むかしむかし、それも人が神によって生み出されてから500年も過ぎておらず同じく神に創られた動物たちと地上で穏やかに暮らしていた時のお話です。
ある時、悪魔たちが純真無垢な人間の前に姿を現しました。
『君たち人間は神様の姿に似せて生み出されたんだ。どういうことか分かるかい?この地上で君たちが最も偉大な存在であるということなんだよ。動物たちをご覧、四つ足で地面にはいつくばっているのに君たちは二本足で立っている、これこそが立派な証拠じゃないか』
悪魔たちは、そう言い動物たちを虐げ神に近づくことこそが人の使命だと嘯き人間を唆しました。疑うことを知らなかった人間たちは、その言葉を鵜呑みにし動物たちを虐げ神に近づこうと天を突くようなおぞましい巨大な塔を作り始めました。それを見かね止めようとした人間もいましたが、神を疑う愚かものとして迫害を受けました。
この状況に心を痛めた神は、悪魔たちに従わず動物たちを守っていた人間たちと共に悪魔とそれを信奉する者たちを地下へと追い払いおぞましい塔を砕き平和を取り戻しました。
めでたしめでたし
━━遠くで誰かがが聞いたことのないおとぎ話を語っている。暗闇の中に立っていることがかろうじて分かるが、周囲を見ても誰もおらず淡々とした声が聞こえて来るのみである。突然おとぎ話を語っていた声が止まり痛いほどの静寂が支配する。
「歴史は勝者が作るとはよく言ったものだが、このおとぎ話は真っ赤な嘘だ。我々は人間の運命を取り戻すために奴と戦った」
━━声が近づいてくると共に締め付けるようなひどい頭痛が始まりうずくまる。こらえながら声の主を見ようと顔を上げるといつの間にか自分の周りを人型の異形達が囲んでいた。先程までとは違い、うっすらと光があるが異形は光を背に立っており姿を確認することはかなわなかった。
「近く目覚めの時が来るだろう。人の運命を奴から人の手に取り戻してくれ。一方的であることは重々承知しているが、君にしか我らの悲願を託すことが出来ないのだから。そして、どうか…」
━━自分に何か語り掛けてきたが、頭痛のせいで後半の部分を聞き取ることができなかった。自分の正面に立っている異形と目が合う。異形の目は赤い複眼で、頭部には力強さを象徴するように金色の二本の角が生えていた。異形はこちらへ手を差し出した。それにつられるように自分も恐る恐る手を伸ばしその手を掴もうと…
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スマホのアラーム音で目が覚める。半分寝ている状態で枕元に手を伸ばし時間を確認すると朝の6時半を示していた。起きなければならないが、夢のせいかなかなかベッドから出ることが出来ず五分ほどかけてベッドの魔力から脱出を果たした。
「またあの夢か、しばらく見なかったから大丈夫だと思ったんだけどなぁ…。にしても手を伸ばしてくるなんてのは初めてだったな」
5歳ぐらいの頃、怪我をして病院にしばらく入院したことがある。その頃から先程の夢を見るようになった。最初は聞いたことのないおとぎ話が語られるだけだったが、ここ一年ほどは異形に囲まれ声をかけられるようになっていた。せいぜい月一に見ていたものが、この一カ月は数日ごとになりなど頻度が増えていた。
制服に袖を通しつつ夢の内容を思い返してみる。夢を見始めたころは、怖くて夜中に飛び起きては泣き喚いたもんだと思い出したが、年月が経つにつれて夢を見ることが当たり前になっていた。
「
リビングから母親の呼ぶ声がしたため急いで着替えを完了させ、通学鞄を抱え母のもとへ向かう。その際に、机の上に置いていたお守りも忘れずに首に下げる。入院した際に、本家から『肌身離さず持っておくように』という手紙と共に送られてきたもので、袋の中には5センチほどの水晶のような石が入っていた。
リビングでは母親が自分の朝食準備を終えた所だった。
「さっさと食べて出ないと、また遅刻して怒られるわよ。先生から電話かかってくるのはもう嫌よ」
「分かってるけどね母ちゃん、かなりマシになった方だと思いたいよ。証拠に遅刻の件での連絡が減っただろ。それに遅刻の原因を作るのは俺じゃない、アイツだよ」
パンをかじりながら母親に少しばかりの反論を試みるが、それはどうやら無駄だったようだ。
「だから、その原因を作らないようにアンタを迎えに行かせているんでしょ。出来ることなら、アンタと最低限の身の回り品を向こうに預けたいくらいなんだから」
「へい、分かりました。遅刻させないように精進いたしますんでどうかそれだけはご勘弁くだせえ」
「分かったんなら、早く食べなさい。そろそろ時間でしょ」
「おっと、じゃ行ってくるわ」
母親のお小言を背に受けながら外へ出る。五分ほど歩くと目的の家が見えてきた。表札には『三ノ輪』と書かれており大き目な純和風の家であった。預かっている合鍵を使い中へ入る。
「おはようございます。今日も迎えに来ました」
「おはよう翔壱君、毎朝悪いねぇ」
「いえ、お気になさらず。もう慣れましたから」
「もう少しで銀も準備できると思うんだけど、良かったら上がって頂戴?」
「ここで待ってますよ」
そう話していると、幼稚園ぐらいの男子が顔を覗かせた。
「アニキおはよう!!」
「おはよう鉄、銀はどうしてる?」
「姉ちゃん?金太郎の世話をしてたのは見たけど、その後は見てないよ」
「まじかー、しばらくかかるなこりゃ」
上り框に腰かけしばらくぼんやりとしていると階段をドタドタと降りてくる音が聞こえてきた。振り向くと、灰色の髪を一つに結んだ少女が玄関へ向かってきた。
「兄ちゃんごめん、待たせた」
「金太郎の世話してたんだろ?それならしゃーない。そろそろ出ないとまた安芸先生に注意されるぞ」
「おっと、それだけは勘弁。じゃ、行ってくるな鉄男」
「うん、アニキも姉ちゃんも気を付けて」
俺こと
買い物に出かければ道を聞かれるのは当たり前、駐輪場の横を通れば自転車が倒れる、腰痛を起こして動けない老人に出くわすなど行く先々で災難に遭遇するのだ。さらに、銀はそういったのがほっとけない性分らしく手を貸すことが多い。災難に巻き込まれるのが休日だけならいいのだが、平日の通学途中にも災難にあう。そのため神樹館に入学してから二週間も経たないうちに、三ノ輪家に担任から遅刻が多いという連絡が入ることとなった。困った銀の両親がうちの両親に相談し、自分が一個下の銀と共に登校する流れになった。
自分にお鉢が回ってきたのには、ワケがあり同じ地区内で神樹館に通っているのが二人しかいないからということがあった。神樹館は格式高い学校ということもあり、大赦の上位や名家と呼ばれるところの子供が多く通っている。三ノ輪家も大赦内で上位に位置する家である一方、自分は本家の口添えや両親が大赦勤めということから何とか通うことが出来ている。本来であれば、迎えに行くこともなかったはずなのでこの点に関してだけは銀のトラブル体質に感謝している。
「兄ちゃん、傘いると思う?」
玄関から出ると、銀が空を見上げながら不安げな顔で尋ねてきた。確かに、空はやや重苦しいような雲行きをしていた。
「分からんなぁ。ちょっと待ってろ」
そう言って、瞳を閉じて雲の流れをイメージする。すると、早送りでもするように雲が動いてゆき晴天へと移り変わっていく光景が見えた。しかし、目を開けるとそこにある空は相変わらず重苦しい色をしていた。
「銀、多分晴れるから傘なくてもいいと思う」
「兄ちゃん得意の天気予報か。よく当たるけど、どうやったらアタシにもできるか教えてくれよ」
「ま、そのうち教えてやるよ」
「いっつもそう言って教えてくれないよな」
「こういうのにゃコツがいるんだよ、コツが。教えていいと思ったときには教えてやるから、な?」
教えてくれないと不満を述べる銀を何とかはぐらかす。
(…教えられるわけないだろ。なにしろ、使ってる奴さえ何でできるか分かってないんだから)
入院してからその日の天気の移り変わりや人の行動が『視える』ようになった。最初は、怪我の原因かと思ったが医者に相談しても分からないといわれるだけだった。そうなると何とか付き合っていくしかなく、今では便利な天気予報のみとして使っている。
(にしても、最近頭痛がひどくなってきたな。夢となんか関係でもあんのかねぇ…)
横にいる銀に気づかれないようにそっとこめかみを抑える。天気予報をすると必ず、頭痛が起きるが比較的軽く痛みもすぐに引くものであった。しかし、最近の頭痛は予報するたびに痛みがひどくなってくる一方だった。ひどくなり始めた時期も夢で声をかけられるようになってからである。夢との関係を疑うが一体どう関係しているかわからず、只々混乱するばかりである。
「兄ちゃん、兄ちゃ~ん、おーい」
思考の渦に入りかけていたところで銀に呼びかけられているのに気づき我に返った。
「どうした銀、なんか出たか」
「いやまだ朝だからなんも出ないと思うけど…。って、そうじゃなくてさっきからずっと呼んでたんだよ?それな
のになんか考え込んでるし、いったいどうしたのさ?」
「いや、今晩親いねぇし晩飯どうしたもんかと考えてたんだ」
「だったら、ウチで食べてけばいいじゃん。帰りに買い物行こうと思ってたしさ、一人分くらい何とかなるし」
「迷惑じゃねぇか?飯代替わりになんか作るわ」
「きにしなくていいよ、その代わりといっちゃなんだけど鉄男と金太郎のこと頼んでいい?」
「喜んでやらさせていただきます」
いつも通り登校中に発生するトラブルを銀と共に片付け、神樹館小学校の正門へと送り届ける。時計を確認すると、始業のチャイムが鳴るまで10分ほどの余裕があった。
「んじゃ、終わり次第イネスで合流な。イネスに着いたら連絡する」
「分かった、待ち合わせはいつものフードコートでいい?」
「おう、気を付けていってこい」
「兄ちゃんも!!」
そう言って駆け出した銀の背中を見送り、自分も近くに少し離れた所にある神樹館中学へと向かう。
その時ふと
◇◇◇
これは神に見初められた無垢なる少女たちと亡き神に選ばれてしまった少年の物語
神に選ばれた少女たちは世界を守るために勇者となり、亡き神に選ばれた少年は運命のために超常の存在へ姿を変える
願わくば彼女たちに神の加護が、少年に平穏がもたらされんことを
お読みいただきありがとうございました。感想等あればお願いいたします。