幽々子「…うふふ…あら紫…ずいぶん疲れてるみたいね」
紫「…気のせいよ…メインステップ!天駆ける創界神!創界神アレックスを配置…!神託でコアを一個…追加!ターンエンドよ…」
アレックス《…え…紫さん、本当に…大丈夫ですか?》
幽々子や現れたアレックスの指摘も無理はない。今の紫は先ほどの幽々子の攻撃ですでにボロボロ、所々血もにじんでいる…それでもバトルフィールドに立っていられるのは妖怪としての肉体故か、それとも強い信念か…
幽々子「メインステップ。咲き誇れ!創界神アプロディーテを配置!神託によってコア三個をアプロディーテに置くわ。さらに神華の妖精ヒメヒマを召喚」
アプロディーテ《……………》
幽々子は背後にアプロディーテを呼び出すと、フィールドにも赤い服に金髪の小妖精を召喚した。
幽々子「バーストをセットして……アタックステップ。ヒメヒマでアタック!」
紫「…ライフで受ける!」
ヒメヒマが蝶の羽から光弾を放って紫のライフを破壊する。だがその衝撃は紫の想像以上だった…
紫「がはっっっ!!?…ゴフッ!」
アレックス《!紫さん!…やっぱりさっきの戦闘で…!》
ライフが減った瞬間、紫はあまりの痛みに吐血してしまった。しかしそこは『妖怪の賢者』、態勢を整えカードを握っている右手を左手で押さえながら視線を前に戻す。
幽々子「…うふふ…ターンエンド…」
紫「…ハァ…ハァ…ドロースっっ!!」
アレックス《無茶ですよ!その腕じゃドローもできませんって!》
紫はドローステップのためデッキに手を伸ばすも、激痛が身体を駆け巡る。思わず手を引いた紫にアレックスはバトルを止めるよう忠告するが…
紫「…なによ…!こんな…痛み…!弾が受けた『無理解』に比べたら…!どうてことない!メインステップ!レイニードル、魔界竜鬼ダークヴルムを召喚!!ライフを削って二枚ドロー!!」
痛みをこらえて紫はターンを進め、フィールドに青い東洋竜と紫の小型ヴルムが現れた。さらにレイニードルのまわりに赤シンボルがふたつ浮遊する……レイニードルの効果でシンボルを増やせるのだ。
紫「い、雷よ…!天を裂け…!ハァ……雷皇龍ジークヴルム!」
ダークヴルムの効果もあり、コスト3かつ最大軽減で紫はジークヴルムをフィールドに呼び出した。これで紫のスピリットは三体、攻めても問題ない頭数だ。
紫「…ハァ…ハァ…アタックステップ!レイニードルでアタック!」
幽々子「ライフよ」
レイニードルが口から青い竜巻を発射して幽々子のライフを撃ち抜いた。幽々子は亡霊だからか、そこまで痛くもないといった様子だ。
紫「…ターン…エンド…!」
幽々子「…その様子じゃ…倒れる方が先かもね。メインステップ。神華の魔女妖精ガーデニアを召喚!召喚時効果でデッキを四枚めくるわ」
冷徹に幽々子はそう吐き捨てるとツン目の白髪妖精を召喚する。ガーデニアはそして四枚めくって『楽族』カードを手札に、『華』マジックをフィールドに置くことができるのだ。
幽々子「…ゼフィランサスフィールドとオニユリフィールドをフィールドに置いて、戦国姫 綾芽を手札に。ターンエンド」
紫「…ふぅ…メインステップ…マジック!スターリードローを使用!デッキから三枚オープンして星竜をすべて手札に!」
ライフダメージが来ないので、紫は一息つく。そのまま紫はスターリードローで手札を増やしにかかる…太陽龍ジーク・アポロドラゴンX、滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ、龍星皇メテオヴルムX。
全員『星竜』スピリットなので紫はすべて手札に加えた。
紫「…弾…蓮子…!力を貸して…!太陽よ!星の力纏いて竜となれ!太陽龍ジーク・アポロドラゴンX!」
そして紫はスターリードローで回収した赤い太陽龍をフィールドに召喚する。ジークヴルムと並び立つその姿は確かに紫に力をくれた。
紫「アタックステップ!ジーク・アポロドラゴンでアタックよ!効果でガーデニアを指定アタック!」
幽々子「…そのままブロックよ」
ジーク・アポロドラゴンが火炎放射をガーデニアめがけて放つ。対する幽々子はなにもせずにガーデニアを破壊させた。
紫「…っっ!…ターンエンド…よ…」
幽々子「…!…ふふふ…メインステップ!…んんんっ!さて…そろそろ本気でゆくぞ。我が御姿にひれ伏すがいい!崩幻女神ミテラ・テテュス!!」
幽々子がドローしたカードが少し光ると、幽々子の目が黄色くなって声も低めの古風な口調へと変わる。そして幽々子のフィールドに開いた黒い穴から大きな翼を生やした女神が現れた。
紫「…貴様が…!幽々子を操って…!」
テテュス《 いかにも。この小娘には妾の依代のため、少々記憶を書き換えさせてもらったぞ》
アレックス《…あなたは…いったい何者ですか!?》
怒りに震える紫の代わりにアレックスが幽々子に取りついているテテュスに質問する。ここで少しでも情報を得ておけば、後々有利になるのは目に見えている。
テテュス《 …はぁ…妾の名を知らんとは……まぁ良い…妾はテテュス、原初の神々の一角よ》
アレックス《原初の……まさか…タカミムスビさんが言ってた!》
テテュス《…あの裏切り者の名を出すな!…ふん、さて…『妖怪の賢者』八雲 紫よ。妾達は世界を憂いている…なぜなら幻想郷を含め、神世界全土が酷く歪んでいるからだ 》
アレックスの言葉に苛立ちを隠さないテテュスだったが、紫には冷静に話しかける。紫も頭を冷やして注意深く聞いていた。
紫「…それと幻想郷や弾を巻き込むことに何の関係性が?」
テテュス《 …今の幻想郷にはお前達三人の『イレギュラー』が揃っている。お前達がいるからこそ、世界の歪さは止まらない……だからお前達を滅するため
紫「な!?…まさかメジェドの封印を解いたのは…あなた達!?」
テテュスの何気ない呟きは紫達にとって聞き捨てならないことだった。しかしテテュスはそこまで重大とは思っていないのか、キョトンとした表情で答えた。
テテュス《 そうぞ?あやつはお前達を潰すために妾達が解き放った。思ったより使えなかったが…妾はお前達の強さが想像以上だったと考えている…そこでだ…もし馬神 弾、宇佐見 蓮子、そしてお前の三人の首を差し出すなら…幻想郷を見逃してやっても》
紫「断るわ。弾や蓮子を死なせる訳にいかないし…仮にも命をそんな簡単に『使えない』と吐き捨てるあなた達を信用できない!」
アレックス《さらに他の命を巻き込んでも何の気持ちも起きないなんて…創界神として認められないね!》
テテュスの提案を途中でぶったぎり、紫とアレックスは彼女の提案を拒絶した。テテュスの言葉に『命』を大切にする思いが感じ取れないことが決定的だった。
テテュス《 …後悔するぞ…!アタックステップ!妾自身でアタックぞ!効果でジークヴルムとダークヴルムのBPマイナス5000!そして破壊する!》
紫「…ライフで受ける!…ぐぅぅぅ!」
テテュスの怒りの光線が放たれてジークヴルムとダークヴルムを貫くと、そのまま紫のライフも砕く。創界神をも操るテテュスの一撃の重さに紫の身体は限界に迫っていた。
テテュス《 …ターンエンド》
紫「…ゴフッ!《ヤバい…意識が…》…め、メイン…ステップ…!龍星皇メテオヴルムX…!召喚…!さらにジーク・アポロドラゴンをレベル3に…!」
意識も絶え絶えな紫は何とかメテオヴルムXを呼び出す。いつもはライフを削ってコアをためたあと、ノヴァで回復してカウンターを決めるのが紫の基本戦術だ。しかし今回それをやれば、紫の身体がもたないことは明白…
紫「…ハァ…ハァ…あ、アタック…ステップ…!ジーク・アポロ…ドラゴンでアタック…!!まずはヒメヒマを破壊してライフをひとつ砕く…!」
テテュス《 無駄よ…フラッシュでアプロディーテのコア四個をボイドに!これで相手スピリットのBPはすべて1000になる!》
ジーク・アポロドラゴンがヒメヒマを殴り飛ばすと、炎でライフをさらに削る。だがテテュス自身がアプロディーテのエネルギーを吸収して放った猛烈な雷が、紫のスピリット達のパワーを奪ってしまった。
テテュス《 さらにバースト発動!!砲天使カノン…効果は知っておろう?》
紫「…ハァ…ハァ…た、ターン……エンド…」
続けて開いたバーストの砲弾が一気に力を失ったジーク・アポロドラゴンやメテオヴルム、レイニードルに命中する。スピリットが全滅してしまった紫は顔を歪ませてターンエンドするしかなかった。
テテュス《 このターンで終わりよのう…メインステップ。もう一体のヒメヒマ、戦国姫 綾芽をレベル3で召喚!》
勝ちを確信したテテュスは新しいヒメヒマと和服の大和撫子の妖精を召喚する。紫の残りライフは2なので、十分削りきれる頭数だ。
テテュス《 アタックステップ!綾芽でアタック!フラッシュタイミングでクローバーフィールド!効果は不発だが、綾芽の効果でシンボルが増える!散れ!》
紫「……ハァ…ふ、フラッシュ…ハァ…ゴフッ!…タイミング…!白晶防壁…!ヒメヒマを手札に…!ソウルコアも使って…ハァ…」
パワーアップした綾芽のビームは紫のマジックで軽減される。しかし弱まったとはいえ、虫の息の彼女には致命的なダメージなことに変わりはなかった。
紫「」
アレックス《紫さぁぁぁん!!》
アレックスの絶叫も紫の耳には入らなかった…それどころか言葉を発することもできずに紫の身体はフワッと中に浮いた。
紫《…あぁ…無理だ…もう身体に力が入らない……ごめんなさい…幽々子、弾、蓮子…》
そんなことを思い浮かべながら紫は意識を手放そうとした。だが最後に思い浮かべた三人が紫にあることを思い出させた。それは紫の一生…マエリベリー・ハーンとして産まれ、妖怪の賢者 八雲 紫として生きてきたその生きざまだった。
親の意向に逆らえず、仕方なく日本の京都大学に進学した私
自分の体調不良を正直にぶつけられず、蓮子と生き別れてしまった私
幽々子の内面に踏み込めず、みすみす自殺させてしまった私
人と妖怪の楽園を作ったのにも関わらず、2種族間の溝をそのまま放置していた私
人々の『無理解』に押し潰され、逃げるように外の世界から幻想郷に閉じ籠った私
そして…心から愛した想い人を信用できず、抹殺しようとした私
紫《…ふふ…いっつも…私は逃げて…誤魔化して…偽って…どうせできないと諦めてた…》
???《それでいいのか?ヴィオレ まゐ》
紫《…え…?》
無意識に紫の脳内に聞こえてきた声…その声に紫は聞き覚えがあった。昔グラン・ロロでバトルしたカードバトラー、そして『命』の理解と共に散った人形…
紫《…パンテーラ…?》
パンテーラ《…そんな覚悟で
紫《…そうね…いつも誰かのためにバトルして…真正面からぶつかって…本当に『激突王』よ》
パンテーラ《…別にお前もそうなれとは言わない…だがお前のやり方で…後悔しなかったことはあったのか?》
一瞬の時間…されど永遠にも感じられる瞬間に交わされる会話…そこでパンテーラの言葉は紫の心に深く食い込んだ。後々考えて後悔したことばかりだった…あと少し…それが遠かった。
パンテーラ《…ならその『少し』を踏み出せ!あと少しでお前の友は救える!馬神 弾のように『激突』してこい!》
紫《…ええ!不可能の境界…越えてみせるわ!》
パンテーラの声はそう言って聞こえなくなる。そして紫は倒れこむ寸前目をカッと見開くと、傷だらけの身体から星の神力が噴き出した。
アレックス《…紫…さん…?》
テテュス《 『分神』…だと!?…ば、バカな…あやつはもう……!》
倒れこんだかに見えた紫はくるっと一回転して地面に降り立つ。その身体からは傷は消え、いつもの導師服は黒と白に染まっている。一際目立つのは…背中に広がるスキマでできたドラゴンの翼…
紫「さぁ!続けましょ♪白晶防壁の効果で私のライフは一しか減らないわ!」
テテュス《 …ぐぅ…ターンエンド…》
紫「メインステップ!スターリードローをもう一枚使うわ!…へぇ……そしてマジック!ビッグバンエナジーを使用!」
紫引いたカードを見てニヤリと妖しく微笑む。その姿はまさに『妖怪の賢者』の顔…さらに発動したのはグラン・ロロの友から弾に、そしてまゐに受け継がれた必殺マジック。
紫「…パンテーラ…!使わせてもらうわよ!光を滅し!古き鎖を壊す破壊竜!滅神星龍ダークヴルム・ノヴァX!」
アレックス《…それは……!…そうか…紫さんは…もう…》
スターリードローでめくられた二枚のカード…それは紫も採用した覚えのないカードだったが、アレックスは『分神』した紫から何かを確信したようだった。
空が薄暗い雲に覆われ…その中から翼を閉じて一体の黒いドラゴンが降りてくる。背中に白い小さな翼が現れた瞬間、黒い翼が開かれ大きく咆哮した。
紫「新たなる光を灯し!希望を再成する創造竜!超神星龍ジークヴルム・ノヴァX!!」
ダークヴルム・ノヴァとは反対側…炎の流星が降り注ぎ、赤シンボルを形成するとそこからも巨大なドラゴンが現れる。赤い身体に白い鎧と翼が特徴のジークヴルム・ノヴァはダークヴルム・ノヴァと並び立ち、テテュスを睨んで唸り声を挙げた。
紫「…アタックステップ!ジークヴルム・ノヴァでアタック!まずはBP15000分のスピリットを破壊し、超界放!アレックスのコア四個を置いてライフを二点ボイドへ!」
テテュス《 《font:149》…フラッシュタイミング!妾の効果でアプロディーテのコア四個をボイドに!これで貴様のBPは》
ジークヴルム・ノヴァが翼から虹色の光弾を放ってカノンを焼き尽くす。しかしテテュスは自身の効果を再使用して紫のスピリットを弱体化させようとするが……
紫「ダークヴルム・ノヴァXの効果!『ノヴァX』は合体できない代わりに相手の効果も受けない!さらに滅界放を発揮!疲労状態の綾芽を破壊する!」
ダークヴルム・ノヴァが放った紫の波動が落ちてきたテテュスの雷を打ち消してジークヴルム・ノヴァを守る。さらに紫の火炎放射が綾芽を焼却処分した。
テテュス《 ちぃ…!妾自身でブロック…!だがここまでだ!マジック!シンフォニックバースト!これで次のターン》
紫「次のターンは来ない。フラッシュタイミング!マジック!メテオストームを使用!」
テテュスのアタックステップ終了マジックを、紫はメテオストームで打ち返した。紫の声に呼応してジークヴルム・ノヴァはミテラ・テテュスに突っ込んだ。
テテュス《 …なぜだ…!妾は…原初神…ぞ!》
紫「…だからなによ?美しく…残酷に…!この大地から往ね!!」
紫の叫びに呼応するかのように背中のスキマの翼が大きく広がる。
テテュスの翼から雷が放たれるが、ジークヴルム・ノヴァは炎を纏って雷を突き破る。そしてテテュスの身体を掴むときりもみ回転しながら地面に叩きつけて破壊した!
紫「メテオストームの効果!ノヴァが相手のスピリットを破壊したので、ライフをふたつリザーブに!!」
テテュス《 ま、待て!》
テテュスの声を無視してジークヴルム・ノヴァは口から炎を吐いて残ったライフをすべて撃ち抜いた!!
テテュス《 が…!は…!おのれ…!タ…カミ…ムス……ビ…》
紫「…ふぅ…『分神』すると傷も治るのね」
アレックス《よかったぁ…あのままバトルしてたら…》
紫「ごめんなさい、心配かけて……!…それより西行妖を!」
ボルグ《お待たせして申し訳ありません!西行妖の封印を強化致しました!》
テテュスが崩壊して、紫とアレックスは西行妖を散らしにかかる。するとシュタイン・ボルグが飛んできた方向を見ると、満開寸前だった西行妖の花がサーと散っていくのが見えた。
幽々子「…紫…ごめんなさ…むぐ!?」
紫「…言わないで…」
幽々子「…………」
紫「……………」
魔理沙「おーい!紫~!!」
正気に戻った幽々子は仰向けのまま紫に謝罪するが、紫はその口を手で塞ぐ。しばし二人の間に言葉はなくなる…その静寂を破ったのは遠くから聞こえてきた魔理沙の叫び声だった。
紫「…あら…!魔理沙!アリスと妖夢を戻せ…!!」
魔理沙「それより!霊夢が!!」
アレックス《霊夢さん!?》
咲夜「早く治療を!」
近づいてきた魔理沙の箒に、まるで布団の如く垂れ下がっていたのは……傷だらけで気絶している霊夢だった。
はい。ありがとうございました。
『分神』紫は紫色の部分が黒い永夜抄の道士服に『背中にスキマでできたドラゴン(ジークヴルムみたいな)の翼』という元の服装がラスボス染みてるので、あんまり変えないことにしました…べ、別に!良いアイデアが思いつかなかった訳じゃないんだからね!