拝啓妻へ   作:朝人

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気付いたらお気に入り数二千越えてるし……いつの間に。


十四話

 七星剣舞祭の開会式を控えた二日前。

 会場となる大阪。その中心部から外れた湾岸の埋め立て地。

 普段はゴーストタウンと化しているそこは今、活気に溢れている。理由は言わずともしれた七星剣舞祭だ。

 それがあと二日後に迫り、観客だけでなく選手やスタッフも集まり始めていた。

 特に今日は運営委員会が選手を招いての立食パーティーを行う様子。

 当然それには破軍学園代表の一輝も参加することになっていた。

 あの地獄の様な死闘の日々を見事乗り越えた彼は今、パーティーに出向く為の服を見繕っていた。

 このパーティーには一輝の他に、珠雫とステラも参加する予定だ。

 本来であれば予選で落ちた珠雫が出ることはないのだが、『襲撃』の際負傷を負ったり、その時に自信喪失した者達からの推薦で出場権を獲得した。

 アリス奪還の際、彼女は『解放軍(リベリオン)』の重鎮《十二使徒(ナンバーズ)》の一人にして《隻腕の剣聖》の二つ名を持つヴァレンシュタインと戦い、その過程で更なる力を得た。そして彼女もまた仁の『特訓』を受けた身だ。今の珠雫は代表として申し分ない実力を宿している。

 ステラに関しては『鍛え直す』と寧音の下で修行しているそうだ。仁ではなく寧音を訪ねたのは自信があったパワー勝負で負けたのが原因だろう。仁は細かいことや気付き難いことを重点に教える傾向がある。今彼女が必要としているのはそれではない。故に寧音の下にいるのだろう。

 一輝達とは違い、彼女のそれは足掻きに近い。故に一輝は一抹の不安を抱きながらも待ち続けることにした。

 ……まあ、まずはパーティーに出向く為の服選びを終えねばいけないのだが。

 それから数十分。珠雫とアリスが迎えに来るまで一輝は悩み続けた。

 

 

「なんだ、もう終わったのか?」

 

 一輝達が参加している立食パーティー、その舞台であるレセプションルームの隣にある喫煙ルームから出た黒乃に声を掛けたのは仁だった。いつも通りのスーツ姿で壁にもたれている。

 

「……先生は既に出ていっただろ」

 

「ああ、まともに会ったことなんてないはずなのに挨拶されたよ」

 

 黒乃が『先生』と呼んだのは彼女の恩師にして現総理大臣、そして『暁学園』の創設者、月影獏牙だ。

 かつては破軍学園で教師をしていたこともあり、黒乃はその時の生徒だ。

 そんな人物とつい先程まで問答をし、一足先に件の人は退室した。

 その際付き添いで連れて来られた仁に対しても二、三言葉を交わして行った。内容はむろんエーデルワイスと天音のことだった。

 仁としては最終的な判断を当人達が行ったのであればあれこれ口出しするつもりはないのだが、そこは腐っても責任者、立場ある者。大黒柱に断りを入れなかったことに対し非礼を詫びた様子。

 

「エスコートでも必要か?」

 

「馬鹿を言え、お前がそんな柄か」

 

「手厳しいことで」

 

 思わぬ形での恩師との再会故かいつもに比べ上の空な黒乃に軽い冗談を告げると、バッサリと切り返された。

 そのことに肩を竦め、仁は前に向き直る。

 

「……すまん、変な気を使わせたな」

 

 その背中に黒乃は小さな声で伝える。

 付き合いの長さ故か、彼が自分の調子を見て案じたことを黒乃は察していた。

 そんな黒乃に対し、仁はただ「気にするな」とだけ返し彼女の前を歩いていく。

 ――図太そうに見えて意外と繊細な奴め。

 そう感じたのは思えば二度目だった。

 一度目は彼女が『自分達と同じ領域』に足を踏み入れかけた時か。彼女は『ただの強者』ではなく『人間』として生きる道を選ぶ為引き返した。

 ただただ『力』のみを求めるのではなく、愛する者と生きる為に選んだ生き方。

 そんなものとは無縁であった当時の仁にとってそれは少しばかり羨ましくもあったが、結局彼はどう足掻いても生き方を変えれなかったのだろう。

 ……少なくとも、『人』とは一人だけでは簡単に完結して終わってしまう生き物なのだから。

 人生の大半を一人で過ごした彼が生き方を変えることなど出来るはずがなかった。

 むろんそれは過去の話であり、今の彼は変わっている。『力』を追い求める姿勢は依然としてそのままだが、昔より他者を必要とする傾向は強い。

 そうなった原因は当然妻であるエーデルワイス――と言いたいが、実の所彼を変えたのは寧音だ。

 より正確に言えば彼女との接触とその後の付き合いが大きかった。

 

 西京寧音とのファーストコンタクトは仁が『青﨑』としての仕事で西に出向いた時だ。

 解放軍に不穏な動きがあるという情報を耳にした当時の『当主()』に命じられわざわざ彼は出向いたのだった。

 その頃の仁はまだ二つ名も着かない無名の伐刀者であった。厳しい鍛練に耐え、自ら研鑽を怠らず、修羅場も死線も潜り抜けてきた強者ではあったが、知名度自体はなかったのだ。今でこそ《千刃》という仰々しい二つ名を持つが、彼にもそんな無名時代があった。

 青﨑の家系は暗部であり、請け負うのは全て危険なものか汚れ仕事だけ。今回もその一つだ。

 要人が泊まったホテルを解放軍が占拠する。

 そんな情報を何処からともなく仕入れてきた当主は、次世代の中で最も腕の立つ仁を派遣することを決定し、彼も反論はしなかった。

 ……というより、彼等には基本『拒否権』というものはない。彼等の扱いは人というより凶器に近い。

 普段は使わないが必要に応じて取り出して使う。正に彼等はそんな存在だった。

 だからこそ『黒鉄』の中でも彼等は格別に忌み嫌われていたのだろう。

 そのことを自覚し、ただ仕事を終わらせようと歩み続けていた仁を呼び止めた者がいた。

 

「お兄さん『面白い』ねぇ~、どうよ? ちょっとうちに付き合わない?」

 

 それこそが当時まだ学生であった寧音だ。

 彼女は生まれ持った才能もあるが、《闘神》南郷寅次郎の下で鍛えられ、その実力は当時からも注目を集める程。

 そんな彼女が街を歩いてる時偶然見つけたのが仁である。

 同年代の学生騎士よりも遥かに目が肥えていた寧音が仁を見た瞬間「あ、こいつ強いな」と直感で理解し、興味を持ち声を掛けたのだ。

 ――これが二人の馴れ初めだった。

 その後、無視を決め込んだ仁の後を興味本意で『抜き足』を使って追ってきたり、そのせいで仁の仕事である『解放軍の制圧』に割って入って来られたりと仁からすると散々な目に見舞われたのだが、そこは省略する。

 一度目の邂逅はそれで終わるが、彼等はその時に腐れ縁でも出来たのだろう。この後も何度も遭遇してしまう。

 その過程で黒乃とも知り合ったり、最初は能面の様な仏頂面だった仁の表情が次第に柔らかくなったりと色々と変化があった。

 仁が彼女を『天敵』と呼ぶのは何も能力や相性の問題だけではない。『自分を変えてしまった存在』だからこそ、仁は寧音に対し、大きな苦手意識があるのだ。

 そういった意味では彼女は仁にとって間違いなく『特別な存在』だ。

 そこだけはきっとエーデルワイス()でも勝てない所だ。なにぶん彼女の存在なくしては仁が『今の仁』となれたか怪しいのだから。もし、そうならエーデルワイスと今の様な関係にはなれなかったかもしれない

 本当に『人の縁とは面白いもの』だ。

 少しばかり昔のことを思い返し、仁は小さくほくそ笑んだ。

 

 そして今はまだ来ていない者達のことを少し思う。

 ステラを鍛える。その名目で寧音はまだいないが、はてさて間に合うのかどうか。

 ホテルの廊下を歩き、窓から暗くなった空を見上げた。

 夜空には点々と星が輝いていた。

 今足掻いて沈んでしまっている彼女は、その名の通りにまたああして輝けるのか?

 そして、それをあの『天敵』に出来るのだろうか?

 そんな疑問はきっと考えるだけ無駄なのだろう。

 何せ仁はその二人の性格を良く知っているのだから。

 一人は腐れ縁の『天敵』として。

 一人は『生徒』として。

 不安の種は蒔こうとしても無駄だった。

 その二人は信頼に値すると理解しているのだから――。

 

 





寧音は途中まではメインヒロインムーブかましていたけど、エーデルワイスとかいうぽっと出ヒロインに諸々奪われた感じ。
例えるならアルト◯リコシリーズにおける第一、第二ヒロインポジが寧音。第三ヒロインポジがエーデルワイス。
分かり辛いって? ごめんね、例え下手で。
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