智慧を与えましょう   作:ねこです89

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最後の晩餐

一誠は昨日の経験から自分が弱いことを認めた。

そのため、彼はリアスから治療を受けてすぐ、朝に身体を鍛えるために公園で遊具を用いて運動をしていた。

鉄棒を用いて懸垂をするがフリードから受けた傷はまだ癒えておらず、無理な運動が響いて激痛とともに掴んでいた棒を離してしまい、尻から地面に落ちてしまう。

痛みの走る部位を抑えながらも立ち上がり、昨夜であった神父とアーシアをこれ以上一緒にいさせれば、アーシアが不幸になることが考えなくてもわかる。

早くアーシアを助けださなければと一誠は考えていると不意に声をかけられる。

 

「一誠さん?」

 

その声の方へと向くとそこには今自分の中で話題の少女、アーシアが立っていた。

 

「アーシア?」

 

彼らはまたも出会った。運命とは奇妙なものである。

一誠はとりあえず公園ではなんだしと近くの有名チェーン店のマクドナルドへと足を運んだ。

店内でハンバーガーのセットを二個注文して金銭を払い商品を受け取る。

今はまだ混んでいる時間ではないようで空いている席にアーシアを案内して一緒に座る。

ハンバーガーを初めて見たようで、近くにもスプーンやフォークが置いてないのに困惑しながら凝視している。

一誠はアーシアにこうするんですよ姫君と軽口を叩き、包み紙を剥がして大口を開けて豪快に食す。

そのような食べ方を見たアーシアは驚嘆しながらも真似をするように一誠の食べ方を見ながら小口で食べる。

ハンバーガーを食べたアーシアは目を見開いておいしいと一誠に伝える。

アーシアの反応を面白そうに一誠は見る。

 

「それより、どうして公園にいたの?」

 

一誠はアーシアにそう聞いた。

聞かれた本人のアーシアは一誠から目線を逸らし、少し考えるそぶりをした。

 

「その、休み時間だったので…街のお散歩でもと…」

 

アーシアは苦しい言い訳を一誠に話した。

一誠はアーシアの言い訳を遮るように言った。

 

「アーシア!」

 

「はい!」

 

「今日は思いっきり遊ぼうか!」

 

そう言って一誠はにっこりと笑ってアーシアを遊びに誘った。

アーシアは目を点にして一誠の言葉を脳内で反芻する。

恩人の彼からの誘いを無闇に断る理由もないしなによりも今日が最後の日だ。

今日くらいは我儘を言ってもいいだろうと、一誠の誘いを了承した。

一誠はそうと決まればと立ち上がりハンバーガーを頬張り、ゲームセンターに案内する。

アーシアは初めて見たように目を輝かせてあれは?と一誠に尋ねる。

一誠はアーシアにゲームセンターの大型筐体ゲームのレースゲームで遊んだり、メダルゲームで遊んだらする。

アーシアはメダルゲーム系が上手いようであっという間にバケツにこんもりとメダルがたまってしまった。

そのほかにダンスゲームなどが上手いようで激しい動きもリズムに合わせて高得点を叩き出す。

周りを見てみればそのゲームの上級者らしき人物がびっくりしながらも中々のセンスの持ち主と言っていたのも聞こえる。

プリクラなどで写真を撮り、デコレーションをしたりする。

楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

そしてそろそろ昼食でも取ろうかなと思っていた時、アーシアが何かを見つけたようでそちらの方へと走っていく。

一誠は一体なんだとアーシアを追いかけると、クレーンゲームの前でアーシアが何かを見ていた。

どうかしたの?と一誠がアーシアに聞いてみるとなんでもないと言うがそこまで鈍感ではない一誠はクレーンゲームのぬいぐるみ『ゆるらとほてぷ』を指差してこれが欲しいのか?と聞く。

アーシアは目線を泳がせながらも一誠の質問にイエスと答える。

一誠はその言葉を聞くと同時に百円玉を入れてクレーンを器用に動かす。

彼はこう見えて帰宅部の時に友人とともに近所のゲームセンターを駆け抜けた男である。

このようなぬいぐるみ系の取り方は熟知しておりワンコインで『ゆるらとほてぷ』を取ってしまった。

そのぬいぐるみをアーシアに渡すとアーシアはとても嬉しそうに受け取った。

 

「ありがとうございます!このほてぷくんは一誠さんとの出会いが生んだ宝物です!」

 

そう言ってぬいぐるみを抱きしめる。

一誠は照れたように違うところ行こうとアーシアに言う。

 

「そう、この出会いは今日だけの大切な…」

そうアーシアは一誠に聞こえないようにボソリと呟いた。

 

その後数時間ほど昼ごはんも忘れてゲームセンターで遊んでから外に出る。

近くの自販機で飲み物を買い、カラカラな喉を潤す。

アーシアはこんなに楽しいのは生まれて初めてだと一誠に言うが一誠はいちいち大袈裟だと言う。

その時昨夜の傷が疼き、小さな声を一誠は上げる。

アーシアは一誠に近づいて悲しそうな顔であの時の怪我ですねと言う。

一誠はそうだと言うと、アーシアは手当てをするために近くの人気のない場所へ一誠の手を引く。

そしてアーシアは自分の持つ能力の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の力で一誠の体を蝕む傷を癒していく。

みるみるとその傷は治っていき、傷跡すら残さずに完治した。

一誠は腕を回したりその場で走ってみたりしたが痛みなどは全くなく、すげえよアーシアと言ってアーシアを褒める。

アーシアは照れ臭そうに笑ってベンチに座った。

そして目の前の泉を見ながら、ポツポツと一斉に話し始めた。

 

「私、生まれてすぐ親に捨てられたんです」

 

一誠はえ、と声を上げる。

アーシアは悲しげに泉に映る自分を見ながらも話を続ける。

 

「ヨーロッパの田舎町の教会…。その前で泣いていたそうです。私はそこで育ちました。…八つの時です。怪我をして死にかけた子犬が教会に迷い込んできました。その子犬を助けて欲しいと私は必死に祈りました。その時、奇跡が起きたのです」

 

一誠は奇跡と聞いてアーシアの力を頭に浮かべた。

恐らくそこでアーシアは自分の力に気づいたのだろう。

アーシアは絵本をめくるように自分の歩んできた20年も行かない人生を一誠に読み聞かせるように話す。

 

「その出来事からすぐ、私は大きな教会に連れてこられて、世界中から訪ねてくる信者の病や怪我を治すよう言いつかりました。私は自分の力が人々の役に立てることが本当に嬉しかったんです!」

 

そう言って、アーシアは微笑を浮かべた。

その顔を見た一誠は可愛さに胸を打たれながらも彼女の話を聞く。

 

「そんなある日、怪我をして倒れている男の人に出会いました。偶然出会ったその人は…」

 

悪魔だったんです。とアーシアが言った。

そこから教会の人間が手のひらを返して自分を魔女と呼んで教会から悪魔を治療する異教徒という烙印を押され、追放を受けたとアーシアは言った。

一誠はそんな彼女を見ていることしかできなかった。

 

「しかし神は私に手を差し伸べてくれたのです。ひとりの神父様が行き倒れそうだった私を救ってくださったのです」

 

「その人が、ナイ神父って人なのか?」

 

アーシアは頷いて、ナイ神父について話した。

彼のこと、そして彼の開く孤児院の子供たちのこともだ。

 

「リリーは心優しい子でした。本が好きでしたが火事で家族が死んでしまって孤児になってしまった子です。ウィルは格好つけたがりの男の子です。紙飛行機を作るのが得意な子でした」

 

そう孤児院の子供たちのことを楽しそうに話す。

一誠は楽しそうに話す彼女を見て、本当に孤児院の子供たちが好きなんだなと言う。

アーシアはコクコクと頷き、当然ですと笑って返した。

 

「だから、そんな優しい子たちを救って実費で子供たちの世話をするナイ神父がそんなことをするはずありません…、あの人が言うことは…嘘です…ッ!」

 

自分の父も同然な人を馬鹿にされたと言わんばかりに目尻に涙をためて歯噛みする。

 

「色々なことがありましたが私は、神への祈りを…感謝を忘れたことはありません。ましてやあの方たちが皆、あんなひどいことをしていたなんて…」

 

アーシアは俯いて、きっとこれは主の試練なんだと言った。

この試練を乗り越えたらいつか主は、私の夢を叶えてくれると彼女はそう信じていると話した。

一誠はアーシアの夢が何なのかを尋ねた。

アーシアはぬいぐるみを抱きしめる。

 

「沢山お友達ができて、友達と一緒にお花を買ったり、本を読んだり、お喋りしたり…そんな夢です」

 

私、友達がいないのでとアーシアは悲しそうに笑って泉を見ていた。

一誠はその言葉を聞き、アーシアの悲しげな表情を見てから、何かを決意した顔をしてベンチから立ち上がる。

アーシアはいきなり立ち上がった一誠に声をかけると一誠はアーシアにこう言った。

 

「俺がアーシアの友達になってやる」

 

その言葉を聞いたアーシアは目を見開いた。

 

「つーかさ、俺たちもう友達だろ?一緒に遊んだし喋ったりしたしさ!まぁ花とか本はなかったけども…」

 

彼は照れ臭そうにこんなんじゃダメかなと聞いた。

アーシアはそんな言葉を聞いてそんなことはないと首を何度も何度も横に降る。

彼女はそう言いながら涙を零す。

それは悲しみの涙でも怒りの涙でもない…、嬉し泣きだった。

しかしアーシアは迷惑をかけてしまうのではと一誠を心配するが一誠はそんなの友達には関係ないと言った。

アーシアはぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて一誠に告げた。

 

「私…、嬉しいです!」

 

「それは無理ね」

 

そうアーシアが言った瞬間、泉から一誠たちの関係を引き裂くように見知った声が聞こえる。

そこに現れたのは黒い翼を羽ばたかせた魅惑の体をボンテージ姿で隠した妖艶な堕天使の姿である。

 

「夕麻ちゃん…!?」

 

「レイナーレ様…!?」

 

一誠とアーシアの驚きの声が重なる。

そして一誠は彼女が堕天使だと言うことを理解した。

天野夕麻…、レイナーレは一誠たちを見下した様子で話し始める。

 

「悪魔に成り下がって、無様に生きていると言うのは本当だったのね」

 

ギロリと睨みつけながらアーシアに逃げても無駄だと言い放つ。

アーシアはレイナーレの言葉を拒絶し、突っ撥ねる。

そしてアーシアは一誠に謝罪と経緯を伝える。

一誠はそんなことだろうと言い、レイナーレに何の用だと問いただす。

レイナーレは気軽に話しかけるなと傲慢に吐き捨てる。

 

「邪魔をするなら…」

 

そう言って眩い光が濃縮された槍を一誠に向ける。

一誠は光の槍と呟いてアーシアを庇うように動く。

 

「今度は完全に消滅させるわよ」

 

一誠は脅しに対して自分の力である神器(セイクリッド・ギア)を発現させる。

赤い籠手が左手に装着される。

レイナーレは目を見開いて次の瞬間声高らかに笑い始める。

そして残念そうに一誠を見る。

 

「何かと思えば、ただの龍の手(トゥワイス・クリティカル)…、飛んだ見当違いね」

 

レイナーレは一誠に一定時間力を倍加させるありふれた能力と説明する。

 

「貴方の持つ神器(セイクリッド・ギア)は危険。って上から命令を受けたからあんなつまらない真似までしたのに…」

 

次の瞬間、声を変えて、天野夕麻の声で一誠の鼓膜を揺らす。

告白の場面のみを演技して、馬鹿にするように高笑いをする。

一誠はレイナーレが馬鹿にするのを聞いていられなくなり、籠手を構えて黙れと叫ぶ。

レイナーレは素直にアーシアを渡して立ち去りなさいと一誠を諭すが、一誠は拒否する。

 

「友達くらい守れなくてどうすんだ!」

 

そう断言して神器(セイクリッド・ギア)に呼びかける。

 

『Boost!』

 

その瞬間、籠手から自分の体内に力が流れ込んでくる感覚を一誠は感じる。

この力があれば、あの堕天使を…!と思った瞬間。

 

腹に穴が空いた。

 

え?と声を上げると同時に腹から耐えきれないほどの激痛が走る。

とめどなく腹から血液が吹きこぼれ、目が霞む。

その様子を見たアーシアは悲鳴をあげながら手に持っていた『ゆるらとほてぷ』を落とし、一誠に駆け寄る。

 

「わかった?1の力が2になったところで、大した違いはないわ」

 

レイナーレは一誠にそう吐き捨てる。

一誠はただ睨むことしかできなかった。その時、腹の痛みが急に和らいだ。

腹を見るとアーシアが神器(セイクリッド・ギア)を使用して穴が空いた腹を癒してくれていた。

大丈夫かとアーシアが一誠の身を案じる。一誠は痛みが引いていくのを感じながら大丈夫だと言った。

レイナーレはその様子を見てくすくすと笑いだしてアーシアを諭し出す。

 

「アーシア、大人しく私とともに戻りなさい。貴方の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)にはそいつの神器(セイクリッド・ギア)とは比較にならないくらい希少なの」

 

「やはりあなた方は、私の力が必要なだけだったのですね…!」

 

そう言って目の前の堕天使をアーシアは睨んだ。

レイナーレは光の槍を作り出し、構えながら戻ってくるならばその悪魔は生かしてあげると取引を持ちかけた。

その取引にならないような交渉に一誠は意を唱える。

しかし低級悪魔如きに口出しされたのが苛立ったのかレイナーレは飛び上がり、手に持った光の槍にエネルギーを注入して思い切り一誠がいる地面は突き立てた。

一誠はアーシアを後ろに庇い、地面を穿った光の槍が爆発するのを全身で受けてしまう。

まるで全身が焼け焦げたような痛みとともに爆風によって泉まで吹き飛ばされる。

泉にそのまま一誠は落下し、水に身体を打ち付ける。

しかしふらふらになりながらも彼は立ち上がるが以前の光の槍よりも体のダメージが大きく、そのまま倒れてしまう。

レイナーレはアーシアの横に降り立ち、先ほどの一撃はわざと外した事と当たれば貴方の治癒でも間に合うかどうかわからないと伝える。

その言葉を伝えられたアーシアはわかりましたとレイナーレの取引に応じた。

一誠はギロリと睨みつけるしかなかった。

 

レイナーレはその黒い翼でアーシアを包み込み頭を優しく撫でる。

 

「いい子ね、今夜の儀式が済めば、悩みや苦しみから全て解放されるわ…。じゃあね、一誠くん」

 

「ダメだ!アーシアァァァァ!!!!」

 

一誠は自分の手を伸ばす。

アーシアは笑いながらも涙を零して

 

「さようなら、一誠さん」

 

アーシアが一誠に別れを告げるとともに、レイナーレとアーシアの影が消えた。

一誠は足から崩れ落ちて、自らの弱さに打ち拉がれる。

そこに残ったのは泉の中で泣き崩れる弱き少年ただ1人だった。

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