ポケットモンスター -Hello My Dream-   作:PrimeBlue

29 / 32


ちなみにこの『ダークルギア爆誕』だけ今までと違いサブタイトルに漢字が含まれていますが、ミスではありません。
無印アニポケに倣って平仮名に統一していましたが、爆誕を平仮名にすると違和感があったので意図してそうしています。



29. ダークルギア爆誕 ② ▼

 ナオト達はダークブラストの猛襲を掻い潜り、ルギアに接近しようと試みていた。

 

 しかし、れいとうビームやかみなりなどで攻撃してもまもるによるバリアを張られ、隙を見て近付こうとすれば同じくバリアで弾かれ、弾かれた先で追撃のダークブラストに襲われる。

 通常、まもるという技は連続で発動し続けると失敗する確率が高くなるはずなのだが、ダークボールによって極限までパワーを高められたルギアにその様子は一切見受けられなかった。

 

「サトシ! ダークブラストを放った後、少しだけど隙が出来る! そこを狙おう!」

「分かった! オレに任せてくれ!」

 

 ならばとナオトがそう提案し、サトシが囮役を買って出てサンダーと共に突っ込む。

 

「────ァア゛!!」

 

 作戦は目論見通りに進み、飛び回るサンダーに向けてルギアがダークブラストを放つ。

 その隙を狙って背後に回り込むナオト。

 

「ファイヤー! かえんほうしゃだ!」

「ギヤァァオッ!」

 

 ファイヤーのかえんほうしゃがルギアを襲う。

 しかし、ファイヤーの炎は標的に届く直前でまたしてもバリアに弾かれてしまった。このルギアは攻撃と同時に防御も可能というデタラメな能力を持っていたのだ。

 

 通常まもるは発動するのに多大な集中力を必要とするため、他の技を同時に使うことができない。

 しかし、ダークルギアにはそれが適用されなかった。

 

「くそっ! なんてデタラメな奴だ!」

「ッ、ナオト!」

 

 背中にしがみついているフルーラの声が耳元で響く。

 ナオト達が乗るファイヤー目掛けて、ルギアの尻尾がしなりながら迫っていた。

 ファイヤーはかえんほうしゃを放った体勢から抜けることができない。

 

「ミャアアッ!!」

 

 間一髪、アイのじんつうりきで無理矢理移動することで何とか回避することに成功した。

 

 ──その時だった。

 フルーラが肩に下げているポシェットから、笛が零れ落ちてしまったのだ。

 

 笛はそのまま海に落ちてポチャンと水音を立てて沈んでいく。

 フルーラもナオトも、ルギアからの攻撃に気を取られてそれに気づかない。

 

「二人共、大丈夫!?」

「フリーザー! れいとうビーム!」

 

 駆けつけたフリーザーに乗っているケンジが声を投げかけ、カスミが攻撃を指示してルギアの注意を逸らす。

 

「ああ! フルーラは!?」

 

 ナオトが振り向いて後ろにいるフルーラに声をかける。

 

「大丈夫に決まってるでしょ! それより、どうするの? このままじゃルギアを助ける前にみんなやられちゃうわ!」

 

 ナオトは彼女の言葉に「分かってる!」と答え、再びルギアを見据えた。

 

「……こうなったら一か八か、アイツの力を借りるしかない」

「アイツ?」

 

 その呟きにフルーラが首を傾げて尋ねるが、ナオトは答えない。

 ファイヤーに指示を出し、サトシやカスミ達に攻撃を仕掛けているルギアへと一直線に向かう。

 

「フルーラ、場所を交代してくれ。きっとルギアが迎撃してくるだろうから、ファイヤーへの指示を頼む」

 

 その最中、ナオトはそうフルーラに頼み込んだ。

 彼の目を見たフルーラは理由を聞かずに頷き、「分かったわ」と答えてナオトと位置を変わる。

 

「タイミングを見計らってギリギリで避けてくれ!」

「ええ!」

 

 ナオトはフルーラの後ろに移動し、膝立ちの体勢を維持。

 見据えた先で、ナオト達が再び何か仕掛けようとしていることを察したサトシ達が懸命にルギアへ攻撃を加えているのが見える。

 しかし、いい加減飛び回るハエに我慢の限界が来たのか、ルギアはぼうふうでニ鳥を吹き飛ばしてしまった。

 

「──ギヤアァァス!!」

「「わああっ!?」」

 

 ファイヤーが使ったものとは桁違いの威力だ。

 乱れ狂う風に煽られて制御が聞かなくなったサンダーとフリーザーは嵐に飛ばされる草葉の如く方々へと散ってしまう。

 

「ッ! ァァア゛!」

 

 次いで、別方向から僅か数秒の所まで接近しているファイヤーに気づいたルギア。

 すぐさま体勢を切り替え、ダークブラストで迎撃してくる。

 

「ナオト!」「ピカッ!」

 

 微かにサトシとピカチュウの声が聞こえた気がした。

 だが、ナオト達は避けない。闇の波動が眼前に迫り、視界を覆い尽くす。

 

 

「────今よ!」

 

 

 飲まれると思われたその瞬間、フルーラがファイヤーに指示を出して回避。

 皮一枚、スレスレの所で躱すことに成功した。

 そのまま滑るようにしてダークブラストをやり過ごし、一気にルギアへと肉薄する。

 

「そこだ!」

 

 ナオトが左手に準備していたモンスターボールを宙に放り投げた。

 

「ギラアアァッ!!」

 

 中から光と共に現れたのは、バンギラス。

 目前のルギアと比較しても見劣りしない巨大さだ。

 その姿を見て、フルーラは目を見開いた。ナオトは二度とバンギラスを出さないと思っていたのだから。

 

「バリアごと貫け、バンギラス! 最大パワーで、ギガインパクトだァッ!!」

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

「おらああっ!!」

「サムッ!」

 

 上段から棒状のチューリップを振り下ろすドミノ。ハッサムはその攻撃を鋏を盾にすることで防いだ。

 

「ニャラアアーッ!!」

 

 ハッサムと鍔迫り合いの火花を散らせるドミノに、横からニューラのメタルクローが襲う。

 ドミノはそれを訓練生時代に鍛え上げた跳躍力を持って回避してみせた。

 コクピットの天井スレスレを通って着地するドミノ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 しかし、その息は荒い。額には汗が滲んでいた。

 

「ハッサァ!」

「ッ! ピィ、シャドーボール!」

「ピィィ!」

 

 そんな彼女にハッサムが羽を羽ばたかせて肉薄するが、ドミノの指示でシャドーボールを放ったピィに邪魔をされる。

 

 ビシャスに啖呵を切って挑んだドミノであったが、存外彼のポケモン達に苦戦していた。

 彼のハッサムとニューラはどちらも例のダークボールでパワーを強化されている。しかも、この二匹は付き合いが長いのか連携も上手く出来ていた。ビシャスの指示がなくとも、お互い目線のやり取りだけで行動に移っているのだ。

 

「ピィ♪ ピィ♪」

 

 対して、ドミノのピィはこの状況をバトルと認識しているのかいないのか、いつも通り楽しそうに観戦していた。

 当然、指示がないとわざを使ってくれない。意識すれば援護射撃を頼めるが、実質ドミノ一人で戦っているようなものだった。

 

「どうだ? このまま私の部下として従うのであれば、命だけは助けてやるぞ」

 

 コンピュータを守るようにして立っていたビシャスは、自分が優勢であることから余裕の態度でそうドミノに提案する。

 

「お断りよ。例えアンタがロケット団を裏切ってなかったとしてもね」

 

 しかし、考える素振りも見せずそれを突っぱねるドミノ。

 彼女はハッサムとニューラ越しにビシャスを睨みつけながら続ける。

 

「私はねぇ、あんな雑用でナンバーズに復帰したいだなんて、はなっから思ってなかったのよ。むしろこっちから願い下げだわ!」

「そうか、残念だ」

 

 ビシャスはわざとらしく方を両手の平を上に向けて肩をすくめた。

 

「では、時間が惜しいのでね。そろそろ終わりにさせてもらおう。ハッサム、かげぶんしん!」

「ハッサム!」

 

 ハッサムがドミノとピィを囲むようにして自らの分身を作り出す。

 

「ッ!?」

 

 ドミノは必死に目を走らせて本物を見分けようとするが、さすがの彼女でもそれは困難。

 こうなれば、相手が攻撃を仕掛けてきた瞬間に即座に反応できるように構えておくのがベストだ。

 

 ──だが、その考えはミステイクであった。

 

「ニュゥゥ、ラッ!!」

 

 ハッサムのかげぶんしんによる囲いを飛び越えて、ニューラが躍り出てきたのだ。

 分身にだけ集中していたドミノは無意識の内にニューラのことを失念していた。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをし、慌ててチューリップをニューラに向けようとした。

 

 ──その時、ドミノの視界をピンク色の何かが覆った。

 ピィだ。ピィがドミノの肩を飛び越え、彼女を庇うようにして前に出たのだ。

 

「ピィ!?」

 

 咄嗟にドミノはチューリップを放り出し、その小さな星型の身体に両手を伸ばした。

 そしてしっかりと抱きかかえ、そのまま迫るニューラのメタルクローから庇うべく背中を向ける。

 

 人間が受けたらひとたまりもない、鋼鉄の爪がドミノの華奢な背中を抉った。

 

 殺った。その光景を見ていたビシャス達はそう確信した。

 ただ一匹を除いて。

 

「ニュ、ラ?」

 

 当の爪を振るったニューラだけが、手応えのなさにその顔を困惑の色を浮かばせていた。

 

「? 何で……」

 

 それはドミノも同じであった。背中を激痛が襲うかと思えば、軽い痛みが走っただけだったのだから。

 思わず自身の身体を見てみると、薄ぼんやりとした光に包み込まれている。

 

 彼女の知らないことではあるが、このピィの特性はフレンドガード。

 効果は味方の受けるダメージを軽減するというもの。

 

「ピィ♪」

 

 胸に抱いているピィは、自身を見上げて相も変わらず無邪気に笑っていた。

 それに釣られて、ドミノの口元にも笑みが浮かぶ。なぜかは分からないままが、ピィが自分を助けてくれたのだと絆の繋がりから悟ったのだ。

 

「……このおチビちゃん。アンタってホント最高ッ!」

 

 そう声を張り上げたドミノはピィを放り出し、すぐさまチューリップを拾い上げる。

 そのまま、振り向きざまにニューラへフルスイングした。

 

「ニュア゛ア゛ッ!!?」

「ハ、サッ!?」

 

 遠心力の加わった渾身の一撃はニューラの身体をくの字に曲げ、弾丸の如く吹き飛ばす。

 上手いことに、それは軌道上にいたハッサムを巻き添えにしてコクピットの壁に叩きつけられた。

 

「ピピィー!」

 

 ドミノの見事なプレーに諸手を上げて歓喜の声を上げるピィ。その小さな両手の指が興奮のままに左右へと振られる。

 それに気づかぬまま、ドミノは跳び上がった。

 

「なっ!?」

 

 自分のポケモン達がやられて驚愕しているビシャスの頭を踏みつけ、くるりと一回転してコンピュータの前に降り立つ。

 

「よ、よせ!!」

 

 ビシャスの叫びにも耳を傾けず、ドミノは目の前のコンピュータ目掛けてチューリップを大上段に振り被る。

 そして、思いっきり振り下ろした!

 

 ──その瞬間。

 

 

「ピィ♪」

 

 

 ピィの左右に振られた指が止まる。

 その指を中心にして、コクピット全体を白く染めるほどの眩い光が放たれた────

 

 

 

◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓

 

 

 

「ギヤアアア゛ア゛ーーォ゛ッッ!!」

 

 激しい拮抗の末、バンギラスのギガインパクトが見事ルギアのバリアを貫いた。

 そして、ルギアはギガインパクトの直撃を背中から受ける。

 

「ギ、ラ゛ァッ!?」

 

 同時に痛み分けとばかりにゼロ距離から放たれたルギアのダークブラストがバンギラスの身体を焼いた。

 双方はお互いの最高威力のわざを受けたダメージで満身創痍となり、意識を失くして真っ逆さまに落下していく。

 

「戻れ! バンギラス!」

 

 ナオトはファイヤーに乗ったままモンスターボールを掲げ、バンギラスを手元に戻す。

 ルギアはそのまま水柱を上げて海に墜落し、その白銀の身体を海上に浮かばせた。奇しくも、そこはアーシア島の裏──あの祭壇のある岬の傍であった。戦っている内に、いつの間にかここまで戻ってきてしまっていたのだ。

 

「ナオト! バンギラス、言うこと聞いてくれるようになったのね!」

「ああ。タケシの協力のおかげだよ」

「そっか……ホントに、良かった」

 

 自分のことのように嬉しがるフルーラ。

 ナオトはファイヤーに指示を出し、サトシ達と共に倒れたルギアの元へと向かう。

 

 もはや原型を留めていない岬に戻ってきたナオト達。

 それぞれ三鳥の背中から地面に降りようとゆっくり降下していく。

 

「────ッ!!」

 

 だがその時、沈黙していたルギアが突然覚醒。

 水飛沫を上げてその場で暴れ始めたのだ。

 

「「うわああ!?」」

 

 荒ぶるルギアの翼がファイヤー達の身体を掠め、ナオト達は岬の上に放り出された。

 

「ッ、ルギア!」

 

 すぐに起き上がったサトシが崖縁に駆け寄り、悲痛な声を響かせる。

 ルギアは既に身動きができないほどのダメージを受けているはず。恐らく、ダークボールの束縛によって満身創痍状態でも無理矢理身体を動かされているのだろう。

 

「サトシ! フシギダネのねむりごなで眠らせれば……」

「そ、そうか! フシギダネ、ねむりごなだ!」

「ダネフシッ」

 

 ケンジの提案にサトシがベルトからモンスターボールを取り出し、フシギダネを出す。サトシの指示を受けて、フシギダネは背中の蕾からねむりごなを振りまいた。

 

「──ァ゛ァ゛ッ!」

 

 しかし、ねむりごなは暴れるルギアには効果を発揮しなかった。

 ルギアが纏う神気の前に、ねむりごな程度のわざが通用するはずもなかったのだ。

 

「そんな……」

 

 何かルギアを大人しくさせる方法を考えなければ。こんな状態で暴れ続ければ、本当に死んでしまう。

 一体どうすればいい? ナオトは顔に焦りを滲ませながら必死に考える。

 

 そんな彼の耳に遠くから爆発音が届いた。

 距離があったためか、幾分か勢いが弱まった爆風にナオトとフルーラの髪が煽られる。

 

「な、何だ?」

 

 ナオトは音のした方を見る。

 目線の先には、炎に巻かれながら煙を上げて海へと墜落する飛行艇。

 

「あれって、ビシャスの飛行艇……よね?」

 

 フルーラが唖然とした表情で呟く。

 理由は分からないが、ビシャスの飛行艇が突然爆発した。

 呑気に自分達とルギアの攻防を観戦している内に、誤って自爆スイッチでも押してしまったのだろうか?

 

「ミャウッ!」

「どうした? アイ」

 

 アイの声にナオトが振り向く。彼女はルギアの方を前足で差していた。

 見ると、ルギアの身体全体を紫電が走っていた。

 

「──ャ、ア゛ア゛!!」

 

 彼は真っ赤な目を見開いて叫び、激しく痙攣している。

 やがて、その紫電が止むと糸が切れたかのようにピタリとその動きを止め、ゆっくりと再び海上へその身体を沈めた。

 まるでビシャスのダークボールによる束縛から解放されたように。何だか分からないが、今がチャンスだ。

 

「フルーラさん! 早く笛を!」

「ええ!」

 

 サトシの焦りの混じった声に頷き、フルーラは笛を取り出そうとポシェットの中を探る。しかし、その手は空を切った。

 

「あ、あれ?」 

 

 ポシェットを肩から外し、逆さにして上下に振ってみるフルーラ。

 

「どうした? フルーラ」

「……な、ない! 笛がないわ! ナオト知らない!?」

 

 慌てた様子で縋るようにナオトに聞くフルーラに、彼は「いや、知らないけど……アイはどうだ?」と振るが、彼女も首を横に振った。

 

「ひょっとして、戦いの最中に落としちゃったんじゃ……」

「ええっ!? そんなっ」

 

 様子を見ていたケンジがそう呟く。

 カスミがショックのあまり声を上げた。

 

「……ッ」

 

 自分のミスで最後の希望も潰えてしまった。

 その事実を前にフルーラは俯き、その顔は絶望に青褪めていく。

 

 そんな最悪な空気の中で、ナオトはついさっきまでいた時代──古代のアーシア島でのことを思い出していた。

 あの時もルギアが笛を吹いて三鳥の怒りを鎮めていたのは確かである。しかし、ルギアによると本来は彼女自身の歌声で怒りを鎮めるという話ではなかっただろうか?

 彼女が喉をやられて声を出せなくなっていたから、代わりとしてあの笛を使ったのだ。

 

 ナオトの脳裏に、歌を歌うフルーラの姿が映る。

 アーシア島を旅立つ前にこの岬で歌っていた、あの歌だ。

 

「……フルーラ、笛なんかなくたって大丈夫だ」

 

 ナオトのその言葉に、フルーラは俯かせていた顔を上げた。

 

「な、何言ってんのあんた。こんな時に適当なこと言わないでよ!」

 

 そんなフルーラの涙混じりの言葉に対して、ナオトは首を横に振る。

 

「逆に聞くけどさ、何で笛の音じゃないと駄目なんだ?」

「それは……分かんないけど」

 

 フルーラは言い淀む。

 伝承ではこの笛は神々に捧げる笛だと記されているし、ルギアも笛の音が必要と言っていたのだ。

 もしかすると、今代の海の神にも正確なことは伝わってないのかもしれない。

 

「……笛じゃなくてもいいって言うなら、何ならいいのよ?」

 

 そう返すフルーラに、ナオトは確かな自信を持って答えた。

 

「お前の歌だよ」

「は、はあ?」

 

 思ってもみなかった答えに、フルーラは思わず間抜けな声を出してしまう。

 

「う、歌って……あの歌のこと? 無理に決まってるじゃない!」

 

 顔を赤くさせて反対するフルーラ。

 笛で奏でる曲は昔から神々に捧げる曲と言い伝えられていた由緒正しいものだが、あの歌はフルーラ自身がその曲に歌詞を作ってアレンジしたものだ。

 そんな素人が作った歌で神々をなだめるなどできるわけがない。そう考えてしまっても仕方がなかった。

 

 狼狽するフルーラの肩に手を置いて、ナオトは諭すように続ける。

 

「肝心の笛はもうないんだ。なら、ダメ元でもやってみるしかないだろ?」

「でも……」

 

 それでもフルーラは思い惑う。

 操り人になるという約束を破った手前、ここで自分を信じてくれとナオトには言えないし、言う資格もない。

 だけど、どうせ世界が終わるというなら──

 

「……頼む。聴きたいんだ。フルーラの歌を」

 

 それはひどく無責任な頼みにも聞こえるかもしれない。

 だが、少し気恥ずかしそうにしながらも真剣な眼差しを向けるナオトを見て、フルーラはドキリと胸を高鳴らせた。

 

 その眼差しから、ただ歌が聴きたいからこんなことを言っているわけじゃないことは分かる。

 フルーラには見当も付かないが、ナオトには自分の歌が笛と同じように神々をなだめ癒やす力があると確信めいたものがあるようだ。

 

「ミャウ!」

 

 アイも、フルーラのスカートの裾を引っ張って催促している。

 

「よく分かんないけど……フルーラさん! オレからもお願いします!」

 

 話を聞いていたサトシがそう頼み込む。

 

「お願いよ。フルーラ!」

「僕も、少しでも可能性があるなら……」

 

 カスミとケンジ。

 一縷の希望に縋るようにして、それぞれがフルーラに懇願する。

 

 戸惑うようにしてナオトの方を振り返るフルーラ。

 ナオトはフルーラと目を合わせ、ゆっくりと頷いてみせた。

 

「──ッ」

 

 フルーラは少しばかり逡巡しながらも、ナオトに背を押されるなんてらしくないと心の中で自分を叱咤し、両手で頬を叩いた。

 こうなればヤケだと、頭を切り替える。

 

「……どうなっても知らないからね」

 

 呟き、祭壇の中心へと歩み寄る。

 そこでもう一度ナオトの方を振り返って、ちゃんと聴いてなさいよねと目で伝えた。

 

 意を決した表情で半壊した祭壇に顔を向けるフルーラ。

 胸の前で祈るように両手を握り、目を閉じて不安な気持ちを吐き出すように深呼吸する。

 そして、ゆっくりとその口を開いた。

 

 

 ────♪

 

 

 歌声が響き渡る。

 静かだが芯のある声の音色が、アーシア島の岬を中心に。

 

 サトシ達は普段の彼女からは想像できないその優しい声色に目を丸くしていたが、次第にその歌声に聞き入り身を委ね始める。

 

 すると、ナオトとサトシ、そしてカスミが持っている宝珠が急に輝き出した。

 赤、黄、青。三原色の光が祭壇全体を照らす。

 ナオト達は頷き合い、辛うじて残っている祭壇に三つの宝珠を納める。すると、それぞれの光が共鳴し合い蛍色の光が漏れ出す。

 

 祭壇の隙間からそれと同じ色の水が溢れ出し、足場の溝を通って海へと流れていく。

 それは海上に浮かんでいたルギアを包み込むとその傷を見る見る内に癒やしていった。

 

「ギヤ―オ!」「ギヨオー!」「キョーオ!」

 

 宝珠を通してフルーラの歌声はアーシア島の周りを飛んでいた神々の耳にも届く。

 その優しく心地よい歌声に三鳥の闘争心は癒やされ、解放感に歓喜の鳴き声を響かせた。

 

 その光景を見て、フルーラは歌いながら思わずナオトと目を合わせる。

 ほらな、とばかりに小さく笑みを返すナオトに、フルーラも目を細めて顔を綻ばせた。

 

 気づけば、海を覆っていた氷は解け、空は青く晴れ渡り、太陽を覗かせていた。

 まるでこのはてしない世界が本来の姿を取り戻すように。

 三鳥は翼を広げて飛び立ち、その歌声に合わせて踊るように空を舞う。

 

 そして、意識を取り戻したルギアが穏やかになった海から翼を羽ばたかせ、ナオト達の前に降り立った。

 その羽毛は元の白銀色に戻っている。ダークボールの支配から脱することができたのだろう。

 

「良かった、ルギア!」

「ピッピカチュウ!」

 

 彼の無事な姿を見上げて、安堵の声を漏らすサトシとピカチュウ。

 

『ありがとう。君に助けられるのは、これで二度目だ』

 

 ルギアに礼を言われ、フルーラは歌い続けながらも気恥ずかしそうにする。

 

 ナオトは今代のルギアを見て、やはり自分の出会ったルギアはもういないのかとその瞳に若干の憂いを滲ませた。

 そんな彼の視界に、空を飛ぶルギアと歌うフルーラの背中が映る。

 

 フルーラの歌声で何とかなるという確信があったのは事実だ。しかし、それが何を根拠にしたものなのかははっきりしていなかった。

 その歌声で見事に三鳥の怒りを鎮めることができたフルーラ。そして、そんな彼女と瓜二つの姿に化けていた先代のルギア。

 まどろむような意識の中で、彼女達の姿が重なる。

 

 

 ──もし……もし、私がその方のように貴方の手を引っ張れるような、そんな強い心を持てる存在になれたら……また、会ってくれますか?

 

 

「……そっか。随分待たせちゃってたんだな」

 

 一つの答えを導き出したナオトは、悟った笑みを浮かべる。

 

 ルギアは事件解決の最大の功労者であるサトシの前で身体を低くし、自分に乗るよう促した。

 彼が取り戻したこの海と空を、彼自身の目で見渡させるために。

 サトシはそれに頷いて答え、次いでナオトの方を振り向いた。

 

「一緒に行こうぜ。ナオト!」

「え? い、いや、僕は……」

 

 もちろんナオトは激しく手を左右に振って遠慮する。

 サトシほど立派な意思を持ってこの場に臨んだわけではないからだ。

 

「ギャーオ!」

 

 そんな浮足立っているナオトの隣にいつの間にかファイヤーが降り立っていた。すぐ傍にはサンダーとフリーザーもいる。

 ファイヤーがナオトに自分に乗るよう姿勢を低くして促した。そんな彼を押し退けて、いやオレに乗れよとサンダーが前に出る。いやいや私に乗れよとフリーザーがさらに他の二鳥を押し出した。

 

「ギヤヤー!」「ギョ―!」「キョオー!」

 

 三馬鹿はお互いを押し退け合い続けている。このままエスカレートしたらまた喧嘩をし始めそうだ。

 

「おいおい……」

 

 戸惑うナオトの手を、歌を歌い終えたフルーラが引っ張る。

 

「ほら、何してんのナオト。この子達の喧嘩なんか早く止めて乗りなさいよ!」

「ミャウ!」

 

 笑顔を向ける彼女。肩に乗っているアイも笑っている。

 そこまでされたら乗らないわけにもいかない。ナオトは困ったように頭を掻くと、「いい加減にしろ!」と三鳥を叱った。

 彼らが大人しくなったのを確認すると、アイと共に一番乗り慣れているファイヤーの背中に腰を降ろす。

 

「ギヤーオッ!」

 

 自分の勝ちだと言わんばかりに炎の翼を広げて一鳴きするファイヤー。他の二鳥からチッと舌打ちするような音が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

 そして、フルーラが続けてファイヤーの背中──ナオトの後ろに乗り込む。

 

「え? お前も乗るのか?」

「何よ。私がいちゃ邪魔?」

 

 振り返って聞くナオトにフルーラが唇を尖らせて返す。

 その彼女の顔が思ったよりすぐ近くにあったのでナオトは慌てて顔を正面に戻し、「べ、別にそんなこと言ってないだろ」と口にする。

 

 ファイヤーがナオトとアイ、フルーラを乗せたまま翼をはためかせ、地上から飛び立って空へと舞い上がる。サンダーとフリーザーもその後に続いていった。

 遅れてサトシとピカチュウを乗せたルギアがゆっくりと羽ばたいて風に乗り、ファイヤー達を追い越していく。

 

 紺碧の空を彩るようにして神々が飛翔する。

 そよぐ心地良い風がナオトの髪を撫でた。

 

 視線を下に向ければ、ファイヤーの背中越しにアーシア島に集まってきていたポケモン達が神々を称えるようにして海を泳いでいる。

 泳げないポケモンはみずポケモンの背中に乗って、皆それぞれ喜び勇しむ。それはまるで、無邪気な彼らがナオト達の真似をしているようにも見えた。

 その様子を見て、ナオトは本当に世界は危機から脱して元の姿を取り戻したのだと改めて身に染みて実感した。

 

「──えっ」

 

 ナオトが地上を見渡しながら感慨深い気分に浸っていると、ふいに後ろから華奢な腕が回された。フルーラがナオトの背中にしなだれかかるようにして抱きついてきたのだ。

 顔を真っ赤にさせて動揺するナオトと幸せそうなフルーラを見て、肩に乗ったアイがくすくすと微笑む。

 

 神々による空の演舞が続く。

 気づけば日は傾きかけ、空は緋色に染まりつつあった──

 

 

 

 

 

 海に浮かぶ飛行艇の瓦礫の上で、傷だらけのビシャスがぐたりと仰向けに倒れている。

 ヒビ割れた仮面越しに頭上を飛び交う神々を見つめ、これまでの彼からは想像できないほど弱々しく項垂れている。

 

「あ、ありえない……私のダークボールは完璧なはず。どうしてあんな女に、あんなガキ共にぃ……」

 

 ──ビィッ

 

 呪詛のように呟くビシャスの視界の隅を、黄緑色の小さなポケモンが横切った。

 反射的に飛び起きた彼が辺りを見回すが、既にそこには何もいない。

 

「……そうか。その手があったか」

 

 そのポケモンの正体に気づいたビシャスが、一転して再びその口端を醜く歪ませる。

 

「ククッ、せいぜい束の間の平和を味わうがいい。まだ私の計画は終わっていない。そう、時渡りの力さえあれば……!」

 

 




結構あっさりというか駆け足気味になってしまいましたが、なんとかダークルギアをどうにかすることができました。
突っ込み所が多々あると思いますけど、こういうのは勢いが大事。
明日、エピローグを投稿します。

■フルーラ
過去の世界でナオトが出会った先代ルギア。それが時を越えて人間に転生したのが彼女。
と言っても、記憶はほとんど受け継がれていないのでほぼ別の存在と言ってもいい。
正直かなり悩んだが、他の案で良い感じの展開に持ち込めそうになかったのでこうなった。

■フルーラの歌
序盤で歌っていた歌と同じ、元々ルギア爆誕のEDのために用意されていた『はてしない世界』。
良い歌なので、聞いたことない人はぜひ聞いてみて。

■ビシャス
ここから『時を超えた遭遇』に繋がる。
このSSではロケット団の任務とは関係なく独断でセレビィをつけ狙う。
なお、ナオトがそれに関わる予定はないので『時を超えた遭遇』のエピソードを書く予定はない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。