2019/10/26 誤字などを修正
第1話『切っ先が交わる地『鎌倉』』
――― prrrr
鎌倉市内のビジネスホテルの一室にてスマートフォンの着信音が響く。
「ん、誰だ」
この部屋の住人である青年がバスルームから出てきた。濡れた髪をバスタオルでがしがしと拭き上げスマートフォンを手に取る。
「……父上か。もしもし」
《悪い。会議中にメールが来てな。無事、日本に帰国したようだな》
相手は青年の父親のようだ。日本に帰国した青年は家族全員にメールを送ったが父親だけ返信がなかったが、今になって直接電話を入れてきたようだ。
《まずはフランスでの1年間の出張ご苦労であった。それで確認したいことがあると聞いたが》
「メールに書いたけど帰国直前にブラン局長から『日本に帰ったら開け』と渡された書類についてな」
《そうか。やはりその件か》
室内の木製のシックなテーブルには青年が開けたとされる茶封筒とその中身が広げられていた。茶封筒に入っていたのは黒塗りの小さな手帳、"辞令"と掛かれた小難しい書類だ。
「"辞令"に目を通した……やっと、表立って動けるような機構が承認されたんだな。……でもよ、書面の通りなら俺がフランスにいるにも関わらず設立された当初に配属されている形なんだが」
『荒魂に日常的に曝されているという日の本の情勢、これまでの我々の秘匿性、あらゆる点を考慮して決定した』
青年は日本から離れている間に手筈が整えられていた事にただ呆れるしかなかった。
(ま、これで表だって"特別祭祀機動隊"の刀使たちに支援できるわけだな。公的な立場になった以上、ありがたく拝命するとしますか。ま、あいつにはその分苦労を掛けてしまった分も返さないとな)
――――――――――
side:柳生命
御前試合当日。美濃関代表である『衛藤可奈美(えとう かなみ)』『柳瀬舞衣(やなせ まい)』の応援のため、命や美炎たち美濃関学院の生徒やその引率の教師たちは御前試合の会場となる折神家本家、その敷地にある鎌倉市へと訪れていた。
「鎌倉! すごく都会!」
「いやぁ、それは、比べるのが私たちの地元だからじゃないかな? 都会っていうならせめて名古屋くらいの街じゃないと……」
美炎は同じ美濃関学院の生徒と談笑をしていた。観光地としても有名な鎌倉に訪れた事で浮ついた気持ちとなっても無理はない。
「……すっかり修学旅行気分じゃないか」
「ですね。鎌倉は鎌府女学院の管轄だし、任務以外で来ることもありませんからね」
「はしゃぎ過ぎてはぐれないように気を使わないとな」
命も修学旅行に来たかのようにはしゃぐ美炎たちにやれやれといった面持ちとなる。
「ところで命も美炎と同じで一応は補欠の扱いなんだよね」
「そうだが。みんなと同じで観客席からの観戦組の扱いだ。万一、可奈美か舞依が棄権したらは美炎が優先だし、私の出番だとしたら3人とも出れない事態なったときくらいだ。まぁ、そのような事は起きなさそうだけど」
「あり得なさそうですね」
元気を地で行く美炎ならそれはないと高等部の先輩と話す命。おしゃべりをしながらでも周囲に気を遣い、美炎たちと一定の距離をとりながら会場へと向かう。
「あん? なにガンくれてやがるんだそいつ?」
「どうしたの? ……って!」
話に夢中となり気を反らした矢先、高等部の先輩が美炎たちパーカー姿の少女に詰め寄られているのを見かけた。白と紺を基調とした制服から『鎌府女学院(れんぷじょがくいん)』と思わしき刀使のようで短刀を二振り腰元に下げている。そこから一歩後ろにアルビノのような色素の薄い白髪の小柄な少女が無表情できょとんと佇んでいた。
「全く、何をやってるんだ!」
美炎が慌てた様子で弁明しており、一色触発となりそうな様子に命も介入する。
「すまない。ちょっといいか?」
「命センパイ」
「あぁ!? お前、こいつの付き添いか?」
「そうだ。うちの生徒がそちらに迷惑をかけたようだ。気に障ったようならこちら側から正式に謝罪をしたい。……申し訳なかった」
上級生らしく毅然とした態度で身分を明かし謝罪。続いて美炎たちも同じように頭を下げ謝罪の意を示す。そろりとその場を後にしようとした美炎の同級生は高等部の先輩が瞬時に捕まえ頭を下げさせた。
「ちっ、そういうのは気を付けろよな」
「……私は気にしてない」
正々とした対応にパーカー少女は面を食らったような表情となり、白髪の少女は特に気にしたような感じではないようだ。
「その制服、鎌府女学院のだよね。…もしかして代表の方でしたか?」
「違う。鎌府代表はこいつ。アタシは会場までの付き添い。そっちこそ、佩刀してるから代表なのか」
「美濃関の代表は昨日に鎌倉の折神家に入っている。私たちは補欠とその見学者の側だ」
勘違いなどが入り混じった結果であったため、互いの蟠りが解きほぐれトラブルは解決したと命はほっと安心しようとしたが、
「ッ!」
「なんだ!?」
ド―――ン!という大きな衝撃に一同が何事かとこわばった表情となる。
「荒魂だー!」
「警察に連絡……」
「馬鹿! まず逃げろぉ!」
人々の恐怖と怒号の騒ぎと共に騒ぎの中心から逃げだそうと走り出していた。その奥に混沌の原因をなる存在を確認した。
『ごあああぁぁぁぁ!!』
それは古来から人々から"怪異" "妖怪" "物の怪" "悪霊"などと称される。神性たる珠鋼を奪われた恨みが形を成した存在、それが『荒魂』である。鎌倉市内に突如として出現した荒魂により人々は逃げ纏うしかなかった。
「ちっ! いったいどうなってやがる!? 鎌倉は折神家の膝元だってのに、荒魂出すぎだろ!」
「……悪態はあと。私たちで食い止める」
荒魂を斬り清める事、御刀に選ばれその力を発揮できるのが刀使として選ばれた少女の役目である。有事のために訓練した少女たちは瞬時に戦闘状態へと切り替える。特に鎌府女学院の2人の対応は早く、抜刀すると現場へと一目散に駆けていった。
「ふたりは早く逃げて! 私と命センパイは鎌府の人たちと一緒に戦う!」
「な、なら私たちも」
「きゃあぁぁぁぁ!!」
「うわっ! こっちにも荒魂が!」
美炎の同級生が言いかけた矢先、人々が逃げようとするのを塞ぐ形で荒魂が現れた。大勢の人々はすくみ、パニックを起こしかけ一部が元の道へと引き返そうとしたため人の波が止まってしまう。それを荒魂が逃すまいと人々に襲い掛かろうとした。
「はぁっ!?」
が、命が荒魂と人々の間に割って入ると襲い掛かろうとした荒魂をすべて一閃で斬って捨てた。結合が解けた荒魂はノロへと還る。一瞥しその場にいる荒魂がいないのを確認すると美炎の方へ振り替える。
「美炎、二手に分かれよう。お前は鎌府の刀使たちと騒動の中心に先に向かってくれ」
「センパイ!? 一人で大丈夫なんですか?」
「この規模なら問題ない。街中に鎌府の生徒が巡回していたから安全確保と避難誘導を並行して始めていると思う。みんなを避難し終えたら私も騒ぎの中心へと向かう」
半ば任せろといった感じに告げると美炎は納得したようですぐに鎌府女学院の2人を追った。それを見届けた命は人々へと告げる。
「私は美濃関学院の刀使です! これから、あなたたちを安全なところまでお送りいたします! 2人は避難誘導を頼む!」
「「は、はい!」」
命の即席の指揮ではあるが、美濃関の生徒2人と協力し人々のパニックを宥めて抑えつつ避難誘導を開始した。途上に現れる荒魂と討滅し、新たに逃げ惑う人々を加えながらも避難民の一団は列を崩さずに進み始めた。
一団は街の外側へと進み続けた。町の外へと進むたびに荒魂と出くわすことが少なくなってきた。もしかしたら、自分たちがいたあの場が荒魂現出の中心ではと命は大よその予想をつける。
やがて、警備を担当している鎌府女学院の刀使たちを見つけると、地理に詳しい地元の刀使たちに避難民の身柄を預け、命は荒魂の大本を断つと担当した刀使たちに伝え、美炎の同級生から「美炎ちゃんの事お願いね」との声援を受け、美炎との合流を目指した。
(美炎、私が行くまで持ちこたえてくれ)
美炎は優秀ではあるが集中力が続かず長時間戦えない欠点があり、それが可奈美との準決勝での敗因となっている。荒魂現出から相当時間が経っており、前線で集中が切れてしまったら"写シ"が解けて命に係わる。
「邪魔を……するなぁーーー!!!」
遭遇した荒魂を断ち、時折"迅移"を活用しながら現場へと急ぐ、荒魂の数は命の予想を遥かに超え、既に相当数切り伏せていた。美炎と別れた通りをすぎ、さらに戦場の中心へ向かうと―――
「キエエエエエエェェ!!!」
独特な叫びとともに何かが叩き込まれたような爆発したかのような轟音と衝撃で辺りが震えたように感じた。
「今の……この独特な掛け声は」
辺りを見渡すとそこに珍妙な光景が広がっていた。桃色の髪のツインテールで一見すると小学生と間違えそうな少女が自分の何倍もの刀身をもった御刀を持ち佇んでいた。振り落としたとされる御刀に耐えきれるはずもなく文字通り一刀両断された荒魂がノロへと四散していた。
長船女学院の制服姿の少女は御刀を肩へ担ぐと、命の姿に気づいた様子でけだるそうなに声をかけてきた。
「……お~、命じゃねえか」
「薫? 鎌倉に来ていたのか?」
「まぁな。来て早々、荒魂退治とはついてねえけどな」
「ねー♪」
『益子薫(ましこ かおる)』の肩に珍妙な生物が現れた。益子家の守護銃的な存在である『ねね』がやれやれだぜといった鳴き声をあげる。
「ところで、成り行きで助けたあいつはお前の知り合いか」
「あいつ…とは?」
「こっちデース」
命と薫の背後から声が聞こえた。振り返ると長身のブロンド髪の少女『古波蔵エレン(こはぐら エレン)』が小さく手を振って呼びかけており、その背後にはへばった美炎がへたり込んでいた。
「みこっち、1年ぶりデスね~」
「エレン! それに美炎、怪我はないか?」
「集中力切れちゃって、危なくなったところを助けてもらっちゃった……」
美炎が無事だったのか安心し命はホッと息を吐いた。
「みこっちのフレンズのようでしたか。この子、"写シ"が切れかけている状態で粘っていて、危ないところでした」
「助けられてしまったな。感謝する」
「命センパイ、この人たちと知り合いだったんですか。すっごく強くて息ぴったりで荒魂を倒したんです」
「話せば長くなるな」
「おい、成り行きを話すのは後にして手伝ってくれ」
薫の目の前に多数の荒魂を現れた。相当な数がおり、並大抵な刀使でも手古摺りそうだが、
「美炎、集中力が戻るまで少し休んでろ」
「私たちにまっかせてくだサーイ」
「……ごめん、任せるよ」
この場にいる刀使たちは臆する気は全くと言ってほどない。命とエレンは御刀を抜くと薫の両隣りへと並び立つ。
「こうしてファイトするのは1年前の沖縄以来デスね」
「そういえばそうだったな」
「あの時とは違って団体様が相手だけどな」
3人が構えをとる。数では勝っている筈の荒魂ではあったが、戦闘態勢となった3人に心なしか引き気味となった
(うわっ、命センパイたちが戦闘態勢になった途端になんか出たように見えた。これって強者特有のオーラってやつ? ……えっと、荒魂さんご愁傷様です)
同時に3人は駆け出す。その後美炎が見たのは、荒魂が軽快なフットワークに翻弄され時折殴り蹴り飛ばされ、猿叫という独特な掛け声とともに叩き割られ、ひと薙ぎで多数の荒魂が両断されるという一方的な蹂躙と呼べるものであった。
――――――――――
side:パーカー姿の鎌府刀使
「おい紗耶香! 援軍が来た今がチャンスだってんだろ。試合会場へ行け、試合に出なかったら学長にすっげぇ怒られるぞ!?」
「………うん」
刀使の援軍が来たことで討滅の速度は増した。パーカー姿の刀使『七之里呼吹(しちのさと こふき)』は鎌府の代表である『糸見紗耶香(いとみ さやか)』を御前試合へと送り出す。
「やれやれ、やっと行ってくれたか。ま、これで紗耶香の分の荒魂ちゃんもぶっ倒して良くなったって訳だ。あぁん?」
紗耶香を送り出したのは御前試合の御付きが主な理由だったが、呼吹は荒魂を倒すことに喜びを感じるタイプであるため、彼女の取り分が増えて儲けといった考えもある。意気揚々と次の現場へ向かおうとしたが、突如としてスマホに着信が来た。
『あ、七之里さーん。出てくれたんですね』
「お前かよ。んな緊急事態に何の用だよ」
『人手不足でオペレーターの増援を要請されました』
電話相手は同じ研究班の『播つぐみ(ばん つぐみ)』である。どうやら、人手不足のためオペレーターとしてサポートに回っていたようである。
『それよりも七之里さんに行ってほしい現場があるのです』
「あ!? 何じゃそりぁ」
『監視カメラに話題の荒武者が映っていたんです』
「は? 今は関係ないだろ」
『それが荒魂討滅のために誘導して集結したエリアに入っちゃったんですよ』
「それを早く言えよ!!! さっさと案内しろ!」
『あ、荒武者を見つけたら写真撮っておいてください』
しょうがねえなとツッコミ現場へと急ぐ呼吹。刀使たちや折神家から挙がっている情報通りならこのままでは荒魂ちゃんをとられてしまう。
「あぁ……嘘だろ! 誰だよアタシの荒魂ちゃんをとったのは!」
つぐみのナビゲートした現場に到着した呼吹が地団駄を踏む。目の前に広がっていたのは誘導包囲して殲滅のために集められたはずの荒魂、その残骸であるノロだけが四散していた。
『遅かったですね~。残念です。どんまいです』
「畜生、またかよ」
『荒武者はまたどこかに行ったようですね。七之里さん、いまだに荒魂はいるようです。お詫びにそっちに案内しますね』
「……しょうがねえなあ。だけど、それでまた荒武者が出てきても付き合ってやらないぞ」
ご機嫌斜めとなった呼吹であったが、彼女の扱いを知るつぐみから宥められ、ノロの回収を要請すると次の荒魂を目指すことにした。
「……案外早かったな」
呼吹が去ってから数刻後、現場に隠れていた陣羽織姿の荒武者が出てきた。彼は突如として現出した荒魂に対して個人的な判断で出動。瞬く間に荒魂を討滅した本人である。
「騒ぎにするまいと思ってつい隠れてしまったが、今度はそうはいかないかもしれないな」
意味深にぼやくと、荒武者はノロの回収班が来る前にその場を去った。
男主人公はまだ暗躍中のため名前は話中では出さないスタイルです