ポケットモンスター -Hello My Dream- 作:PrimeBlue
どこまでも広がる青い海。さんさんと輝く太陽。
オレンジ諸島のマンダリン島。
そのプライベートビーチで、白い砂浜にパラソルとビーチベッドを敷いて、優雅にリゾートを満喫している水着の女性が傍らに置いたジュースのストローに口をつけた。
辺りに騒がしい子供や店の喧騒はない。心地よい海風と波の音だけが女性の耳を撫でる。
まさに絶好のバカンス日和と言わんばかりの光景がそこにあった。
「──お客様。お電話でございます」
しかし、そんな状況に水を差す輩が現れる。利用しているホテルのスタッフだ。
女性はつけていたサングラスを外すと、煩わしそうにしながらも差し出された受話器を手に取る。
「ちょっと、絶賛満喫中の私の時間を浪費させようなんて一体どこのどなたかしら?」
『ほう。どうやら存分にバカンスを楽しめているようだな?』
「──ッ!? サ、サカキ様! し、失礼いたしました!」
電話の相手が自分の上司、しかもボスであることが分かり、態度を改める女性。相手が目の前にいないにも関わらずビーチベッドに沈めていた身体を跳ね上げて姿勢を正す。
『……実は、オレンジ諸島での活動を担当していたヤマトとコサブロウという団員がヘマをしてしまってな』
「はぁ……」
『釈放させるにも時間がかかりそうだ。しかし、まだ奴らに任せていた仕事は残っている。そこで、ちょうどオレンジ諸島へバカンスに行っているお前に白羽の矢が立ったというわけだ』
相手がボスであると分かった時点で嫌な予感はしていたが、まさかの自分とは関係ないことで休暇返上するはめに。
何が悲しくて休暇中に仕事をしなければならないのか。当然女性は何とかしようと打開策を申し出る。
「で、でも私はご存知の通り休暇中で……他にも任せられるような団員の一人や二人いらっしゃるでしょう?」
『確かに、オレンジ諸島にはまだもう一つのチームが滞在している。だが……奴らにははっきり言って欠片も期待できそうにない。こちらはこちらで奴の探索で新たな人材を派遣できる余裕もなくてな。つまり、お前しかいないのだよ』
「うっ……で、ですが」
それでも渋る女性だが、自分の所属している団のボスにそこまで言われるとさすがに断り切れない。
『仕事の内容は追って秘書のマトリから連絡させる。もちろん、休暇返上分の報酬は出す。何、ナンバーズのお前ならとるに足らない仕事だ。良い報告を期待しているぞ』
プツリと一方的に電話が切られる。
受話器を握ったまま顔を俯かせ、わなわなと震え始める女性。
傍に控えるスタッフが恐る恐る声をかけようとしたその時、女性がガバリと勢い良く立ち上がって受話器を乱暴に砂浜へと叩きつけた。
「──ちっくしょうがッ! このクソッタレ!!」
◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓
「さ、着いたわよ! 早く起きなさいってば」
「……分かった。分かったから揺らすなって」
数刻過ぎて、ナオト達は無事ダイダイ島の港に到着した。
桟橋に船を係留し、隅でぐったりしているナオトを引っ張り上げるフルーラ。元のゾロアの姿をしたアイが心配そうに眺めている中、危なっかしい足運びで船から降りて地に足をつく。
「ミャウミャア?」
「ああ、大丈夫……でも、もうちょっと丁寧な運転を期待してたんだけどな」
「あれぐらいの揺れでダウンしちゃうなんてだらしないわねぇ。ちんたら走らせてたら日が暮れちゃうじゃない。ほら、しゃきっとする!」
フルーラに肩を押され、ナオトはまだ揺れているような感覚に頭を悩ませながらもフラフラと歩き始める。火の島へ船で向かった時は平気だったのだが、恐らくそれはアイのことで頭が一杯だったからかもしれない。
ナオト達が降りた島──ダイダイ島は島の縁に沿うようにして町が作られていた。
海岸線に沿って伸びる道を自転車で走り抜けば、さぞかし気持ちが良いことだろう。
一方で町の方はその立地のためか高い建物はほとんどなく、特別発展しているというわけでもない。オレンジ諸島で一番大きいマンダリン島のビッグシティに比べたら天と地の差があるのは確かだ。
しかし、その代わり町からほんの少し離れるだけで豊かな大自然に迎えられる。まさに丁度良い形で、ポケモン達と人間がのびのびと暮らせる環境が整っているのだ。
少し先を歩くアイも、新しい町を前に興奮気味にはしゃいでいる。
「で、ナオト。あんたこれからどうするんだっけ?」
ふいに、ナオトの後ろを歩いていたフルーラがそう声をかけてきた。
そこまで船酔いするタイプではないナオトが酔うほど船をかっ飛ばしていた彼女。さっさと横を通り過ぎて先に行ってそうなものだが、ふらついているナオトが転んだりしないようなんだかんだ見ていてくれているのかもしれない。
最も、そんな気遣いをしていたとしても今のナオトには伝わるはずもないが。
「とりあえず足りない必需品を買いに行こうと思ってるけど、その前に次の飛行船の便が何時に出るのか調べとかないと……」
そう。ナオトは元々の目的地であるカントー地方の本土へ向かうためにこのダイダイ島を訪れたのだ。
本来なら定期船が出ているデコポン島に向かうはずだったが、フルーラが自分の用事を優先して飛行場のあるこの島を選んだのである。
「あ、それなんだけど。先に謝っとくわ。ごめんね」
「……え? どういうことだ?」
「本土行きの飛行船ってね、朝と昼の便しかないの」
その言葉に、ナオトはピタリと歩みを止める。そして、錆びた機械のようにギギギと首を振り向かせた。
「…………今って何時だっけ」
「お昼ご飯食べてから出たんだから、お昼過ぎに決まってるでしょ」
なんて無慈悲。
告げられた事実を前にして頃垂れそうになるのを抑え、ナオトがフルーラにガンを飛ばす。
「お、ま、え……最初から知ってただろ!?」
「何言ってんのよ。うっかり忘れちゃってただけだってば。誰かさんのせいでウチの船が塩焼きになっちゃったからね」
「ぐっ、そこでそれを出すか」
ナオトは一つ深い溜息を吐き、頭に並べていた不平不満の文句を隅へ追いやった。
「……仕方ない。今日はポケモンセンターにでも泊まるか」
「あら、ウチに戻ってもいいのよ?」
「見送られたばかりで戻ってくるヤツがあるか! 後、船のことだけど……今すぐは無理でもいつかちゃんと弁償するつもりだからな」
「はいはい。期待しないで待ってるわ。アイちゃーん! そろそろ行くわよ!」
「ミャウ!」
フルーラの呼びかけに応え、近くを歩き回っていたアイがタタタと走って戻ってくる。
「じゃあ、フレンドリィショップを探すか。そこなら旅の必需品は大抵揃うし」
「あ、その前に私の用事済ませてからね」
「いや、別行動で良くないか?」
「……大事な船だったのになぁ」
「…………分かった。分かったよ」
よろしい、と笑顔で頷いて先を行くフルーラ。
ガックリと肩を落としたナオトを見かねて、少女の姿に変化したアイが背中を押してあげるのだった。
◓ ◓ ◓ ◓ ◓ ◓
「……おい」
「何よ?」
「造船所に行くんじゃなかったのか?」
辺りを見回せば、船の一隻も見当たらない商店街。規模は大きくないが、飛行場がある島なだけあって観光客向けの店が多い。
もっとも、これらの店はどちらかと言えば旅行帰りの客を対象にしているのだろう。ダイダイ島自体は特に観光スポットがあるわけではないし、ここの港から船に乗り換えてマンダリン島へ向かう客がほとんどだからだ。
ナオトが普段行かないような場所とあって、フルーラと手を繋いで歩いているアイは興味津々な様子だ。
「そんなこと一言も言ってないじゃない。中古の船なんか帰りにチラッと見ればいいんだから、まずはウィンドウショッピングよ」
「買わないんなら寄る意味ないと思うんだけど」
「あんたねぇ、そんなこと言ってたら女の子にモテないわよ。それに、どうせフレンドリィショップはこの商店街を抜けた先にあるんだから。さ、行きましょアイちゃん」
「ミャ!」
別にモテたくなんかないし、と小声で文句を言うナオトを尻目にフルーラはアイと一緒に立ち並ぶ店を巡っていく。
逸れるわけにもいかないので、彼女らの一歩後ろをついていくナオト。ただただ無言でついていくその様は傍から見たら親カモネギについていく子カモネギのような醜態であった。
しばらく店を回って、一行は宝飾品店のショーウィンドウに並べられた綺羅びやかな品々を絶賛物色中。アイが楽しそうにしているので、なんだかんだナオトもそれほど退屈しないで済んでいるようだ。
「この真珠のブレスレット、綺麗ね」
「……それ、シェルダーから取ったヤツじゃないか。多分」
「え、シェルダーって確か貝みたいな見た目したポケモンよね? へー、アレも真珠作るんだ」
フルーラの反応を見て気を良くしたのが、ナオトがさらに続ける。
「ああ。シェルダーだけじゃないぞ。パールルっていうポケモンが作る真珠はもっと高価なんだ。一生に一度しか作らないからな。なんで真珠ができるかっていうと──」
「あ、うん。もういいわ。あんた、ホントポケモンのこととなると止まらないわね。ほら、アイちゃん。綺麗な真珠──って、あれ」
フルーラがアイがいる方を振り向くと、そこに彼女の姿はなかった。慌てて周囲に目を向けると、ほんの少し離れた場所で何かをじっと見つめているアイを見つける。
「アイ。どうしたんだ?」
「ミャウ」
歩み寄ったナオトがそう声をかけると、アイが指を差す。
差された方向を見ると、向かいの店の正面にある生垣──その傍に、藍色に染まったカブのような見た目をした生き物がいた。不安そうな顔でキョロキョロと辺りを見回している。
「あれは……ナゾノクサか?」
ざっそうポケモンのナゾノクサ。昼間は地面に隠れて、夜に根っこである足を使ってあちこち動き回る夜行性のポケモンだ。
月の光を浴びて育つというそのポケモンが、こんな真っ昼間に太陽の光を浴びているなんて珍しい。一体なぜだろうと眺めていたナオトは、そのナゾノクサのある部分に注目する。
「何、どうしたの?」
「ナゾノクサがいるんだけど……通常の個体と何だか草の形が違うんだ」
ほら、とナオトはポケットから取り出した妙に次世代的なポケモン図鑑をフルーラに見せる。
確かに図鑑のスクリーンに映るナゾノクサとは明らかな違いがある。目線の先にいるナゾノクサは頭から生えている草に深い切れ込みが入っていたのだ。
「ふ~ん。珍しいんならゲットしちゃえばいいんじゃない?」
「いや、ナゾノクサは夜行性のポケモンなんだ。この時間に、しかも町中をうろついているってことは誰かのポケモンである可能性が高いと思う」
「え? そうなの? それにしても、ゲットされてるポケモンかどうか簡単に見分ける方法とかってないのね」
「ないんだなこれが。よく知らずにゲットしちゃいそうになるトレーナーがいるから、図鑑で判別できるようにして欲しいもんだけど……まあとりあえず、保護してジュンサーさんに引き渡しとこうか」
「ミャウ!」
ナオトの言葉を受けたアイがナゾノクサに駆け寄り、その丸い身体を抱え上げる。何かを訴えたそうな表情をしているが、とりあえず逃げ出そうとはしないようである。
やはり人間慣れしているのだろう。アイは化けているだけで人間ではなくポケモンだが。
とにかく、こういう迷子ポケモンのことはジュンサーさんに任せるのが一番だ。自力で探そうとして相手のトレーナーと行き違いになっても困る。
ちなみに、ジュンサーさんというのは各地の治安維持を担当しているポケモンポリスに所属する警官の中でも代表的な存在、いわゆる顔だ。ポケモンポリスと言えばジュンサーさんというのが世間一般的な認識である。カントー地方でもそれは変わらないだろう。
「それじゃ、交番を探しま──」
「あ、そこの君達。ちょっといいかな?」
そこへ、二人に声をかける者が現れる。
逆立った髪に浅黒い肌をした糸目の青年で、買い出しでもしていたのか食料などが入った紙袋を両手一杯に抱えている。
「俺はタケシ。そのナゾノクサに見覚えがあって……ちょっと見せてもらえるかな?」
タケシと名乗る彼は、このナゾノクサに心当たりがあるらしい。
頷いたアイが抱えているナゾノクサを掲げて見せると、タケシの顔を見たナゾノクサが心なしか安心したような顔を浮かべた。
「うん。やっぱり、コイツはウチの研究所で暮らしてるナゾノクサだ。かなり内気なヤツなのに、なんだってこんなところまで……」
「研究所?」
「ウチキド博士の研究所さ。この島で、オレンジ諸島に生息するポケモンの生態について研究してるんだ。俺はその人の助手として働いてるんだよ」
どうやら、このナゾノクサはウチキド博士という人の元で飼育されているポケモンのようだ。
研究所の裏には豊かな自然が広がっており、そこでポケモン達がのびのびと暮らしているらしい。彼らの生態を知るには、自然のままに生活できる環境が必要なのだ。
「研究って……」
「ん? どうしたんだ?」
「いや、もしかして、ナゾノクサの草の形が違うのと関係してるのかなって」
ナオトが少々人見知り気味な態度でそう口にすると、当たりだったのかタケシは驚いたように眉を上げた。
「その通りだよ! 君はもしかしてオレンジ諸島の子じゃないのか?」
「まあ、出身はイッシュだけど」
「やっぱりそうか。オレンジ諸島のポケモンは通常の個体と違って体色や模様が違ったり、このナゾノクサみたいに身体の一部分が違う形になっていたりするんだよ。環境によるポケモンの違い、それを調べるのがウチキド博士の研究テーマなんだ!」
熱く語るタケシ。彼がそのウチキド博士のことを深く尊敬しているのは傍から見ても明らかだ。しかし、何だかそれだけではないような雰囲気を漂わせているのは気のせいだろうか。
「しかし、困ったな。俺はこの通り両手が塞がってるし……すまないけど、良かったらナゾノクサを研究所に連れ帰るのを手伝ってくれないか?」
「僕は別にいいけど」
と言って、ナオトはフルーラの方に目線を送る。
「……私も構わないわよ。どうせ後は中古の船見るだけだしね」
二人が承諾すると、タケシはほっとしたように顔を綻ばせた。
フルーラは何か言いたげな目でナオトを見ているが。
「ありがとう。ウチキド博士の研究所は町外れの方にあるんだ。ついてきてくれ」
食材が詰まった紙袋を両手に抱えたまま、タケシはしっかりとした足取りで先導し始める。その背中からは、結構な旅慣れをしている風格を感じさせた。
ウチキド博士の研究所に向かう道中にタケシに自己紹介を済ませたナオト達。
しかし、その後で居心地悪げにナオトは眉をひそめた。横を歩いていたフルーラが物申したげな目を彼に向け続けているからだ。
いい加減我慢できなくなったナオトがフルーラの方を振り向き、口を開く。
「おい、さっきから何だよ」
「……あんた、出身はカロスって言ってたじゃない。なのにさっきイッシュ出身って答えてた」
フルーラの返した言葉に、ナオトは「ああ……」と困ったように頭を掻いて呟く。そういえば、彼女には言い直すのが煩わしくてカロス出身だと言っていたのだった。
「ちょっと説明が面倒だっただけさ。確かにイッシュ地方出身だけど、小さい頃にカロス地方に移ったんだよ。アイともイッシュにいた頃に出会ったんだ」
「ふ~ん。親の仕事の都合とか?」
「……似たようなもんかな。親がどっかに行ったから施設に預けられてたんだけど、そこの生活が嫌でポケモン取扱免許が許される前に抜け出して旅に出たんだよ。で、色々あって行き着いた先がカロスだったんだ」
予想外の生い立ちと無謀な旅立ちの経緯にフルーラは目を丸くする。さすがに悪く感じたのか、彼女はバツが悪そうな顔をして謝る。
「えっと、なんかごめん」
「別にいいよ。それに、親が子供置いてどっか行くなんてわりとよくあるらしいし。お前だって両親いないんだろ?」
「まあね。私の場合は物心ついた頃からどっちもいなかったから、お爺ちゃんが親代わりをしてくれてたんだけど」
ナオトが言うように、この世の中では親が子を置いてどこかへ行くというのはざらにある。その理由はポケモントレーナーを極めるためなど色々あるが、大抵は自分勝手なものがほとんどだ。
根本的な原因は十歳という低く定められた成人年齢にあるのかもしれない。若気の至りで早々に結婚して子供を作り、その後思い出したかのように失った青春を取り戻さんと躍起になる大人が多いのだ。
「着いたぞ。ここがウチキド研究所だ」
そんな面白くもない話をしている内に、一行はいつの間にか目的地である研究所に着いていた。海沿いの崖道を進んだ先にある、ヤシの木の緑に囲まれた大きな白い建物だ。
タケシと共にガラス扉を潜って研究所に入るが、人の気配が感じられない。首を傾げたタケシが荷物を一旦床に置き、呼びかける。
「ウチキド博士ぇー! タケシですぅ! ただいま帰りましたぁー! ミナミさん、ツナミさん、コナミさーん!」
──が、虚しく響き渡るだけ。
ウチキド博士を呼ぶ時だけなぜか媚びるような声色だったのはなぜだろうか。
「おかしいなぁ。今日はどこかに外出する予定はなかったはずだけど……ナゾノクサがいないのに気づいて、入れ違いになったのかもしれないな」
「でも、もしかしたら裏庭の方にいるんじゃない? 研究所の裏にポケモンが暮らす森があるって言ってたわよね」
「そうだな。ちょっと覗いてみよう」
タケシの案内で、研究所の奥の方へ進むナオト達。
コツ、コツ、コツと、薄暗い無人の廊下に靴音が鳴り響く。
「さっき呼んでたミナミとかツナミって人は?」
「ああ。俺と同じで、ウチキド博士の助手をしている三つ子の女の子達だよ。ナゾノクサを探しに出たとしても、一人くらいは留守番してるはずだと思うんだけど──」
「ナ、ナゾッ!」
「ミャ!?」
そんな話をしながら廊下を歩いていると、アイに抱えられていたナゾノクサが彼女の腕を抜け出し、小さな足をパタパタと動かして研究所の奥、裏庭とは違う方向に走っていってしまった。その後をアイが追いかける。
「あ、アイ! 待てったら! ナゾノクサの奴、一体どこに行くつもりなんだ?」
「この先は地下室があるはずだけど……もしかしたら、そこに博士達がいるのかもしれない!」
「早く追いかけましょうよ!」
ナオト達も慌ててアイの後を続くため、駆け出す。
トコトコ先を走っていくナゾノクサ。
足の短さ故、そこまで走る速度は速くない。あっという間に距離が縮まっていく。
後もうちょっとで追いつくと思われたその時、ナゾノクサの足は宙を泳いだ。前から道を塞ぐようにして現れた白衣を着た女性によって、抱え上げられたのである。
「あっ! すみません。えっと、貴方は……?」
そこへ追いついたナオト達。一歩前に出たタケシが怪訝そうにナゾノクサを抱え上げた女性の素性を尋ねた。
どうやら、彼女はこの研究所の者ではないらしい。金髪の巻き毛に、背はタケシと同じくらい。俯き加減だった顔がゆっくりと上げられ、顔が露わになる。切れ長の目をしているが、顔立ちには少しばかりまだ幼い印象が見受けられた。
「ああ、ビックリさせちゃったわね。ゴメンナサイ。私はドミノ。国立ポケモン研究所から派遣されたの」
ドミノと名乗った女性は、腕に抱いたナゾノクサを優しい手つきで撫でる。
しかし、ナゾノクサはドミノに抱かれているのを嫌がり、助けを求めるような目をアイに向けようとしている。それに気づいたドミノは小さく舌打ちをし、ナゾノクサの顔を隠すようにして抱え直した。
「ウチキド博士と助手の方々はこのナゾノクサを探しに出かけていってしまって、私は留守番を頼まれたのよ。多分、もうしばらくしたら戻ってくると思うけど」
「そうでしたか! 自分はタケシといいます! ぜひ、自分と一緒にドミノ倒しを──」
急に舞い上がったような声で自己紹介をし始めたタケシであったが、途中で頭をブンブンと横に振ってそれを中断した。「……いかんいかん、俺には心に決めた人がいるんだ」と何やら呟き、仕切り直すように咳払いをする。
「……ゴホンッ! そ、それじゃあ、談話室の方でウチキド博士を待ちましょうか! ナオト達にもお礼がしたいし、構わないよな?」
「あ、ああ」
ナオトはタケシのヘンテコな挙動に首を傾げながらも、彼の提案に頷く。
一方でフルーラは訝しげに眉を潜め、ドミノの方を睨むようにして見つめているのであった。
一話分の下書きを本文に書き上げるといつも大体二万文字近くになってしまうので、この作品での二話は一話を分割したものと思っていただければ幸いです。
■ヤマト・コサンジ
ムサシとコジロウのパチもん。初登場は無印編第57話「そだてやのひみつ!」。
DP編を最後に全く顔を見なくなったので悲しい。
■サカキ
世界征服を目論む犯罪組織ロケット団のボス。
各地で悪事を働いているが、部下達のことはそれなりに大切に扱っており、コサ何とかの名前をちゃんと覚えている。
ムサシのアーボやコジロウのドガースは彼がお歳暮とお中元に贈ったポケモン。単にいらないポケモンを寄越しただけかもしれないが。
ちなみに、マザコンである。
■マトリ
サカキの秘書を務める女性。
DP編の最後で登場したキャラクターなので、それ以前の話では一切登場していない。
■タケシ
ご存知ニビジムのジムリーダーにして世界一のポケモンブリーダーを目指すナイスガイ。
母親のミズホは家出、父親のムノーは究極のポケモントレーナーを目指して旅立っていたため、一人で九人の弟妹の世話をしていた。
サトシやピカチュウを除けば、多分アニポケで一番愛されているであろうキャラ。作者も好き。