智慧を与えましょう   作:ねこです89

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駒王町に降り立つ

アーシアはイタリアの首都ローマから東京の成田空港までの約12時間のフライトを終え、無事日本の首都東京へ降り立った。

長時間座っていたためか少々ふらつきながらもナイ神父から手渡されたメモ用紙を見る。

「えーっと…たしか…、『シンジュク』…、この文字で合ってますよね…」

メモ用紙に書かれた『新宿』という文字を電光掲示板から探し出し、電車に乗る。

大量の人間にもみくちゃにされながら途中数回下車することができなかったが数時間を経てなんとか新宿駅で下車することができた。

その後、1時間かけて駒王駅へと向かう電車に乗り、揺さぶられながらも到着することができた。

「人が多いです…。言語も通じないですし…ナイ神父に日本語を教えて貰えばよかったです…」

ナイ神父は殆どの言語に長けている。

英語、ラテン語はもちろんのことイタリア語、ロシア語、フランス語にドイツ語、ギリシャ語やアラビア語、日本語…それに加えて聞いたことのないような言語も簡単に話せてしまうのだ。

アーシアは一応彼から殆どの言語の読み書きは教わったが日常会話レベルまでは教えられていない。

それ故に駅員や警察の人間には筆談で会話し場所を教えてもらい、なんとか言語を読み解きながら都会を彷徨いながらも目的地へ着くことができたのだ。

アーシアが向かっているのは駒王町という関東圏の地方都市である。

その駒王町の教会にナイ神父からの伝手でアーシアは赴任してきたのだ。

彼女は紹介された仕事先への未来を感じながらルンルン気分で徒歩で向かっている最中、ちょっとした段差でこけてしまった。

そのまま重力に逆らうことなく彼女は地面へと自分の体と荷物を打ち付けてしまう。

荷物から衣類やその他のものが出てきてその場で散らばってしまった。

「あいたた…、どうしてこんな場所で転んでしまうのでしょうか…」

ぶつけた部位をさすりながら立ち上がろうとした時、一人の高校生くらいの少年が手を差し伸べた。

「だ、大丈夫っすか?」

アーシアは初めてこの国でイタリア語(母国語)を聞いた。

彼女は「ありがとうございます」と言って差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

その瞬間、突風とともに自分の頭に被っていたベールが飛ばされてしまった。

少年と目が合った。

少年は自分を見て動かなくなったのを見たアーシアは

「あ、あの…」と、声をかけた。

少年はその言葉で正気に戻ったのか謝罪とともに握っていた手を離した。

アーシアはどう声をかけようかと考えていた時、さらに風が吹いて自分のベールを何処かへと飛ばそうとする。

少年は飛んで行こうとしたベールを掴み取りアーシアへと渡した。

アーシアは感謝の気持ちを伝えてベールを被り直す。

少年はそれに「いえいえ」と返して

「えーっと…、今日の天気はいい塩梅で!」

とアーシアに話した。少年は心の中で「近所のばあさんか俺は!?」と叫んだ。

 

そんなことは知らないアーシアは、そういえばと思って手をもじもじしながら少年に道に迷っている旨を伝える。

「あの、えっと、すいません… 道に迷って困ってるんです…」

そう話すと少年は親指を立てて

「そういうことなら案内するぜ、俺地元だしな!」

と言って彼は道案内を担当してくれるようだった。

 

◆■◆■

 

 

少年はアーシアの荷物を見ながら

「そういえば、旅行?」と聞いた。

アーシアは首を横に振って

「いえ、違うんです。この街の教会に赴任することになりまして…」

「へぇ〜、シスターなんだ。それでそういう格好を」

少年はアーシアの服装を見て納得した。

アーシアはニコリと笑って

「親切そうな人に会えてよかった〜。これも主のお導きですね」

と神と少年に感謝の気持ちを伝えた。

少年は照れたように後頭部をポリポリとかいた。

だが、少年は何か嫌なものを見たような顔をして顔を背けた。

「どうしました?」

とアーシアが少年に声をかけた。

「いや…、なんでも」

少年ははぐらかすように笑ってこう言った。

 

そう歩きながら話していると公園の方から子供の泣き声がした。

その声を聞いたアーシアは少年の制止を聞かずにすぐに泣き声のもとへと駆け寄った。

そこには膝を擦りむいた小学生くらいの男の子がいた。

アーシアは怪我の具合を見て男の子の頭をさすった。

「男の子ならこのくらいの怪我で泣いてはダメですよ」

アーシアは手を男の子の擦りむいた膝の上に翳す。

その瞬間、彼女の手が光りみるみると男の子の傷が治っていく。

男の子も少年もびっくりした様子でその現象を見ていた。

「はい、傷は無くなりましたよ」

アーシアは傷が完治したのを確認すると男の子を安心させるように言った。

そして少年の方を向いて「すいません、つい」と謝罪の言葉を口にした。

 

◆■◆■

 

 

「驚いたでしょう?」

アーシアは町案内をしてくれている少年に聞いた。

「いやぁ…、君、すごい力を持っているんだね」

「神様からいただいた、素晴らしい力です」

アーシアはそう言ってもう一度、言葉を繰り返した。

「そう、素晴らしい…」

 

過去のことを思い出しながらアーシアは微妙な表情を浮かべた。

 

そうして歩いていると目の前に教会が見えた。

「あそこですね!」

アーシアはナイ神父から貰った写真を見比べて同一のものだと理解した。

「あぁ、うん。この街の教会って言ったらあそこだけだから」

少年は肯定するようにそう言った。

「よかった〜、本当に助かりました」

アーシアは少年に感謝の言葉を伝える。

しかし少年は疑問に思っていることをアーシアに話す。

「で、でもあそこに誰かいたところ、見たことないけど…」

だが、アーシアは少年に感謝を伝えるために教会へ導こうとする。

「是非お礼がしたいので、一緒に来ていただきませんか…?」

「い、いや、ちょっと用事があるんで…」

少年はそう答えてアーシアの誘いを拒否する。

「そうですか…、私はアーシア・アルジェント。アーシアと呼んでください」

アーシアは残念そうな顔をしながらも自分の名前を少年に告げた。

少年もそれを返すように自分の名前を伝える。

「俺は兵藤一誠、イッセーでいいよ」

「イッセーさん!」

アーシアは一誠の名前を覚え、反復するように口ずさんだ。

「日本に来て、すぐにイッセーさんのような親切で優しい方と出会えて、私は幸せです!」

アーシアは一誠に自分の本心を伝えた。

一誠は照れながら後頭部をかく。どうやら彼の癖のようだ。

「是非ともお時間があるときに、教会までお越しください。約束ですよ!」

アーシアは一誠に約束を取り付ける。

「あぁ、わかった。んじゃあまた」

「はい、またお会いしましょう」

一誠もその約束を了承して別れの言葉を交わす。

 

アーシアは一誠の姿が見えなくなるまで手を振った。

そして見えなくなったとき、手を下ろしてペンダントを掴んだ。

 

「ナイ神父、初めて外国で友達ができましたよ…」

 

そう言って踵を返し、彼女は教会へと向かった。




アーシアは多分アクロ語とかヴァルーシア語とかは読むことができるんじゃないかな…魔女と呼ばれても仕方ないのでは?
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