ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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ルギア爆誕を観てると、そもそもオタカラって何だ? 何で集めて笛を吹いたらファイヤー達の怒りが収まるんだ? とかそういう疑問点が浮かんでくるので、それらもできるだけ解消できたらなと思っています。



26. えらばれしあやつりびと ① ▼

「ミャウ! ミャウミャ!」

「うっ……こ、ここは?」

 

 意識を失っていたナオトがアイに揺り動かされて目を覚ますと、そこは元いた場所と変わらない洞窟の出口であった。

 

 ひとまず身体を起こしたナオトは、周りを見渡してみる。

 異常気象によって一面銀世界と化していた光景は影もない。むしろ、本来よりも緑が生い茂っている気がする。海も氷漬けになっていない。

 ただ、波はマンダリン島からアーシア島に戻ってきた時を思わせるような荒れ様だ。空も薄暗い曇天模様である。

 

 岬の方を見るとフルーラの姿はない。それどころか宝珠を収める祭壇さえなかった。

 そこまで来て、ナオトは自分がセレビィの時渡りに巻き込まれたことを思い出した。

 

(ということは……ここは未来? それとも過去か?)

「ミャウ」

 

 そう考えているナオトのズボンの袖を、ゾロアの姿のアイが不安そうに引っ張った。

 彼女は何が起こったか未だに分かっていないのだ。ナオトは片膝を突き、アイに自分達の置かれた状況を話した。

 

「……アイ。多分僕らはセレビィの能力で時渡り──つまり、タイムスリップしたんだと思う」

「ミャアッ!?」

 

 説明を受けたアイは信じられないとばかりに驚く。

 まだ状況を受け入れ切れてなく、不安そうな目でこれからどうするの? と尋ねるアイ。

 

「どうする……どうする、かな」

 

 意気消沈した力のない声色で呟いて俯くナオト。

 

 世界を救うなんて大それたことに挑もうとしていたわけではない。ただひたすら、フルーラを助けたい一心で彼女の元へ向かったのだ。

 その矢先にまさかの時渡りである。もはや出鼻を挫かれたどころかもぎ潰されたようなもの。どうしてこうなってしまったのか。

 

 そこまで考えたナオトは、ふと顔を上げて再び辺りを見回した。

 そもそもの原因であるセレビィの姿が見えない。元の時代に戻る唯一の方法は、もう一度セレビィに時渡りしてもらう他ないだろう。

 

「アイ。とにかく、セレビィを探そう。きっとこの島のどこかにいるはずだ」

「ミャウッ」

 

 思い立ったナオトはアイと共に再び洞窟へと入る。

 できるだけ急がなければならない。同じ時代に時渡りして来ているのは確実だろうが、もしも自分達を置いてまた時渡りしてしまったら今度こそ本当に帰るすべがなくなってしまうのだから。

 

 来た道を帰る形──時代は違うが──で洞窟を抜けると、元の時代ではある程度整備されていた道は雑草が生い茂った獣道と化していた。

 ナオトは自分の身長ほどにまで伸びた雑草にげんなりする。仕方がないとアイを頭の上に乗せて進む方向を教えてもらいつつ、草を掻き分けて先へと進んだ。

 

 しばらく道なき道を歩き続け、草むらから脱することが出来たナオトとアイ。野生のポケモンが飛び出してくるといったこともなかった。

 休んでいる暇はないと村があるであろう場所に走るナオト達。だが、そんな彼らを迎えたのは想像もしていないような光景であった。

 

「な、何だアレ……?」

「ミャウ?」

 

 まず、村は綺麗さっぱり影も形もなくなっていた。

 もちろん、それだけならまだアーシア島に村が出来る前の時代なのだと想像はできる。それだけではなかったのだ。

 

 ナオト達を出迎えたのは、三角の形に並べられた三つの大きなタマゴ。

 そして、仮面を被った人間の集団であった。

 

 元の時代では広場に当たる場所で、ヨーデルや長老達が着ていた民族衣装によく似た服を纏ったその集団が三つのタマゴを囲んで奇妙な舞を踊っている。

 そのタマゴを神か何かと崇め祀っているのか、舞を踊る彼らからは原始的かつ荘厳な雰囲気を感じ取れた。

 

 しかも、少し離れた場所では笛を吹いている女性達までいる。曲はめちゃくちゃだが、その音色からフルーラが吹いていた笛と同じものであることが分かった。

 未来か過去か、どちらの時代に飛ばされたのかとナオトは考えていたが、この様子から察するに過去と見て間違いないだろう。

 

「何かの……儀式、か?」

 

 ナオトはしばし岩陰からその儀式めいた光景を眺めていた。

 ふと、そんな彼の視界に三つのタマゴを背にして跪いている少女が映る。遠目からその少女の顔を見たナオトは、自分の目を疑った。

 

「……フルーラ?」

 

 思わず呟くナオト。

 その少女は、フルーラに瓜二つであったのだ。それはもう本人としか思えないほどに。

 両腕を背中に回した少女は悲しげに瞼を閉じたまま、ただ静かに俯いている。首には包帯が巻かれていた。

 

「──」

 

 ナオトが少女のことに気付いた丁度その時、その少女の隣に立っていた仮面の男がおもむろに片手を挙げた。

 それが合図だったのか、タマゴを中心に踊り回っていた仮面の集団がピタリとその動きを止め、全員がその男と少女の方に注目し始める。

 

 男は周りを一瞥して頷くと少女の髪を乱暴に引っ掴み、跪いた体勢のまま少女をタマゴの方に振り向かせた。

 それによって少女の背中がナオトのいる位置から見えるようになる。

 

「──ッ!」

 

 ナオトは目を見開いた。

 背中に回されていた彼女の両腕は荒縄で縛られていたのだ。

 

「……それではこれより、この者の命を神に捧げる」

 

 ナオト達を含む大勢の人間が注目する中、仮面の男がそう口にして腰に下げた鉛色に光る刃物に手をかけた。

 それを、ゆっくりと振り被る。

 

 ナオトの胸の鼓動が、心臓が口から飛び出そうになるほど高鳴る。

 このまま振り下ろされれば、少女は──

 

 

「──アイ、ナイトバースト!」

「ミャアァッ!!」

 

 

 今まさに刃物が振り下ろされようとしたその瞬間、ナオトはアイにナイトバーストを指示すると同時に駆け出した。

 

「ッ!?」

 

 アイのナイトバーストが刃物を振り下ろそうとしていた仮面の男を吹き飛ばす。

 突然のことに周りの集団が驚く中、中心に入り込んだナオトは少女の元へ走り寄った。

 

「こっちだ!」

「……?」

 

 縄を切っている暇はない。縛られたままの少女の二の腕を掴んで立たせると、何が起こったのか分からないという顔をしている彼女に一緒に逃げるよう促す。

 自分を助けてくれようとしていると理解したのか思いの外躊躇する様子を見せない彼女を引っ張り、ナオトは手近な草むらへと逃げ込んだ。

 

「ま、待てえ!」

「ミャウッ!」

 

 アイは追いかけようとする仮面の集団をナイトバーストで牽制しつつ、二人の後を追う。

 

 

 

 

 

 無我夢中で草を掻き分けながら走るナオト達。

 岬に続く洞窟は行き止まりとなってしまうので、そちらとは逆方向へと向かったつもりだが、視界一杯が緑で覆われているのでもはや島のどの辺りにいるのかも分からない状況だ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 そうこうする内に、ナオト達は大小の岩が疎らに並んだ場所に出た。

 その中で一番大きな岩の陰に隠れ、ひとまず一息吐いて乱れた呼吸を整える。と言っても、息切れしているのはナオトだけだが。

 

「……よし、ちょっとじっとしててくれ」

 

 少し落ち着いたナオトはバッグから折りたたみナイフを取り出し、少女の腕を縛る縄を切ってあげようとする。

 

「あ、あれ?」

 

 しかし、上手く切れない。

 苦戦しているナオトを見かねて、アイが自分の爪で縄を切ってしまった。

 

「ミャウ」

「あ、ありがとう……」

 

 礼を言いつつも、情けなさにガクリと項垂れるナオト。

 

「…………」

「な、何?」

 

 少女はなぜか口を開かず、じっとナオトのことを見ている。聞いても、無言で返されてしまった。

 本当にフルーラそっくりだが、こんな村も出来ていない時代に彼女がいるはずもない。

 

「……えっと、僕はナオト。こっちは相棒のゾロアで、名前はアイ」

「…………」

「その、さっきのあれは一体どういう状況だったのか教えて欲しいんだけど……」

「…………」

 

 質問を投げかけるも、やはり返答はない。

 

 じっと見られて気まずくなったナオトは何とはなしに周囲を見渡す。辺りは膝下ほどにまで伸びた雑草が緑の絨毯を作っていた。

 ふと、目の前に並ぶ岩々が目に入る。ナオトはその並びに見覚えがあった。大きさは今自分達が背にしている岩よりも一回り小さい。

 

(そうか。ここは村の集会所だ!)

 

 ここを中心に建物を建て、岩々を削ってテーブルなどを作ったのだろう。

 ということは、今背を預けている一際大きな岩は……位置的に考えて、フルーラが舞を踊って神に捧げる笛を吹いたあの舞台ということになる。

 頭の中で無意識に現代での光景と比較し、謎の集団に追われているということも忘れて歴史の流れを感じ取るナオト。この分だと、数百年単位で過去に時渡りしてしまったのかもしれない。

 

 そんなナオトの肩を少女がちょんちょんと突いた。

 振り向くと、そこには意を決したような表情の少女。彼女はおもむろにナオトの腕を握った。

 疑問符を浮かべるナオトの頭の中に、声が響く。

 

『力を、貸してください』

 

 これは、テレパシー?

 超能力が使える人間はわりといる方だ。エスパータイプ専門のジムのジムリーダーは特にその傾向がある。だから、多少驚きはせよそれ自体は特に不思議でもない。なぜテレパシーで話すのかはひとまず置いておこう。

 

「力を貸してって……一体どういうことなんだ?」

『……あのタマゴを、取り返したいのです』

 

 タマゴというと、あの仮面の集団が祀っていた三つの大きなタマゴのことだろう。

 

『あのタマゴには、火の神と雷の神、そして氷の神が宿っているのです』

「えっ!?」

 

 少女はそのままテレパシーで続ける。

 そのタマゴは寿命を迎えつつあった先代の神々が、次代に生まれ変わるために産み出したタマゴなのだという。

 だが、この島へと移住してきたあの人間達が火の島、雷の島、氷の島に安置されていたタマゴを見つけてしまい、それらを神と崇めて持ち去ってしまったのである。

 

 神々は自分にあてがわれた島を縄張りとし、そこから流す様々なエネルギーによって自然界のバランスを保っている。

 今は先代の神々が残った命と引き換えに各々の島にエネルギーを宿し、そのおかげでバランスは保たれている状態だ。しかし、タマゴが孵ると同時にそれもなくなってしまうのだという。

 

 このままタマゴが同じ場所で孵ってしまったら、大変なことになる。

 生まれ変わった神々──ファイヤー、サンダー、フリーザーは自分達の役割を忘れてこのアーシア島の縄張りを主張し、争いを始めるだろう。そうなれば自然界のバランスは崩れ、世界は破滅に向かってしまう。

 

 少女はナオトの腕から手を離し、今度は彼の手を両手で握る。

 

『貴方は優れたる操り人。どうか、世界のためにその力をお貸しください』

 

 そうナオトに懇願する少女。

 二人を横で見ていたアイは思わず目を丸くした。まるで、あの舞台での演劇を思わせる光景であったからだ。

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

 ナオトとしては、早くセレビィを見つけて元の時代に戻りたい。

 自分は未来から時渡りしてやってきた者なのだ。つまり、自分の存在がこの時代で世界が破滅しないということを証明している。下手に歴史に関わってしまうと、それこそ大変なことになってしまうかもしれない。

 

 しかし、本当に断ってしまっていいのか?

 もしかしたら、自分が時渡りしてくることは歴史に織り込み済みで、タマゴを取り返すことでこの時代での世界の破滅を防ぐことになるのかもしれない。

 だが結局、それも推測にすぎない。それ以前にナオトは自分がそんな大それたことができる人物だとは思えなかった。

 

 悩むナオトは、ふとアイの方を振り返る。

 ゾロアの姿の彼女はナオトと目が合うと、ただ力強く頷いて返した。

 

「…………」

 

 アイの意思を感じ取り、瞼を閉じるナオト。

 一つ深呼吸して、再び瞼を開き少女と目を合わせる。そして、告げた。

 

「……分かった。タマゴを取り返すのを手伝うよ」

 

 断るなんて今さらだ。

 彼女を助けた時点で、既に歴史に関わってしまっているのだから。

 

 正直に言うと、フルーラの顔で必死に頼まれては断り辛いというのもあった。もちろん、彼女と違って丁寧な話し方をしているので別人であることは嫌でも分かってしまうが。

 とにかく、手を出してしまったのなら責任を取って最後まで付き合うべきだ。サトシを助けに行ったフルーラのように。

 

「──!」

 

 返事を聞いた少女はパッと顔を明るくさせ、ナオトに抱きついた。

 

「え、ちょっ!?」

「ミャ! ミャウミャ!」

 

 顔を赤くして慌てるナオトだが、そんなことしてる場合じゃないでしょ! とばかりに頬を膨らませたアイに引き離される。

 

 ──ガサガサッ

 

 その時、近くの草むらが動いて人間達が仮面を被った顔を覗かせた。追手だ。

 

『こっちです!』

 

 少女がそう言ってナオトを引っ張る。

 この時代のアーシア島の地理については彼女の方が詳しいだろう。ナオトとアイは彼女の先導に従って気付かれないように静かにその場から移動した。

 

 

 

 

 

 迂回して再び広場に戻ってきたナオト達。

 目的のタマゴの近くには、少女を処刑しようとした族長と思われる仮面の男と何やら縄が巻かれた玉を二人で抱えている付き人。そして、ナオト達の潜伏する草むらの近くには見張りと思われる槍を持った男達が辺りを見回していた。

 どうやら、ほとんどはナオト達の捜索に駆り出されているようだ。小島とはいえ、アーシア島全体を探すにはそれくらいの人数が必要ということだろう。

 

 長々と作戦を考えたり準備をしている時間はない。出たとこ勝負だ。

 

「……アイ。この子のことを頼んだぞ」

「ミャウッ」

 

 少女のことをアイに任せ、ナオトは草むらからモンスターボールを放り投げる。

 

「ん?」

「何だ?」

 

 どこからともなく飛んできた小さな玉に気付く見張り。

 それが開いて光を放ち、巨大な結晶の塊──クリスタルのイワークの姿を形作った。

 

「グオオオッ」

「「う、うわああっ!?」」

 

 見張り達は突如現れた結晶の巨体に恐れおののく。

 我武者羅に槍で迎え撃つが、イワークの硬い身体には傷一つ付けることはできない。

 

(よしっ、今の内だ!)

 

 イワークが見張りの気を逸らしている隙にナオトは草むらを移動し、迂回する形でタマゴの横側へと躍り出た。

 

「なっ!? き、貴様は先の──」

「行け! ゲンガー!」

 

 タマゴの傍にいた族長と付き人達がそれに気づいて驚く中、再びモンスターボールを取り出して投げ、ゲンガーを繰り出すナオト。

 

「悪いけど、タマゴは返してもらうぞ」

「ゲンゲラッ!」

 

 ナオトがそう言うと、二人の付き人がナオトと族長の間に割って入った。

 そして、二人で抱えていた玉を地面に置き、巻かれていた縄を解く。縄が解かれた玉は横一文字に分かれ、煙が溢れ出した。

 

「ヤ……ド」

 

 その煙と共に中から現れたのは、おうじゃポケモンのヤドキング。

 ヤドキングはヤドンの最終進化系だ。ヤドンと同じで普段はぼけた顔をしているが、このヤドキングは困った様子で族長とタマゴを見比べている。

 ポケモン故に、世界の異変とこのタマゴが関係していることを感じ取っているのだろう。

 

「行け! 神をお守りするのだ!」

「ッ! ヤ、ドォ」

 

 族長の命令にビクリと反応したヤドキングは、困り顔のままサイコキネシスをゲンガーに向けて放った。

 ゆっくりとしたその動作は普段のバトルに比べたら欠伸が出そうなものであった。あのヤドキングには悪いが、ここは一気に決めて力の差を見せつけた方がいいだろう。

 

「ゲンガー! シャドーボールだ!」

「ゲン、ガァ!」

 

 放たれたゲンガーのシャドーボールはヤドキングの放ったサイコキネシスの波を打ち消し、そのまま地面に衝突して土煙が舞い上がる。

 土煙によって視界を奪われるヤドキングと族長達。

 

「な、何をしている! 早く攻撃しろ!」

「ヤ、ヤド……」

 

 族長は構わずそう怒鳴るが、ヤドキングはあたふたして対応できていない。

 

「──ゲンッ!」

 

 そこへ、土煙を割って出てきたゲンガーが10万ボルトを纏わせたパンチをヤドキングに炸裂させる。

 

「ヤドオォッ!?」

 

 擬似的なかみなりパンチを受けたヤドキングはこうかばつぐんの一撃を受け、ノックダウンした。

 

「なっ、何だと……ッ」

 

 たった一撃で自分達のポケモンが倒されてしまい、ほぞを噛む族長。

 

「ゲンゲラ、ゲーン!」

「「きゃあぁっ!」」

 

 二人の付き人はゲンガーのこわいかおによる威嚇に悲鳴を上げ、腰を抜かす。久々にゴーストポケモンらしいことをしてゲンガーは満足げに笑った。

 

「これ以上抵抗しないなら何もしない。そのタマゴを元の場所に戻さないと、大変なことになるんだ!」

「黙れ、小童め! 我らの神を奪おうなどと、天罰が下るぞ!」

 

 ナオトが嗜めようとするも、族長は聞く耳を持たない。 

 何を言っても無駄と分かったナオトは溜息を吐き、族長の横を通り過ぎてタマゴに近付く。

 

 広場から見える浜辺には木造船が何隻か停泊している。あの船を使ってアーシア島にタマゴを運んできたのだろう。

 この三つの大きなタマゴを自分達だけで運ぶには、バンギラスの力を借りる他ない。そう考えたナオトはベルトからバンギラスの入ったモンスターボールを取り出そうとする。

 

「──ミャアッ!?」

 

 その時、アイの悲鳴がナオトの耳に届いた。

 弾かれたようにナオトが振り向いた先には、見張りの男に腕を掴まれて身動きが取れない少女。

 そして、ガタガタと暴れる玉を複数人が抑えて縄で縛ろうとしていた。その玉は族長の付き人達が持っていた玉と同じ物。

 

『探索に出ていた者達が戻ってきて、アイさんはあの玉の中に……!』

 

 ナオトの頭の中に少女のテレパシーが届く。

 どうやら、あの玉はこの時代におけるモンスターボールのようなものなのだろう。

 

「おおっ! でかしたぞ!」

 

 族長が少女を捕まえた者達を褒め称えた。

 ここからの流れは聞かなくとも分かる。このままタマゴをどうにかしようとすれば、少女の命が危険に晒されるだろう。

 

「さあ、この神に仇なす不届き者も捕らえるのだ!」

 

 形成逆転とばかりに族長は男達にナオトを捕らえるよう命じた。ナオトは「くそっ……」と悪態を吐きながら、大人しく従うしかないと抵抗を諦める。

 族長の命令を受けた男達がナオトを羽交い締めにしようと近づく。

 

「ぞ、族長様!」

 

 しかし、その途中で族長の付き人の一人がタマゴを見て声を上げた。

 その声に釣られて一同がタマゴの方を振り向くと、三つあるタマゴの内の一つがゴソゴソと身動ぎし始めていた。

 

 タマゴが孵りそうなのだ……!

 

 そう確信すると同時に、ピシッと殻が割れ始める。

 それに連動するようにして、他の二つのタマゴにも亀裂が走る。

 

『──ダメッ!』

 

 少女の叫びがその場にいる全員の頭の中に響く。

 だが、無情にもタマゴのヒビ割れは止まらず、亀裂の隙間から目も眩む光が漏れてナオト達の視界を奪う。

 

 そして、光が止んだかと思えば視界は薄暗いまま。

 それもそのはずであった。タマゴから孵り、太陽を背にして生まれ変わった神々の影がナオト達を覆っていたのだから。

 

 

「ギヤーオッ!」「ギヨーー!」「キョオーー!」

 

 

 三柱の神の産声が世界中に届かんばかりに轟き渡る。

 

 かえんポケモン、ファイヤー。

 でんげきポケモン、サンダー。

 れいとうポケモン、フリーザー。

 

 新たな身体と精神を宿した三鳥はお互いの存在を認識すると、産まれたばかりだというのに敵意丸出しの視線を交わし始めた。特にファイヤーの睨みは他の二鳥より凄味を感じさせる。

 

 まさに一触即発。

 近づけば切り傷でも負いかねないような緊迫した空気が辺りを包んだ。

 

 

「「「────ッ!」」」

 

 

 刹那、三鳥の攻撃がお互いに向けて同時に放たれた。

 ファイヤーのかえんほうしゃ、サンダーのかみなり、フリーザーのれいとうビームが衝突し合い、爆発が引き起こされる。

 

「「うわああっ!?」」

 

 ナオト達はその衝撃波を受けて吹き飛ばされてしまった。

 巻き上がった土煙が晴れない内に、三鳥は自身らの翼を羽ばたかせ曇天の空へと舞い上がってしまった。荒れ狂う海の上で、神々は動物的本能に従いアーシア島の主の座を巡って争いを繰り広げ始める。

 

「お、おお……我らの神が誕生されたぞ」

 

 戦いの様を見上げて、そう呑気に呟く族長。

 そこへ三鳥の攻撃の余波が彼らを襲い、棒立ちしていた人間達を吹き飛ばす。

 

「「わああッ!!」」

「か、神は我々を守ってくれるんじゃなかったのか!?」

 

 族長からタマゴから産まれるのは自分達を守護する神だと伝えられていたらしい彼らは、話が違うとばかりに一斉に逃げ出す。

 

「か、神よ! なぜ我らを──」

「ぞ、族長様! 早くお逃げくださいっ!」

 

 族長は地面に這いつくばりながらも空を舞う三鳥に手を伸ばすが、付き人達に引っ張られる形でその場を離れていった。

 

「ひ、ひいぃッ!」

「──っ」

 

 少女の腕を掴んでいた男も、すぐ近くをサンダーのかみなりが掠めていったことに怖気づき、少女を乱暴に突き飛ばして島の奥へと逃げていってしまう。

 

「ギヤォォーーッ!!」

 

 少女の元へ、ファイヤーのかえんほうしゃの流れ弾が飛んでいく。倒れた体勢のままの少女はそれを避けることが叶わず、ただ自身へと迫る炎を見つめることしかできない。

 

「ッ、フルーラ!」

 

 ナオトが駆け出し、少女を抱えて飛び退く。

 すぐ背後を炎が掠めていったが、間一髪の所で助けることができた。

 

「はぁ、はぁ……だ、大丈夫か?」

 

 ナオトの言葉に、少女は呆然としながらもこくりと頷いた。

 

「アイ!」

 

 声をかけると、少し離れた場所に放置された玉がゴロゴロとナオト達の元へ転がり出す。

 縛りかけだった縄が解け、玉が二つに分かれて中からアイが顔を出した。窮屈だったのか、「ミャフ……」と安堵の溜息を漏らすアイ。

 

 そんなアイを見て緊張が少し和らいだナオトは、少女を抱えて膝を突いた状態のまま上空を飛び交う三色の暴れ鳥達を睨みつけるように見上げた。

 彼らの暴走に呼応するようにして、海の荒れ模様もさらに酷くなっていく。

 

「早く何とかしないと……」

『……もう、手遅れです』

 

 ナオトの呟きに、彼の腕に抱かれた少女は力無く返した。

 

『争いを始めた神々を止めることは……不可能です』

 

 何もかも諦めたようにがくりと項垂れる少女。

 二人の間に沈黙が訪れ、少女の言葉を肯定するように三鳥の鳴き声が響き渡る。

 吹き荒れる風と波飛沫の音が、焦燥感を煽るように彼らの耳を打つ。

 

 しかし、ナオトは少女から手を離すと、空を見上げたままゆっくりと立ち上がった。

 

「……僕がゲットする」

『え?』

 

 ナオトを見上げて、思わず聞き返す少女。彼は少女の方を振り返らずに答えた。

 

「僕がファイヤー達をゲットして争いを鎮める」

『ゲット……? 手懐ける、ということですか? そんな無茶です!』

 

 慌てて少女が首を振る。

 確かにあの三鳥は伝説と謳われるポケモン。しかもその中でも神と称されるような特別な存在となれば、ゲットするなんて無理だと考えるのが普通だ。

 

「伝説だろうが神だろうが、ポケモンはポケモン。なら、ゲットできない道理はない。例え困難だとしても、必ずゲットしてみせる。それが……ポケモントレーナーだ!」

 

 少女の方を振り返ったナオトはそう自信を持って答えた。

 

「だよな? アイ」

「ミャウ!」

 

 アイも笑顔で鳴いて答える。そんな一人と一匹をポカンと見つめる少女。

 その頭上で、ファイヤー達がアーシア島の裏の方へ戦いの場を移動していく。それを確認したナオトはクリスタルのイワークとゲンガーをモンスターボールに戻す。

 

「急いで追おう!」

 

 少女の手を取って、アイと共に駆け出した。

 

 

 

 ファイヤー達を追って走るナオト達は森の先にある洞窟を抜けて、岬へと辿り着く。ナオトが時渡りして目を覚ました、あの岬だ。

 

「ギヤーオ!」「ギョー!」「ョォオーー!」

 

 彼ら三鳥達はお互いを攻撃し合う内にアーシア島を離れ、沖にある三つの島の丁度中間にあたる海の上を飛び交っている。天候はさらに崩れ、大雨がナオト達の肌を叩いていた。

 

『やっぱり無理です。だって、一体どうやってあそこまで……』

 

 水平線の上空で争う三鳥を見据えながら少女が呟く。

 彼女の言うことは尤もだ。ナオトは何か方法はないかと顔に垂れてきた水滴を拭いながら辺りを見回してみる。

 そんな彼の目に縄で岩礁に括り付けられた小船が映った。恐らく、あの族長達が使っていた船の一つだろう。

 

 その船を認めたナオトの頭の中で電球が光る。「よしっ」と呟く彼を見上げて、アイが小首を傾げた。

 

「ピカッとひらめいた! って奴さ」

 

 そんな彼女にナオトはそう得意げに返した。

 

 




ということで、過去に来ました。
次回は明日投稿します。

■フルーラと瓜二つの少女
口を利かず、テレパシーで会話をする。
果たして、その正体は……?

■ファイヤー・サンダー・フリーザー
神々でも寿命はある。
死の間際、次代の神々として生まれ変わるためにタマゴを創り出す。

■族長のヤドキング
後の浜ちゃん。すっごい長生き。

■「ピカッとひらめいた!」
ちょっと言わせてみたかった。
今更だけど実写映画の名探偵ピカチュウ良かったなぁ。この台詞は出てこなかったけど。
初期のサトシだと閃いた時「ピカチュウっと!」って言ってましたけど、いつの間にか言わなくなってた。


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