 

「そのことについてはアイツ……ビシャスも把握済みよ。私は何も聞かされちゃいないけど、何かしらの対策ぐらいは用意してるんじゃない? 仮にも特務工作部から幹部にまで成り上がってきたヤツですもの」

 

 そう返すドミノ。ムサシ達によるとビシャスはロケット団の最高幹部らしいが、ドミノからは彼に対する敬意は全くと言っていいほど感じられなかった。

 

「そんなの信じられるか!」

「そうだ! ロケット団の作るメカなんていっつも欠陥品じゃないか!」

「あらまー、はっきりと言ってくれっちゃって」

「俺達だって頑張って作ってるんだぞぉ……」

「常に予算不足にゃからどこかしらに欠陥があるのは仕方ないのニャ……」

 

 ケンジとサトシの言い分に、人知れず嘆くロケット団。

 

「ドミノ……っ!」

 

 フルーラが懇願するようにドミノを見つめる。

 その視線から目を逸らしていたドミノはふいに檻の中に目を通し始め、目当ての人物がいないことを確認する。

 

「……そんなことより貴方、いつものジャリボウヤが見当たらないみたいだけど……まさか、喧嘩でもしたのかしら?」

 

 口端を歪めてそう尋ねるドミノ。

 図星を突かれたフルーラは思わず目を伏せてしまう。それを見たドミノは上機嫌になり、檻越しにフルーラの目の前まで近づいた。

 

「あら、やっぱりそうなの? ということは、あのジャリボウヤは島に置いてけぼりってわけ。ふ~ん。へ~、そう。じゃあせっかくだし、ゾロアのついでに私が頂いちゃっても構わないわよね」

「は、はぁ? ダメに決まって──」

 

 フルーラは思わず檻から身を乗り出そうとする。そんな彼女の襟元にドミノがスッと鍵を忍ばせた。

 

「えっ」

 

 フルーラは動揺しながらもその鍵とドミノを見比べる。彼女は愉快そうに笑みを浮かべていた。

 

「冗談よ冗談……さてと、貴方達の監視なんて退屈すぎてやってらんないから、私は私で好きにさせてもらうわ。それじゃごきげんよう、バッハハーイ」

 

 そう言って、ドミノは扉の向こうへと去っていってしまった。

 

「あっ、待ちなさいよ!」

「檻を開けてけ!」

 

 周りが騒ぐ中、その場にしゃがみこむフルーラ。

 ドミノから渡された鍵を襟元から取り出し、柵の隙間から腕を突き出して手探りで檻の下に手をやる。丁度いいところに鍵穴があるのを見つけたので、そこに鍵を挿し込んで回してみた。

 

「「うわぁっ!?」」

 

 ガチャッという音と共に檻の底が開き、フルーラ達は床に落ちる。檻から脱出することができたのだ。

 なお、フルーラ以外の者達にとっては突然底が抜けたようなものなので、当然身構えることもできず各々尻もちを突くなど痛みに悶絶している。

 彼らを尻目にフルーラはすぐさまモンスターボールを投げ、シャワーズを出す。

 

「シャワーズ! ハイドロポンプよ!」

「シャワァッ!」

 

 そして、ファイヤーを閉じ込める機械──キャプチャーリングに向けてハイドロポンプを放たせる。次いで、サトシの方へと振り返った。

 

「何してるのサトシ君! 早くファイヤー達を助けなきゃ!」

「あ、ああ! 頼む、リザードン! フシギダネ!」

「グオオッ!」「ダネッ!」「ピッカ!」

 

 サトシがリザードンとフシギダネを繰り出し、ピカチュウと合わせてそれぞれの得意とする攻撃を放った。

 

「コジロウ、アタシ達もやるわよ! アーボック!」

「おうっ! マタドガス!」

 

 それを見たムサシとコジロウも、サンダーを解放しようとアーボックとマタドガスを出し、どくばりとたいあたりでキャプチャーリングを攻撃する。

 

「え~っと、ハイドロポンプに10まんボルト……H2とOに分かれるから……」

「ちょっとケンジ、さっきからうるさいわよ」

 

 ピカチュウ達が攻撃している様を見て、何やらブツブツ呟いているケンジ。

 

「そこにかえんほうしゃと来れば……うああっ! みんな伏せろ!」

 

 そんな彼が急にそう叫んだ。

 

 ──瞬間、爆発。

 吹き飛ばされるフルーラ達。ロケット団も巻き添えを食らってルームの隅まで飛んでいった。

 

「な、何が起こったんだ?」

「水素爆発だよ! 水が電気分解されてできた水素にリザードンの炎が引火したんだ!」

「でも、これだけの爆発ならあの機械も壊せたんじゃ……」

 

 カスミが期待の混じった声を漏らす。

 彼らが見守る中、舞い上がった煙がゆっくりと晴れていく。

 

「そ、そんな……」

 

 しかし、煙が晴れた先には依然としてリングに閉じ込められているファイヤーの姿があった。

 あれだけの爆発を受けてもビクともしていないようである。

 

「っ、もしかしたら……」

 

 フルーラの頭の中で先ほどのジラルダンの言葉が思い出される。

 

『やはり、キャプチャーリングの耐久性を改良するよう頼んだ私に間違いはなかったようだね』

 

 確か、そう言っていた。

 つまりフルーラ達がピンカン島であのリングを壊すことに成功したことによって、より強固に改良されてしまったのだ。

 

 これではファイヤー達を助けられない。

 フルーラはその事実に打ち伏せられて、床に尻もちを突いた体勢のまま起き上がることができない。

 

(もし……もし、ナオトがここにいたら)

 

 あの規格外のバンギラスであればファイヤー達を助けられるかもしれない。そのような考えが頭を過ぎった瞬間、フルーラはぶんぶんと首を横に振った。

 そんなことをすれば、またナオトが辛い思いをするだけ。彼をそんな目に合わせたくなくて本島に残してきたんじゃなかったのか。

 

 フルーラはおもむろに立ち上がると、リングに捕らわれたファイヤーの元へと駆け出す。そして、あろうことか電磁波の走るそのリングを素手で掴んでこじ開けようとし始めたのだ。

 

「……ッ!」

 

 電磁波によって皮膚が焼かれる音と今まで感じたこともない激痛にフルーラの顔が歪む。

 

「フルーラさん!」

「ちょっと、あんた何やってるのよ!?」

 

 サトシが声を上げ、カスミが騒ぐ。

 しかし、フルーラは彼らの声が聞こえていないのか、振り返りもせずリングを握って引っ張り続ける。

 

 ユズジムであんなことになってしまったのも私が旅に誘ったせい。

 嫌だって言ってたのに無理矢理操り人にしようとしたのも私。

 喧嘩して突き放したのも、私だ。

 

 ナオトを頼っちゃいけない。頼る資格なんかない。

 

「だから、私が何とかしなきゃ……ダメなのよ!」

 

 フルーラがそう叫んだ、その時であった。

 彼女の身体が、突然ぼんやりと青く光り始めたのだ。

 

「えっ……!?」

 

 その光は煙のように瞬く間に広がり始め、ファイヤーはおろかサンダーを拘束していたリングをも包み込む。

 サトシ達がその光景に目を奪われていると、光に包まれたリングからほどばしっていた電磁波が途切れる。そして、リングはカランカランという乾いた音を立てて床に落下した。

 

「ど、どういうこと……?」

 

 何が起こったのか分からず呆然とするフルーラとサトシ達。

 

「ギヤーーオッ!」

「ギヨーーッ!」

 

 解放されたファイヤー達が咆哮を上げる。

 サンダーがその身体が電気を迸らせ、強力なかみなりをファイヤーに向けて放った。

 

「ギャッ!」

 

 ふいを突かれたファイヤーは、それによって飛行船の壁ごと外へと吹き飛ばされてしまった。

 サンダーは翼を広げ飛び立ち、その後を追う。

 

「何事だッ!?」

 

 ルームの扉がバンッと開き、ビシャスが慌ただしげに入り込んできた。

 キャプチャーリングが壊されファイヤーとサンダーが逃亡しているのを見た彼は眉を潜めて舌打ちする。そして、遅れて呑気に入ってきたドミノを振り返った。

 

「見張りのはずのお前は持ち場を離れて何をやっていた?」

 

 そう追求するビシャスに、ドミノは心底どうでも良さげに笑う。

 

「申し訳ございません。ちょっとお花を摘みに行ってたもので。まさか、ビシャス様ご自慢のキャプチャーリングがあんなジャリ共にどうにかされてしまうだなんて、全く、これっぽっちも、思いもしませんでしたから」

 

 ドミノの嫌味たっぷりなその言葉にビシャスは顔を歪ませる。今頃ジラルダンも状況を把握して焦っているところだろう。

 が、その瞬間飛行船がガクンッと傾き始めた。外に飛び出たファイヤーとサンダーが飛行船のプロペラを破壊したせいで、航行不能になってしまったのだ。

 

 飛行船は黒煙を上げて目的地であった氷の島を通り過ぎる。

 そして、その先にある雷の島へと墜落していった──

 

 




もうお察しかと思いますが、ルギア爆誕本編の内容は然程原作と変わりありません。少なくともラスト間際までは。サトシの活躍を邪魔するようなことはしたくないので。
じゃあナオトは蚊帳の外のままで終わるのかと言うと、そういうわけではないのでご安心を。彼は彼でルギア爆誕的なことをします。

■カスミ「弱い男の子を守ってあげるのがホントの女の子」
無印編第9話『ポケモンひっしょうマニュアル』でカスミが発言した言葉。実にカスミらしい台詞。
別の話では「料理は男の仕事」とも口にしている。

■ニャース
原作の映画だとピカチュウとサンダーの電気による会話を直接通訳している。
いや、お前でんきタイプちゃうやろ。なんで電気会話が理解できるねん。

■ジラルダン
原作同様、これ以降ほとんど出番はない。
実は『我はコレクター』というキャラソンが存在する。

■ビシャス
『セレビィ 時を超えた遭遇』に登場したロケット団最高幹部の一人。このSSでは元特務工作部という設定。
元々は『ライコウ雷の伝説』のブショウとバソンを出す予定だったが、あまり登場人物を増やすと台詞回しや扱いに困るので彼一人に変更した。
捕まえたポケモンを凶悪に変貌させるダークボールを開発、所持している。


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