「すいません、これくださーい」
「はい、これですね、どうぞ」
そう会話を交わし、ヒィは、書店の店員であるアイラが一冊の本を受け取った。
「とても嬉しそうですね。そんなに自分で作った料理を食べるのが好きなんですか?」
「ま、まぁ……うん」
微笑んでそう質問してくるメイドのメイナにそう返すヒィ。でも、この本……料理の本を買った本当の理由は違う。
でも、それを彼女の前で言うことはできなかった。
(メイナがボクの手料理食べたいって言ってくれたし、これは作らなきゃだよね! それに作るなら、いきなりプレゼントして、びっくりさせてあげたいし)
「まぁ、料理を作るのはあとでもできるし、今はバリに行こうよ!」
「そうですね。メインストリームも進めないと」
そう言って、二人はほうきに乗り、バリダンジョンのあるバンホールの町に飛んで行った。
* * * * *
「よーし、行くぞ。とりゃー!」
ヒィがメイスの一撃でグレムリンを吹き飛ばす。しかしそこで!
「……!」
「し、しまった!」
それを見た別のグレムリンが反応し、ヒィに一撃を食らわせようと襲い掛かってきた!
絶対絶命! そこに。
「ご主人様、危ない! えーい!」
メイナがそのグレムリンに剣で切り付けて、注意をひいてくれた。そのおかげでヒィは、目の前のグレムリンに、再び集中することができた。
「ありがとう、メイナ。えーい!」
……
「さっきはありがとう。おかげで助かったよ」
「いえ。ご主人様を助けられてよかったです」
そう談笑しながら、バリダンジョンを走っていく二人。いくつかの部屋のモンスターを協力して倒していき、そして……。
「あそこにもグレムリンがたくさんいますね……」
「うん。幸い、奥への扉も空いてるし、気づかれてないみたいだし、ここはほうきに乗って、一気に部屋を走り抜けよう」
「かしこまりました」
そう言葉を交わし、メイナが召喚したほうきにまたがる。
「ではいきますよ?」
「OK!」
そして、部屋の中に突入する二人。コボルドは気づいた気配はない。
しかし、もう少しで部屋を出よう、というとき。
「ち、ちょっとメイナ、ストップストップ!」
「はい?」
そこでメイナがほうきを止めた。
「宝箱がある! きっとあのどれかの中に、別の部屋の鍵があるんだよ!」
「……仕方ありませんね。それじゃ、頑張ってこの部屋のグレムリンを片付けましょう」
そう言葉を交わし、ヒィとメイナはほうきを降り、戦闘態勢を取るのだった。
その彼女たちに、グレムリンが襲い掛かってくる……。
* * * * *
そして、無事に褐色バリダンジョンをクリアし、ダンバートンに戻ってきた二人。
その片隅にあるかまどの前で、ヒィは簡易テーブルの前の『物体』とにらみあっていた。
「うーん……」
「どうしましたか、ご主人様?」
そう聞いてくるメイナに、ヒィはその『物体』を指さして答えた。
「チーズパンを作ってるんだけどね……。分量は間違ってないのに、どうしてこうなっちゃうんだろう?」
「どうしてでしょう……?」
二人して、目の前の物体……生ゴミを見て悩む。そこに。
「おや、お前さんたち、知らなかったのかい? 今はチーズパンは作れなくなったんだよ」
「「ええ!?」」
そう、このエリンではどういうわけか、作ることのできる料理は決まっている。法律とかではなく、世界の理でそうなっているのだ。
それ以外の料理を作ろうとしても、なぜか完成せず生ゴミになってしまうのだ。
そして今はどうやら、チーズパンが、その『作れる料理リスト』から外れてしまった、ということらしい。
「うーん、仕方ない。違う料理にしようか……」
そうどこかがっかりした感じのヒィに、メイナが声をかける。
「あの、ご主人様。なんなら、私がお手伝いしましょうか?」
「いや、大丈夫だよ。メイナはそこらへんで休んでて」
「はい、そうおっしゃるなら……」
そしてヒィは再び、簡易テーブルに向き直った。
……
そして数刻。
「よし、できた!」
「本当ですか? うわぁ……」
フライパンをのぞき込んだメイナが感嘆の声をあげる。そこには……。
一流レストランのものとまではいかないながら、それでもきれいに仕上がったクロックムッシュがあった。当然、先ほどの生ゴミとは比べるべくもない。
「とってもおいしそうですね……。さすがご主人様です」
「ありがとう、とっても嬉しいよ、はい」
「え?」
ヒィは、そのクロックムッシュを皿に載せて、メイナに差し出した。それを見てメイナは目を丸くしている。
「メイナ、この前、ボクの手料理食べたいと言ってたじゃない? それと、今までの感謝をこめて、だよ」
「ご主人様……ありがとうございます!!」
メイナはそれを受け取ると、目に大粒の涙を浮かべ、何度もぺこぺことお辞儀をして礼を述べる。それを見て、ヒィは作ってよかった、と思うのであった。
* * * * *
その後の狩りで、うっかりとヒィがおたまを装備したまま突撃し、メイナに白い眼を向けられたのは、また別の話だったりする。
今回も読んでくださり、ありがとうございました!