脱出劇から2日後。亮一達は無事にブレストでボレアリオスに合流した。
「ギリギリ間に合ったな。ったく間に合わないんじゃないかと、心配したよ」
「すみません。溝口さん」
「お前が無事ならなんの問題もねーよ。亮一」
「来主もありがとうな。亮一のわがままに付き合ってくれて」
「ありがとうクルス」
「うん。楽しかったよ、気付かれないようにコソコソ動くの」
「わがままって」
「うん。亮一がどうしてもお前さんを置いて行きたくないって言うからよ、でも一騎達は総士の捜索に出来る限り時間を消費出来ないって意見が割れたから二手に分かれたわけだ」
「そうか」
「…まだ、カンナさんに僕達の島を見てもらってないし。見せるって約束してたから」
亮一は頬を赤らめ俯き呟いた。
「お前のおかげで助かったよ。ありがとう亮一」
「いえ、そんな…。そんなことより新しい手掛かりは見つかりましたか」
「おう。それも重要な手掛かりだ。『レガート』と遭遇した」
「本当ですか。溝口さん」
「遭遇したのは甲洋だがな」
「『レガート』とは」
「Alvisが研究用に管理していたミールから分岐して誕生したフェストゥムの1体だ。海神島にいるエスペラント『日野美羽』の記憶から日野美羽の父親に模倣している。第五次蒼穹作戦でマリスと共にベノンに寝返ったやつだ」
「何故そいつがここに」
「わからん。だがレガートと接触出来れば、総士の居場所を見つける手掛かりが掴めることは間違いないだろう」
「そいつはどこに…」
「もう、ここにはいない」
「甲洋。…撒かれたか」
「うん。海に逃げた。恐らく目指しているのは…」
「蓬莱島…」
頷く甲洋。
「どうやら俺達の目指す場所は間違ってなさそうだな」
「問題が無ければ、すぐに目的地に向かうぞ」
徐々に陸から離れるボレアリオス。カンナは甲板に上がりじっと少しづつ視界から消える陸地を眺めていた。
「カンナさん。どうしたんですか」
「亮一か。あんなことがあったのにまだ寂しさを感じている私がいてな。せめてこの目から見えなくなるまではと思ってしまっている」
「『故郷』ってきっとそういうものなんじゃないですか」
「えっ」
「僕も初めて海神島を離れたとき、なんだか寂しくなって島が見えなくなるまでずっと見ていました」
「…」
「僕のお母さんの故郷は海神島じゃなくて『竜宮島』っていう場所らしいんです。僕が生まれたのもその『竜宮島』みたいなんですけど、そこにいた記憶って生まれたばかりだったらしく全然無くって…。記憶に焼きついているんです。毎日のように海岸を訪れて『竜宮島』があるっていわれている方向をじっと見つめているお母さんの姿が。その時のお母さんはいつも涙を流して、悲しそうでした」
「そうなのか」
「だから、たとえどんなことがそこであってもカンナさんの今の気持ちは間違いじゃないと思います」
「そうか」
「はい」
「…お前も一緒に見ててくれないか亮一。私の隣で」
「えっ、はい。僕で良ければ」
「ありがとう。…なんだか私はお前に感謝してばかりだな」
「そうですかね。ハハハ」
(もし、次にあの地を踏み入れることがあっても。この感情は湧いてくるのだろうか…私の知る故郷はもうあの場所には無い…。私は決めたよテリー。敵であった私をなんの疑いもなく慕い何度も助けてくれるこの子を。私は…護る)
「どうしたんですカンナさん。まだ陸地見えますよ」
(去らばだ。お前と過ごした日々は私にとって掛け替えのないモノだったよ)
微かに見える陸地に背を向けカンナは艦内へと入った。