『なあ息子よ。もう一度訊くが、本気なんだな? 本気でハンターになりたいってんだな?』
『おう! オヤジみたいな、凄腕のハンターになるのが俺の夢だからな!』
『そうか……。いやな、俺も男だ。自分よりもでっけー相手を打ち倒すってのはカッコイイと思うさ。実際俺だって昔は憧れたもんだ。近所の悪ガキが揃いも揃って夢を語り合った。あの装備が使いたい。最強のハンターになりたい。あるいは狩りまくって金持ちになりたいってな。その俺からするとなあ……』
『なんだよ。なりたい理由が憧れだけじゃダメだってのか? さっきの話だとオヤジだって憧れからハンターになったんじゃないのかよ』
『そんなことは言わんさ。俺が言いたいのは、"覚悟"の有無があるかどうかだ』
『そんなもの、勿論あるに決まってる。……そりゃ、俺だって命の危険があるってのは"知ってる"。"分かってる"なんて言わないけど、ハンターじゃない奴なんてほとんどがそうだろ? だから、そこのところは親父がこれから教えてくれよ。』
『それだけじゃないんだがなあ。お前らは既に揃えられた装備と狩られた獲物っていう結果しか見えてねーから大変さがいまいち伝わってねーんだろうが……。あーあーそんな顔すんな。わーったよ、俺直々に鍛えてやらあ』
『本当か!? 約束だぞ! 俺が凄腕になるまで鍛えてくれよ!』
『そこまで面倒見れるかあほたれ。とりあえず最低限死にづらくなるまでは鍛えてやるから、あとは自分の好みに合わせて勝手に凄くなりやがれ。ま、そう簡単に合格をやるつもりはねーがな。厳しいからってやっぱやめるだなんてのは許さねーからな』
『望むところだ! いつか親父を越えてやるから待ってろよ!』
『―――ほー、俺を越えるってか。いいぞ、男ならそのくらい生意気な台詞吐かねーとな。じゃあそんなお前に特訓に先んじてアドバイスをしてやろう』
『ん? なんだなんだ?』
『"正気にては大業成らず"』
『―――は?』
『全ハンターの最高位である"G級"。桁違いの危険度を誇るモンスターに対する切り札。数多の功績がギルドに認められて初めて到達できる境地。要はお前が目指す場所だ。そこにいる奴らってのはな、常人には理解できないことを平然とやってのける。』
『た、例えばどんな?』
『そうだな……。自分のすぐ横で爆弾を爆発させてんのに何故か無傷だったり、自ら瀕死に陥ることで体のリミッター外して、そのまま戦い続けたり。―――有り体に言えば頭がイカレてるのさ。常識から1歩も2歩も踏み外してる奴ばかりだ。逆に言えば、"そうでなければいけない"んだ。誰にだってできる常識をぶち破ったその先の狂気―――お前のそれがなんなのかは、まだお前自身すらわからんだろうが、そのことは覚えておけ。』
『正気にては、大業成らず……』
移動都市バルバレ。ハンターズギルドバルバレ支部を中心として数多のキャラバンが集って形成されるこの街は、他とは違う特性を持っている。
この支部そのものが移動可能な船であり、一定の期間が空く、ないしは緊急の事態に直面した場合に周囲のキャラバンごと移動をするのだ。その特性上世界中にバルバレは現れるため、各地方の情報はある程度揃っている。誰が言い出したのかは分からないが「知りたいことがあったらバルバレに行け」とはハンター業界ではよく聞く言葉である。
とある日の昼過ぎ。そんなバルバレの集会所で俺は一人で黙々と食事を取っていた。猛牛バターをふんだんに使ったキングターキーのステーキが、着々と減っていく。
こうした集会場での食事は、一定の功績を積まなければ注文することができない。新人のハンターに出されるのは本当に安い食材しか使われない料理だけだ。別に不味いというわけではない。むしろ一級の調理師が作っている分そこらの食事処より味は保障できるし、格安で提供されているのだからその時点でも贅沢というものだ。
―――が、しかし。人間というのは欲深な生き物で、より上を知ってしまうと我慢ができなくなることがままある。隣のテーブルに座って、こちらをちらちらと見ながらミミパンを齧っているハンター一式君がいい例だ。自分が上等なものを食べているというのは理解できる。が、横でそれよりもはるかに上等で美味そうなものが食べられていると、途端にそう思えなくなってくるから不思議だ。今彼の胸中ではきっと様々な思惑が働いているに違いない。
自分も新人の頃にはなんでこんな制度を採っているのかと最初は憤慨したものだが、ハンターとしてのし上がるためのモチベーションを向上させるにはそれなりの効果が見込めるらしい。実際に自分も幾ばくか心当たりがあるあたり本当なのだろう。
遮二無二に頑張った今では自分も高級な食材にありつけるまでには功績を積んでいるわけなのだが―――未だ最上級には届いていない。
自分は、この程度で止まってしまった人間なのだ。
初めてイャンクックを狩ったときは一日中喜びに打ち震えた。リオレウスを狩ったときはむせび泣いた。これでようやく一端のハンターになれたと、これまでにないハイペースで依頼を受けていった。傍から見ても調子に乗っているのはまるわかりで、そのせいで時には失敗しつつもひたすら仕事をこなしていった。ハンターとしては若輩ではあるが、功績だけ見るならば中堅どころとそうは変わらないと思う。
順調。まったくもって順調。
このまま己の夢―――G級に届くのも然程遠くはないと思っていた。
そんな中、ある噂を聞いた。
バルバレに移動途中だった、ある砂上艇が巨大モンスターのダレン・モーランに襲われた際、とあるハンターが下着のみにも関わらず、一人で見事船を守り切ったのだという。
そんなばかな。
おそらくは自分だけではない、大多数の同業者が思ったことだろう。
たしかに砂上艇にはそういった襲撃への対抗策としてバリスタや大砲など、多くの迎撃装置を積んでいる。実際に、それらはダレン・モーランに対しても有効なダメージを与えることが可能だ。
―――だからといってそれだけで撃退せしめるかと言われれば、否だ。
乗船員が装置を使うだけで撃退できるのならばハンターが駆り出されることなどない。彼奴の危険度はリオレウスなぞよりもずっと高いのだ。それが意味することなどわざわざ説明するまでもないだろう。
その後駆けつけた数隻の砂上船とハンターたちによって完全に撃退されたようだが、それまで本当にたった一人で戦えたとするなら生半可な腕前ではない。
この時点では半信半疑だったが、のちにそのハンターが挙げる数々の功績に納得せざるを得なくなった。
イャンクック、リオレウス、ティガレックス、未確認モンスターだったゴア・マガラ、その変成体である古龍シャガルマガラ。
この間、僅か数か月。俺が数年かけた道程を軽々と踏み越えて今もなお前進している。
勝てない。そう思った。それが悔しくて躍起になって狩り続けた。何をぬるま湯に浸かっている。G級に届く逸材とは彼のような人に他ならないのだと、己を鼓舞し続けた。
より強力な武器を探した。より強靭な防具を探した。モンスターの生態を調べ上げ、構造を頭に叩き込み、即席のパーティをいくつも組んで、様々なノウハウを見て盗んだ。
―――しかし足りない。モンスターの動きに対する反応も、それに付随する体の動きも、ある日を境に何一つとして成長を実感できなくなった。
「ああ、ここが頭打ちか」
幼いころ、夢溢れていた当時父に言われた言葉が思い出された。結局己は、常識の範囲内のみ歩くことを許された凡人だったのだ。未だ自身が常識に囚われているだけかもしれないが、それを破る方法も最早思い浮かばない。
そんなこともあって、最近では緩やかに金を稼ぐだけの生活を送っている。この稼業を老体になってまで続けられるのはごく一部の話で、自分はそうではないと自覚している。今のうちに稼いでおくのが賢いというものだ。
「ふう」
ステーキを全て胃に収め、一息つく。ふと気づけば先程までいた新人は掲示板を凝視している。彼のような人にはぜひとも頑張ってほしいところだ。できるのならば、自分が到達しえなかった領域まで。
今日は近場の比較的簡単な依頼を見る予定だが、あまりに分相応過ぎて新人育成を邪魔するのも世間体が悪い。最悪天空山まで出向くまであるかもしれない。
流石に氷海や火山はいやだなと思いつつ、とりあえず依頼を見るために立ち上がろうとした時だった。
「ちょっといいかな。今僕らはパーティーを募集しているんだけど」
思えば、ここが分水嶺だったのだろう。ここでの選択が違えば、もっと別の未来が待っていたのだろうから―――
ギャアオオオオオオオ!!!!!
大気を震わせ、鼓膜を貫かんとする咆哮が平原に響く。眼前には外敵を焼き尽くさんとする爆炎を口内から滾らせ、こちらを睨みつける蒼きリオレウスが低空を飛翔している。視線で人が殺せるならなどという例え話は良く聞くが、それはこういうものを言うのだろう。実際、浴びせられる殺気の濁流は胆の小さい奴をショック死させるには十分であるかもしれない。万全の状態ならばともかく、疲労が積み重なった体には、ビリビリと肌を震わせる威圧感は少々堪える。伊達に"王者"と呼ばれてはいないということだろう。
「……けど、倒れるわけにはいかないんだよ、っと!」
体を反らし、十分な勢いが付けられて放たれた火球を転がって避ける。目標を外した炎は背後の遺跡にぶち当たって爆散した。それなりの防具を着ているとはいえ、まともに食らったらどうなるかなど想像もしたくはない。灼熱の余波は露出した肌を焼いているというのに、流れるのは冷や汗ばかりだ。
誘われた野良のパーティで挑んだリオレウス亜種。狩るのは初めてではなかったが、まさかここまで苦戦するとは思わなかった。回復薬は残り僅か。研ぐ暇のなかった片手剣は刃こぼれを起こし始め、身を守る防具も損傷が激しい。だが、ここで倒れるわけにはいかない。絶対に。だって―――
「―――」
倒れ伏す大剣使いのリーダー。なぜか防具どころか下着まで脱ぎ捨てている。
「うはwwwwww俺の神速突き最強wwwwwwwwwwwwwww」
リオレウスの背後から操虫棍でひたすら突きを繰り出しているBさん。1発も当たっていない。リノプロスすら倒せるか怪しい速度のどこらへんが神速なのか。
「ブーメランなくなっちゃった。調合しないと」
先程までブーメランを投げ続けていたCさんは座り込んで調合を始めた。その手には『ブーメラン、その知られざる真価とは』とかいう本を持っている。ブーメランにそんなものはない。せめて調合書を持て。
「こいつらいくら殴っても倒れねえwwwwwやべえwwwwwwwwwwww」
おそらくはリーダーを回収しに来たであろうアイルー達を、何を思ったかハンマーでひたすら吹き飛ばしているDさん。俺にはあんたの方が数百倍やばい人にしか見えない。
「ナミダゲットwwwwwwwwwwwwwww」
リーダーのアイテムポーチを漁っていたEさんが高らかに竜のナミダを掲げた。あれは確かリーダーが先程戦闘中にもかかわらず悠々と拾っていたものだ。そのままDさんのポーチを漁ろうとして吹き飛ばされた。
「ここで倒さないと―――死ぬっ!」
5人以上で狩りを行うと良くないことが起こると言われている。だからギルドも基本的にパーティーは4人までと規定しており、特例を除いて5人以上で行動するハンターはほとんどいない。今まではそんな迷信は信じていなかったのだが、なるほど確かに良くないことが現在進行形で起こっている。こいつら自体が特大の厄災だ。どいつもこいつもまともじゃない。こいつらにハンターの心得だとか、助け合いの精神などは最早期待できない。ハンターとしての地雷要素を詰め込んでたっぷり熟成させたようなこいつらが、何故今の今まで生き残っているのかが欠片も理解できない。正直な話尻尾を巻いて逃げ帰りたいが、そんなことをすればハンター仲間からは干されて社会的に死ぬに決まっている。かといって倒れても、この状況ではアイルーによる救出が望めないから肉体的に死ぬ。故に逃げれない、倒れることができない。この先生きのこるには目の前の火竜をなんとかして打倒する他ないのだ。いつの間にか突入していた人生のハードモードっぷりに涙すらでてくる。
ああ、どうしてこんなことになってしまったのか―――
タグを見ればわかる人にはわかる。
シリアス(笑)をやってみたかったんや…。
MH4にはG級がないだって?こまけえこたあいいんですよ!
実際のゲームプレイでもプロハンターと呼ばれる人って理解できないような動きしますよね。攻撃誘発のための間合い調整ならまだしも、ヘイト値やスタン値計算とかもうサッパリ妖精ですわ。スタイリッシュボマーなんていったい誰が考えたのやら。
あとは下を投稿するか中を挟むかはまだ筆者にもわかりませんが、待ってくれる方はしばしお待ちを。