明るい日差しの下、二人で遊ぶ男の子と女の子。女の子の方がだいぶ年下のようだが、活発なタイプなのだろうか、男の子の事をグイグイと牽引しているように見える。男の子もそれが嫌という事はないらしく、見守るような眼差しで女の子について行く。
そんな時、ふと女の子が立ち止まり、男の子に向かって言った。
「私ね、大きくなったらお兄と結婚するの!」
それに対してお兄と呼ばれた男の子も戸惑う事なく、
「うん!」
と、返事をしたタイミングで、視界が暗転した。
「ああ、夢か……」
提督が目を覚ますとそこは鎮守府の仮眠室であった。作戦活動の指揮を執っていたところ、それが長時間に渡ってしまった為、帰投したのが深夜になってしまったのだ。疲れていたという事もあって自分の私室に戻るという事もせず、手近な仮眠室でさっさと寝てしまったという訳である。
(随分と懐かしい夢だったな……)
幼少時の自分と、従兄妹でもあった幼馴染。その子は提督の実家の近所に住んでいて、よく提督に懐いていた。アイツ、俺と結婚するんだって言ってたのも夢の中と同じだったな、とボンヤリとしながら提督は過去の記憶に思いを馳せる。
「おはよ」
そんな提督に声をかけて来る者がいる。聞き覚えのある声だな、と思い、相手を見た。
そこにはベッドの上にいる提督の顔を覗き込んでいた重巡・衣笠の姿があった。
「ん? どうかした?」
見つめたままぼーっとしていたらしい。小首を傾げながら聞いて来る衣笠。
「いや、何でもない……」
そう言ってとりあえず体を起こし、ベッドから出る。元々起床時間も近かった。
「ところで、何でお前がここに?」
提督は服を整えながら衣笠に聞く。
「え? だって今日の秘書艦の担当って私じゃない? きちんと世話してあげなきゃって」
「補佐しろとは言ったけどよ、朝から晩まで世話しろなんて言ってねえよ……」
「別にいいじゃん。昔はいつも一緒にいたんだし」
「うるせえ」
今朝、提督の夢の中にも出てきた幼馴染とは衣笠の事である。幼少時に可愛がっていたのは確かであり、そんな自分に懐いてくれていたのも確かであったが、まさか海軍に入った自分の事を追うようにして彼女もここへ来るとは思わなかった。しかも、艦娘として、である。
「それでさ、起きた時に私の顔を見てたのはどういう理由?」
衣笠が悪戯じみた表情で聞いてくる。
「美人がいて驚いちゃったかな?」
それに対してつまらなそうに提督は答える。
「違えよ。部下がこんな時間からここにいるのが変だと思ってただけだ。何で驚いたように見えたんだよ?」
「お兄がボケっとしてるからだよお」
「だからここでその呼び方は禁止!」
「えー?」
「『えー』じゃない! 軍隊ってのはそういう呼び方もきちんとしとかなきゃいけないってのはお前だって分かってるだろ? 少なくとも職場で相手を『お兄』とかそういう呼び方するのは論外なんだよ」
今朝夢に見た幼馴染はそのまま自身の幼少期における、楽しい思い出の中の存在になるはずだった。仮に再会するとしても、それは数年に一度あるか無いかの親戚同士の集まりで軽く顔を合わせる程度になるだろうと、提督はつい最近までそう思っていたのである。しかしながら、その幼馴染がこうやって艦娘となり、ましてや自分の部下となってしまっている事など誰が予想出来ようか。こちらはあくまで上官として接しようとしているのだが、向こうはただの部下でいるつもりはないようだ。かつて自分達が子供だった頃と変わらないノリと距離感で接して来る。
しかも、仮眠室から執務室へと移動してみれば何やら美味しそうな匂いが漂っていた。恐らくは執務室に備え付けられたキッチンで朝食でも作っていたのであろう。
(何でここまでやるんだよ……)
呆れながら提督はそう思う。普段の提督は、起床したら朝食は自室もしくは鎮守府の食堂で摂るというがいつものパターンであった。執務室で秘書艦と二人きりで朝食を摂るといった事は今までに経験が無い。
良く知った間柄の相手が部下として自分の下に配属されてしまった事だけでも不安の種であるのに、その相手の自分に対する態度が往時と変わっていないというのはかなり不味いのではないか。衣笠の着任直後に提督が感じたのはそれであった。身内だから、という理由で扱いに違いが生じては艦隊の運営に支障をきたす。そんな危機感を覚えた提督は衣笠を出撃や訓練に参加させる事はあっても秘書艦に起用する事は避けてきた。ところが、衣笠だけ秘書艦としての経験がほとんど無いのはよろしくないのではないかとの指摘が周囲からなされ、これをはね除けたらそれはそれで話がこじれそうだと思った提督は渋々衣笠の秘書艦への起用を承認したのである。衣笠だっていい加減大人だ。思い切って秘書艦という立場においてしまえば、もしかしたらその責任に則って身を弁えた態度を取ってくれるかもしれないという淡い期待もあった。
ところが、実際には担当初日からこれである。
秘書艦というのは、艦隊の運用を含め、司令官の業務面についてのみ補佐を行うものであるというのが、この鎮守府のみならず海軍全体においての共通認識であろう。そこを逸脱してはなるまいと思った提督は衣笠に対してひとまず忠告をしようと思った。
いくら昔からの知人であるとはいえ、結局の所はそれだけであって、それが国防に対してプラスに働く事を期待するのは難しい。むしろ度を越した行動をとってしまえばお互いの立場にも影響が出るし、最悪鎮守府の組織体制の見直しにも繋がりかねない。近すぎる、というのはお互いにとって決して良くは無いのだという事を提督は衣笠に対して言い含めた。
「いい加減お前も軍の人間なんだから、その辺りはきちんとしてくれ」
すっかり苦い顔になった提督は言う。
「……了解致しました」
ふぅ、と小さなため息をついて衣笠はそう答えた。彼女としても自分の行動のせいで提督を困らせるつもりはないのだろうが、だからといって不満がない訳ではない、といった表情であった。ほんの少しして気分を切り替えたらしい彼女は、
「でもさ、作っておいた朝ごはんは食べるでしょ?」
と聞いてきた為、流石にそのことについては提督も素直に、
「……食べる」
と応じる。せっかく作ってくれていたものだ。使用した食材が勿体無いし、早起きをして朝食を用意しようとしてくれた衣笠の気持ちを無下にするのは気が引ける。
衣笠が用意してくれていた朝食の内容は普段提督が食べていたものと比べると明らかに豪華であった。彼女なりに気合いを入れて作ったものであろう。それはまだ良いとしても、衣笠が食事中も浮ついたような態度であったのには辟易とさせられた。これではまるで同棲を始めたばかりのカップルである。
(お前さっき俺が言ってた事ちゃんと聞いてたか?)
提督は内心苦い思いをしつつ衣笠の事を眺めていた。
食事そのものは美味しかったし、そこに不満はないものの、その時の衣笠の態度は上官として容認しづらいものであった。とりあえず、第三者の目があった訳でもないし、短時間に同じ内容の説教を繰り返しても仕方がないと思い、作ってくれた朝食が旨かった事だけを伝えて、いつもよりは早かったものの、提督は執務につく事にした。
「えー? お話とかしようよー」
そう衣笠は抗議するが、
「そういうのも無し。さっさと終わらせれば早く帰れるだろうが」
と、提督はアッサリと却下した。実際問題として、昨日は遅くまで仕事をしていたのである。流石に今日は早く帰ってしまいたかった。
衣笠は不満そうであったが、今度は文句を言わず、大人しく秘書艦用のデスクに着席して、自分が担当すべき書類に目を通し始めた。
提督とて何も書類仕事ばかりしている訳ではない。昨日は出撃任務の指揮をとっていたし、今日は出撃の予定こそ無いものの、演習自体はほぼ毎日のようにある。それを視察するのも彼の大事な仕事であった。その演習の時間が近づいてきた為に提督は席を立った。
「私も同行した方が良い?」
と、わざわざ提督を追って執務室を出てきた衣笠はそう言うが、提督は無表情のまま、
「いや、お前はいい。俺一人で十分だよ。お前は片付けられる書類を片付けておいてくれ」
と言って衣笠を残し、演習の視察に向かってしまった。
また一つ溜息をついて提督の後ろ姿を見つめていると、背後から声をかけられた。
「衣笠……」
そう呼びかけられて振り返った彼女の視界が捉えたのは数名の艦娘達だ。彼女達は不安そうな目付きで衣笠の事を見ていた。
「うん? どうしたの?」
そう応える衣笠の表情はその朗らかさの中に由来の分からない不敵さがあった。
演習の視察から戻ってきた提督と共に書類の仕事を片付けているうちに、時刻は退勤時間に迫っていた。そこで提督が言う。
「こんな所かな。今日はもうこの辺りで終わらせようと思うんだが」
「うん、私も必要そうなものは終わらせてるから良さそうだけど、とりあえずこれをチェックしてくれる?」
衣笠にそう言われた提督は彼女に割り当てた仕事を一通り確認するが、問題は無さそうだ。
「報告書もきちんと仕上がってるし、今日はもう上がって良いだろ」
それらを中央に提出する書類としてまとめ、提出用の書類のボックスに放り込んだ後、
「じゃあ、今日はもう帰るわ。衣笠は戸締りだけきちんとチェックしておいてくれ」
と言って提督は帰り支度を始めた。
「あ。私も帰る」
衣笠はそう言った。提督と一緒に執務室を出るつもりらしい。
執務室を出た後、提督は自分の隣に寄り添って楽しそうに歩く衣笠を横目で見つつ、
(どういうつもりだ……)
と、呆れていた。しかし、所詮はこうやって並んで歩くのも鎮守府を出るまでである。そうであれば周囲に勘違いをされる事もないし、この程度であれば無理に突き放す事もあるまいと提督は思った。
提督率いる艦隊が配属されている鎮守府の周辺は以前からかなり市街地化が進んでいた地域である。そのせいもあって鎮守府の敷地内には訓練場などの純粋な軍事関連の施設以外を設置する事はスペースの都合上なかなか困難であった。そんな経緯もあり、艦隊に所属する者の大半は周辺に存在する、軍の名義で借り上げたマンションなどの賃貸住宅に住み、そこから出勤するというのがこの鎮守府の特徴である。
艦娘は当然の事ながら、提督もその例に漏れない。彼が住んでいるのは単身者向けでオートロック付きのマンションである。防犯がきちんとしているという点だけ見ればこれはこれで問題はないという事になるのだろうが、艦隊司令という立場を考慮すればもう少し条件のマシな物件に住んでも良いのではないかと、上官や同僚、そして部下の艦娘からも言われていた。が、提督自身は住む場所があれば別にどこでも良いと考えているような所がある上、あくまで別フロアだが、同じ建物に居住している部下の艦娘もいる訳だから、万が一身に危険が迫ったとしても応援を呼びやすい、という理由で着任以来ずっとここに住んでいる。
「だからってなあ……」
額に手を当てて提督は呟く。その視線の先には手を振りながら自室に入ろうとする衣笠の姿。そこは提督が住んでいる部屋の隣室であった。
「な、なんで……」
そう言った後、提督は言葉を続ける事が出来なかった。当然であると言えた。自分の従兄妹であり、幼馴染であり、そして現在は艦娘であり、かつ、自らの部下でもある女の子が、まさか自室の隣室の住人でもあったとは想像もつかなかったからだ。
「『なんで』じゃないと思うなあ。私、この部屋に引っ越してきたの結構前なんだけど?」
微笑みながらもそう言う衣笠に対して、提督は疑問に思っていた事を口にする。
「引っ越して来たのって、いつ?」
「うん? 私が艦娘になってこの鎮守府に着任するのが決まってからすぐだよ?」
この返答を聞いて提督は思わず脱力しそうになる。彼女の着任の時点で提督は鎮守府で指揮を取っている状態であり、という事は、彼女が引っ越して来たのは提督よりも大分後だったという事になる。そして今の今まで、自分が隣室に引っ越して来た事など察知させる事なく今日に至ったという訳である。
「……知り合いの隣に引っ越してきたんなら挨拶くらいしに来いよ」
提督は文句を言うが、
「挨拶なんてしてよかったの? なんかお兄って忙しそうだったからさ」
と平然と返される。
「もしかしてこれって偶然?」
そう提督は聞くが、向こうからはニヤニヤとした表情で
「ノーコメント」
と言われてしまい、手段は不明なものの、もはや狙ってこの状況に持ち込んだとしか思えなくなった。
「不気味だと思った? でもね、これは衣笠さんとしても必要だと思ったからやっている事な訳ですよ」
と、自信ありげに言う衣笠。この衣笠の態度が面白くない提督は言う。
「……意味分かんねえんだけど。どういう事よ?」
「とにかく、お兄ってプライベートは相変わらずいい加減みたいだからさ、私がそっち方面の面倒も見ないといけなきゃだと思うんだよね」
「そういうの『お節介』っつーんだよ世間では」
提督はそうツッコミを入れるが、衣笠はこう聞いてきた。
「ふうん……。例えば艦娘で仲良くなった子を自室に招いたりした時に、今のお兄の部屋へ普通に案内出来るの?」
流石にこれは返答に困ってしまう。
「う、それは……」
「案内出来ないよねえ? 女の子に見せられないような本とか床に転がってそうだもん」
「お前、侵入したりしてないよな?」
「さあ、どうでしょう?」
ここで提督は一旦言葉に詰まってしまったが、別の観点から反論を試みる。
「そもそも俺と艦娘はその手の付き合いはやっちゃダメだろ!? そんな事になったら艦隊の内部で揉める事になりかねないんだし……」
そう言うと、衣笠は即座に切り返す。
「提督としてのお兄がそう考えていても、どうにかしてそういうお付き合いを提督と、って思ってる子は結構いると思うよ?」
「ん? ……例えば、誰?」
提督が不審げにそう言った瞬間、さっと顔を赤くして、衣笠は言う。
「具体的には、私とか」
「…………」
思わず提督はフリーズした。何でこんな場所でこんなタイミングで想定外の相手から告白などされているのか。
「……何か言ってくれないかなあ?」
顔を真っ赤にしたままの衣笠は言う。流石の彼女もここで沈黙が続くのは耐えられなかったようだ。
「……マジすか?」
「マジっす。じゃなきゃここまでしないし」
すっかり困惑したような表情の提督が、
「ええとな、お前が例え俺の事が好きで、こういう行動に出ていたとしてもだ。あくまで俺らってのは……」
と言いかけたところを衣笠が遮る。
「あのね、取り合えずお兄に言っておかなきゃいけない事があるんだよね」
「……何だよ」
その時の衣笠の表情は明らかに提督を睨め付けるものであった。腰に手を当てて彼女は言う。
「上の人間として下との接し方にきちんと線引きをしようって言うお兄の姿勢は確かに立派。でもね、それをそのままこの鎮守府に当てはめようとするってのは大間違いだよ?」
「いや、何も間違ってないと思うんだけど……」
この提督のセリフを聞いた衣笠は呆れ顔だ。
「はあ……お兄って結構石頭なところがあるよね。間違ってないように見えるのは表面だけだよ。確かに任務の遂行とかに直接影響を与えるようなもんじゃないけどさ」
「俺がなんか不味いことやってるように聞こえるんだが……」
なぜ自分が責められているのか分からず困惑したままの提督と、もはやその態度には怒りさえ込められているように見える衣笠。
「思い切りやっちゃってるじゃん! お兄の事好きな子が私以外にもいるってのはもう分かるよね? そういう子ってお兄が素っ気無さすぎて傷ついてる子ばっかなんだよ?」
「例えそうだとしてもさあ、仕事なんだし、ある程度は仕方が……」
「ある程度とかそういうレベルじゃもうないんですけど!?」
ここにきて衣笠はそれまでよりもずっと強い口調で言う。
「良い加減さあ、お兄が変な壁作っちゃってるのはこっちとしてもウンザリな訳! ここに居る子達もお兄のそういう所不満なんだよ? 何とかしろってみんなから突き上げられてる私の身にもなって欲しいんだけど!?」
突如として衣笠の話題が訳の分からない方向へと飛んだ。
「おい、突き上げられてるってどういう事だ?」
流石に状況が理解出来ない提督はこう聞かざるを得ない。それに対して衣笠は説明を始める。
「そもそもお兄って艦娘を彼女にするつもりない訳じゃない?」
「当たり前だ」
「でもね、さっきも言ったけど、彼女にして欲しいって子が結構居るんだよね。それも独り占め出来なくても良いからっていう条件でね。で、今の所お兄のこと一番良く知ってるのは私でしょ? 早くお兄を落としてくれって頼まれててさ」
「はあっ!?」
この鎮守府に所属している艦娘の内、提督を特に慕っている子達にとって厄介であったのは、一定以上に距離を詰めようにも、彼の応対が基本的に淡白であるという点である。例えその艦娘が寂しい思いをしていたとしてもそれはそれでやむを得ないという冷淡さを含んだものであり、近づきたくても近づけないという歯痒さがあった。当然、この提督の艦娘に対する態度の背景には「部下との男女の交際はあってはならない」という彼自身の考えがある訳だが、提督の事を諦めきれない艦娘達からすればこれは障害以外の何物でもない。ここは何とかして提督に意識を変えてもらう必要があるという事で、先鋒の役割を担っているのが元々提督との付き合いが長く、距離感も非常に近い衣笠なのであった。彼女の背後には事の成り行きを見守っている艦娘が複数名いるという事になる。
「私は付き合ってる子が自分以外に何人か居ても別に構わないかなって。だって、もしかしたら一生離れ離れになるかもって半分諦めてたんだし……」
何故か照れたようにそう言って、私って物分かり良いでしょ、と続けた後にフフッと笑う衣笠。
「えーと、つまりはこれまでの話を総合すると……」
「うん、私が落としておいて、そこに他の子がっていう流れだね」
「…………」
流石に次の言葉が出て来なかった。こんなおかしな話の根回しが進められていた事に衝撃を禁じえない。
「いやあ、お兄ってモテモテだねえ?」
と、楽しそうに言う衣笠。それに対して、
「そ、そうは言っても……」
と言い、何とか抵抗を試みる提督に対して更に衣笠は言う。
「あ、仮に衣笠さんの事フっちゃったりしたら、その事はみんなに報告しないとね。それでみんながどうするつもりなのかは知らないけど」
衣笠とは付き合いが長いが、この時の提督にはクスクスと笑う彼女の顔が生まれて初めて悪魔のそれのように見えた。
「あ、う……」
と、とうとう提督は変な声を出してうな垂れてしまった。自分が詰みの状況に置かれている事と、おそらくこの状況を主導したであろう目の前の幼馴染は自分が思っているよりも遙かにしたたかである事を今この場で初めて思い知らされたのである。
「あ、そうだ。お兄の部屋って今からお邪魔しても良いかな? なんか衣笠さん的にはそんな気分なんだけど」
「良いけど、よ……」
すっかり意気消沈したような提督と、それとは対照的にすっかり浮かれたような態度の衣笠が提督の自室に入室していった。
しばらくして、鎮守府内に妙な噂が流れ始めた。とある艦娘が自室を半ばそっちのけにして、隣室である提督の自室に入り浸るようになったのだという。更にその後、その提督の自室で勤務時間外の自分の時間を過ごす艦娘が一人、二人と増えていったそうである。ちなみにこの不思議な現象について提督に事情を聞こうとした者がいたのだが、当の提督は話を振られた途端、「ああそれな……女って怖えよなあ……」と言って遠い目をしてしまった為、それ以上の事は聞けなくなってしまったとの事である。