そこは暗き惑星のあてどなく廻り
恐怖より目をそらす術も無く廻り
知も光輝も名も無くして廻る場なり
――ネメシス。
「神父さま、貴方は何故、悪魔と関わりを持った私に優しくしてくれるのでしょうか?」
金髪の少女は黒い男にそう話した。
黒い男は少女の方は振り向き笑い、こう返した。
「それは貴方が素晴らしい人間性を持っているからです。アーシア・アルジェント」
黒い男は彼女の人間性を褒め称えた。金髪の少女、アーシアは褒められたことに対して少し笑いながらも疑問に思った事を黒い男に話す。
「しかし貴方は教会の神父です。私と関わりを持っていることを知られてしまったら…」
「その時はその時です。その時、私は神に見放されたということになるのでしょう」
黒い男はアーシアの言葉を遮って自分の意見を答える。
アーシアはその言葉を聞いて、少し眉をひそめた。
その様子を見た黒い男は、微笑を浮かべながらその手袋をはめた手でアーシアの頭を撫でた。
父親が我が子を可愛がるように優しく撫で、黒い男はこう言った。
「アーシア、貴方がここから如何なる理由で離れても、この孤児院は貴方の家です。いつでもきていいんですよ」
その言葉を聞いたアーシアは、瞳を大きく開いて、その瞳から大粒の涙をボロボロとこぼした。
その涙をぬぐいながら、アーシアは笑ってこう言った。
「はい!また会えますよね!」
「ナイ神父!」
石炭のように漆黒の肌を持ち、真っ黒なキャソックを身にまとい、白い手袋をはめた黒い神父、ナイ神父はアーシアに
「はい、また会いましょう」
ナイ神父は後日、孤児院の子供たちと共に教会から定められた通常のゴスペルを聖歌隊が歌い始め、豪華な食事をアーシアを見送るために用意した。
アーシアは嬉し泣きをしながら、この孤児院に別れを告げた。
■◆■◆■◆■◆
アーシアを見送ってから子供たちは片付けをしていた。そのとき、教会の扉が叩かれる音を聞いた。
ナイ神父がそれに応対するために扉を開けると、キャソックを身にまとった二人の男性がナイ神父に近寄ってその手に持った銃を向けた。
「ナイ神父、『魔女』であるアーシア・アルジェントと関わるなと注意勧告を受けたはずだ」
「ええ、それがどうされたのでしょうか」
ナイ神父は笑って言葉を交わした。余裕そうな態度でまるで挑発するような顔つきをしながら屁理屈をこねた。
「私は『魔女』であるアーシアに関わってはおりません。関わったのはこの孤児院の子供の一人であるアーシアです」
「屁理屈をこねるな!貴様には悪魔崇拝の儀式の容疑がかかっているのだ!一緒に来てもらおう。抵抗する場合は大天使様から射殺許可も貰っている!」
そう言って銃を構えた神父はナイ神父へと叫んだ。
しかしそんな叫びを軽く受け流しナイ神父は銃を構えている神父の一人に近寄っていく。
「ほう、悪魔信仰ですか?一体その痕跡はどこにあったのでしょうね…」
「しらばっくれる気か貴様!私は見たぞ。地下に置かれた奇怪な蛸のような怪物へそこの子供たちと共に礼拝を行なっていたことを!貴様が子供達に説教を行なっていたことを!その説教の内容も異様だったのも知っている!我々の神は存在せず異界から飛来した怪物がこの世界の神だと!?ふざけるんじゃあない!あれの!あれのどこが神なのだ!?」
そう叫ぶ神父は少々気が狂っていたのかもしれない。尋常じゃないほど冷や汗をかいており、瞳孔は開ききっていた。
まるでその存在を信じてしまったかのように。
その言葉を聞いたナイ神父は嘲るように嗤ってこう答えた。
「そうですかそうですか、貴方のような教会の下に着く方は真実を知らされていなかったのですね」
「真実…、だと?」
ええ、とナイ神父は肯定した。ナイ神父はできの悪い生徒へ分かりやすく説明する教師のようにその銃を構えた神父たちに説教をした。
説教が始まった途端に、その場の雰囲気が変わった。
どこからかこの教会にグスターヴ・ホルストが作曲した「惑星組曲」が流れ始め、鼻をつく病的な匂いが漂う。
「『聖書』『クルアーン』『タルムード』は全て時代遅れである。それらに記された伝承や戒律は砂漠の民の生き様には合っており、彼方に潜む宇宙的真実に考えの及ぶことはない、他に縛り付けられた生活を導くものだった。今、われらがそれらのページをめくったとして、現代の課題に当てはまるものはないのだ」
「何を、言っている…」
銃を構えた神父は震えながら言った。
「
ナイ神父がそう述べる。子供たちもその言葉を唱和する。
「
子供たちもその言葉を唱和する。
超自然の事は当然、神父も知っている。
悪魔や堕天使などのことは知っている。
しかしこの男が言おうとしている超自然は悪魔や天使などに当てはまらないのだ。
それを、神父は昨日の地下で起こった異様な儀式を知っているのだ。
冷や汗とともに構えていた銃を向けてナイ神父が話す彼の超自然論を遮るように叫ぶ。
「黙れェエエェエエエェェエ!!!!!!!」
そう叫び銃を構えていた神父は引き金を引いた。
パンッと薬莢が弾ける音と共にナイ神父が仰け反る。
神父の構えていた銃が火を噴く。乾いた音とカランと薬莢が落ちる音が教会内に響いた。
銃を撃ちきった男は肩を上下させながら銃を下ろした。
そして横にいる神父を見て、仕事が終わったことを伝えようとした。
しかしそこにいたのは穴だらけの死体だった。
神父は銃弾の雨を浴びたように血を穴から垂れ流していた。
「は…?」
「何がおかしいのでしょうか?」
前からあの男の声がする。
気がつくと神父の周りを子供たちが囲んでいた。
その顔は、狂気だった。嗤っていた。
男は神父に近寄って、手袋を外し始めた。
その手は、漆黒だった。
掌は、暗黒だった。
「この方は、貴方が殺したのですよ」
「違う…」銃を持つ震えた手をもう片方の腕で震えを抑えながら神父は言う。
「違いません、貴方が殺した」
「違う!私が放った銃は全て貴様に…ッ!!!!何故…!」
神父は叫んで持っている銃を
しかし先ほどの銃撃で弾を使い切ったのだろう。腰の弾倉を引き抜こうとした時手首に激痛が走った。
子供がナイフで神父の手首に突き刺していたのだ。
どくどくと血が指を伝って地面に落ちる。
神父は手首を抑え、痛みに悶える。
口から苦痛の声が漏れでてくる。
「さて、貴方には見てもらいましょうか。皆さん、彼を地下に連れて行きなさい」
「はい、神父様」
子供たちは笑いながら地下へと神父を連れて行く。
神父の血だらけな手を引く子供たちはその眼に奇妙に映ったのだろう。
まるで別世界へと続くような階段を降りる。
そして地下へと着き、神父は昨日見た、あの忌々しい蛸のような怪物の像と再会をした。
ナイ神父は像をさすりながら神父に話す。これが我々が崇拝する神『クトゥルフ』なのだと。
その体を神父はハッキリと見た。
なんとなく類人的な外観をしているが、蛸に似た頭部がついており、顔には触角がかたまって密生している。
鱗に覆われたゴムのように見える体、前足と後ろ足には大きなかぎ爪、背中には細長い蝙蝠のような翼を生やしていた。
気持ち悪い、グロテスクな体を持っていることをこの精巧な石像からでも理解できる。
「この神こそが、いずれこの地球を統べるのです」
「貴方たちは理解していない。この世界を統べるのは貴方たち人間でも、悪魔でも、天使でも、ましてや堕天使などでもない」
「異界の神なのですよ」
そうナイ神父は話した。そう話した瞬間、目の前の像がゆっくりと動き始めた。
像は段々と色づき始め、大きくなって行く。
幻覚なのだろうか、それとも現実なのだろうか
触手はうねりながら神父を掴み像の近くへと引きずりこむ。
神父は神に祈った。
「神よ…」
ナイ神父はその言葉を聞くと同時に、全てを嘲笑するような顔で笑いながら死にゆく神父へと言い放った。
「神は死んだ!…と、どこかの人間が言いましたね。この言葉、貴方に送りますよ」
「死んだのは貴方の信仰する聖書の神だけですがね」
神父が最後に見たのは目玉も鼻も口もないただただ漆黒の顔に血のように赤い燃える三つの眼を持つ
◆■◆■
「また会えますよね、ナイ神父、みんな…」
アーシアは孤児院で起こったことなど露知らずにナイ神父が予約してくれた飛行機に乗っていた。
窓からは青空と雲が漂っていた。
その様子をアーシアは興奮しながら心のカメラに収めていた。
この飛行機の行く先は日本の駒王町という町である。
彼女は教会へと派遣されることとなったのだ。
彼女は首から下げている漆黒のペンダントを開けて、笑った。
そこにはナイ神父からプレゼントされたほぼ漆黒の所々に赤い線が入った輝く多面体が入っていた。
その名は「
この邪悪な宝石が齎す災厄を、彼女はまだ知らない。
ナイ神父が最高に暗躍しているアーカム計画を買ってくれ(絶版)
クトゥルフ神話の知識
『ナイ神父』出展:『アーカム計画』
名前から察せられる通りニャルラトホテプの仮面の一つ。
今回は『教会』の大司教の地位についていたがとある優秀な祓魔師に地下の秘密の聖堂での儀式を見られたことにより『天使』から邪教の信徒として処理されるはずだった。
『汝らに安らぎと知恵を。星の知恵を』出展:『クトゥルフ・カルトナウ』
『星の知恵派』の洗脳に近い説教を行う前に言う文句。
『星の知恵派』出展:『アーカム計画』
『ナイ神父』が率いるクトゥルフを中心に崇拝するカルト組織。
非常に秘匿性が高いため、様々な場所で痕跡は確認されてはいるが断定はできない。
今でも『星の知恵派』を名乗るカルト教団は数多く存在する。
秘密を知ったものに対してはどのような行為を行っても消す残忍な一面を持っている。
『クトゥルフ』出展:『クトゥルフの呼び声』
ゾスから地球に飛来した旧支配者。
核を落とされても蘇ったりする。死ぬこともある。作家の違いである。
多くのカルト教団に崇拝され中でも有名なのは『銀の黄昏教団』と『星の知恵派』などである。
それに加えて各地にクトゥルフの秘密を守るために暗殺教団までもが存在するという噂がある。
『輝くトラペゾヘドロン』出展:『闇をさまようもの』
ニャルラトホテプが作成したのかミ=ゴが作成したのかは不明だが遥か太古から伝わるガラクタのような宝石。
ニャルラトホテプの化身『闇をさまようもの』と関わりを持ち、『星の知恵派』はこの宝石を使ってこの化身と接触をしていたようだ。
その効果に加えて、この宝石は忌まわしき血脈の進行を早める力を持っている。