教会にやってきたアーシアを迎え入れたのは白髪の神父服の少年だった。
彼の名前は「フリード・セルゼン」
彼は元々教会での
彼は現在堕天使と共闘を行なっているがそれは金銭による契約のため、少しの力で千切れてしまうような細い糸のような関係だ。
フリードは荒廃した教会の長椅子で寝っ転がって天井にぽっかり空いた人1人なら簡単に通り抜けられるほどの巨大な穴から見える星を見ていた。
そんな中教会の扉が開き、アーシアが中へと入ってくる。
そういえば上司の堕天使の姐さんが至高の堕天使になるためにわざわざ海外から取り寄せたシスターが来ると伝えられていたことをフリードは思い出す。
ピョンと柔らかい体を動かし椅子から飛び上がり、目の前のシスターにふざけた口調で盛大に迎え入れた。
「はぁ〜い、どぉも聞いておりましたよォ!悪魔を治す力を持つ聖女もとい魔・女!アーシアアルジェント様一名様のご案内でありまぁ〜す!」
そのような奇妙な物言いで迎え入れられたアーシアは当然困惑しながらもフリードに話を聞く。
「えっと…、貴方がナイ神父の言っていたこの教会の人ですか…?」
フリードは頷き、ペラペラと喋り出した。
「はい!わっちはフリードセルゼン!宗派は元キリスト教!なんでしたがひょんなことから追放食らって現在はぐれ
一般人には到底理解できない名状しがたい変なポーズで彼はキメ顔をする。
「私は今回、ナイ神父からの紹介でこちらに来ました。アーシア・アルジェントと言います。よろしくお願いします」
フリードのふざけた自己紹介とは打って変わって極めて普通な自己紹介を行う。
フリードはその自己紹介を面白くなさそうに聞いた。
その後、互いの自己紹介を終えたアーシアはフリードの案内とともに礼拝堂などを見て回る。
天井を見れば所々に小さな穴が空き、ステンドグラスは割られ、十字架は上部が破壊されている。
祭壇は黒ずんでおり、壁や柱にはヒビが入っている。
恐らくは数年間は使われていなかったのだろう。
しかしこの教会でアーシアは一つの事が気になった。
教会には先ほど言ったとおり小さな穴が空いていたりヒビが入っている。
しかしそれは自然現象で起きるような形跡はないのだ。
まるで、突然この場所に巨大な何かが出現して辺りを押し潰しながら天井を破壊して消えたような感じだ。
フリードは巨大な穴を見ているアーシアを見てこう言った。
「この穴が気になる?気になるよね〜!これはね、『月に吠えるもの』が立ち去った痕なのよ!」
「『月に吠えるもの』…?」
フリードは頷き、アーシアと同じように天井を見上げる。
そこから見えるのは月と星々の光である。
星々はまるで自分たちを見下ろして嘲笑うかのように光っている。
「確か三年くらい前におれっちがくそ悪魔をぶっ殺しに日本に来た時ね、この教会に寄ったのよ。その時にねェ、この教会に忍び込んできた悪魔がいたのよ」
フリードは長椅子に腰を落ち着けて昔話を子供に聞かせるように話した。
瓦礫を手に取りひょいひょいと片手でお手玉をする。
「まぁその悪魔くん、結構なイケメンでなんていうんだろうな…、そうだサテュロス!頭に『角を持つ男』が堕天使と相対してさあ、なんか問題起こしたみたいで堕天使とその配下の
「俺は隠れてたんだけどね」とニヤニヤと思い出し笑いをしながらもフリードは語る。
どんどんとお手玉のスピードが上がっていく。
「そのあと堕天使の槍で貫かれてさ、そのサテュロスくんはその場で倒れたんだけどさ…、なんか体がぐにゃぐにゃって動き出したの。なんて言うのかな〜〜、そう、体の中に巨大なスライムが動き出したって言うのがわかりやすいかな〜。んで、体の中からでっかいグロテスクな手が出てきてイケメンを殺した堕天使を掴んだのよね」
まるで出来の悪いホラー小説のような展開だ。
フリードは笑い始める。余程おかしいのか笑っていた。
いや、おかしいのではない。所々彼は体を震わせていた。まるで何かに恐怖しているような感覚をアーシアは感じ取る。
アーシアが様子のおかしいフリードに声をかけようとするとフリードは頭をガリガリとかきむしる。
お手玉をしていた瓦礫を握りつぶしその瓦礫の棘が掌に突き刺さったのか真紅の血液がぼたぼたと地面に垂れ始めた。
彼は興奮した様子でアーシアに叫ぶように自分に起こった体験を話し始めた。
「その手はよぉ!その殺してきた堕天使を握りつぶしてさァ…、堕天使とか
アーシアはいよいよフリードが狂気に押しつぶされているのをはっきりと理解できた。
アーシアはフリードにかけより、落ち付けようとする。
「俺はそいつがあたりのモノというモノを破壊したのを見てさぁ!これが神なんだなって思ったよ!俺が信じていた神なんてそんなもんとは比べ物にならないくらいだ!」
ゼーハーと肩で息をするフリードの背中をさすりながらアーシアは彼の言葉を待った。
フリードは次第に落ち着いて、アーシアの方を向いた。
「俺がその神の名前を『月に吠えるもの』ってつけたのはさ…、月に向かって吠えるような嗤い声が聞こえたからさ」
フリードは月を見上げて最初にアーシアにあった時のように飄々とした態度に戻っていく。
「んで、敢え無く神の不在を叫んじまったら教会から異端として追放されちまったワケ!いや他にも理由はあるけどそんな感じよ!オワカリ?」
「え、えぇ…、なんとなく分かりました」
アーシアは彼の狂気に怖気づきながらも相槌を打つ。
この巨大な穴がもたらした被害を彼女はよくよく理解した。
そして辺りを見渡せば確かにこの場で起こった悲劇が垣間見える。
床には潰された死体があったであろう痕、壁には飛び散った血液の痕など、よく考えれば十二分ほどに理解できる。
「…さぁて、では俺の話も終わった事だし俺の上司の話もしようかね」
「ねぇレイナーレの姐さぁん」
そうフリードが声をかけると空から4人の人外の影が見える。
空から現れた黒い翼を羽ばたかせる堕天使…、そのリーダー格らしきボンテージ姿の女性はアーシアを一瞥した。
「貴方が魔女のアーシア・アルジェントね。私はレイナーレ、こっちの3人はドーナシーク、ミッテルト、カラワーナ。短い間だけどよろしくね」
傲慢そうで人間を見下した目、アーシアはこの目を何度向けられたことだろううか。
その目に嫌悪感を抱きながらも心優しきシスターはそのように見下すには何か理由があると考える。
「よろしくお願いします。私はアーシア・アルジェントです」
アーシアは頭を下げる。レイナーレはフリードに彼女を地下の寝台に連れていくよう伝えるとすぐに堕天使の4人を引き連れて別の場所へ飛んで行ってしまった。
フリードはレイナーレの言葉を聞いてふざけたポーズで敬礼を取ったあと、アーシアを地下へと案内する。
「んま、短い間だけどヨロシクゥ!明日は仕事に付き合ってもらうからゆっくりしていってね!」
フリードはそう言ってアーシアを寝台とトイレなどの場所を教えてその場から立ち去る。
アーシアは教会での出来事を思い出しながら寝台で寝転ぶ。
とても硬い寝台だった。
アーシアはフリードに聞いた出来事を思い出しながら漆黒のペンダントを頭上に掲げる。
「これも神からの私の試練なのでしょうか…ナイ神父」
そう言ってアーシアは目を閉じた。
フリードに巻き起こったちょっとした神話事象(1d10/1d100)
『月に吠えるもの』
ニャルラトホテプの人間の化身やその他の化身を殺した場合、肉体から飛び出してくる本性と言うべき姿。
デストラップとしてよく運用される。
『角を持つ男』
パンとかサタンとかサテュロスとか呼ばれているニャルラトホテプの化身。
サバトなどで呼び出されることがある。