蒼穹のファフナー 〜Wunsch〜   作:naomi

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第十二話「所縁の地」

ボヴァリーノに降り立ち長い身元確認を終え車に揺られるカンナ。

 

「まさか、カンナさんが生きていたとは驚きましたよ。任務中に戦死したと伺ったものですから」

 

「お前は今では人類軍の指令官か。出世したなハリー」

 

「少佐になったのはつい最近ですけどね」

 

「お前の兄もきっと喜んでいるな」

 

「…貴女が生きていたことの方がきっと喜びますよ。兄なら」

 

「…」

 

約1日をかけて、ようやく彼女はその地に戻ってきた。

 

(まさかもう一度この地に立てるとは…改めて彼等には感謝しないとな)

 

「どうしました。カンナさん」

 

「久しぶりの故郷に少し感傷したようだ。あの時はまさかここに戻れると思わなかったからな。なぁハリー、家に帰る前に寄ってもいいか」

 

「どうぞ」

 

カンナはユリの花を手に持ち、とある墓標の前に立った。

 

(テリー・ランページ。またこうしてここに立てると思わなかったよ。不思議な出会いがあったんだ。無鉄砲で真っ直ぐな瞳がお前にそっくりな少年がいてな………)

 

その墓標の前で自らの体験した出来事を振り返るカンナ。

 

(…今日はここまでにしておくよ。またなテリー安らかに眠れ)

 

「わがままを言ってすまなかったなハリー」

 

「わがままだなんてとんでもない。久しぶりに貴女に供養してもらえて、きっと大層喜んでますよ」

 

家に着いた二人。その外観にカンナは戸惑った。

 

「お食事を用意させてます」

 

「シャワーを先に浴びていいか」

 

「では、食卓で待ってますねカンナさん」

 

(ここが本当にウィーンか…復興していることは嬉しいが、何故こうも引っ掛かる。この家もそうだ。場所といい外の眺めといい間違い無いのだが、何か大事なモノを失っている気がする)

 

「待たせたな」

 

「カンナさんが戻ってこられるということで、家の者に腕によりをかけて作らせました。是非久しぶりの我が家でのお食事をお楽しみください」

 

「では頂くよ」

 

ハリーと会話をしながら食を進めるカンナ。

 

(深く考え過ぎか…なんだ急に眠たくなって…)

 

 

 

(ここは…私は確かハリーと食事をしていたはず)

 

「いやぁー。止めてー」

 

女性の悲鳴を聞きようやく自分の置かれた異変に気がついた。

 

(ここは、牢屋か。何故私は牢屋にそれに何故手鎖で腕を吊るされている)

 

「おっ。気がついたかカンナ元少尉」

 

「誰だ貴様は」

 

「おー。噂通りの気の強さ、いいねーこれから俺の下僕になると思うと、ワクワクするねー」

 

「貴様の下僕だと…笑わせる」

 

「俺の名はフリード・リフレイン特尉。人類軍のある組織の長をやらせてもらっている」

 

「ある組織だと」

 

「『スクラーベ』っていうちょっとした組織だ」

 

「『スクラーベ』…噂では人としての尊厳を奪われた者達で構成される特殊部隊。命令されればどんなに非人道的な事も平然とやって退けるという恐ろしい部隊。本当に実在する組織だったのか」

 

「あんたもその一員になるっていうのに、余裕だね」

 

「何を戯けた事を」

 

「…まあ普通は信じられないよな。ってことで現実を見せてやろう」

 

カンナはある映像を見せられた。

 

そこにはカンナと同じように牢屋に入れられた女性達が写っていた。違いは何も身に着けていないことと彼女達の目が虚ろであること…

 

「…貴様何をしたんだ」

 

「あんたがさっき言ったじゃないか。【人としての尊厳を奪われた者達】って」

 

「まさか貴様」

 

「そのまさかだよカンナ元少尉。ここにいるのは皆元人類軍の兵士だ。曰く付きのね」

 

「曰く付きだと」

 

「そう。軍規を乱した者や人類軍に対する反乱思想を持った者そして…人類軍から死亡者扱いされた者達だ」

 

「なんだと」

 

「そういう兵士達を再び人類軍の忠実な兵士に再教育してるのさ」

 

フリードの指なりと共に、フリードの目の前に女性が1人連れて来られた。首輪以外に何も身に着けていなかった。そして…目の前でそれは始まった。

 

カンナに悪寒が走る。

 

「やめろ…やめろー」

 

それが終わると女性は崩れ墜ちた。その目に輝きは無い。

 

「こうして人類軍…いや正確には俺に絶対服従する兵士を育てているのさ」

 

「この外道が」

 

「その外道の忠実な下僕になるんだよ、あんたはこれから」

 

「ふざけるな。こんなことに私は屈しない」

 

「いいねー。壊しがいがあるよ、あんたがそう簡単に折れないのは想定内だからね、徐々に壊してあげるよ。まずはあんたはは既に人類軍では死亡者扱いだ」

 

「…脅しているのか。あの日から私は人類軍でまだ軍籍が残っているとは思っていない」

 

「いいねー、その反抗的な態度。では次はどうかな…」

 

「その程度で私が屈するとでも」

 

「あんたは売られたんだ。ハリー・ランページ少佐にね」

 

「何をバカな。ハリーがこのような行いに手を貸すわけが…」

 

1人の男が部屋に入る。

 

「ハリー…。本当にお前が」

 

「早く処分したらどうだフリード」

 

「身内に随分と冷酷な態度を取りますなー。ハリー小佐」

 

「身内。こいつはカンナ小尉の皮を被った亡霊だ」

 

「何を言ってるんだハリー。私はカンナ・メネス人類軍北ヨーロッパ方面守備軍第08ファフナー部隊少尉だ」

 

「だから、あんたはもう人類軍では死亡者扱いだって」

 

「こんな行いに手を貸して、ランページ家の者として恥ずかしく無いのか。ハリー」

 

「家ね…。次期当主になるはずだった兄テリー・ランページをたぶらかし戦場で見殺しにした貴様がよく言えたものだ」

 

「違う…あれは、あの件は…」

 

カンナはテリーについて触れられると明らかに動揺し、先程までの威勢を無くしていた。

 

「兄の死以降。ランページ家は没落へ一直線だ、貴様は軍務に勤しんでいたからな。ランページ家の受けた屈辱など知るよしもない」

 

「…」

 

「そんな時さ、スクラーベの存在を知ったのは。こんなにも美味しい話はなかったよ。人を差し出すだけで多額の報酬。そして差し出した人間の活躍によっては地位や名誉まで頂けるんだから」

 

「どういう…」

 

「スクラーベの存在を知る人類軍のごく一部のお偉いさんが黙認してるからなこの組織の存在を。その人達がそいつの行いを評価すれば、組織の長である俺やその人間を差し出した主の評価に繋がる訳だ」

 

「おかげで、ここまで我が家は立ち直ったんだ。私の頑張りでな」

 

「これのどこを評価する」

 

「全ての元凶である貴様が言えた口か」

 

「なっ」

 

「貴様が兄と出会わなければ…違うな貴様がこの世に存在しなければ。私はこんな行いをしなくて済んだんだよ」

 

「私の…私のせいで…あぁー」

 

(ようやく壊れたか)

 

「助かったよ。ハリー小佐」

 

「もういいか。まだ仕事が残っているんだ」

 

「見ていかないのか」

 

「家畜の成れの果てなど見てもなんの価値にもならん」

 

ハリーはその場を足早に立ち去った。

 

(…私も貴女が好きでした。あの頃までは)

 

「さてどう楽しもうかねカンナちゃん…カンナちゃん」

 

カンナは既に憔悴しきっていた。

 

「余程。ハリー小佐とのやり取りが堪えたみたいだな。では遠慮なく」

 

ナイフで身に纏っていた肌着が徐々に破られる。だがカンナには既に抵抗する気力が無かった。

 

(助けてくれ…亮一)

 

「さあ新たな兵士の誕生だ」

 

その瞬間。爆発の音が鳴り響く。音は激しさを増す、急ぎ外部と連絡を取るフリード。

 

「何事だ」

 

「フェストゥムの襲来です…狙いはフリード特尉のいる建物の可能性が」

 

「なに…フェストゥムにここの価値なんてないだろ」

 

「ですが大半がその建物を標的にうわー」

 

「おい。応答しろおい…くそが」

 

建物の外壁が壊され1体のスフィンクス型が近付いてくる。

 

(あ・な・た・は・そ・こ・に・い・ま・す・か)

 

「うるせー」

 

フリードはマシンガンを乱射するがスフィンクス型には通じず、スフィンクス型が放ったワームスフィアで跡形もなく消え去った。

 

(あ・な・た・は・そ・こ・に・い・ま・す・か)

 

再び投げかけられる問

 

「わ、た、しは…」

 

「ありがとう見つけてくれて。いるよ。その人はここに」

 

天井に繋がれた手錠をピストルで撃ち落とす。

 

「お前どうして」

 

そこには見送ったはずの少年が今にも泣きじゃくりそうな表情で立っていた。

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