NEWダンガンロンパV2 絶望のコロシアイホテルツアー 作:肘鉄
所々にモニターや監視カメラが設置された通路をぬけると、行き着いたのはロビーのような場所だった
「……ホテル?」
さっきまでは学園の前にいた筈なのだが。やはり不可解だ。
広い空間に並べられたテーブルと椅子、そして受付。暗くて外は見えないがガラス張りの自動ドア。動く気配はないがよく見ると何かをぶつけたような傷がある。
「やっぱり気になるよねそれ」
「ああ……なんなんだあの傷」
「さっき言った皆のうちの一人がね、壊して外に出られないかってイスを投げつけたんだけど……結果は見ての通りだよ」
発想が乱暴過ぎやしないだろうか、その人物。
「おや、さっきは見なかった顔っすね」
突然受付の横、どこかへ通じる廊下から声をかけられた。
「やぁ
「ダメダメっす。何の収穫もなさそうなんで先に切り上げて帰って来たんすよ」
「そうかぁ……」
痣街は彼を知っているようで、驚く様子もなく会話を始める。彼はその喋り方や見た目からどこか軽薄な印象を与える人物だった。
「で、そちらの人は?」
「そういえば僕もまだ聞いていなかったね」
「俺は……
阿笠 隼。それが俺の名前だ。
俺はこの名前が好きではない。生まれた時から似合わない名前を背負っているということが堪らなく苦痛だからだ。
「『隼』か。カッコいい名前っすね」
「なんだよ、皮肉か?」
「いや、そんなつもりはないっすよ。俺は天海蘭太郎。一応超高校級の冒険家っす」
唐突に出てきた『超高校級』という単語に一瞬たじろぐ。
「超高校級って……もしかしてあんた希望ヶ峰学園の生徒か?」
「あれ?痣街君から聞いてないんすか?」
「ああごめん、伝え忘れてたよ。ここに集まってる人は皆希望ヶ峰学園の生徒なんだ」
それは『つい』で済まされないと思うのだが。
「そうだったんだな」
「君もそうなんすよね?それで、才能は何なんすか?」
「俺は……」
一瞬、言い淀む。
「俺は超高校級の幸運、らしい」
「ああ。あの抽選で決めるやつだね」
「……まぁそうだな」
説明が面倒臭いのでそういうことにしておく。
「じゃあ痣街も何かしらの才能を持ってるんだよな?聞いていいか?」
「僕?実は、何の才能を持っていたか忘れちゃったみたいなんだ。笑っちゃうよね」
「そんなにあっけらかんとしてていいのか……」
痣街は特に気にする様子もなく答えた。嘘を言っている素振りもない。おそらく本当のことなのだろう。
そんな他愛もない会話をしているうちに、どんどん人が集まってきた。俺を含む14人がロビーに会する。話を聞く限り新しく合流したのは俺だけで、探索できる範囲ではこれで全員ということらしい。
「よし、では阿笠とやらの為にもう一度自己紹介しようではないか!我は
法衣を着た剃髪の男が高らかに叫んだ。やや呆れている周りの態度から鑑みるに、常にこのテンションのようだ。
そして鬼龍院を皮切りに他の者たちも次々と口を開いた。
「
「アタシは
「
「
「
「
「
「………………」
「フフ…………」
(なんなんだコイツらは……)
残り三人のうち二人は喋る気配が一向にない。見かねた最後の人物がやれやれといった表情で口を開いた。
「あ~…その二人は色々事情がありまして。そちらの無口な女性は
「成る程だから声を発さない、と」
綾倉がコクリと頷く。意志疎通をするつもりは有るようだ。
「で、こちらの男性が
「ンフフ……フフ」
「こうなるわけだな」
「残念ながら…」
「そして申し遅れました。私は
「……ああ、知ってる」
「そうでしたか。それは失礼しました」
星宮 観音と言えば知らない方が少ない程の大人気女優だ。
4歳から子役として芸能界に入り、その整った容姿からすぐにブレイク。代表作は数知れない。実をいうと俺もファンだったりする。
「芸名じゃくて本名なんだな。俳優って皆芸名使ってるイメージだったから意外だ」
「子役から入る人は多くが本名なんです。……売れてもそのまま俳優になることができるのが少数というのが一番の理由でしょうね」
そう言った彼女の表情は気苦労を感じさせた。
「皆ありがとう。よくわかったよ」
全員分の挨拶が終了したので、礼を述べた。
「それにしてもアタシら何でこんな所に居るんだろう。皆も入学式の為に学園に居たんだよね?」
「入学式の前……わかったぞ!入学前のレクリエーションだな!そうに違いない!」
「ないわ。だったら床なんぞで寝てねぇんじゃね」
これが学園側の催しであることも思案したが、日比野の言うとおりそれはないだろう。
俺はともかく、彼等は超高校級の才能を持ち未来を期待されている存在だ。それをこんな乱雑に扱うとは考えにくい。
「そもそもここおかしいです!時計の類いが一切ありません!これじゃご飯の時間がわからなくなりますよ!」
「今は食事のこと考えてる場合じゃないと思いますよ五十嵐さん…」
「取り敢えずここから出る方法を」
『やぁーーーーーーっと全員揃った!!遅くて待ちくたびれちゃったよ!!』
カン高くて・・それでいて不快な口調の大声が響いた。全員が音の元、つまりモニターに視線を注ぐ。
「…………は?」
そこに映っていたのはふざけたマスコットのようなヌイグルミだった。白と黒半々の模様をした熊・・と表現すべきだろうか?それは間違いなく俺たちに向けて話しかけていた。
『このままオマエラの呆けたバカ面鑑賞するのもいいけど、時間巻いてるからさっさと進めるよ!じゃレストランに集合ってことで!』
ヌイグルミが言い終わるとブツリと映像が途絶える。同時に俺と痣街がやって来た通路とは反対に位置していた大扉から施錠が解かれる音がした。
「………………」
あまりに突然の出来事に皆が沈黙している。学園からホテルへの知らぬ間に移動。そして謎のヌイグルミ。こんな不可解すぎる状況を瞬時に飲み込める訳がないのだ。
そんな中一番に動き出したのは痣街だった。
他の者も顔を見合わせた後でそれに続く。
扉を開けた先は豪華、とまではいかないが中々にセレブな雰囲気の内装が施されたレストランだった。
そして長大なテーブルの上に各々への宛名付きで薬のようなものが置いてある。その白い錠剤を手にとって観察する。毒・・ではなさそうだ。
「害はないと思うけど最初に僕が飲んでみるよ」
「お、おい」
言うが早いか痣街はすぐに赤い錠剤を飲み込んだ。
「ぐっ……」
「だ、大丈夫か!?」
「……ああ、心配ないよ。ちょっと頭痛がしただけさ」
「毒なんか入ってないってば!」
奥の小さなテーブル。そこから先程の不快な声がした。
「お主いったい」
「あーもーそういう反応いいから。ボクのこととかオマエラの置かれてる状況はその薬を飲めば理解できるよ。痣街クンを見れば心配ないってわかるでしょ?」
鬼龍院の問いは心底鬱陶しそうに遮られる。
「ホラ時間巻いてるってさっきから言ってるでしょ!早く早く!」
本当に大丈夫なのか・・?
皆が手には取ってみたものの飲み込もうとはしない。
「言う通りにするしかなさそうっすね」
「さっすが天海クーン!理解が早い!」
・・覚悟を決めるしかなさそうだ。それ以外に選択しはないように思える。俺は恐る恐るその錠剤を口に入れた。瞬間、頭痛と共に幾つものワードが頭を駆け抜けていく。
支配人?コロシアイ?学級裁判?クロ?卒業?
あぁ、わかる。理解できる。・・いや、知っている?
まるで元から持っていた知識のようにそれらの情報は頭に定着した。
「よーし皆飲んだね。じゃあ確認。ボクの名前は~!?」
モノクマがイタズラっぽく質問してくる。
頭痛に頭を抱えながら俺はその言ってはいけないような・・・悪魔の名前を呟いた。
「モノ……クマ……」