月の都 ツクヨミの宮殿 ツクヨミの執務室
サラ《ここよ!》
レミリア「…なんだ…誰もいない」
サラ《違う違う!その奥よ!》
サラスヴァティーの案内によって永琳とレミリアが辿り着いたのは、馴染みのあるツクヨミの執務室だった。だがその中には誰も居らず、レミリアは首を傾げたが……
永琳「…!…非常用のシェルター!月の賢者達が緊急時に逃げ込むためのスペースがここにあったはずよ!」
サラ《…ん……あった…たぶんこのボタンを押せば…よっと!》
サラスヴァティーが超音波で探知したボタンを押す。すると地響きを起てて何もない壁の一つが開き、地下へと通じる階段が現れた。
永琳「…行くわよ…」
永琳がズンズンと階段を降りていき、暗い通路をしばらく通っていると、明るい光が見えてきた。三人はいつでも戦える用意をして中へ突入した。そこにいたのは……!
ウカノミタマ《…ふーん…やるじゃない》
永琳「…ダンッ!ようやくその面拝めたわ!この性悪女狐!!」
レミリア「…ビンゴ!待たせたな!八雲 藍!月読命!!」
藍「八意 永琳…!レミリア・スカーレット…!」
ツクヨミ《永琳!サラスヴァティー!気をつけろ!敵はソイツだけではない!》
サラ《…この娘のこと?そんな大した奴じゃないと思うけどね~》
…広い部屋でゆったりとくつろいでいたウカノミタマ、透明な結界に閉じ込められた藍とツクヨミだった。永琳達はツクヨミが警告した
レミリア「…確かお前は…夢の支配者…だったか?」
ドレミー「ごきげんよう。私の通路を勝手に使って楽しかったですか?」
永琳《ち…まさかこの獏がいたとは……!》
そう丁寧口調だが苛立ちを露にして答えた彼女…ドレミー・スイートの存在に永琳は心の中で舌打ちする。彼女の思惑では永琳とウカノミタマの1VS1で倒し、そのあとツクヨミを救出するはずだった。
しかし裏切る可能性を切れないサラスヴァティーを抱え、しかもそこそこ強いドレミー・スイートが敵にいる…つまりたとえこちらにレミリアがいても、ツクヨミ救出を邪魔する自ら以外の不確定要素が多すぎるのだ。
永琳《…一番まずいのはサラスヴァティーが裏切ること…でも頭数や戦力はこちらが上だから……その心配は要らないか…》
???《へぇ~…まさかサラスヴァティーを解放するとはねぇ…》
レミリア「…バッ!誰だ!?」
サラ《…な!?…ディオニュソス!?あなた…ソイツらに!?》
ディオニュソス《悪いね~!こっちの方が待遇良かったんだよ♪》
永琳の思考がつい先ほど通ってきた通路から聞こえてきた声に邪魔される。振り向くといつもの胡散臭い笑みを浮かべたディオニュソスが歩いてきた。
レミリア「……まさか創界神とかじゃないよな…」
永琳「………いえ…そのまさかよ…オリン十二神の一柱…酒と狂気の創界神、ディオニュソス…」
ウカノミタマ《ちょっと!肉壁になるんじゃなかったの!?》
ディオニュソス《…いやぁ~…サラスヴァティーを協力させるってことを失念してたよ~!》
永琳《…一番まずいことになったわ…!これで戦力は五分五分…いつサラスヴァティーが裏切ってもおかしくない!》
ウカノミタマの文句をディオニュソスがへらへらしながら言い訳している間、永琳はかなり焦っていた。やはり彼女を解放するのは失策だったか…そう考えていた時だった。
ツクヨミ《バンッ!ディオニュソス!貴様!!タカミムスビさんから受けた恩を忘れたか!!》
ディオニュソス《…いやぁ~!だがねツクヨミの旦那?ちょっっっとは罪悪感とか、後悔はあるのよ?でもさ~!死人に口無しって言うじゃ~ん、だからもう死んだタカミムスビさんやら
サラ《…何……です……って…》
ツクヨミがかじりつくように結界に詰め寄り、怒声をディオニュソスに浴びせる。それに飄々と返していたディオニュソスの一単語をサラスヴァティーは聞き逃さなかった。
サラ《今『死んだブラフマーが』って言ったわね!?どういうことよ!!!?》
ディオニュソス《……あ…知りたい?そうそう、他の創界神とは違ってブラフマーの奴は抵抗が強くてねぇ…言うこと聞かなかったから》
サラ《 ビュン!殺す!!殺す!!拷問してやる!!!!》
ディオニュソス《うぉっと!?…サッ…最後まで…サッ…話させてよ!》
嘘臭い『仮面』も不気味な無表情すらサラスヴァティーはかなぐり捨て、ディオニュソスに蹴りかかった。だがディオニュソスはまだまだ余裕綽々でかわしている。
ウカノミタマ《…いつの間に…まぁ良いわ。永琳ちゃん、あなたに提案があるの》
永琳「……そうね…身柄を拘束させて貰えば考えてあげる」
ウカノミタマ《最後まで聞きなさい。もし今こちらについたあかつきには、洗脳した馬神 弾と結婚させてあげるっていう提案よ》
永琳「……………………」
背後のディオニュソスをサラスヴァティーに任せた永琳はウカノミタマに向き直る。だがウカノミタマからの提案に永琳は黙り込んでしまった。
ウカノミタマ《彼は結局最愛の相手に八雲 紫を選ぶでしょうね。そしてあなたは捨てられる。何てひどいことでしょう!私はあなたを認めるわ。独りで孤独に戦ってきたあなたは幸せになる権利がある!》
ツクヨミ《聞くな!永琳!》
ウカノミタマ《さぁ!永琳ちゃん!私達と幸せを掴みましょう!》
ウカノミタマは嬉々として永琳に語りかける。その表情は本当に永琳のことを心配しているのだろう…サラスヴァティーやディオニュソスとは違う朗らかさに満ち溢れていた。
永琳「………面白い提案ね…まさかあなたに幸せになる権利がある何て…言われると思わなかったわ」
ウカノミタマ《…なら!》
永琳「でも…幸せになる権利があるのは…私だけじゃない。全員…生きているなら等しくあるべきよ。だからあなたの提案は飲めない」
ウカノミタマ《…っっっ…!》
永琳は自嘲気味に笑うと、ウカノミタマの提案を『面白い』と評価するも、最終的には断った。よほど断られたのがショックだったのか、ウカノミタマは目を見開いて驚愕した……
……その隙をディオニュソスは見逃さなかった。
ディオニュソス《今だ!!ツクヨミ!結界から離れてろ!》
サラ《はぁ!?待ちなさい!!》
ツクヨミ《…ん!?》
突然サラスヴァティーの攻撃を受け流していたディオニュソスがツクヨミに指示しながら結界に向かって走り出す。その手には自らの神話ブレイヴ『冥府神剣ディオス=フリューゲル』が、神力マックスで握られていた。
ディオニュソス《冥府剣『ネメシス・リープ・スラッシュ』!!》
バァァァァァァァァァンッッ!!!!
ディオニュソスがディオス=フリューゲルを真一文字に振り抜く。その瞬間、ツクヨミと藍を囲っていた結界がものすごい轟音と共に砕け散った!
ツクヨミ《……は…?》
藍「…え……?」
永琳「……い、いったい…?」
レミリア「…向こうが…あの二人を解放して得なのか…?」
ドレミー「…え、えと……」
ウカノミタマ《…プルプル…ディオニュソス…!!どういうこと!!?》
ディオニュソス《…おいおいウカノミタマ。いつから俺が君の味方だって言った?俺は最初っっからこのために味方のふりをしてたんだよ》
永琳もツクヨミもドレミーも状況が飲み込めないでいると、なんとか復活したウカノミタマが青筋を浮かべて怒鳴りつける。それに真面目な顔つきでディオニュソスは話し出した。
ウカノミタマ《……!…まさか…!永琳ちゃん達が簡単に月の民達を振り切ったのは……!!》
ディオニュソス《ご明察。逆に俺が永琳達がサラスヴァティーを解放し、ここにたどり着けるよう誘導させたからさ。洗脳のコントロールを全て俺に任せっきりにしたのが間違いだったな!》
サラ《…ディオニュソス…あんた…どうして……》
ディオニュソス《…スッ…サラスヴァティー、そして永琳。先ほどの『死んだタカミムスビさんやブラフマーのことより』を訂正しよう。あれはウカノミタマの気を逸らさせるためについたウソだ。すまない…もちろんブラフマーも生きているぞ》
得意げにディオニュソスはウカノミタマを煽った後、サラスヴァティーと永琳に向かって謝罪の言葉を述べ、頭を下げた。特に彼が昔に起こした惨事を知るサラスヴァティーは彼の行動に戸惑いを隠せない。
ウカノミタマ《何でよ……!どうして…!どいつもこいつも私のことを受け入れてくれないの!?》
ディオニュソス《バーカ…俺が永琳達に協力するのは……タカミムスビさんに…デカイ恩義があるからだよ!》
永琳「…え…お父さん…に…?」
ヒステリックになるウカノミタマにディオニュソスは自らが永琳達を助ける理由を話し出す。
ディオニュソス《俺は昔…父親のゼウスとアマハラのアマテラス…二勢力の主神を取り込んで、最凶の創界神になろうと目論んだ。まぁ、タカミムスビさんのせいで失敗したがな…》
サラ《そうよ…なのに…何で…!》
タカミムスビ《……あの後、罰せられかけた俺を…タカミムスビさんが庇ってくれたからだ…あの人がいなきゃ俺はこうして創界神をやれていない》
永琳「…お父さんが……」
ディオニュソス《…結局…その恩を返せず…タカミムスビさんは逝っちまった…だから俺は八意の名を継ぐ永琳を助ける!!それが俺にできる恩返しだ!!》
ディオニュソスは感慨深い顔つきで昔を語る…そこからは本当にタカミムスビへの感謝の念が感じられた。彼は何十億年も昔の恩義を忘れず、彼が死してなおもその恩を返そうとしていたのだ。
ウカノミタマ《この…!裏切り者!それが世界を創る創界神のやり口!?どうせ永琳ちゃん達も裏切るつもりでしょ!?》
ディオニュソス《構わねぇ!俺は恩のためなら喜んで泥被ってやる!信用されなくても知ったことか!!》
レミリア「…フフフ…その心意気…嫌いじゃない!私も力を貸そう!」
ディオニュソス《オッケー!吸血鬼の嬢ちゃん!君とは気が合いそうだ》
レミリアの誘いにディオニュソスは乗り、光の粒子になって彼女の身体へ降りていく。完全にディオニュソスがレミリアの体内に降りると、レミリア自身も光に包まれた。
レミリア「…フフフ…弾の神力を分けてもらっておいて良かったわ。これでもうかりちゅまなんて言わせない!」
光を振り払って現れたレミリアは永琳と背丈が並ぶほど身長が伸び、身につけていた服や背中の翼も大きくなっていた。ディオニュソスが降りたことで、弾の神力が一気に馴染んだようだ。
永琳「さて…これで形勢逆転ね…どうする?私達としては殴り合いでも、カードでも良いけど?」
ウカノミタマ《…ドレミー・スイート!あのコウモリもどきを仕留めなさい!》
ドレミー「ハイハイ…」
レミリア「八雲 藍!早くツクヨミを!」
ディオニュソス《サラスヴァティー!早くツクヨミを戦場へ!》
サラ《…この…覚えてなさいよ…!》
ツクヨミ《…すまん、ディオニュソス…サラスヴァティー…!》
永琳とレミリアは主導権を取り戻し、ウカノミタマにどう勝負をするかを問う。ディオニュソスはレミリアの中からサラスヴァティーにツクヨミを戦場へ向かわせるよう指示した。
ツクヨミも今はディオニュソスのコントロール下にある月の民達より、戦場で命懸けで戦っている弾達の方が優先すべきだと自覚している。
藍「…八意 永琳…!そちらは任せるぞ!」
永琳「もちろん。必ず勝って帰るわ」
レミリア「…さぁ…運命が見えたわ…!」
ドレミー「…フワァァ…今夜は寝られなそうね…」
ウカノミタマ《…全て倒して…!全部私のモノにする!!》
サラスヴァティーに連れられ、ツクヨミと藍は部屋を出て戦場に向かう。そして残った四人はデッキを取り出して構えた。
四人「ゲートオープン!界放!!」
はい。ありがとうございました。
ディオニュソスさん、胡散臭いが男前…!まぁ、こんな男です。ラスボスチックな彼もいいですが、この世界では義理堅い男になりました。
ディオニュソス
オリン所属の無魔の創界神。おちゃらけた態度と胡散臭い口調だが、根は誠実な青年。また酒の神でもあり、彼が作る酒は全創界神満場一致で美味と賞する。以前ゼウスとアマテラスを陥れ、神世界に戦乱を引き起こしたが、タカミムスビが庇ったことで、今の地位を維持している。ちなみにオリンの創界神で一番年下。