ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

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27. えらばれしあやつりびと ② ▼

 前方からの風圧がナオト達を襲う。

 それに乗って、激しい波飛沫と雨が容赦なく身体に降りかかった。

 

 今、ナオト達は船に乗って三鳥達の元へ向かっている。

 しかし、誰一人オールとなる物を使っていない。

 

 それもそのはず。

 この船の推進力を生み出しているのは……コイキングなのだから。

 

「コココココッ!」

 

 コイキングは船の船首とロープで繋がっており、得意のはねるで飛ぶようにして海を進んでいる。

 

『ほ、本当に大丈夫なんですか?』

 

 ナオトの後ろで、船から振り落とされないように船縁に縋っている少女。

 彼女には岬で待ってるよう勧めたのだが、『わ、私も行きます!』と言って無理やり船に乗り込んできたのだ。

 

「自分から乗ってきておいて何言ってるんだよ。前に似たような形でだけど、コイキングの力を借りて水上レースをしたことがあるんだ。安定性はともかく、速度はカメックスにだって負けないよ」

『あ、安定性が一番重要だと思うんですけど……』

 

 眉尻を下げて呟く少女。

 そんな会話をナオトに抱えられたまま聞いていたアイは、自分の主人が泳げないことは黙ってた方がいいんだろうなぁと心の中で苦笑いした。

 

「急げ、コイキング! お前の力ならもっと速く跳ねられるはずだ! 頑張れ!」

「ココッ!」

 

 ナオトの応援を受けて、コイキングはさらにスピードを上げる。

 

『きゃっ!』

 

 それによってバランスを崩した少女は前に座るナオトの背中に慌ててしがみつく。

 

「大丈夫か?」

『……は、はいっ』

 

 肩越しに聞くナオトに、落ち着かない様子で答える少女。

 自分が選んだ操り人。その背中の感触に少しばかり胸の高鳴りを覚える。

 あまり鍛えられてない頼りなさげな背中だが、不思議と少女にはそんな風には思えなかった。

 

 そんな少女の頭の中に、ふとある疑問が浮かぶ。

 ファイヤーの炎から助けてくれた際にナオトが口にした名前──確か、フルーラだったか。

 

『あの、先程口にしていた、フルーラというのは一体……』

 

 そう尋ねる少女に、ナオトは言い辛そうにしながらも答える。

 

「えっと……フルーラは僕の旅仲間のことで、姿も声も君に瓜二つなんだ。だからさっき思わず叫んじゃって」

『そう、なんですか……』

 

 呟く少女。少しばかりの沈黙を挟んで、今度はナオトが口を開く。

 

「そうだ。こんな状況だから聞くのを忘れてたけど、君の名前は──」

「ギヤアアーッ!!」

 

 言いかけたところで、サンダーの攻撃を受けたファイヤーが黒煙を上げながら落下してきた。

 落下の途中で体勢を整え直したファイヤーは一旦距離を取ろうと考えたのか、海上スレスレを飛びながら他の二鳥から遠ざかる。その方角の先には、ナオト達の乗る小舟が海上を進んでいる。

 

「頼む、ブースター!」

「ブゥッ!」

 

 こちらに向かってくるファイヤーを見てチャンスだ考えたナオトは、モンスターボールを投げてブースターを出した。

 

『待ってください! 同じほのおタイプの子ではファイヤーに勝ち目は──』

「大丈夫、タイプバトルなら経験済みさ。ブースター! ほのおのうずだ!」

「ブアアァーッ!!」

 

 ブースターのほのおのうずで向かってくるファイヤーを迎撃する。

 サンダーとフリーザー以外は眼中になかったファイヤーは、思わぬところからの攻撃に目を見開いた。

 

「ギヤーオッ!」

 

 攻撃を受けたことでファイヤーはナオト達を敵と見なしたのか、身に付き纏うほのおのうずを歯牙にもかけず低空飛行を続け、彼らの乗る小舟を鋭く睨みつけてその口からかえんほうしゃを放ってきた。

 

「コイキング! 飛び跳ねろ!」

 

 ナオトは一直線に向かってくるその炎に対して、コイキングにそう指示した。

 コイキングが高く飛び跳ねたことでロープで繋がった小舟も宙を浮き、そのまま炎の上を飛んでファイヤーに肉薄する。

 

「ブースター、でんこうせっかだ!」

「ブスタァ!」

 

 ナオトの指示を受けて一鳴きしたブースターが、コイキングによる加速を乗せて猛烈な勢いでファイヤーにでんこうせっかによる攻撃をお見舞いする。

 

「ギ、ヤアァッ!」

 

 でんこうせっかを背中に受けたファイヤーは身を震わせてブースターを振り払う。

 続けて、迫るナオト達の小舟を避けるために翼をはためかせて飛び退いた。

 

「ブゥスッ」

 

 ブースターはファイヤーに振り払われると同時に跳躍し、タイミング良く小舟に着地。ファイヤーは旋回する形で再びナオト達の乗る小舟に迫ってくる。

 今の攻撃で油断ならない相手と認識したファイヤーは、一気に勝負を付けようとその身に高熱の炎を宿らせた。オーバーヒートだ。使った後はパワーの出力が落ちてしまうが、その分威力は強力。不毛な縄張り争いをするだけあって、後先のことは考えていないらしい。

 

「アイ!」

「ミャッ」

 

 ナオトはアイを肩に乗せ、少女と立ち位置を変える。

 

「君はコイキングに指示を!」

『え? む、無理ですよ!』

「頼む! 君の方がテレパシーで時間差なく指示を伝えられるはずなんだ! 後ろから追ってくるファイヤーを迎え撃つために舟を旋回させてくれ!」

『は、はいっ!』

 

 突然舵取りを任された少女はあたふたとしながらもナオトの指示をコイキングに伝え、小舟を旋回させる。

 しかし、このままだとオーバーヒート状態のファイヤーと正面衝突だ。

 

『ど、どうするんですか?』

「どうするもこうもない。このままファイヤー目掛けて突っ切る!」

『ええっ!?』

 

 当然、少女は何を馬鹿なと慌て始める。

 こちらも速度を出している以上、ファイヤーのオーバーヒートと衝突すれば木っ端微塵どころの話ではない。

 心配する彼女に、ファイヤーを見据えていたナオトは振り返って言葉を投げかける。

 

「大丈夫。僕を信じてくれ!」

『…………』

 

 少女がそれに呆けた顔で返している間に、ファイヤーと彼らの乗る小舟は後数秒で衝突するという所まで迫る。

 

「ブースター! もう一度でんこうせっかだ!」

「ブッ!」

 

 ファイヤーの方を見据え直し、再びブースターにでんこうせっかを指示するナオト。

 オーバーヒートに対して、でんこうせっか。とてもではないが、勝てるとは思えない。威力の差に天と地の差があるのは歴然だ。

 

『……ッ』

 

 少女はコイキングに進路を変えてファイヤーを避けるように指示しかけたが、先程のナオトの言葉がそれを思い留まらせる。

 ファイヤーと正面衝突すると思われたその時、ブースターが小舟の船首からでんこうせっかの勢いを乗せて上へと跳び上がった。それに反応する形で、ファイヤーも攻撃の矛先をブースターへと切り替える。

 小舟はファイヤーの進路から外れた。ナオトは野生のポケモンがトレーナーのポケモンに敵意を燃やす傾向があることを利用したのである。

 

 だが、それは自分達が助かるためにブースターを囮にしたようなものだ。トレーナーとして、非道な選択をしたということになる。

 それでも、少女は自分の選んだ操り人を信じることにした。ナオトはそんなことをする人間ではないと。

 

「ギヤァァァーッ!!」

 

 そのまま、無情にもブースターはファイヤーのオーバーヒートを正面からまともに受けてしまった。小舟が引っ繰り返りかねないほどの衝撃が伝わり、炎に包まれたブースターが落下するのが見える。

 

『コイキング!』

 

 少女は再び旋回してブースターを拾うため、コイキングに指示を出した。

 ファイヤーのオーバーヒートを受けて、無事で済むはずがない。力無く落下するブースター。コイキングが引っ張る小舟は彼を拾うのにはとても間に合いそうにない。

 

 

「──ブゥッ!」

 

 

 ところが、ブースターは海に落ちる直前で閉じていた瞼をカッと開き、空中ででんこうせっかすることによってナオト達の小舟へ戻ってきた。

 満身創痍と思われたその身体は傷一つなくピンピンしている。それどころか、身に纏う炎が攻撃を受ける前よりも強いパワーを感じさせた。降り注ぐ雨がその身に落ちる前に蒸発している。

 

 ──特性、もらいび。

 ほのおタイプのわざを一切受けつけず、さらに受けた炎を自身の力とするのだ。

 

 ブースターを回収した小舟は、そのままさらに加速して背中を向けているファイヤーに迫る。

 

「決めるぞ、ブースター! フレア……ドライブッ!」

「ブアアアァァーー!!」

 

 ナオトの声を合図にブースターの身に纏っていた炎が膨れ上がり、ファイヤーに勝るとも劣らない熱を発し始める。そして、一つの火の塊となってファイヤーを強襲した。

 

「ギヤアァ、ォッ!!?」

 

 倒したものと思っていたブースターからの渾身のフレアドライブを背後から受けたファイヤーは白目を剥き、きりもみ回転しながら宙を飛ぶ。意識を失い、海へと落下し始めた。

 

「行け! モンスターボール!」

 

 間髪入れずナオトがモンスターボールを投げ、墜落するファイヤーに命中させた。

 ファイヤーを赤い光が包み込み、ボールの中に収納する。ナオトはブースターと一緒に小舟に落ちてきたそのボールをキャッチした。ボールはナオトの手の中でしばらく身動ぎしていたが、やがてポンという音と共にその動きを止める。

 

「……ファイヤー、ゲットだ!」

「ミャウ!」

 

 ナオトはファイヤーの入ったモンスターボールを握ったまま、もう片方の拳で小さくガッツポーズした。肩に乗っているアイも笑顔を浮かべている。

 

 本当にファイヤーを──神をゲットしてしまった。

 少女はその瞬間を目の当たりにしても信じられずしばらく呆然としていたが、ハッとしてかぶりを振る。そして、ブースターを労って彼をボールに戻すナオトを見やる。

 彼なら本当に神々を……世界を救うことができるかもしれない。

 

「──うわっ!?」

 

 その時、ガコッと船が大きく揺れた。何かに乗り上げる形で船が傾く。

 氷だ。ナオト達のいる場所から先の海が、辺り一面氷で覆われていた。

 

「キョーーォオッ!!」

 

 見上げると、いつの間にか雨は上がっている。その空をフリーザーのみがその鳴き声を轟かせ、星のない曇天に氷晶を散らばせていた。

 サンダーは……視界の隅で氷漬けの姿を晒している。二鳥の争いはフリーザーが勝利を飾ったのだ。雨が降っている内はサンダーが有利だったのだろうが、それが止んでしまって形勢逆転されてしまったのであろう。 

 もはやこの海さえも自分の物だと主張したいのか、フリーザーはれいとうビームでどんどん氷の大地を広げていっている。

 

 先ずはあのフリーザーを何とかしないといけないだろう。あのままでは外界に飛び出していってしまいかねない。だが、この氷の大地を歩いてフリーザーに近づくには時間がかかりすぎる。

 

『どうしましょう……』

「…………」

 

 困り果てた様子の少女と、その横で腕を組んで考えるナオト。

 今手持ちで空を飛べるポケモンはゲットしたばかりのファイヤーのみ。ダメージを負った状態のファイヤーに乗って移動なんてできるわけがない。

 ゲンガーも一応宙に浮くことはできるが、鳥ポケモンほど自由に飛べるわけではない。コイキングに小舟を引っ張ってもらおうにも、この氷の大地では身体がくっついて跳ねることができない。それにそもそも、小舟はさきほど氷にぶつかったせいで中破してしまっている。

 

「ミャウ」

 

 そんなナオトのズボンの裾をアイが引っ張り、その小さな前足で何かを指し示した。

 見ると、サンダーとフリーザーの戦いの激しさを象徴するような氷柱が白い大地から何本も聳えている。サンダーによるかみなりで水柱が立ち、そこにフリーザーのれいとうビームが当たっててあのような形になってしまったのだろう。

 

「……そうか。でかしたぞ、アイ!」

「ミャッ」

 

 アイの言いたいことが分かったナオトは頷き、彼女の頭を撫でて褒める。

 

『あ、あの、どういうことですか?』

 

 首を傾げる少女に、ナオトは笑みで答えた。

 

「乗り物がないなら、作ればいいのさ」

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 白銀の大地を小さな影と大きな影が白煙を巻き上げながら走り抜ける。

 小さな方は氷柱を削って作ったソリに乗ったナオト達。

 そして、大きな方はソリをロープで引っ張っているクリスタルのイワークだ。

 

『即興でこんなソリを作ることができるなんて、すごいです!』

「前に作ったことがあるんだよ」

 

 興奮気味の少女にナオトが前方を見据えながら答える。

 彼自身もネーブルジムでの経験がこんなところで活かされるとは思っていなかった。

 

 ソリは猛スピードで空を舞うフリーザー目指して滑走していく。イワークはその巨大な体躯とは裏腹に地中を掘り進む速度は時速八十キロにも及ぶ。地中でその速度なのだから、地上ではさらに速いスピードで移動できるのだ。

 

「キョオオーッ!」

 

 自分のもとへ近づいてくる者達に気づいたフリーザー。ナオト達のソリを認識すると同時に、吹雪の音のような鳴き声を上げてれいとうビームを放ってきた。

 

「イワーク! こっちもれいとうビームだ!」

「グオオォーッ!」

 

 それに対して、ナオトもイワークのれいとうビームで対抗。

 ありとあらゆる物を一瞬にして凍結させる青白い光線が衝突した。衝突点の水分が凍りつき、氷の塊となって落下する。

 

「しめた! イワーク、あの氷の塊に向かってアイアンテール!」

「グオオッ」

 

 ナオトの指示を受け、落下してきた氷塊にアイアンテールを打ちつけるイワーク。

 弾かれた氷塊は一直線にフリーザーへと向かって飛んでいった。

 

「キョーォ!」

 

 だが、フリーザーは紙一重でそれを避けてしまった。

 ナオトは小さく舌打ちした。この海が凍って出来た大地の上では、フリーザーにこうかばつぐんのダメージを与えられるロックブラストは使えない。あれは大地のエネルギーを利用して岩を生成し撃ち出す技だからだ。

 

「──ッ!」

 

 氷塊による攻撃を見てか、フリーザーは翼をはためかせて後退し始めた。それと同時に、こおりのつぶてを放つ。ナオト達を直接狙わず、ソリの前方に向けて。

 こおりのつぶてによって氷の大地に穴が空き、立ち昇った水柱に向けてれいとうビームが放たれる。一瞬にして氷柱が作り上げられた。

 

 このまま進めば氷柱にぶつかってしまう。海と同じで、氷の地面では止まることも難しい。

 

「イワーク! 避けろっ!」

「グ、オッッ!!」

 

 ナオトは急いでイワークに進路変更を言い渡した。ギリギリの所で氷柱を避けることに成功する。

 

「──なっ!?」

 

 が、避けた先にもフリーザーによって氷柱が生成されていた。

 このフリーザー、ファイヤーと違って頭が回るようだ。後退しながら次々と障害物を作っていくフリーザーにナオトは無意識の内に眉をひそめる。

 氷柱はどれも巨大で、ブースターでも一瞬で溶かすにはフレアドライブを使わざるを得ないだろう。しかし、フレアドライブは連発できないしそれ以前にブースターは先のファイヤーとのバトルで体力が不足している。

 

『私が柱にぶつからないようイワークに指示を出します! あなたはフリーザーだけに集中してください!』

 

 そう少女が声を上げた。先程のファイヤーの時と同じやり方だ。

 ナオトは頷き、滑走するソリの上からアイを肩に乗せたままイワークの頭の上に移動する。

 この状態ではイワークに攻撃させることはできない。ナオトはモンスターボールを投げ、ゲンガーを繰り出した。

 

「ゲンッ」

「ゲンガー! シャドーボールだ!」

「ゲン、ガァー!」

 

 指示を受けたゲンガーは、フリーザーに向けてシャドーボールを撃ち出す。しかし、高速で移動しながらに加え遠距離のため命中させるのは困難。余裕を持って避けられてしまう。

 続けてシャドーボールを連発するが、フリーザーは舞うようにしてそれらを躱していく。まるで嘲笑うかのように。

 

(あっちも頭を使ってきてるなら、こっちも頭を使わなきゃダメだ!)

 

 そう考えたナオトは、少女に向けて指示を出す。

 

「フリーザーに一番近い氷柱に突っ込んでくれ!」

『ッ、分かりました!』

 

 ナオトの指示はファイヤーの時と同じく自殺行為のようにしか思えないが、少女はナオトを信じて頷いて返し、テレパシーでイワークの移動方向を適切なルートへと誘導させる。

 そして、目標の氷柱が視線の先に迫ってきた。

 

「ゲンガー、連続でシャドーボール! アイもナイトバーストだ!」

「ゲンゲラッ!」「ミャウ!」

 

 ゲンガーによって機関銃の如く撃ち出されたシャドーボールが氷柱の根本を削っていく。最後にアイのナイトバーストが氷柱の中腹に放たれ、空に向けて聳え立っていたそれを傾かせた。

 

「行くぞっ! イワーク!」

「グオオッッ!」

 

 傾きかけている氷柱にイワークと共にソリごと乗り上げて頂上目指して突き進む。

 そうして氷柱の頂上まで昇りつめたナオト達は、そのまま勢いに乗って宙に飛び出した。

 

「──!?」

 

 宙を飛んだ先には、フリーザー。

 近づけないようにするために作った柱を利用して逆に肉薄してきたナオト達に目を見開いている。

 

「ゲンガー!」

「ゲンッ!」

「キョオオォーーッ!!?」

 

 そんなフリーザーの顔に、ナオトの指示を受けてソリから飛び出したゲンガーが纏わりつく。

 フリーザーは狂ったように暴れ出し、口かられいとうビームを吐こうとするがゲンガーにくちばしを抑えられてそれが叶わない。

 

 イワークと共にソリごと落下していくナオト達。

 その最中、ナオトがフリーザーに纏わりつくゲンガーを見上げながら叫んだ。

 

「行け、ゲンガー! 最大パワーで10まんボルトだ!!」

「ゲン、ガアアアアーーーッッ!!!」

 

 ゼロ距離からの10まんボルトがフリーザーを襲う。でんきタイプではないが、特殊攻撃の能力を極限まで鍛えたゲンガーの全力10まんボルトの威力は伊達じゃない。

 

「ギョオ゛オ゛ォォォーーー!!」

 

 さらに、ゲンガーは体力の限界まで電撃を放出し続ける。

 確実に追い詰めるために。フリーザーの断末魔を極寒の銀世界に響き渡らせる!

 

「キョ、オ────」

 

 そして、ぐたりと力無く首を垂れたフリーザーは黒煙を上げて氷の大地に降下していく。それを確認したナオトは心の中で安堵の溜息と吐いた。

 だが、降下しているのはナオト達も同じだ。ゲットは後回しにして、ナオトは一旦イワークをモンスターボールに戻す。

 

「よし。アイ、じんつうりきだ!」

「ミャッ!」

 

 アイは鳴き声と共にじんつうりきを発動。

 ナオト達を青白い光が包み込み、落下速度が徐々に緩んでいく。

 

 彼らが冷たい地面に足を着けたそのすぐ後に、少し離れた場所でフリーザーが墜落して雪煙を巻き上げた。その煙の中からゲンガーはふよふよと飛んでくるのが見える。

 

「ゲンガー! よくやったな!」

「ミャウ!」

「ゲラァ……」

 

 自分の元へと飛んできたゲンガーをナオトとアイが労る。

 が、さすがの彼も疲労の色が濃い。すぐに休むよう伝えてモンスターボールに戻した。

 

『やりましたね!』

「ああ。なんとかな……」

 

 駆け寄ってきた少女にナオトは疲労困憊といった様子で返す。

 ファイヤーの時は雨が降っていた。それによって若干だが相手が弱っていたために余裕を持ってゲットできたが、今回はそうもいかず相応に苦戦してしまった。

 

「ミャウミャ!」

「分かってるって」

 

 急かすようなアイの声が耳を打つ。早くフリーザーをゲットしようと言っているのだろう。

 ナオトは頷いてバッグからモンスターボールを取り出した。

 

 ──その時であった。

 ナオト達を一瞬で身が凍りつくような強烈な寒波が襲ってきたのだ。

 

『きゃあっ!?』

「ッ!?」

 

 寒波の襲ってくる方向を振り向くと、そこには満身創痍ながらもこちらに向けて翼を広げるフリーザーの姿があった。

 これは……フリーザーのぜったいれいどが発動する前兆だ!

 

「まずい!」

 

 ナオトは一か八か天高くモンスターボールを投擲すると、間髪入れず再びクリスタルのイワークを繰り出した。

 

「二人共、僕の傍に来てくれ!」

 

 そして、アイと少女にそう叫ぶようにして指示する。

 

 

「キョオオオオーーッ!!!」

 

 

 その瞬間、フリーザーの鳴き声がナオト達の耳を貫く。

 生きとし生ける者全てを静止させる死の冷気、ぜったいれいどが発動した。

 

 

 

 

 

 無音。

 

 風も、海も、空も。

 

 全てが時を止めたかのような光景が広がり渡っていた。

 

 ──その静寂を、氷を砕く音が破る。

 

「グオオオッ!」

 

 氷の大地に穴が開き、その下の海からイワークが顔を出した。

 続けて、そのイワークの口から吐き出される形でナオト達が姿を現す。イワークのあなをほるで氷を割って海の中に潜り、フリーザーのぜったいれいどから逃れたのだ。

 

「……うっ……あ…っ」

 

 しかし、ナオトの身体は青白く冷め寒さに凍えてガタガタと震えていた。唇は紫色に染まっている。イワークの口の中にいたとはいえ、ぜったいれいどが収まるまで極寒の海に浸かっていたのだ。凍死寸前の状態になって当然だろう。

 

 イワークが氷の地面の上にナオトを寝かす。

 そんな彼の元へアイと、なぜか凍えた様子のない少女が慌てて駆け寄った。

 

「ミャウミャ!」

『ナオトさん!』

 

 彼女らの心配する声に、ナオトは震えた声で「フ、フリーザーは……?」と聞く。

 少女がフリーザーのいた場所を振り向くが、どこにも姿はない。代わりに、モンスターボールがポツンと一つ転がっていた。

 ぜったいれいどが発動する直線にナオトが空中高く投げたモンスターボール。あれが時間差で降下し、フリーザーに当たってゲットすることができたのだ。

 

『大丈夫です! ちゃんとゲットできてます!』

 

 ボールを拾ってきた少女は、ナオトの傍に座り直すと彼の手にボールを握らせてその手を自分の両手で包んだ。

 これで後はサンダーだけだ。サンダーは既にフリーザーに氷漬けにされているのでゲットは簡単だろう。だが、ナオトは身動きが取れないほど凍えて弱り切っている。

 

「ミャア」

 

 アイはナオトにくっついて毛皮で彼を暖める。そうしていると、ナオトのベルトに取り付けられたモンスターボールが次々に光り出した。

 

「ゲンガァ」

「ブゥ」

「ココッ」

 

 ゲンガー、ブースター、コイキングがボールから出てきて、アイと同じようにナオトにくっついて主人の身体を暖め始めたのだ。イワークも風が当たらないようナオト達を囲むようにしてとぐろを巻いてくれている。

 バンギラスが出てこないのは、あのイワークをゆうに超える体重だと氷の地面を割りかねないからだろう。ボールの中にいながらも身動ぎして心配してくれているのが分かる。

 

「み、みんな……あ、ありが、とう……」

 

 ナオトは辛そうにしながらも、無理に笑ってポケモン達に感謝した。

 ブースターはともかく、ゲンガーはその性質上逆に寒くなりそうだし、コイキングもヌルヌルして体温も暖かいとは言い難い。それでも、自分を助けようとしてくれるその気持ちがナオトの心を暖めてくれていた。

 

 そんなトレーナー冥利に尽きるような光景を、少女は微笑ましげ……いや、少し羨ましげに見つめている。

 

 

 

 「──ギョオオオォォーーーッッ!!」

 

 

 

 ところが、そんな和やかな空気に水を差すような鳴き声が静止した世界に響き渡った。

 

 弾かれたようにナオト達が振り向く。振り向いた先には、サンダーがその大きな鋭い翼を広げていた。氷漬けの状態から解放されてしまったのだ。

 

「ギヨーオッ!」

 

 サンダーはナオト達の存在を認識すると一鳴きし、翼をはためかせてナオト達のいる方角へ一直線に飛び出す。

 早く何とかしないと、サンダーの攻撃で一網打尽にされてしまう。しかし、肝心のナオトは動くことができない。

 

「ミャアッ!」

 

 ナオトから離れたアイがサンダーを迎え撃とうとする。

 しかし、それを遮るようにして少女が先に前へ出た。少女は振り返り、ナオト達を見下ろして告げる。

 

『ここは、私に任せてください』

 

 そう言って、少女は迫るサンダーを決意を秘めた目で見据える。

 すると、少女の身体から光が放たれ始めた。アイが、ゲンガー達が、ナオトが、目を見開いて光に包まれる少女に見入る。

 

 光の形が変化していく。人間から、そうでない姿に。

 その姿を見たナオトが、無意識の内に呟く。

 

 

「──ルギ、ア?」

 

 

 水かきのような形をした大きな翼をはためかせ、白銀の羽を舞い散る。海の神と称される伝説のポケモンが、ナオト達の目の前に現れたのだ。

 だが、その身体はナオトの知識にあるルギアよりも小さく、腹部と目元は通常の個体のような青色ではなく赤色に染まっていた。

 

 ルギアは声もなく飛び立つと、向かってくるサンダーに竜のオーラを纏って迎え撃つ。ドラゴンダイブだ。

 突然新たに現れた敵にサンダーは一瞬目を見開くが、敵は倒すのみとばかりにかみなりで応戦する。

 

「…………」

 

 サンダーと攻防を繰り返しながら空を飛び交うルギアを見ながら、ナオトは考えを巡らせる。

 あの少女の正体はルギアだった。テレパシーで会話していたのはそのためだったのだ。ナオトと一緒に極寒の海に落ちて平気だったのも納得である。

 

 海の神、破滅を救わんと現れん。

 つまり、彼女はこの時代の海の神ということなのだろう。

 

 しかし、ルギアの戦い方はどこかぎこちない。どんどんサンダーに追い詰められていっているのが目に見えて分かった。

 

「────!」

 

 このままではやられてしまう。そう思った矢先、ルギアのまもるによるバリアをサンダーのかみなりが貫いた。

 ルギアはかみなりに押される形で氷の大地を滑り、ナオト達の近くまで流れてきた。すかさず追い打ちをかけようとサンダーが迫ってくる。

 

「イワーク! れいとうビームだ!」

「グオオオッ!」

 

 幾分か回復したナオトはサンダーに対してイワークのれいとうビームで牽制する。そして、ふらつく足取りでアイと共に倒れているルギアの元まで駆け寄った。

 

「だ、大丈夫か!?」「ミャウ!」

『っ……すみま、せん』

 

 ルギアは申し訳なさそうに謝って話し始める。

 

『私は、あのサンダー達と違って生まれたてというわけではありません。でも、本来ならもっと力を持って生まれるはずが、突然変異か何かで通常よりも小さくて弱い個体として生まれてしまったんです……』

 

 加えて、先の仮面の集団からタマゴを守ろうとした際、槍で喉を傷つけられてしまった。そのせいで得意技であるエアロブラストも使えなくなり、鳴き声を出すこともできなくなってしまっていたのだという。

 つまるところ、彼女はバトルにおいて神としての実力を発揮できない状態なのである。人間の姿で仮面の集団に捕まっていたのも、人間に姿を変えて彼らを説得しようとしたからだった。

 

『私は海の神として生まれたのに……何の役にも立てない。ごめんなさい』

 

 ルギアは自分の不甲斐なさにその瞳から涙を流している。

 ナオトはそんな彼女をじっと見つめた。その後ろでは、イワークに加えてゲンガー、ブースターがそれぞれの技でサンダーを迎撃している。それを掻い潜って近づいてきた時はコイキングがたいあたりして近づけさせない。

 だが、皆これまでの戦いでかなり消耗している。長くは持たないだろう。

 

「……ルギア」

 

 ルギアの涙を拭ったナオトは、優しい口調で話し始める。

 

「不甲斐ないのは僕も同じだ。ポケモン達が頑張ってくれるから、僕は今ここにいることができる。みんながいなかったら、僕なんてとっくの昔に海の底さ」

 

 話を聞きながら、ルギアは俯かせていた顔を上げた。

 

「僕は別に、世界を救いたくてここにいるわけじゃないんだ。そんな大それたことをできるような強い人間じゃないからね」

 

 そう語るナオトに、そんなことはないと目で訴えるルギア。

 ナオトは首を横に振って答える。

 

「僕がここにいるのは、ある人を助けるためさ。その子にはいつも手を引っ張ってもらっていたのに、喧嘩別れする形で別れてしまった。でも、世界が破滅してしまったらもう会うこともできなくなる。手を握ることもできなくなる。だから今、僕はここにいるんだ」

 

 ナオトはその誰かを頭の中に思い浮かべているのか、静かに目を閉じている。

 そして、目を開くと同時に再び口を開く。

 

「ルギア。僕に力を貸してくれ。君が必要なんだ」

『……でも、私にそんな力は』

「君は世界のためなんて重い責任を抱えてるから、それに押し潰されそうになってるんだ。こう考えてみてくれ。世界のためじゃなくて、僕のためにって」

『貴方の、ために……?』

 

 ルギアの呟きに、ナオトは頷く。

 

「そうだルギア。僕のために、君の力を貸して欲しい」

 

 そう言って、手を差し出すナオト。

 ルギアはそんな彼をじっと見つめた。ナオトの言葉が頭の中で反響する。

 

 世界のためではなく、目の前の──自らが選んだ操り人のために。

 

 この人の力になりたい。

 ただ純粋に、ルギアはそう思った。

 

 そう思うと、なんだか元気が湧いてくるような気がしてくる。ルギアは翼に力を入れ、ゆっくりと起き上がる。

 ナオトとルギアは頷き合うと、上空を飛ぶサンダーを見据えた。

 

「グ、オオォッ!」

「ゲン、ガァ……!」

「ブッ!」

「ココ、コッ」

 

 時間を稼いでくれていたイワーク達が、サンダーのかみなりによってついに倒れてしまう。

 ナオトは彼らをモンスターボールに戻し、心の中で感謝した。

 

「……行くぞ、アイ。ルギア!」

「ミャウッ!」

『はい!』

 

 ルギアは腰を低くして応え、ナオトとアイをその背に乗せて飛び立った。

 

「ギョォォオッ!!」

 

 再び向かってきたルギアに、サンダーは鳴き声を響かせてほうでんを放つ。

 

「ルギア、まもるだ!」

『────ッ!』

 

 それに対して、ナオトの指示でルギアのまもるによるバリアが展開される。

 サンダーのほうでんは全周囲に電撃が放出されるために避けることは難しい。だが、その攻撃範囲故に連発はできない。

 

「ドラゴンダイブ!」

「ギ、オォッ!」

 

 ほうでんを凌ぎ切ったところで、すれ違いざまにサンダーへドラゴンダイブをお見舞いする。その攻撃を避けようともせずにまともに受けるサンダー。

 

「……っ、ルギア! もう一度ドラゴンダイブだ!」

 

 それに訝しみながらも、ナオトは続け様にドラゴンダイブを指示する。

 一撃、二撃とすれ違う度に連続で行われる攻撃に、サンダーの身体へのダメージが蓄積されていく。

 

『いけそうです! 次で決めましょう!』

「……ああ!」

 

 持てる限りのパワーを携え、サンダーに向けて光を伴ったルギアが特攻する。

 

 

「──ギヨッ!」

 

 

 刹那、サンダーの目が大きく見開かれた。

 それと同時に、サンダーのくちばしから凄まじい電気エネルギーが塊となって現れる。

 

「しまった!」

 

 ナオトが叫ぶ。あれはでんじほうだ。それも普通のでんじほうよりも収束されるエネルギーの量が段違い。じゅうでんによってパワーが倍増している。

 サンダーが避けもせずに甘んじて攻撃を受けていたのは、このためだったのだ。

 

「ルギア、まもるだ!」

『は、はい!』

 

 指示に従い、ルギアは急停止してバリアを張る。

 

 

「ギヨオオオオォォーーッッ!!」

 

 

 数瞬遅れて、サンダーのでんじほうが撃ち出されバリアに直撃する。

 

「う、あああっ!!?」

 

 その威力に、バリア越しであるにも関わらずナオト達の身体が激しく揺らされる。

 ただでさえでんきタイプわざでも最高威力の技であるというのに、それにじゅうでんによるブーストが加えられているのだ。もはや一撃必殺技と化しているといっても過言ではない。

 

 凄まじい威力を受けて、ルギアのバリアがミシミシと軋み始める。亀裂が走り、電撃の光が激しく明滅してナオト達の目を眩ませた。

 このままでは、でんじほうに撃ち抜かれてしまう! 必死に考えを巡らせるナオト。

 

 しかし、無慈悲にもバリアの亀裂は大きくなる。

 ついにでんじほうがバリアを破り抜き、光がナオト達を包み込む。

 

 ──その時だった。

 ナオトの肩に乗っていたアイが、迫るでんじほうに向けて飛び出したのは。

 

 

「ミャァウウゥーーーッ!!」

 

 

 アイの小さな身体から、ルギアのそれを上回る強力なバリアが張られた。

 それによって、サンダーのでんじほうは完全に相殺される。

 

 アイが覚えさせてもいないまもるを、それもあそこまで強力な効果で発揮させたことにナオトは逡巡するが、今はそれについて考えている暇はない。

 

「今だ、ルギア!」

 

 ナオトの掛け声にルギアが頷き、翼を広げてサンダー目掛けて肉薄する。残った力を全て振り絞って。光をその身に宿し、一つのエネルギーの塊となる。

 

 

「最大パワーで、ゴッドバードだ! いっけええぇぇッ!!」

 

 

 迫るルギアにサンダーは苦し紛れにでんきショックを放つが、間に合わない。

 

 三柱の神。

 その最後の一柱の叫びが、光と共に世界へ響き渡った──

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

 ファイヤー、サンダー、フリーザー。

 世界の均衡を保つ神々をゲットし終えたナオト達は、アーシア島の岬へと凱旋していた。

 

 だが、これで全てが終わったわけではない。

 未だ空は曇天に染まり、海は激しく波打ち続けているのだ。

 

「ギヤーオッ!」「ギヨオオ!」「キョーーオ!」

 

 ゲットした三鳥は今、モンスターボールから出して横一列に整列させている。

 彼らはボールから出されると同時に睨みを交わし、そのくちばしで鍔迫り合いを始めようとしたのだ。

 

「おい、お前たち。いい加減にしろ」

「「「…………」」」

 

 一応主となったナオトに嗜まれて矛は納めてくれたが、お互いそっぽを向いて顔を合わせようとしない。

 何とも困った神々である。さすがに喧嘩っ早すぎではなかろうか。

 

『何とか争いを止めることはできましたが……本当の意味で三鳥の怒りを鎮めないと、世界のバランスは崩れたままです』

 

 再び人間の姿に変化したルギアが、困ったようにそう口を開く。

 

「どうすればいいんだ?」

『本来なら私の歌声で猛る心を慰め落ち着かせることができるんです。でも、人間達に喉をやられてしまって……今はそれができません』

「テレパシーじゃ、駄目なのか?」

 

 ナオトがそう聞くも、首を横に振られる。

 テレパシーはあくまで相手の脳にイメージを寄越すだけ。ちゃんと音として伝えないと効果はないらしい。

 

「──あ、あの……」

 

 そこへ、騒ぎの発端である仮面の集団が恐る恐るといった様子でナオト達のいる岬の方へやってきた。

 先頭に立っていた族長が、被っているその仮面を外す。その顔は、現代のアーシア島の長老によく似ていた。

 

「貴方様のおかげで、我々の命は助かりました。なんとお詫びを申し上げたら良いか……」

 

 彼らは自分達のしでかしたことを理解し、尻拭いをしてくれたナオト達に謝罪しに来たようだ。

 

「詫びとか、そんなことはどうでもいい。まだ全部終わったわけじゃないんだ」

「な、なんと……我々にできることがあれば何でもおっしゃってください!」

「そう言われてもな……」

 

 ナオトは困ったように頭を掻く。

 そんな彼の目に集団の後ろの方に控えている女性達が映る。その首には笛がぶら下がっていた。フルーラの持っていた笛と同じものだ。

 その笛を見たナオトの頭に、電流が走る。

 

「ちょっと、その笛を貸してくれ!」

「え? は、はいっ」

 

 女性は慌ててその笛をナオトに手渡した。

 

「ルギア! これを……」

『?』

 

 受け取ったナオトはその笛をルギアに渡そうとする。

 差し出された笛にルギアは小首を傾げた。

 

「これで、鳴き声が再現できるんじゃないかと思うんだけど」

 

 この笛は海の貝殻を使って作った物だ。ルギアと同じ海に生きた存在が出す音であれば、効果があるかもしれない。

 それに、フルーラはこの笛を神々に捧げる笛だと言っていた。

 

『でも、私は人間の笛を吹いたことなんて……』

「いいから、試してくれないか?」

 

 呟くルギアに、ナオトは無理矢理笛を手渡す。

 困惑するルギアであったが、不思議とその笛は彼女の両手にしっくりと馴染むのであった。

 

 ルギアは無意識の内に、笛の歌口に唇を当てる。

 

 

 ────―♪

 

 

 深い海の底から響き渡るような、それでいて透き通った笛の音がファイヤー達の耳に届く。

 

「「「…………」」」

 

 眉間に皺を寄せていた三柱の神はその顔を緩ませ、瞼を閉じてその音色に聴き入っている。

 ナオトはその演奏に耳を傾けながら、目を瞬かせた。笛を吹くルギアの姿が、あの舞台で演奏したフルーラの姿と重なって見えたのだ。

 

 そして、演奏が終わる。

 神々を慰める音色が耳を通して胸の内に渦巻いていた燻りを浄化し、傷付いた身体を癒やす。三柱の表情は穏やかな物に変わっていた。

 いつしか空は青く晴れ渡り、地平線まで広がっていた氷の大地は溶け切っている。あれだけ激しく波打っていた海もそのお鳴りを潜め、優しい波の音を響かせていた。

 

「お、おおお……なんとっ!」

「奇跡だ! 奇跡が起きたぞ!」

 

 族長達はその光景に感激し、喜び騒ぐ。とにかく、これでもう大丈夫だろう。

 

「お前達、これからは沖にある三つの島を縄張りにして平穏に暮らしてくれよ」

「ギヤォ……」「ギヨッ」「ョオオ……」

 

 ナオトの言葉に三鳥はお互いに目を向けると、まあ縄張りを破らない内は大人しくしてやるよと言いたげな顔で鼻を鳴らす。

 そして翼をはためかせ、自分達にあてがわれた島へと飛び立っていった。

 

「本当に大丈夫か? あいつらは……」

 

 呆れたように呟きながら、ナオトは残された彼らのモンスターボールを回収しようとする。

 しかし手に取ろうとした瞬間、ボールが光を放ち始めた。

 

「な、何だ!?」「ミャウ!?」

 

 驚くナオトとアイ。光は徐々に収束していき、収まる。

 ボールは元の赤と白の色をした物から、ガラス玉のような見た目に変化していた。それは、操り人の儀式で集めるオタカラ──宝珠そのものであった。

 

「これは一体……?」

『恐らく、神々のエネルギーを受けた影響だと思います』

「……なるほどな。そういうことだったのか」

 

 ルギアの推測を聞いたナオトは、宝珠に変化したモンスターボールをこのままこの時代に残しておくことに決めた。

 もしかしたら、これが代々受け継がれて現代の儀式に使われているのかもしれないのだから。

 

「────いてっ」

 

 ナオトが感慨深い気持ちに浸っていると、彼の頭をポンと叩く者が現れる。

 見上げると、そこにはセレビィが笑みを浮かべてナオトを見下ろしていた。

 

「ビィ♪」

 

 セレビィは遊ぶようにナオトの周りを飛び回ると、傍にいたアイと顔を合わせる。

 

「ミャ?」

「ビィッ! レビレビィ!」

「ミャウ!」

 

 セレビィと何やら話したアイは嬉しそうに声を上げてナオトの方を見る。「帰れるのか?」と聞くと、アイはこくりと頷いた。

 

『帰って、しまわれるのですか……?』

「あ、ああ……」

 

 会話を聞いていたルギアが尋ね、頷いて答えるナオト。

 そして、おずおずと自分の正体を話し始めた。

 

「……あのさ、実は僕、セレビィの力で別の時代から──」

『はい、分かってました。貴方が未来から来た方だということは』

「え?」

 

 ナオトの言葉をルギアがその必要はないと遮る。

 あのモンスターボールを見て、未来の時代から来たことは何となく察していたと。

 

『……ナオトさん。どうか、この時代に残ってはくれませんか? 私……貴方に、傍に居て欲しいんです』

 

 ルギアは頬を赤くさせ、両の手を胸の前で握って言葉を紡ぐ。

 ナオトはそれに面食らうも、首を横に振った。

 

「……ごめん。まだ、元の時代でやることが残ってるんだ」

『それは、先ほど言っていた方を助けるためですか? 喧嘩別れしたという……』

 

 彼女の質問に、ナオトは目で肯定して返す。

 目を伏せたルギアは『……私、その方が羨ましいです』と呟く。

 

『あ、あのっ!』

 

 すると、ルギアは唐突に顔を上げてナオトに詰め寄った。

 

『もし……もし、私がその方のように貴方の手を引っ張れるような、そんな強い心を持てる存在になれたら……また、会ってくれますか?』

「え?」

 

 その言葉にポカンとしていたナオトだったが、「……ああ。もちろん」と微笑み、頷いて返した。ルギアもまた、それに笑顔で返す。

 

「それじゃあ……」

 

 別れを告げるナオト。アイを肩に乗せ、セレビィに目で合図する。

 頷いたセレビィの両手に、光が集まる。ナオトとアイはその光に包まれていく。

 

『ナオトさん!』

 

 思わず、ルギアは彼らに駆け寄ろうとした。しかし、眩い光がそれを遮る。

 ルギアの視界を覆っていた光が収まると、そこには誰もいなくなっていた。

 ただ、三つの宝珠が転がっているだけ。

 

 

「ん? これは……」

 

 その後ろで、仮面の集団の一人が見慣れない黄色いボールが落ちているのを見つける。

 GSと書かれているが、この時代の人間にその文字を読むことはできないのであった──

 

 




現代へとんぼ帰りします。

■先代ルギア
色違いでサイズもやや小さい。
性別はメス。映画本編のルギアも脚本の首藤氏によると元々メスとして考えていたらしい。(海の神=海=生命を生み出す=母といった感じで)
ファイヤー達のタマゴを奪った人間達を説得するため、人間の姿に化けていた。
なぜかその姿はフルーラに瓜二つである。

■ファイヤー・サンダー・フリーザー
ものすごく喧嘩っ早い。
書く上でイメ―ジしたのはSDガンダム外伝・騎士ガンダム物語のアルガス騎士団。
あの三人がアムロに怒られてしょぼんとしてるシーン、ホント好き。
知らない方はすみません。

■オタカラの珠
「実はモンスターボールだったんだよ!」
ΩΩΩ< な、なんだってー!!

■セレビィ
役目を終えたので、ナオトと共に現代へ戻って自由となった。
過去に残されたGSボールは流れ流れて現代へ。そして、その時代に時渡りしてきたセレビィが中に入り、ウチキド博士の手に渡る。
元々過去の時代で生まれた個体で、その時代での世界の危機を救うために未来から優れたる操り人を選び連れてきた。

■アイ
覚えていないはずの技まで使える。
なお、ルギア爆誕編で正体が語られる予定はない。


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