出征
さらに数日後 永遠亭 裏庭
隠岐奈「ふっかぁぁぁつ!!」
幽香「いつでも行けるわ」
映姫「ご迷惑をかけました。ですがもう大丈夫です」
永琳「もう全快ね。これでいつでも出陣できるわ」
霊奈と戦った数日後、永遠亭の裏庭にはすっかり傷が癒えた四天王達をはじめとした馬神 弾勢力が勢揃いしていた。
椛「なるほど…ならば私は付き従いましょう」
早苗「…うへぇ…また月に行くんですかぁ?」
神奈子「ほぅ…天津神の根城に…それは面白いな」
諏訪子「…そんで?先代巫女は?」
鈴仙「…まだ眠ったままですが…命に別状はないです。ゆっくり休んでいれば直に目を覚ますでしょう」
霊夢「…よかった……」
霊夢は鈴仙の言葉に胸を撫で下ろす。守矢の三神達はいろいろと言ってはいるが、月の都に攻めいることに反対はしなかった。むしろ神奈子はヤル気満々だ。
アテナ《…さて…それでは今回の作戦を説明しましょう。まず私達の目的…それは『月の都の解放』と『ウカノミタマ討伐』です》
スサノヲ《…あのバカ娘…!兄貴や姉貴にも何かしてねぇだろうな……!》
妹紅「…おーん…でもあれだろ?月の都ってのはスゴいからくりで紫達を返り討ちにしたとか…私達で勝てんのか?」
紫「それも計算の内。まずは戦場での役割分担を発表するわ。大きく分けて『真正面で暴れる組』と『こっそり忍び込む組』よ」
そう言って紫はそれぞれの役割を読み上げていく。確かに頭数的に足りないこちら側が勝つには囚われているツクヨミを救出し、ウカノミタマを倒して月の民を説得するしかない。
紫「文、早苗、咲夜、魔理沙は空中又は後方から戦ってるメンバーの援護射撃を頼むわ。撃って撃って撃ちまくりなさい」
永琳「私はその隙にツクヨミを救出するわ。月の都のセキュリティは一万年に一度しか更新しないから、まだパスワードとかは変わってないはず…」
魔理沙「お?それだと今言った後方射撃と永琳以外みんな暴れる組か?」
アテナ《そうなります。下手に難しい作戦はかえって足枷になると判断しました。基本ここにいるメンバーは全員戦場に立つと思ってください》
早苗「………ゴクッ…」
神奈子「…早苗…覚悟していけよ…!」
戦争とは縁もゆかりもない早苗は緊張感に呑まれている。それ以外のメンバーは全員鋭い目で自らの役割を理解し、戦場に立つ覚悟がその表情に現れていた。
輝夜「確認だけど…一応、神がこじ開けた『第四槐安通路』を目印に弾が世界を接続することになってるわ」
慧音「すまない、一つ質問なのだが…私達全員が幻想郷を離れて平気なのか?もしその隙を突かれたら…」
ヴィシュヌ《…そこは俺たちの世界を使えばなんとかなる…》
ヘルメス《今の幻想郷は様々な世界…まぁ、俺たちがそうやって幻想郷にいるってことはどこかで俺たちの世界と繋がってる》
ポセイドン《ならばたとえ敵が幻想郷に直接入る前にも我輩達の世界に少なからず影響を及ぼす。それを感じとれば
隠岐奈「…ちょいちょいちょい!それはつまり…自らのエネルギー源を放棄することに…!」
ホルス《気にすんなよ。それよりも…それぐらいこの戦いは重要だってことを理解しとけ》
慧音の疑問の解決策に隠岐奈は激しく動揺する。自らも小さいが世界を持っている隠岐奈にとって、自らの領域を捨てるのは命の次に大切なものを捨てるのと同じだった。だが創界神達はみなその意見に異を唱えなかった。
アテナ《最後に、戦闘中の連絡は基本テレパシーで連絡します。戦うことに気をとられ過ぎて重要な情報を聞き逃すことのないように》
映姫「…小町、久佗歌…」
小町「いやいやいや!」
久佗歌「そんな事ありませんよ!閻魔様!」
アテナの釘指しに一番不安だったのは映姫…チラリと二人の心配な部下を見る。小町と久佗歌は「そんな事ない」と首をふるが、戦場ではどうなることか……
紫「…弾、すべて伝え終わったわ。あとはあなたが世界を繋げるだけよ」
弾「……チラリ……」
弾はもう一度集まっているメンバーに顔を向ける。そこには不敵に笑う萃香、何時もより気が高ぶっている美鈴、もじもじしているが弾と目があってキッとなる阿求(基本後方支援係)、こんな状況でもケラケラしていた妖精達…等々…だが全員大なり小なり覚悟は決めている顔だった。
弾「…もう聞いたかもしれないけど」
霊夢「「死ぬなよ」でしょ?あったり前!」
魔理沙「へへ!もう私の命はお前に託してるさ!」
蓮子「さて…さっさと世界繋げよ♪」
弾「…ふふっ…あぁ!いくぞ!みんな!!」
幻想郷メンバー「おー!!!」
弾の思いは確かにみんなに伝わっていた。その思いに背中を押され、弾は決して明るい表情ではないが、さっきより少しだけ口先をあげて世界を繋げようとしていた。
スサノヲ《…なぁ…ヘラ…弾だが…本っっっっ当に…タカミムスビさんそっくりだよな》
ヘラ《…本当やねぇ…見た目も瓜二つや…》
オシリス《…同じ星神で…しかもそっくりとは…これを『偶然』の一言で済ませて良いのか…》
アレックス《…何か秘密があるとか?まさかとは思いますが…タカミムスビさんの生まれ変わりとか?》
シヴァ《…否定できねぇな…何もかもがおんなじだと…》
トト《……そこも気になるが、まずは目の前の戦いに集中しよう。気が紛れては勝てる戦いも勝てない》
その一方、創界神達は弾と幻想郷メンバーをタカミムスビと自分達に重ねていた。そんな彼らも気を取り直して世界が接続される時を待った。
同時刻 月の都 ツクヨミの宮殿 応接室
ウカノミタマ《…ふーん…とうとう来るのね…》
来客用のソファーに座り、ウカノミタマはぼうっと呟く。ついさっき「第四槐安通路にかけられていたロックが突破された」という知らせが入ったのに、ウカノミタマはむしろ面白そうな顔をしていた。
ウカノミタマ《…パチン…非戦闘員を宮殿内へ。そして防衛妖怪と傀儡ロボット、ついでに
???《 あら…わたくし達はその『彼女』達に降りていればよろしくて?》
ウカノミタマ《…油断しないでください。もう既に三柱倒されています故…》
???《 はんっ!アイツら…!使えねぇな…》
ウカノミタマは月の都中に通信を入れ、自分の対面にいた
ウカノミタマ《……ではそろそろ私達も配置に…》
???《 ええ…害虫駆除といきましょう》
???《 ったく…!めんどくせーこと残しやがって…!ブツブツ…》
ウカノミタマ《………はぁ…『自分しか頭にない』だからタカミムスビさんに一度崩されたのに…学習能力がないわねぇ…》
???《頭イカれてる奴らになぁに期待したって無駄さ》
二柱が部屋を退出した後、ウカノミタマはため息をついて悪態を言葉に出す。元タカミムスビ陣営にいた彼女にとってどうしてもそう言わずにはいられなかった。すると隣に座っていた紫髪の男性が軽く返事を返す。
ウカノミタマ《…あなたが「イカれてる」なんてよく言えるわね…ディオニュソス 》
ディオニュソス《ちょいちょーい!ウカちゃん手厳しいねぇ~俺っちがわざわざ幻想郷サイドを監視してあげたんじゃなーい!》
ウカノミタマ《今度『ちゃん』付けしたら殺すわよ?》
本当に殺す気満々のウカノミタマにヒュ~と口笛を吹いて微笑んだのはオリンの創界神のディオニュソスだった。スサノヲには劣るが、創界神として格上のウカノミタマの殺気にも彼は怯えていない。
ディオニュソス《そんじゃ、俺っちは月の民を洗脳してくるわ》
ウカノミタマ《…?…アイツらは戦力として期待できないわよ?》
ディオニュソス《…幻想郷サイドの目的は『ツクヨミの解放』であって『大量虐殺』じゃない。なら
ウカノミタマ《……あなた…狂ってるわ……》
ディオニュソス《…『狂う』…俺には最っっっ高の褒め言葉だな。それじゃ…チャオ♪》
何の遠慮もなく非戦闘員を人質にすると言うディオニュソスにさすがのウカノミタマも戦慄する。その表情に満足したディオニュソスは手を振って部屋から出ていってしまった。
ウカノミタマ《…侮っていたわ…ゼウスとアマテラス両方を取り込もうとした最狂の創界神を……ふぅ…スタスタ……ガチャ…》
気を取り直してウカノミタマも戦闘配置に移動する。しかし彼女が向かったのは一番戦力がいる最前線でも、入ってきた情報を聞いて即座に指示を飛ばす指令部でもない。
ウカノミタマが入ったとあるグラウンドクラスの広さの部屋…いや、もうただの部屋とは呼べないほど壁や天井にツクヨミの写真が貼られた異様な部屋の真ん中…結界の檻の中にいたのは………
ウカノミタマ《…ハァイ♪元気にしてた?あ・な・》
ツクヨミ《誰が『あなた』だ…いったい今月の都はどうなってる!?輝夜や永琳は無事なのか!?》
ウカノミタマ《…会うたびにそれ?》
藍「ツクヨミ様…あまり刺激しない方が…」
…怒り心頭なツクヨミと冷静な藍だった。言動と檻の中にある家具を見るに洗脳されてはないようだが…不快感を露にするほどツクヨミはウカノミタマを嫌っている。
ウカノミタマ《…ツクヨミ、いい加減数億年も前に『穢れ』で死んだ妻や罪人の娘、たかが恩人の娘のことなんてさっぱり忘れて…私と未来を過ごしましょうよ》
ツクヨミ《ダンッ!ふざけるな!!私が永遠の愛を誓ったのはただ一人!しかも輝夜と永琳を捨てろだと!?娘を捨てるなんて父親失格だ!!タカミムスビさんに顔向けできん!!》
ウカノミタマ《 …どうして私じゃダメなのよ……なら良いことを教えるわ。その娘達、後少しでここに攻め込んでくるわよ》
藍「…!紫様…!」
ウカノミタマの誘惑にもツクヨミは屈せず、それどころか烈火の如く椅子から立ち上がり叫ぶ。それにウカノミタマは一瞬悲しくなるが、それを隠してわざと情報を与えた。
ウカノミタマ《…うふふ…ここに来ることはできないわ。あなたは私といっしょになるのだから…》
ツクヨミ《…どうかな?お前は幻想郷の力を過小評価している。『穢れ』の力…『愛と平和を思う』力にお前は敗北するだろう》
藍「……」
ウカノミタマのセリフにツクヨミは不敵に笑う。その間も藍はそわそわするだけだったが、ツクヨミの神力が先程よりもさらに増していることに気がついた。
ディオニュソス《……よぅし…お仕事開始…!》