拝啓妻へ   作:朝人

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二十話

「それにしても、《鬼火》とも知り合いだったなんて、本当に先生顔広いわよね〜」

 

「珠雫から聞いた話だと仕事で結構色々と飛び回っていたらしいからね」

 

 七星剣武祭初日を乗り切った一輝はアリスと共に大浴場の脱衣所で着替えていた。

 先程まで二人は湯に浸かっていた。今日の諸星との試合を振り返ったり、最愛の恋人であると同時に最大のライバルのステラの強さを再認識したり、天音の実力や『お詫び』の件について考えていた。

 前者二つはともかく、最後の一つに関しては対策もだろう。

 天音の試合の後、彼に倒されたことで寝込んでいた御祓泡沫から連絡がきた。その内容は天音の異能についてだ。

 解説の牟呂都が言っていたようにやはり天音は因果干渉系の異能であるとのこと。

 一輝も薄々は勘付いていたが、これで確定した。

 数ある異能の中でも最強の分類とされているのが因果干渉系である。天音はその使い手であり、(先生)の手によって育てられた。

 強敵であることは必至であり、更には『お詫び』として使うであろう切り札もある。

 一輝が順調に勝ち進めば準決勝で天音、決勝でステラと当たるのは確実。

 どちらも油断のならない相手だ。

 その対策をあれこれ思案している時、次の対戦相手である城ヶ崎白夜と出会った。より正確には『入ってきた』というのが正しいか。

 一輝達がいるのは選手用に用意されたホテルの大浴場だ。共同用ということもあり、選手同士が鉢合うのは当然あるだろう。

 突如として遭遇した次の日の対戦相手、更にその対戦相手に己が鍛えた身体に興味を持たれて何か危機的なものを感じたりしたが、諸星が来たことでそれに脱却することが出来た。

 白夜本人は「失礼な、ちゃんとした恋人がいる」と抗議の声を挙げていたが、手付き目付き、そして言葉遣いが見事なまでに誤解しか生まなかった為に諸星にそこを指摘され「なんと」と驚いていた。

 諸星のフォローがあったとはいえ、彼自身のお詫びとして一輝には緑茶、アリスにはブラックコーヒーを送った。それは白夜の異能が為せる技であり、近くの自動販売機から転移させたものであろう。勿論ちゃんとお代は払っている。

 踵を返そうかとしたその時「ああ、それと」と思い出したように二人に訊ねた。

 

「そちらの学園に『アオさん』という方はおられますか?」

 

「いえ、僕は知りませんけど」

 

「あたしも心当たりはないわねぇ」

 

 破軍学園にいるであろうと思われる人物を名前を言ったのだが、二人はそんな名前の人物は知らなかった。

 それを確認した白夜は「ふむ」と少し考えた後再度訊いた。

 

「では『一ノ瀬仁』という教師はおられますか?」

 

『え!?』

 

 その人物の名を聞いた二人は同時に声を上げた。

 

「一ノ瀬先生なら確かにいますが……」

 

 白夜は対戦する相手の情報を蒐集することで有名な騎士だ。それは過剰と言える程で、戦闘時だけでなく私生活のほんの些細なものですら対象となる。

 それらを入念に調べ尽くすことでその人間の思考の『根』――『理』を暴くことを得意としている。だからこそ一輝とアリスが風呂上がりに飲もうと思っていたものすら解ったのだ。

 

「……各学園の教師陣までも調べたんですか?」

 

「いえ、確かに学生を導く教師も調べたりしますが……今回は個人的なものでして」

 

 一輝の問いに肯定で返すが、同時に仁に関しては否定した。

 

「実は椛がそちらの一ノ瀬教諭と知り合いらしく……同門の《夜叉姫》から聞いた様で、それからというもの『会いたい』と駄々を捏ねるようになりまして……」

 

 白夜は疲れた様子で経緯を話した。つられる様に話を聞いていた諸星は「あー、噂の『アオさん』かー」と思い出したように呟いていた。

 曰くまだ能力が発現して間もない頃、《解放軍》のテロに遭遇したことがあるらしく、その時に助けてくれた人物が『アオさん』なのだとか。

 それ以降というものの不定期ではあるが寧音が彼と会いに行く時は決まって付いていくようになったらしい。ちなみに椛本人としては彼に騎士として鍛えて貰いたかったらしいのだが、仕事の都合や彼の剣が『殺し』に特化し過ぎていたこともあり断られた様子。その結果、寧音と同じく寅次郎の下で鍛えられることとなった。

 ちなみに何故『アオさん』と呼ばれているのかと言うと、名前を聞かれた際彼はただ『青﨑』とだけ答えた為だ。そうした結果、いつしか椛は愛称として『アオさん』と呼ぶ様になったらしい。これは寧音が『ジン』という名を授けた後も変わらず、半ば椛専用の呼び名となっている。

 この様な理由により椛は仁に懐いていた、それはもう『妹分』を自称するくらいには。

 そんな彼が別れの言葉も告げずに突如数年前に姿を眩ましたのだ。

 寧音や寅次郎に訊ねても理由は教えて貰えず、音信も不通。

 生きていることだけは唯一寧音の口から語られた為そこだけは安心したが、逆を言えばそれ以外は心配しかなかった。

 ジンが強いのは知っている、しかし何が起こるか分からない世の中だ。

 便りがないのは元気な証拠と言うが、実際その立場になるとそうも言っていられなかった。

 しかし、居場所も分からない相手を探すのは難しい上に椛自身まだ学生の身。何より、椛の技量はまだ『助けてもらった頃のアオさん』にすら届いていない。

 そんな状態で広い世界に単身乗り出せる程無謀ではない。何より今では白夜という恋人もいる。

 だからこそ無茶は出来ず大人しくしていたのだが……。

 先日、破軍学園に派遣講師として出向いている姉弟子の寧音と連絡を取り合った際、話の流れで仁のことが話題に上がった。

 その結果、今まで燻っていた感情が爆発したようだ。

 

「どうか『椛が会いたがっている』と一ノ瀬教諭に伝えては頂けないでしょうか?」

 

 それは偏に恋人を想っての頼み。

 恩人として、兄貴分として慕っていたであろう人と再び会わせて上げたいという切なる願いだ。

 

「わかりました。丁度先生も来ているから折りを見て頼んでみます」

 

「ありがとうございます」

 

 そして、ステラという恋人がいる一輝がそれを無下にすることはなかった。

 元々の人柄もあるが、やはり彼女持ちとしての『彼女の為に』力になりたいという想いは理解出来るようだ。

 

 

 ――そうして、白夜からの頼まれ事を引き受け、大浴場から出た彼等は脱衣所で服を着ながら仁についての話をしていたのだった。

 

「そういえば、彼の言っていた『お詫び』について先生は知っていると思う?」

 

 ドライヤーで髪を乾かしながらアリスが訊く。

 彼とはむろん天音のことだ。元暁学園所属とはいえアリスは天音と会ったことがない。故に一輝や珠雫から彼について色々と聞いたのだ、勿論彼が仁の義理の息子であることも。

 

「ん、そのことなんだけど……実はもう先生には確認を取ったんだ」

 

 白夜からの餞別として貰った緑茶を一飲みしてから一輝は答える。

 

「それで?」

 

「『は? 俺は知らないぞ、そんなの』って……」

 

 試合を見終わり、休息を取った後運良く仁と遭遇した一輝はそれとなく訊いたのだが、結果怪訝そうに眉をひそめられただけだった。

 

「嘘をついてる可能性は?」

 

「ないと思う。先生表情とかあまり出さないけど、あの時だけは一瞬本当に驚いていたと思うから」

 

 それは何も観察眼に優れた一輝だからというわけではない。恐らくある程度仁と親睦を深めた者なら気付ける程、それほどまでに珍しく表情に出ていたのだ。

 「そう、やっぱり幾ら先生でも《比翼》を破るような剣技なんて知らないわよねぇ」とそう都合良くいかないか、とため息を漏らすアリスに対し。

 

(とはいえ、先生が知らないって言ったのはあくまで『天音くんについて』のことだけで『剣技自体』には触れていないから、そっちは知っててもおかしくないんだよね)

 

 ある確信があるからか一輝は心の中で呟く。

 仁にとって天音がその剣技を修得するのは完全に予想外のことだったのだろう。だからこそ、そこだけははっきりと否定した。

 だがしかし、『(イコール)仁が剣技について知らないとは限らない』のだ。

 これは直にエーデルワイスと一騎打ちし、更に過去の仁とも戦闘を行った経験がある一輝だから持てる確信だ。

 エーデルワイスの《比翼の剣》を受け、自身でも使えるようになり、その恐ろしさを知った。

 それを得て尚圧倒された過去の仁――正確には十九才頃の彼。

 《比翼の剣》を使えるようになり、何とか十八才までの仁を倒すことが出来た。

 余った時間(と言ってもそれほど多くはなかったが)を休息に充てようと考えていた仁に対し、一輝はもう一段上の仁との戦闘を希望したのだ。

 元よりストイックな傾倒ではあったが、今回は《比翼の剣》が使えるようになったのが後押ししたのだろう。

 渋る仁を何とか説得し、一輝は更に上の領域に足を踏み込むことになる。

 

 ――《魔人》と呼ばれる者達が住まう領域へと。

 

 一輝が挑んだのは《覚醒》を果たした後の仁だった。

 おまけに既にエーデルワイスに勝てるよう試行錯誤を経た彼は正に今までとは『別次元』の力を有していた。

 あのエーデルワイスを打倒すべく死にものぐるいで強さを求めた彼の前では、《比翼の剣》が使えるようになったばかりの一輝は文字通り手も足も出なかった。

 《大六感応》により攻撃の兆しを読まれ、ノーアクションから放たれる無数の《閃刃》による即死コンボ。

 これだけで完封された。

 そしてその経験と戦闘スタイルから一輝は仁がエーデルワイスとの戦闘を見越して鍛え、技能を得たことを看破する。それほどまでに十九才の仁の戦闘スタイルは対エーデルワイスに特化し過ぎて(・・・・・・)いたのだ。

 

(だから先生が知っていても不思議じゃない)

 

 故に、一輝はそう思っていた。

 こじつけの様にも感じるが、理由はちゃんとあり、筋も通っているように思える。

 なにより――

 

(それに、伏せているけど先生の奥さんってやっぱり《比翼(エーデルワイス)》……なんだよね、たぶん)

 

 確認はとっていないが、恐らくは間違いないだろう、そう考えると色々と辻褄が合うのだ。

 国外追放され外国で結婚。それから素性を隠しての単身赴任。愛しているはずの妻の姿を確認出来るものを持っていない。断片的にしか詳細は語らない。名前は絶対に口にしない。

 どうしてそこまで徹底して隠していたのかという疑問もそれなら納得がいく。

 一回だけ破軍学園に訪れた事があり、その時はただ「噂通りの綺麗な女性」として何人かが語っていたが、それも仁の異能を以ってすれば『そう認識される』ように仕向けるのは十分可能だ。

 なにより、あの先生()を完膚なきまでに叩き潰せる女性などそうそういない。

 そして今日の試合で天音が見せた投擲、それは正に《比翼》の動きに通じるものがあった。

 バラバラになったピースが揃って出来たものを前にした一輝の心境は驚きよりも納得感の方が大きかった。

 恐らく珠雫辺りがこの真実を聞いたとしても似た様な感想になることだろう。

 

 だが、やはりそうなると別の問題が生まれる。

 

(もし、先生でないのなら一体誰が天音くんに《魔剣》を教えたんだろう?)

 

 数多ある流派の技ではなく、あの《比翼》を破る程の剣技となれば修得は容易ではないだろう。ましてやそれを修めた者となればまずいない。

 一輝ですら《覚醒》を果たした仁に挑んだ後でようやく『その可能性を持っているかもしれない』という思いが生まれた程度。

 世界は広く、未だ見ぬ強敵は多数だ。しかし、そんな者達ですら勝てない『最強』こそがエーデルワイスである。

 仁の対応や世間一般のエーデルワイスに関する情報を鑑みるに彼等の関係はやはり秘密裏なのだろう。

 必然、最強を破った《魔剣》の存在も開発した本人である仁か、その前に敗れたエーデルワイスの二人しか知らないはず。

 複数で挑むならその限りではないが、仁の戦闘スタイルを見る限り単騎決戦を望んだと思われる。

 もし仁以外となれば、真っ先に浮かぶのはエーデルワイスだろう。しかし、彼女自身がその《魔剣》を使えるかは分からない。彼女程の剣の腕ならば大抵の……いや、常軌を逸脱したことをしても不思議ではないが、そんな存在を打ち負かす剣技ともなればそれこそ想像が出来ず、同時に使えるのかも怪しい。

 

(天音くんが使えるってことは彼女が使えてもおかしくはない。でも……)

 

 どうにも釈然としない。

 仁のスパルタっぷりは知っているし、体験もしている。無茶だと思える難題をいくつも振ってくる姿勢はきっと、天音の時にも健在だったに違いない。

 そんな彼が教えることがなかった技を、態々エーデルワイスが教えるだろうか?

 天音の戦闘スタイルは主に投擲による物なのは今日の試合と泡沫の証言で確定している。勿論それはあくまで側面の一つに過ぎず他にも戦術を持っていることは予想出来る。

 だがそれでも拭えないのだ、一輝は一度だけとはいえエーデルワイスと邂逅しており、その時に彼女が優しい人物であることを知った。そんな彼女が、仁が教えなかったことを独断で教えるとは思えないからだ。

 

(天音くん、君は本当に誰に教わったんだ……?)

 

 仁、エーデルワイス、そして《暁学園》とは別の何者かが天音に接触しているのだろうか? ならばそれはどんな存在で、思惑は何なのか?

 自身の理解の及ばない存在の有無に一輝は一抹の不安を覚えた。




天音君に接触している奴について凄い悩んだ、後の展開まで含めて一ヶ月程。悩んだ結果当初のプロット通りに進めることにしました。
オリキャラ出ます、とんでもないチート能力ありです、敵ではないけど味方でもない奴らが後々出てきます、インフレやばいです。
でもどうせそいつら出てくる頃には原作も更にインフレしてるよね。
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