祓う刀使 闇断ノ紅鬼   作:黑羽焔

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『プロローグ&短編・試作集』投稿した作品内に出てきたオリ兄妹の妹サイドのプロローグ


序章2『とある美濃関の刀使』

日本という島国、この国にはかつて幾多の戦いがあった

 

同時に望みを叶えるために戦う数多の人々もいた

 

中には 望み叶わず散って逝った者がいた

 

己の信念に殉じ散ってしまった者がいた

 

信じる仲間に未来を託し散って逝った者がいた

 

破壊と創造が繰り返しが築く歴史

 

生と死の繰り返しで見えてくる未来

 

数多の破壊があった 数多の死があった

 

 

 

『悪党にはわかるまい…俺たち人間の…最後の…そしてたった一つの武器…絆ってヤツだっ!!』

 

 破壊と創造の時代が続いた戦国と呼ばれる時代 その終わり 希望が降り立ち 仲間との絆を胸に巨悪を討ち果たした

 

 

 

『桜を見たら 俺を思い出してくれないか… 時々でいい…』

 

『泣くのはコレで最後だ…。オマエが守ったこの桜、オレが必ず守って見せるから……じゃあな…アオ兄ィ』

 

 巨悪を倒した英雄は 自らの使命を果たし

 

 仲間たちはそれぞれの未来を創るため各地へと旅立っていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【ある美濃関刀使の1日】

 

 刀使 ――― 正式名『特別祭祀機動隊』であり、”御刀”と呼ばれる特別な刀を用い、自らを寄り代となって、この世を荒らす”荒魂”と呼ばれる怪物を斬って払う、神薙ぎの巫女である少女たちを指す俗称である。彼女たちは警察組織に属し、国家公務員として警察の職務を勤しむ、文字通り国家に認められた役職である。

 

「……ん……」

 

 その少女たちを育成するために、全国に5校設立された中高一貫の特別刀剣類従事者訓練学校のひとつである『美濃関(みのせき)学院』。その学院の中庭にある大樹に寄りかかるように眠っていた少女がいた。

 

「ふあぁ……。つい、うたた寝してしまった。……また、あの夢か」

 

 あくびを上げながらも、少しづつ意識が鮮明になっていく。太陽が彼女を照らすかのように真上に来ていたため、その光に思わず手をかざし遮る。

 

 少女は同年代の割に長身で160を超える背丈、髪は黒がかったロングヘアであるが、それを頭の後ろで結っている。一見堅物のようであり、怖い不良のようにも思える外見をしている。しかし、見た目とは裏腹に雲のように静かに流れる寡黙さがあるようだが、不愛想とは感じず、海のような優しさを内包している。

 

 夢に関しては子供のころから見ている。最初こそ、なんで見るんだろうと考えた時期もあったが、今は特に深く気にすることのないレベルとなってしまった。

 

《――― キーンコーンカーンコーン

 

 中等部3年『柳生 命(やぎゅう みこと)』さん。『羽島 江麻(はしま えま)』学長がお呼びです。至急学園長室までお越しください》

 

「なんだろうか?」

 

 残った眠気が自らを呼ぶ放送によって晴れてしまった。命と呼ばれた女生徒は隣に立て掛けておいた『柄に数珠が巻き付けられた太刀』に手をかけ立ち上がる。刀使に支給されているベルトに装着し納刀するとその場を後にする。

 

 

 

 そして命は美濃関学院の学園長室に到着し、ノックを三回鳴らす。

 

「失礼いたします」

 

「来たわね。さ、かけて」

 

 羽島学長に促されて椅子に腰を掛ける。そして、羽島学長が本題を切り出した。

 

「柳生さん、以前言っていた例の件覚えてる?」

 

「……”赤羽刀”調査隊の件ですね」

 

「今朝方、長船の真庭学長から連絡があったわ。調査計画が一通りの目星がついて、近く伍箇伝混同の部隊編成が行う事を折神家に進言するそうよ」

 

「そうですか。つまりは……」

 

「正式に編成を組まれることになったら、美濃関学長としてあなたを推薦しようと思う。後はあなたの意思次第なんだけど……」

 

「正式な要請が着次第、その任を受けるつもりです」

 

「……ありがとう。だけど、それまで今まで通り護衛の任よ。今度の御前試合もお願いね」

 

 ”赤羽刀”も現代社会を襲う怪異である”荒魂”に繋がりかねないという見識が出ており、真庭学長たちからそれに対応するべきと話が以前から出ていた。命は羽島学長からその話を聞かされ、考えた末にこの任務を受けるつもりであった。無論、羽島学長から命じられたからにはその信に応えなければならない。

 

 今度に来るであろう特命を受諾する旨を伝えると、羽島学長もその意をくみ頭を下げる。

 

「それじゃ、用件は以上になるわ」

 

 羽島学長の一声により話し合いを終え、命は一礼をすると部屋から出て行った。

 

 

 

《そっか。調査隊……決まったのね》

 

 その夜、寮の自室にて半袖Tシャツ、膝の少し下位の丈の短パンの寝着に着替えた命はベットに腰を掛け電話をしていた。相手は故郷にいる彼女の母親である。

 

「うん、真庭学長の主導になるんだって」

 

《……全く紗南ったら、唯でさえ色々やって折神家に睨まれている立場なのに相変わらず強気ね》

 

「あはは……」

 

 命は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。彼女の母は伍箇伝の名だたる学長をタメ口で呼んでいたのである。

 

 彼女の母は元刀使であの『相模湾岸大災厄』にて特務隊に所属し一緒に戦ったと命は聞いている。その伝手もあって伍箇伝の学長とは顔見知りである。

 

 命は中学に入る前はずっと故郷の学校に通っており、世の中に出てきたのは中学になってからだ。刀使を志すことになっていたが、同時に世間知らずな部分が大きいため、母はその伝手で最も仲の良かった羽島江麻が勤める美濃関学院に命を預けたのである。

 

《江麻は少しばかり心配ね。あの子本当に優しいから、直前まで悩んでいたと思うわ》

 

「……うん。任務になったらみんなで無事に帰れるよう努めたいと思う。吉報をもってね」

 

《あなたらしいわね。吉報をもって帰れるのは素晴らしいことだけど、私としては無事に帰ってきてほしい。刀使だから怪我をするのは致し方ないと思う。だけど……無茶はしないでね》

 

「……心得ました。母上」

 

《何かあったら私も力になるわ。もちろん、お父さんや一族のみんなもね。……あら、もうこんな時間ね》

 

「はい。……あ、父上にも言っておいてください。命は元気にやっていると。機会が出来たら里帰りしようと思っていることも」

 

《……お兄ィにも伝えておくわね♪ おやすみ、命》

 

「う…うん。おやすみなさい(母上、それは私が言う予定だったのに)」

 

 母との通話を終える。最初の頃は刀使を志すことに厳しかったが、それは戦いの場に身を置く命の事を心配しているのはよくわかっている。だからこそ、母の言葉は身に染みる事もあるし、そこから溢れる優しさも感じる。

 

(……ま、兄さんがフランスに行って1年経つのは確かだし)

 

電話を切る命。母が言葉に出したことで兄の事を思い出す。1年前、長期の任務のために海外へ行ってしまったのだ。

 

 この年で兄の事を思っているのが知れたら、特にお調子者の後輩二人に茶々を入れられるだとう。それは避けたいなと思いつつ。

 

「……メールだけして寝る」

 

 そそくさと兄にメールを送信し、消灯し命は眠りへとついた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【後輩と長船からの来訪者】

 

(荒魂討滅の任務で滞っていた課題を提出できたが、いささか早くに出てきてしまった)

 

 翌日、命は美濃関学院に朝早くに登校していた。彼女も刀使という公務員であるが、非番の日は中学生。義務教育という制度が確立されている以上、学業を受けるのを疎かにできない。

 

(授業開始までかえって持て余しそうな絶妙な時間だ。う~ん、誰かがいればな)

 

「あ、お~い! 命センパ~イ!」

 

 持て余した時間をどう潰そうか考えていたが、不意に命を呼ぶ声が聞こえた。声の主は普段から目にかけている3人の後輩の片割れだとすぐに分かった。

 

「美炎じゃないか」

 

 振り返ると黒髪のショートだが毛先が燃え上がる炎のように仄かに赤く。前向きで真っすぐを地にゆく、命と同じ美濃関の制服を纏った『安桜 美炎(あさくら みほの)』と呼ばれる少女が手を振っていた。

 

「偶然ですね」

 

「あぁ、課題の提出でな。ところで、その人は?」

 

 美炎の隣には蒼色のショートと思わせて後ろで一本結いされたロングヘア、おっとりとした包容力のあると思わせるような容姿。茶と橙色が特徴の制服から長船女学園と思わしき女生徒がいるのに気が付く。

 

「あ、こちらちぃ姉ぇ、私の幼馴染のお姉ちゃんだよ。5年ぶりに会ったんだ」

 

「もう、美炎ちゃんったら。『瀬戸内 智恵(せとうち ちえ)』と申します」

 

「これはご丁寧に、中等部3年『柳生命』です」

 

 智恵の丁寧な応対に命も同じように態度を改めて紹介する。

 

「美炎、瀬戸内先輩を連れて何をしていたんだ」

 

「ちぃ姉ぇに美濃関学院を案内しようと…授業開始までだけどね。先輩、お暇してるなら一緒にどうですか?」

 

「……幼馴染と久しぶりに過ごしているのに私がいてもいいものか……」

 

「私はそういうのは気にしないわよ。美炎ちゃんの先輩のお話にも興味がありますので」

 

 命は2人の仲に割って入るのは悪いと思い遠慮して断ろうとした。が、この2人はそういうのは気にしないタイプのようだ。

 

「わかった。そういうことなら、私も付き合おう」

 

「やた!」

 

 こうして、美炎主催の美濃関案内に加わることになってしまった。

 

「って案内する、とは言ったけど、基本的にはちぃ姉ぇの通っている長船女学園とあんまり変わらないと思うんだよね」

 

「……おい、そこまで考えてなかったのか」

 

 美炎はポジティブに前向きに考える分、後先考えないことが多い。その事に長らく悩まされている命もさすがに頭を抱える。

 

「うーん、そうでもないかも。こっちは作刀過程や刀装過程がものすごく充実してるみたいじゃない?」

 

「ほう」

「へぇ~そうなの?」

 

「……岐阜と言えば刀鍛冶を生業としている関市がある。700有余年の伝統を持ち、刃物と向かい合ってきたからこそ、刀鍛冶を目指すにはぴったりの場所ではないか」

 

「そっか。そういう伝統と技術が伝わってるから。鞘師だけでなく、柄巻師などの刀装過程が細分化されているのね。多分、美濃関だけじゃないかしら?」

 

「刀装過程なら美濃関だが、長船は刀使をサポートするための設備や装備で実績を挙げていると聞く。とてもユニークだ」

 

 智恵が刀鍛冶の過程の違いを挙げた事により話題は移る。命と智恵が美濃関の刀装過程、長船での技術開発などの専門用語が飛び交う話に熱を出している中、美炎はどこか話がついてこれてないようでフリーズしているように見えていた。

 

「なあ、美炎よ。これは授業でも習う内容も含んである。もちろん、理解している…よな?」

 

「え? う、うん。あはは……そうだね」

 

「美炎ちゃん、本当は?」

 

「ごめんなさい、全くもって……知りませんでしたーーー!!! あ! まとめちゃえば、先端技術の長船、伝統の美濃関ってことだよね?」

 

「……お前は単純明快のほうが(しょう)にあってるかもしれん」

 

 もう一人のお調子者もアプローチは違うとはいえ、大体は美炎と同じ境地にいたってるなと思ったが、さすがに本人たちに失礼だということで命の心に止めておくことにした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

【命の剣】

 

「ね、こんなのゲームみたいなものだし、意外となんとかなるものでしょ」

 

「あくまでまぐれではない…っと。じゃあ、まあ、そういうことにしておくよ」

「そうですね。そういうことにしておいてください」

 

 数刻後、ドヤっといった感じにVサインを決める美炎の姿があった。

 

 あれから美炎たち一行は話の輪に入ってきた研師『服部 達夫(はっとり たつお)』の勧めと彼曰く技術共有の一環という建前でシミュレーション体験をしていた。

 

(良かった。出番とセリフがあったわ)

 

 服部の心の声はともかくとして……美濃関学院のシミュレータは個人レベルに落とし込んだため、ヴァーチャルリアリティではなく、ただコンピューター上で再現をしているだけの代物だが、経験の浅い新人の訓練には十分である。

 

「む、実力だよ実力! 命先輩もそう思いますよね」

 

「ま、これぐらいは集中が続かないと駄目だろ」

 

「辛口評価だった!」

 

 美炎が調子に乗らないように敢えての辛口評価を付ける。危なげなくクリアはできたが、美炎は刀使としての実力は優秀だが、すぐに集中力が途切れてしまう欠点を持っており、それが原因で準決勝にて可奈美に負けてしまったのである。

 

(それでも入学したよりかは集中は続くようになったな。代表となった可奈美や舞依もそうだが、この子もまだ伸びる素養はある)

 

「む~、じゃあ次は先輩がやってみてくださいよ」

 

「私がか?」

 

「俺も、安桜に賛成だわ。柳生、新たなシミュレートプラン組んでみたから、少しやってみてくれないか?」

 

「……ほぅ、服部先輩、それは挑戦と受け取ってもよろしいですか?」

 

「無論、そのつもりなんだけどな」

 

「ちょ、柳生さん!?」

 

 美炎と服部の煽りにどうやら闘争心に火が点いてしまったようで、あたふたする智恵を余所に命は美炎と入れ違いにシミュレーション場へと入る。

 

 

 

《柳生、準備はいいか?》

 

 腰に納刀した太刀をベルトから外す、御刀を握ると命の身体が仄かに発光する。御刀を媒介として肉体を一時的にエネルギー体へと変質させる刀使の基本戦術でもあり、最大の防御術が"写シ"だ。

 

「いつでも」

 

《仮想敵は……『折神親衛隊』。苦労したが、精鋭を再現してみたつもりだ》

 

「えぇ!?」

「なんつうもん再現してんですか!?」

 

 智恵と美炎が慌てふためくも、戦闘状態へと移行した命はゆったりと脱力し左足を少し前に出し構える。

 

(あれ、御刀を抜かない?)

 

 命の手に持つ御刀は”鞘の形状からおおよその刃長は80センチ程で、柄に数珠が巻かれた"のが特徴の太刀である。が、御刀を抜かず次々と出現するのをひたすら仮想敵を待っている命に智恵は疑問をもった。

 

「ま、柳生センパイならやってくれるかな」

 

「柳生さん……あれが構えなの」

 

「うん、そだよ。ま、ビックリぶったまげると思うよ」

 

 ひそひそと智恵と美炎が話していると、シミュレーション室にいる生徒たちも今か今かと始まる模擬戦闘に釘付けになっていた。

 

 やがて、仮想敵の前衛3体が刀を抜くと命に仕掛けてきた。

 

「……せいやっ!」

 

 敵を見据えていた命がようやく御刀を抜いた。鞘から抜き放たれた白刃は、間合いに入った敵をまさに一刀で斬り捨てた。

 

 納刀する命をの前で、切り捨てられた敵は3体とも消滅。コンピュータがはじき出したのは"撃墜判定"。彼女の抜き身からの一閃は"写シ"を一撃で解除させたということである。

 

「……『柳生制剛流抜刀術』……

 

柳生命、御刀『数珠丸恒次』…参る!」

 

 それを合図に命は陣形を組む仮想敵に対し正面から肉薄した。

 

 

 

 

 

side:瀬戸内智恵

 

(”居合”! 太刀なのにあの剣の疾さ! それに『柳生制剛流抜刀術』って)

 

 襲い来る敵には一刃で、時には納刀せずに逆手に持ち替え、次々と敵を切り伏せていく命。智恵は命の剣術の凄まじさに言葉が出なかった。

 

「あぁ、ちぃ姉ぇの気持ちはわかるよ。私も最初見たときはそうだったもん」

 

「え……あ。そう、なのね」

 

 智恵の観察眼ともってしても、命の剣術は明らかに同年代を逸脱していた。

 

「柳生さんが代表だったら、御前試合優勝できるんじゃないかな」

 

「それなんだけど、柳生センパイ。御前試合代表、いつも断ってるって言ってた。アレを観たら…強すぎて不公平じゃないかなって思ってんのかな」

 

「え、そうなの。なぜなのかしらね」

 

「今年の代表は準決勝で私に勝った『衛藤可奈美(えとう かなみ)』と、同じクラスの『柳瀬舞衣(やなせ まい)』なんだけど。予選決勝後にエキシビジョンでセンパイが出てきて試合したんだ……2対1なのにセンパイ勝っちゃってた」

 

「えぇ!!!」

 

 美炎から御前試合予選の話を聞き、強すぎて辞退したという話も納得できた。

 

「じゃあ、柳生さん。流派を『柳生制剛流抜刀術』って名乗ってたけど」

 

「センパイ、その家元の一族だって……あ、やば…」

 

 口を滑らせたような素振りを見せ美炎は気まずそうに口を押えた。その告白に智恵は美炎の両肩に手を置いた。

 

「ねぇ美炎ちゃん、ちょっといいかな」

 

「え、あ……ハイ」

 

「つまり私たちが当たり前のように話していたあなたの先輩って、ありきたりな柳生って苗字だと思ったけど。もしかして、彼女はそれなりに名のある家の方なのかしら?」

 

「……先祖が”十兵衛”って言ってたような」

 

「ちょっと新陰流の祖じゃないの!!!???」

 

「うわっ、ちぃ姉ぇ。落ち着いて! 揺らさないで~!」

 

 がくがくと美炎を揺らす智恵。あまりにも衝撃的な事実の連続にお姉さんという貫禄をどこかに置いてしまった様子であった。

 

 

 

 

side:柳生命

 

《おいおい、せっかく人が苦労したシミュレーションプランを……》

 

「仮想にしては中々よく出来ているぞ……っと」

 

 美炎と智恵とのやり取りとは露知れず戦闘シミュレーションの仮想敵は残り1小隊となっていた。

 

 折神親衛隊を想定した仮想敵の出来は想像以上によく、個人単位での力量の再現・それらが連携して攻めてくるため、普通の刀使なら防戦一方となるのは間違いない。

 

 命もそのせいで攻めきれない部分もあったが、1体多にならないよう意識し立ち回り、敵の攻撃を見切って躱しては斬り捨てる事でそのほとんどを仕留めてきた。

 

 が、残った小隊の練度は非常に高く、命はここで初めて刀身で防いだ。

 

(むぅ、シミュレーション上の敵だから防いだという感じはないか。必要最小限にとどめなければならんな)

 

 眼前にいる仮想敵2体は剛と柔の真逆のタイプの剣士と思われるが、まさに阿吽の呼吸で攻めてくる。

 

(それにこの仮想敵、今までとは動きが違う。明らかに上位の実力者の再現だな)

 

 この2体は過去に御前試合にて2年連続優勝・準優勝の刀使を基に服部が設定した仮想敵である。それを知る由はない命であるが、埒が明かないので一旦後ろに跳躍し距離をとる。

 

(見事な再現だが、人としての柔軟性はないな。決められた命令で動いているのなら、その隙は絶対にある。……いや、もう見えた!)

 

 正面には命が認めた強敵2体、その周りを残った仮想敵が取り囲む。命はそれらを一瞥すると御刀を鞘に収めて、目を閉じて腰を深く落とし構える。

 

(・・・・・・、来た!)

 

 どちらとも動かずしばらくの間にらみ合いとなったが、強敵2体が仕掛けてきたのを合図に残りの仮想敵が一斉に飛びかかってきた。刺し違えてでも命を仕留めるつもりであろう。

 

「ここが、勝機!!!」

 

 命の相貌が開かれた瞬間、御刀を抜いた。

 

《な!!!》

 

 発令所にいる3人の驚愕の声がスピーカー越しに聞こえた。命は御刀を抜いた瞬間、敵の囲いを通り抜け、いつの間にか強敵2体の背後へと回っていた。右手には御刀が握られている

 

 その刹那、強敵2体の身体がずるりとずれた。

 

《全然見えなかった……ううん、これは》

《……”迅移(じんい)”ね》

 

 "迅移"とは、御刀を媒介として通常の時間から逸して加速する。刀使の攻撃術の1つである。現実とは逸している層に潜るため、常人から見れば、命が瞬間移動し仮想敵を倒したようにしか見えない。

 

「……奥義『一閃 星薙ぎ』」

 

 命の使用したのは"1段階目の迅移"という刀使としては基本中の基本である。

 

 命は迅移を発動しつつ、彼女の最も得意で必殺の一撃とも言える居合での一閃、戦闘開始に披露した抜き打ちを遥かに超えた相手に反応させる間すら与えない『必殺の一撃』に強敵2体はなすすべもなく斬られたのだ。

 

 命は返す刀で背後にいた残りの仮想敵も斬る。プログラム外の事態が起こったのか、仮想敵はカカシのように動かずに消滅する。

 

「これで……終わり!」

 

 静かに納刀すると、命は肩の力を抜き息を吐きだした。

 

 

 

「俺の渾身作をあっさりクリアされると、流石にへこむよ」

「だけどあの2体は非常に完成されていた。他の仮想敵にも反映させればもっと良くなるかもしれない。……それと」

 

「あうぅぅ…、目が回るぅ~」

 

「なんなんだこの有様は」

「俺もシミュレート終わらせてから振り向いたらこうなってたから知らん」

 

 渾身のシミュレートプランをあっさりと攻略され愕然と肩を落とす服部を命は申し訳程度に慰め、改善点を報告しようとしたが、その背後で美炎が目を回し狼狽えていたのが目に移る。

 

「柳生さんが気にすることはないわよ。……ちょっとばかりお姉さんがOHANASHIしただけだから」

 

「お…おぅ」

 

 いい笑顔で答える智恵に命と服部は顔を引きつらせてしまう。

 

「ほら、美炎ちゃん。何をしちゃったか正直に言いなさい」

「センパーイ、ごめんなさ~い! 口が滑ってちぃ姉ぇに言っちゃった!」

 

「な!? ……やれやれ、そういうことなのか。美炎、あとで説教だな」

 

「そんなーーー!!!」

 

 智恵たちの様子から言い逃れできないと思い打ち明けるすることにした。

 

「美炎ちゃんが言っていたのは本当なんですね」

 

「あぁ、その様子だと隠し通せそうにないからな。私はかの柳生十兵衛の子孫なんだ。父がその血筋の者で剣術に縁がある。私も幼いころから剣術を学んでその技を磨いていたんだ。

 

……だけど、畏まらずにそういうのは気にせずに接してほしい。畏まられるのは少し苦手なんだ」

 

「わかったわ。美炎ちゃんの頼もしい先輩だし、親しくしてくれるお友達ですしね。これからもよろしくね」

 

「ありがとう。こちらこそよろしく」

 

 家柄がある以上、それが枷となってしまうのは避けたいと命は考えている。智恵の順応性にただ感謝するしかなかった。

 

「良かったじゃないか柳生。それはそうと瀬戸内さん、うちの学校ではもうひとつ、"赤羽刀"の再生にも力を入れているんですよ」

 

「ああ! 荒魂が落とすアレだよね、赤羽刀って。あの、錆びてる御刀」

 

「間違いじゃないけど……大雑把ねぇ」

 

(赤羽刀……か)

 

 美濃関学院や『綾小路武芸学舎(あやのこうじぶげいがくしゃ)』が行っている"赤羽刀"の話題へと入る。どこか熱の入っている服部の説明を聞く美炎と智恵を余所に、命は昨日の学長との対談もあり捜索隊の件について思いをはせていた。

 

 現在の技術では御刀に使われている"珠鋼"と呼ばれる特殊な金属が生成できないため、錆びついた"赤羽刀"を研ぎ出し再生するしかない。研師を志す服部は『刀使が荒魂を相手に戦うのと同じく命をかけるに値する仕事』と言わしめる程の重大な事業である。

 

(それを見つけ出すという重大な任務を携わる……彼も鍛冶場という戦場で戦う立場だ。私も頑張らねばな)

 

 裏方の頑張りを目の前にして命は決意を新たにした。

 

 その後、1時限目の開始ということで案内ツアーはお開きとなった。美炎は1時限目をさぼりたいなとぼやいたが、智恵と命から駄目と一蹴され、命は美炎を引きづるようにして学び舎へ、里帰りのため休学という立場の智恵は寮の美炎の部屋にて授業終わりまで待つことにした。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが私『柳生命』という刀使の1日だ。荒魂と呼ばれる災厄が現れれば斬って鎮める神薙ぎの巫女……であるが、普段は学校で青春を謳歌する女子中学生。

 

 だけど、この数日後。鎌倉にて開かれる刀使を統べる折神家での御前試合。

 

 この地にてあのような事件が起こるとは、私はおろか誰も思いはしなかったであろう。




●柳生 命(やぎゅう みこと)
イメージCV:山本希望
14歳 誕生日:7月25日 血液型:A型 身長:165cm 流派:柳生制剛流抜刀術
御刀:数珠丸恒次 所属:美濃関学院中等部3年

本作の主人公2(とじみこサイド)。主人公とは実妹の関係。兄と同じで同年齢の割に長身で、一見怖い不良のような外見をしている。が、見た目とは裏腹に物静かでその心はとても優しい。無口だが、一度口にしたことは必ず守り、兄と同じで面倒見が良い。鬼武者と刀使、どちらの力をもった希少な存在。

刀使では珍しい居合術(太刀)を用いた流派を治めており、その基礎はかつての刀使であり、同じ居合術で刀使の御役目を果たしていた母から受け継がれたものである。
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