ヒィのマビ日記   作:ひいちゃ

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6月第2章~『わーい、イベントだ!』の前に……そちらではありません!

ダンバートンの広場の一角。そこでヒィは、掲示板を見ていた。

 

「羊の毛刈りイベント?」

「どうやら、ティルコネイルで行われているようですね。その名前の通り、特別な羊の毛を刈るイベントみたいです」

 

 つぶやくヒィに答えたのは、メイド服に身を包んだ若い女性。名前はメイナ、ヒィに御付きのメイド。

 そう、ヒィはこの度、チャソおばさんの紹介で、彼女をメイドに迎えたのである。ちなみにヒィにとって初めてのメイドである。

 

「特別な羊かぁ……。どんなのだろ? 試しにやってみようか」

 

 そのヒィの言葉ににっこりとほほ笑むメイナ。でも、街角の時計に目をやると申し訳なさそうに、頭を下げた。

 

「申し訳ありません、ヒィ様。今の時間は、まだ目的の羊は出現していないようでございます」

 

 その言葉に、ヒィもちょっとがっかりした表情を見せた。

 

「そうかぁ……残念。それじゃ、出現するまで何しようか? メイナは何かやりたいことある?」

「え、よろしいのですか?」

 

 驚いた表情で聞き返すメイナに、ヒィはにっこりと笑って「もちろん」と答えた。

 

「ありがとうございます。それでは……」

 

* * *

 

 ヒィのメイスが唸る!

 全力のヒィのメイスがさく裂し、ラゴデッサは吹き飛ばされ、動かなくなった。

 

「ふぅ……こんなものかな」

 

 そう言って汗を拭くヒィを、やや冷ややかな目で、メイナが見つめていた。その表情には、どこか怒りが感じられる。

 

「あの……ヒィ様?」

「え、なに?」

 

 そう聞き返すヒィに、メイナは我知らず少し怒気と冷気を秘めた声で聞く。

 

「なぜキア下級へ?」

「え? 黒クモを退治にきたんじゃないの? そういえば、なかなか黒クモ出ないなぁ。どうしてだろ?」

 

 のほほんとしたヒィに、メイナの何かが切れた。

 

「キア下級に黒クモは出ませんっ!! ラゴデッサとクモを間違えたんじゃないんですかっ!?」

 

 そのメイナの怒声に、ヒィは合点がいった表情でうなずいた。

 

「あー、そうだったっけ。どうりで、なかなか黒クモが出ないな、と思った」

「はぁ……もういいです。それより、そろそろ例の羊が出る時間です。そろそろ行きましょう」

 

 やっぱりのほほんとした感じのヒィに、しょうがないと諦めたのか、呆れたような溜息をついてメイナが促す。

 さすがにそんな様子を見ると、ヒィも済まない気になってくるのであった。

 

「ご、ごめんね、メイナ。後で、タマゴポテトサラダでもおごるから、ね?」

「ヒィ様の中で、私は食いしん坊キャラになっちゃってるんでしょうか……。おごるのはおいといて、早く行きましょう」

 

 そう言って二人は、今まで来た道を引き返し、キア下級ダンジョンから脱出した。

 

* * *

 

 二人がキア下級ダンジョンから出るとそこには……。

 

「うわぁ、人がいるね……」

「いますね。それにみんな、楽しそうですよね」

 

 そう言って、メイナがほほ笑む。

 キアダンジョン入口の前では、多くの冒険者が、羊……否、羊の皮をかぶった狼を追いかけていた。冒険者たちはみな、その狼を叩き、そして落とした毛を拾い集めている。

 

「この狼たち、本当にとても丈夫そうだね」

「そうですわね。もし倒れるようになったら、争奪戦になっちゃうからではないでしょうか」

「あぁ……」

 

 メイナの推論を聞いて、ヒィはうなずいた。

 確かに、もし攻撃して倒れるようになっていたら、毛の数に限りが出てくるわけで、あちらこちらで毛の争奪戦が起こってしまうだろう。それを考えると、この狼が倒せないということは、とても理にかなってるように思えた。

 

「それじゃ、ボクたちも頑張ろうか」

「はいっ」

 

 そう言葉を交わして、ヒィたちも、笑いながら、冒険者たちの喧騒の中に飛び込んだ。

 狼たちを追いかけ、叩き、落とした毛を夢中で拾い集めて行った。

 

* * *

 

 後日談がある。

 その翌日。ティルコネイルの広場にて。

 

「ヒィ様、また羊の皮をかぶった狼が出現したとアナウンスがありましたよ!」

「よし、行ってみよう!」

 

 そして、またキアダンジョンの入り口前に行く二人。だが、そこにいたのは……。

 

「本物の……」

「羊……」

 

「「だまされたぁ!!」」

 




今話も読んでいただき、ありがとうございました!
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