拝啓妻へ   作:朝人

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三十三話

「イッキ、気付いてる?」

 

「うん、先生達と分断されたね」

 

 僅かばかりとはいえ、何とか持ち直した一輝達は自分達が置かれている立場を再確認した。

 仁の気に呑まれていて気付かなかったが、どうやら黒乃達と引き離されたようだ。黒い幕のような物が彼女達がいた方に出現し、その先が見えない。

 これもまた仁の狙いなのだろうか?

 どちらせよ、仁とは刃を交える以外道はない。

 

「行くよ、ステラ!」

 

「ええ!」

 

 構え直し、呼びかけるとステラも応じた。

 偽りの姿を捨てた仁との力量差はこの段階でもはっきりと分かる。

 しかし、「だからどうした」と二人は意気込んだ。

 そんな事はわかっている。だが素直に要求を呑むつもりもない。なら、徹底的に抗う他ない。

 

「消し炭になって文句言わないでよ、先生!」

 

 ――《煉獄竜の大顎(サタンファング)》。

 反抗の狼煙というには巨大で派手な七つの炎の竜の首が顕現する。

 それらは大きな顎を開け仁に向かっていく。

 仁は既に《孤狐丸》を顕現しているが、鞘に納めた状態で帯刀している。抜く必要はないという事だろうか。

 舐められてる。まずはその鼻っ柱をへし折る。

 そんなステラの感情が反映されるかの如く、七つの竜は荒れ狂う。

 一つでも驚異的な火力を誇る炎竜が七つ。

 単純に数だけ見ても増している脅威性。まともに喰らおうものなら宣言通り消し炭になるであろうそれを前に、しかし仁は慌てた様子はない。

 翳す様に右手を眼前にまで上げる。そして、迫りくる七つ首の竜を捉え、何かを握り潰す様に拳を作る。

 次の瞬間。

 まるで見えない巨人によって引き千切られたかのように、炎竜は断末魔をあげ、その姿は四散した。

 

「嘘!?」

 

 驚愕するステラ。彼女が何より驚いたのは《煉獄竜の大顎(サタンファング)》が破られたからではない。七つの竜を全く同時に破壊された事についてだ。

 タイムラグなど存在せず、同時にそれを行ったという事は、一輝とステラが知る得る仁の能力では出来ない。やはり全容は明かしていなかったのだ。

 炎竜の残滓ともいうべき火の粉が舞い散る中、駆けたのは一輝だ。

 《比翼》の動きにより格段に跳ね上がった速度。それを最大にまで引き上げ、一直線に仁を捉える。

 

 ――第一秘剣《犀撃》。

 

 一輝が持つ中で一番の破壊力を持つ技。

 かつては仁の前に破れたが、以前の一輝とは違う。

 《比翼》の加速により、更なる突進力を得たそれならば以前の様に鞘で受け止められる事は出来ないはず。

 更には宙を舞う無数の火の粉のお陰で目眩ましもある。

 即席とはいえ、相方の力も利用した見事な一撃であり、事実仁は避けることが出来ない。

 

(いける!)

 

 そう確信したと同時に《陰鉄》の切っ先は仁を捉え、貫いた――かに思われた。

 その光景は、ゆっくりと、まるでスロー再生のように見えた。

 仁の右手が動く。人差し指だけを出し、それを一輝……《陰鉄》の切っ先に合わせるように向ける。

 すると、見事に衝突し、一輝の突進は止められた。

 

(っ!? 指一本で!!)

 

 驚愕する一輝を他所に、仁は涼しい顔をしている。全くダメージが入っていない。

 あり得ない。

 そんな感想を抱く暇もなく、次いで一輝は突如弾き飛ばされた。

 まるで砲弾にでも当たったかのような衝撃だが、二転三転しつつも受け身を取り持ち直す。

 そんな一輝と入れ替わるように、間髪入れずに今度はステラが仁に刃を振るう。

 元よりパワーに自信のあるステラの上段切り。更には摂氏三千度の炎を纏った一撃だ。

 受けるには困難な上に、避けても衝撃が周囲に飛ぶ。

 そんな剛剣を、仁は右手の親指を弾きその勢いを刀身に当て、軌道を逸らした。

 結果、対象から外れた剛剣はそのまま大地を破砕し、衝撃を起こす。

 当然至近距離にいた仁はまともに受けた……はずだったのだが。

 

「がっ……!」

 

 ダメージなぞないと言わんばかりに裏拳でステラを叩き飛ばす。

 

「何なのよ、これ……!」

 

 危険を察すると同時に《妃竜の羽衣(エンプレスドレス)》を展開したはずだった。しかし炎の鎧などまるで無いかの如く、仁の拳はそれを突き破り、確かな一撃を与えた。

 見た目に反し重い一撃と、先の不可解な現象に苦虫を噛み潰す。

 

「……魔力放出だ」

 

 自分が喰らった一撃と、ステラとの応酬で一輝は仁の繰り出した攻撃を看破した。

 何て事はない、ただの魔力放出だ。ただ問題なのはその瞬間出力と制御だ。

 一瞬の内に繰り出す魔力が高い上に、それを瞬間的に行う制御能力が常軌を逸したレベルだからこそ行えたのだろう。

 だが、あくまでこれは仁の反撃や剣の軌道を逸らした際に使用したもので、ダメージを喰らわない絡繰は依然として不明だ。

 《犀撃》を受けて傷一つない理由も、ステラの炎に触れたはずなのに火傷一つない理由も見当がつかない。

 ただの魔力障壁なら一輝はともかくステラに関しては説明がつかない。

 

(やっぱり、先生の異能の正体が分からないと突破口が見い出せない)

 

 憶測での異能の候補は幾らか思い浮かぶが、その何れもが今まで使っていた能力を含めて考えると合致するものがない。

 やはり、異能の正体を突き止めるしかない。

 ステラにアイコンタクトでそれを伝えると理解したのか頷いた。

 

 「《焦土蹂撃(ブロークンアロー)》!」

 

 火球が空を埋め尽くす。

 一つ一つが爆弾の如き破壊力を秘めたその数、優に三百以上。

 桁外れの魔力量を保有するステラだからこそ瞬間的に生み出せた芸当だ。

 そうして生み出された破壊の雨粒は、容赦なく標的()に降り注いだ。

 絨毯爆撃という言葉すら生温い破壊力を持つ伐刀絶技。

 如何に強固な防御を持っていようとも全くの無傷という訳にもいかない、何かしらのアクションは取るはずだ。

 それをつぶさに捉え、観察し、予想しなければいけない。

 時間は掛かるが、確実且つ堅実に攻略するには地道に行く他ないのだ。

 だからこそ、これから起こりうるであろう何らかの反応を見逃してはいけない。

 

「《夢現境界》」

 

 そして仁は動いた。

 再び右手を眼前に差し出す。手を開き、迫りくる紅蓮の雨に向けた。

 次いで、スッと横に動かす。まるで布で窓を拭くように、普通に生活する上で行われる、そんなありきたりな動きだ。

 だが、その瞬間。

 彼の手に合わせるかのように空間が歪み、極光(オーロラ)が発生する。

 それは破壊の限りを尽くす紅蓮の雨から仁を守るかの如く彼の前に展開し、不気味にゆらゆらと揺れている。

 気味が悪いが、だからといって三百を超える火球を防げるとは思えない。

 頼りないとも見える極光のカーテンに、しかし何故か脅威を覚えてしまい――その予感は見事的中する。

 無数の火球は、オーロラを破る所か、通り抜けた傍から色と実体を無くし消えていく。

 例外は一つとしてなく、空を埋め尽くす程にあったはずの火球は全て消え失せていた。

 そうして、仁は手の平を下にする。

 するとオーロラは仁の前から消え、新たに一輝達の真上に発生する。

 ――マズイ!!

 直感で危険を察知した二人の反応は早かった。

 一輝は《比翼》の速度で以ってオーロラの範囲外に、ステラは《妃竜の羽衣》を展開した。

 

「返すぞ」

 

 まるで鍵盤を弾くかの様な動きで指を下にした。

 そのすぐ後だ、上空から三百を超える紅蓮の雨が降り注いだのは。

 ダイナマイトを彷彿とさせる爆発と爆音が二人を襲う。それも一つや二つなどではない。数えるのが億劫になる程の数の暴力が次々と襲い掛かってきているのだ。

 それは正しく、先程オーロラの彼方に消えた《焦土蹂撃》であった。

 数、威力、速さ。その全てをそのままに返されたのだ。

 紅蓮の雨が地面に着弾する度に、破壊と破砕が起こり、爆発は連鎖する。

 時間にして十秒にも満たなかったが、そんな短時間でリングは平な所はなくなり、火の海と化してしまう。

 

「ステラ! 大丈夫!?」

 

「え、ええ……何とかね」

 

 集中砲火であり、絨毯爆撃でもある《焦土蹂撃》に曝された二人だったが、五体満足で再会する。

 回避に重点を置いた一輝は、大きな怪我はないものの破壊され飛び散った無数のリングの破片は完全に避け切れなかったらしく、至る所に小さな裂傷がある。

 防御に重点を置いたステラは被弾こそしたが流石の魔力量のお陰か、多少のダメージは負ったが、重傷はない。

 二人共、肉体は戦闘を続行出来る状態ではあるが、精神は僅かに揺らいでいる。

 理由はいうまでもなく、先の仁の伐刀絶技《夢現境界》によるせいだ。

 

「なによアレ!? 《空間》の異能か何かなの!」

 

 空間が歪み、オーロラが発生し、自らの攻撃を全て消されたと思ったら返された。

 ステラの見解は短絡的ではあるが、そう思わせるには十分な現象であった。

 実際《空間》の異能であれば、一輝とステラの攻撃が効かない理由にも納得はいく。《胡蝶の夢》もその類ならば出来なくはないかもしれない。

 

(でも、《空間》の異能だと具現化の能力の説明が出来ない)

 

 しかし、そうなると仁が得意とする具現化能力は何なのかという話だ。

 あれは空間の異能で出来ることではない。何処かから転移させるとか引き寄せている訳ではない。瞬時に、即座に魔力を使って造っているのだ。

 少なくとも一輝の目には《空間》で武器を引っ張りだしているようには見えない。そういう挙動がなく、転移にありそうなロスが僅かもない。

 故に《空間》という線は除外すべきかもしれないが、そうすると今度は先のオーロラが気になってくる。

 アレもまた純然たる具現化能力では出来ないはずなのだから……。

 頭の中で正体を暴こうと錯綜する思考。

 空間、物質、複写……様々な候補が思い浮かぶがやはりどれも何か(・・)が違う。

 

「なるほど、時間を稼いで俺の異能の正体を探るつもりか」

 

 その考えは仁に見抜かれていた。

 それはそうだろう。一輝もステラも仁の本当の異能を知らないのだ。そうするだろうと読まれることくらい想定済みだ。

 無論その状態でも最初から全力で立ち向かって勝算がなかったのかと言われれば、希望的観測で見積もれば一%くらいはあったかもしれない。

 だが、その選択を握り潰す程に、あの姿の仁から発せられた気は異常だったのだ。

 だからこその、一か八かの出たとこ勝負ではなく、堅実な手を取った。

 とはいっても、それでも手を抜くような行為は勿論行っていない。

 奥の手を使っていないだけで、全力で挑み掛かっているのだ。

 

「別に俺は構わないがな」

 

 だがそれでも仁には焦り一つ見えない。

 迫りくる力を淡々と対処していた、ただそれだけの認識。脅威でもなんでもない。

 事実として――

 

「果たしてお前らにそんな時間があるか?」

 

 一輝達は既に決定打と成り得る一撃を与えられているのだから。

 

 ――ピキリ、と。嫌な亀裂音が耳に入った。

 





思ってたより原作の続刊が出てきてくれないので、当初予定していた二部構成にしていたこの作品、一部の部分で終わりそう……。
つまり、VS一輝&ステラがラストバトルとなります。
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