入学式の後、レインたちはなぜか荷物をもって校舎裏手の建物に案内された。建物の名は【アインヘル小要塞】。第II分校の特別顧問になったシュミット博士の手によって作られた訓練用実験施設で、内部は導力機構による可変式で難易度の設定も思いのまま。
そしてレインにとって何よりも驚きなのは、敵性対象として魔獣が放たれているというのだ。いくら訓練で魔獣との戦闘経験がある彼でも、まだまだ経験が足りていないのは事実である。そんな危険のある魔獣をあろうことか学院内に放ってあるというのだからそれも当然である。
内部の構造は機械仕掛けの訓練施設というままの形だった。どうやら1Fはエントランスになっていて、奥にはエレベーターがあるので小要塞としてのダンジョンは2F、3Fなどにあるのだろうとレインは予想していた。
「それじゃあ先に自己紹介を済ませておこうか。わるいがここには着いたばかりで君たち3人のことはまだ知らなくてね。俺は...。」
「名乗る必要なんてないでしょう。灰色の騎士リィン・シュバルツァー、帝国の内戦を終結させクロスベルでの共和国からの防衛線でも活躍した若き英雄。帝国だけでなくクロスベルでも知らない人はいないくらい有名人じゃないですか。」
「はい。それに付け加えるとオーレリア将軍、ウォレス准将と協力しノーザンブリア併合にも貢献したとか...。」
「オーレリアってさっきの...、って併合に協力したって。」
小要塞のセッティングまではしばらく時間がかかるそうでその間にリィンが自己紹介を進めようと提案する。しかし、リィンに敵意むき出しのピンク髪の女子は嫌みったらしくリィンの言葉を遮ると、続いてクルトもその怒りを煽るようなことを言い出す。
「ちょっと待ってくれ...、せっかく教官がこう言ってくれてるんだ。これから魔獣とも戦うんだからお互いの最低限の連携は必要だろう。」
「戦うって...こんなバカげたことに本当に参加するつもりなの!?」
「まあ、シュミット博士は冗談でこんなことをする人じゃないしな。やるしかないだろう。そうだな...まずは君から聞いてもいいかい?」
「はい。俺はレイン・S・アルゼイド。まだ初伝の身ですがアルゼイド流に名を連ねる者の一人です。リィン教官については姉上から『頼りになる男』と聞いています。どうぞご教授お願いしたいです。」
「アルゼイドの...。そうか、こちらこそよろしく頼む、レイン。」
さすがに教官に対しての態度としてあまりにも失礼だと感じたレインはたまらず話を遮ると、脱線した話をもとに戻そうとする。リィンもその意図を感じたのか、スムーズに話を自己紹介の流れに戻すことが出来た。そして、初めにレインから名乗る流れになったが、リィンはレインがかつての級友の家族であったことに少しばかり驚いていた。
その後、クルト、ユウナと名乗ったピンク髪の女子、アルティナという銀髪の少女の順で、自己紹介を終えた。ユウナは先日帝国に併合されたクロスベルの出身であり、帝国人やリィンを嫌う態度はそれ故のものだった。そして周囲を驚かせたのはアルティナが帝国軍情報局の出身であるということだった。帝国軍情報局についてレインは詳しく知らなかったが、帝国の諜報機関の一つで、様々な秘匿事項を抱える謎の多い組織であると姉から聞いたことがあった。どうやらリィン教官はもとから知り合いのようだが、それ関連で入学したのだろうか?
「じゃあ攻略にあたり、君たちにはこれを配っておく。」
自己紹介が終わった後、リィンはポケットから小さな球体をいくつか取り出した。リィンが取り出したものはMクオーツというもので新世代戦術オーブメント【ARCUS.II】を使うのに必要な物だった。戦術オーブメントは近代の戦闘において欠かせないものとなった導力魔法を発現するために必要な物で、ARCUS.IIは帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同で開発された最新機体だった。ARCUS.IIには先代機である【ARCUS】を超える新機能があったが、リィンは実戦で教えていこうと考えていたので言葉で説明することはなかった。
「お待たせしました。LV0セッティング完了です。」
「この声...さっきの金髪の??」
「ああ、だが彼女も僕たちと同じ新入生のはずでは?」
「なにか特別な理由があるのかもな。」
ARCUS.IIの説明とMクオーツのセットを終えると、天井のスピーカーから明るい声でセッティング完了を知らされる。声の主も今年から第II分校に入学する生徒だが、彼女はある理由によりシュミット博士の手伝いをすることになっていた。
「ではアインヘル小要塞・LV0の攻略を始めてもらう。せいぜい気をつけて進が良い。」
「えっ!?」
「なっ!?」
シュミット博士のその掛け声とともに、急に足元の地面がなくなった。そうしてレインたちは闇の中へ消えていった。
―――――パチッ!!?
「ふん。これだから帝国の男子ってのは。」
「この場合、帝国云々は関係ない気がするのですが。」
足元の地面がなくなったのはアインヘル小要塞LV0の入り口だったようだ。攻略の内容は簡単、最奥に到達し1Fに戻るというものだった。
まあそれ以前にクルトの善意が運悪く悪い方向に転び、ユウナの怒りに触れてしまった。
「その...災難だったな...。」
「いや、無様な体制で落ちた自分の落度だ。仕方ないさ...。」
レインは一応クルトを慰めるが、どういうわけかクルトはもう開き直ったような態度に、――――真面目すぎるだろ――――と、自分の知るクルトとの変化を感じるレインだった。
「まあ、あんまり遅くなりすぎても良くないし、そろそろ攻略を開始しよう。俺は基本的にやばそうなときのバックアップに徹するから4人で連携をとって迅速かつ慎重な攻略を頼む。各自武器相性などでの連携も考えてくれ。」
「なるほど、そういう感じなんですね。」
てっきりリィン中心で攻略していくと思っていたレインには少し意外だったが、強くなるために入学したレインからすれば生徒中心のダンジョン攻略は正直うれしかった。それに武器好きのレインからすればこの武装紹介は趣味の面からも楽しみだった。
「じゃあぼちぼち、はじめようか...。俺はこれだ。」
「やっぱりその剣を使うのね...。そんなの本当に振れるの?」
「そりゃあ振れるさ、レインはアルゼイドの剣士なんだからね。」
クルトとユウナの間を取り持つようにレインは自分の背から大剣を抜いて見せる。ずっと背負っていたのでユウナも見ていたのだろう。それほど剣自体には驚かなかったが、触れるのかどうかに疑問を抱いている様子だった。ユウナはクロスベルの出身と言っていたし剣の道に精通していなければアルゼイドの名も知らないだろう。
そして、クルト、ユウナと武装を見せていく。クルトは言わずも知れたヴァンダールの大剣...ではなく、ヴァンダールの双剣だ。ヴァンダールの剣もやはり何度見てもきれいな業物だったが、レインの関心は初めて見るユウナの武装に持っていかれた。
「トンファーか!?たしか東方の由来の武器だよな?」
「えっ?あ、うん。でもこれは導力仕掛けになってるから銃撃もできる...って!?」
「銃撃!?どこから出るんだ?ここか?ここか?」
「おい、レイン。悪い癖が出てるぞ。」
「あ!ごめん、ユウナ。」
レインの凶変ぶりにユウナは若干退きがちになり、とっさにクルトのフォローが入る。さすがは旧知の知り合いということもある。正直、そんな時間がないのも事実なのでとても助かったが、レインとしてはもう少ししっかり導力仕掛けのトンファーというのを見たかった。
しかし、ユウナの武器も珍しいと思ったが、アルティナの武装はそれ以上に驚くものだった。彼女が【クラウ・ソラス】と呼ぶ人形のようなものは、彼女の合図で何もないところから現れた。ただ、たしかに驚きはしたがレインは少し残念ではあった。————なにかこれじゃない――――という感がとてもぬぐえなかった。こんな小さな少女が戦える最新の武器が情報局ということもあり、少し期待していたのだが、これは武器?か分からず、レインの関心を惹かなかった。
「はあ、なにか疲れたわ。とりあえず攻略を始めよう。」
「ああ、そうだな。すまない、彼は昔からああなんだ。」
「うん。クルト君さっきはごめんね。不可抗力っていうのはわかってたのに。」
「いや、こちらこそすまなかった。」
勝手にテンションがあがったり下がったりするレインにあきれるユウナとクルトは、お互い冷静になったのか急速な仲直りを見せていた。他人のふり見て我がふりなおすということだろう。
そうして、少し疲れながらも攻略を開始するのだった。
読んでいただきありがとうございます。
今作ではレインの大剣は背から抜くということで考えています。あれが腰にささってるのだいぶ違和感だったので。
次回はいよいよ攻略開始と行きたいです。よろしくお願いします。