最後の一人
命蓮寺 上空 弾VSこころ
弾「はっ!」
こころ「くっ…強い…!」
その頃、青い空の上では弾のグランシャリオとこころの薙刀がぶつかり合っていた。戦局としては創界神の弾が有利に立ち回っている。
空中を飛び回った後、弾がつばぜり合いを力任せに弾いてこころの態勢を崩した。
こころ「…ハァ…ハァ…!」
弾「…さて…そろそろバトルに持ってけるかな…」
紫「弾!大変よ!」
弾「…どうかしたか?」
リアルファイトからカードのバトルを持ちかけようと、弾が懐からデッキを取り出す。それと同時にスキマから紫が上半身だけを乗り出して現れた。
紫「月の都に侵入者よ!どうやら首謀者が乗り込んできたらしいわ!」
弾「……わかった!白蓮達を回収して先に向かっていてくれ!俺もすぐ行く!」
紫「気をつけてね!」
すぐさま弾は指示を出し、紫も他の人を迎えに行くため再びスキマに潜った。月の都にいる首謀者も気になったが、目の前の敵をおいていくわけにもいかない。
弾「…かかってこい!」
こころ「…むぅ…仕方ない!」
弾とこころがデッキを突きだしてバトル開始の言葉を発しようとしたその時だった。
???《はいそこまで~!首トン!》
こころ「がはっ!?……ガクッ」
弾「え…?」
???《ガシッ!安心しいや。ただ気絶してるだけやて》
突然こころの背後から女性が現れると、こころの首筋にチョップを入れたのだ。無警戒だったこころは一撃で意識を失うが、その女性が右手でこころの身体を掴んだので、落下せずに宙ぶらりんになる。
弾「…あんたは確か…オリンの…」
???《そやっ!『オリン十二神』が一柱!農耕と導魔の創界神のデメテールや!久しぶりやねぇ~元気やった?》
弾「あんたは無事だったんだ…」
デメテール《…まぁ…うちはちょいと特殊やからね。歴史が変わろうともピンピンしとるわ!》
薄ピンクの髪を揺らして白いノースリーブを着た大人っぽい女性…そして特徴的な関西弁を話す彼女こそ『創界神デメテール』。ゼウスの姉にしてペルセポネの母親、最後の『オリン十二神』の創界神だった。
デメテールは空中でこころを持ちながら、弾に笑顔で話しかける。
弾「ありがとう。おかけで助かった」
デメテール《あ~気にせんでええよ。うちも君に用があったんや。そいっと!パチンッ!!》
弾「ん!?」
デメテールが指を鳴らした瞬間、青い空に白い雲が広がっていた景色が急に暗くなる。ものの数秒で弾とデメテールは、白い壁に挟まれた谷のような所に足をつけて立っていた。
その場所は谷の両方の壁が本棚になっており、空が見えないほど高くそびえ立っている。所々にはランプあって渓谷を照らしてはいるが、人気もなく薄暗くて不気味な場所だ。
弾「ここは…?」
デメテール《よいしょっと…ここは『百識の書架渓谷』。神世界の裏側…モイライ達のすみかや。ほなこっちやで》
こころを地面に降ろしてデメテールは弾についてくるよう言う。二人は自分の遥かに上まで伸びる書架渓谷の谷間を歩き始めたが、弾はデメテールの言葉に一つピンと来ない語句が混じっていた。
弾「なぁデメテールさん、モイライって?」
デメテール《聞いたことない?人間の『寿命』はとある三人の女神によって決められてるって。それが『モイライ』。分かりやすく言えば『寿命』の女神達と思ったらええ》
弾「…その彼女達が俺を?」
デメテール《ん~正確に言えばちゃうんやけど…その認識でええわ…あ!見えたで!》
弾の質問にデメテールは簡単に説明した。そうこう言っているうちに二人は渓谷の最奥部…テーブルを囲み、三人の女性達がなにやらごそごそ作業をしている場所へと到着する。
デメテール《彼女達がさっき言った『モイライ』や!連れてきたで~!》
モイライ達《…ガタッ…ペコリm(__)m…》
弾「ど、どうも…」
デメテール《彼女達無口なんよ。あまりきぃせんといて》
デメテールが朗らかに三人に近づくが、黒いローブを着た二十代後半ほどの女性達…『モイライ』は暗い顔でペコリと会釈するだけだった。次は弾に眼を向けてお辞儀するが、相変わらず暗い顔と無口なのは変わらない。
モイライ達《…スタスタ…ブツブツブツブツ…》
デメテール《…連れて来ましてん。これでよろしいなんか?》
弾「…?」
挨拶したモイライ達はテーブルを三方向から取り囲み、何かの呪文を唱え始める。デメテールもなにもない虚空、ちょうどテーブルの真上に向かって話しかけた。
弾は気づかなかったが、デメテールの口調は弾やモイライ達とは違って敬語へと変わっている。モイライ達が呪文を言い終えたその時…!
???《ご苦労だった、デメテール。何億年も迷惑をかけたな》
デメテール《まったくやねん!このことを隠すのは大変やったんやからね!》
デメテールの前に一人の男性が現れてデメテールに返事を返したのだ。紅色の髪に黒いゆったりとした着物を纏った男性は静かにテーブルの上に着地する。
そしてテーブルから地面に降りて弾の方へ身体を向けた。
???《はじめまして…だな。私が星と生命の神『タカミムスビ』だ。永琳が世話になっている》
弾「…!…死んだんじゃなかったのか?」
デメテール《その通り。今見ているのは彼の『残留思念』。うちはこれを何億年も守り続けて来た。『継承』するためにね》
デメテールの解説を聞いて弾は再度タカミムスビへ視線を戻す。永琳から聞いていたが、やはり少し歳を重ねてはいるがその顔は弾によく似ていた。
タカミムスビ《…懐かしい。若い頃を思い出す》
弾「『継承』って言ってたけど…その前に聞きたいことがある。あんたの過去だ」
タカミムスビ《…ほう?》
弾「あんたが妹紅や文を助けた時…あんたは知りえない情報までも知っていた。何故なんだ?それは異変の首謀者と関係しているのか?」
弾の鋭い質問にタカミムスビは意外な顔を見せる。デメテールとモイライ達は邪魔にならないよう、そそくさと二人の視界から外れていた。
タカミムスビ《…そうだな。私に勝てば教えると言うのは?》
弾「…良いぜ。さっきバトルしようとしたら、中断されたからな」
タカミムスビ《…デメテール。すまんがデッキを貸してくれ》
デメテール《…へーい》
弾 タカミムスビ「《ゲートオープン!界放!!》」
同時刻 月の都 牢獄へ続く廊下
豊姫「こちらです!」
レミリア「おいおい…ここ前にも来たぞ…」
永琳「牢獄ね…いったい何が目的…?」
純狐「…ズザザザザザザ…」
ヘカーティア《ちょい純狐!そろそろ起きてよ!》
その頃、命蓮寺組と合流した永琳達は豊姫を先頭に、月の都の廊下を走っていた。レミリアは以前訪れた時の記憶から、敵の目的地は牢獄かと首をかしげる。
そんな中、唯一気絶したままの純狐はヘカーティアの鎖に縛られ、ズルズル地面を引きずられていた。
スサノヲ《兄貴!ここの牢獄にいるやべぇやつを解放しようとしてるんじゃねえか!?》
アルテミス《それありそう!》
ペルセポネ《お心当たりありませんか?》
ツクヨミ《………まさか……!!》
ホルス《ついた牢獄!覚悟しやがれ!》
創界神が体内からああだこうだ話しているうちに、一同は牢獄の扉を蹴り破る。入った瞬間に全員は一番奥から禍々しいオーラが漂ってくるのを感じ取った。
神奈子「…うっ…!何と強い闇の気だ…!!」
アリス「…間違いなく…
純狐「…ピクッ!この気配…!バッ!」
イシス《…知ってるの?》
奥から漂う闇の気に顔をしかめたり、警戒レベルを引き上げている人が多いのだが、その気に純狐は眼を見開くと急に目覚めて身体を起こす。
純狐「………プルプルプル…!!」
白蓮「…純…狐さん…?」
純狐「間違いない!『嫦娥』だ!やつめ!待っていろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…」
袿姫「お、おいぃぃ!?」
藍「お、追うぞ!」
どうやら仇敵の臭いをかぎとったのか、純狐は殺気丸出しで奥に駆け出していった。他の人が止める間もなく純狐の姿はどんどん小さくなっていく。
妹紅「なぁ!確か『嫦娥』ってよ!あいつの息子の敵だよな!?」
スサノヲ《おぅ!でもよウカ!首謀者は『男』だろ!?》
ウカノミタマ《ええそう!確かにこの先には『嫦娥』の檻はあるけど、拘束された彼女が異変を起こせるわけないわ!》
サグメ《…それに彼女には時間を書き換える力もないです…!!》
純狐の後を追って一同が勢い良く石の床を蹴る。たった今スサノヲが指摘した通り『嫦娥』が異変の首謀者とは考えにくい。
純狐「嫦娥ぁぁぁぁ!ぶっ殺…し……て……むっ?」
???《一足遅かったな。もう奴はこの世にいない》
霊奈「いたぞ!やつだ!」
咲夜「…この檻…鍵が開いてるわね…」
純狐がひときわ大きな牢屋に到着するが、中には赤い服を着た白髪の青年が一人佇んでいるだけだった。床には手枷のような器具が転がり、嫦娥の姿は何処にも見えない。
アマテラス《お前が…『混沌』の創界神だな?》
???《…さすがに知られているか。我が名は『創界神カオス』。この世界を正しく導く者なり》
ツクヨミ《…『嫦娥』をどうした…?》
カオス《やつならたった今私の生け贄となった。ようやく私自身で動けるようになる…良い養分だったよ》
アマテラスとツクヨミの追及に青年…カオスは不気味な笑みを浮かべて腹をさする。その動作に全員が嫦娥の末路を大なり小なり察した。
霊夢「何だって良い。あんたがみんなの記憶を書き換えたのね!今ここで退治するわ!」
魔理沙「そうだ!こっちにゃ創界神が何人もいるんだぞ!観念するんだな!」
カオス《…フフフ…あぁ…愚かな人妖の何と嘆かわしいことか。そう思わないか?最高神達よ?》
ゼウス《どこかだ?この世界を無理やり支配しようとする行為を、黙ってみている訳なかろう!》
ラー《他人の人生を思う通りに操作するなど愚の骨頂!人は自らの意思で生きねばならん!》
アマテラス《しかり。あなたの創る世界には見せかけの平和はあれども『愛』はないでしょう》
ヴィシュヌ《…それに…お前はお前のことしか考えてねぇだろ?神世界全てを支配するなら他人の声を聞くんだな》
ロロ《結局君は野望のためにたくさんの命を傷つけた。創界神以前に神としても失格だよ》
霊夢と魔理沙を軽蔑するようにカオスは嘲笑うと、各勢力の創界神達に問いかける。しかし五人は全員揃ってカオスの言葉を辛辣に突き放した。
それにカオスはまた悲痛そうな顔で銀色の頭に手をやる。
カオス《…ここまで腐ったか…お前達は今まで何を見てきた?この世界の人間も妖怪も神も己の欲を満たすために憎み殺しあってきた。つまりこの世界は『失敗作』なのだよ》
アポローン《…続けろ》
カオス《だから私はもう一度この世界を創り直す。今ある世界をリセットしたあと、争いの無い新たな世界を創造するのだ。
自分に酔いしれてる口調でカオスは演説を続ける。何の躊躇いもなく『世界』をリセットすると言い張る彼には命の大切さなど微塵も感じていないのだろう。
さらにカオスの『次こそ』という語句が創界神達の怒りを逆撫でした。
ヘファイストス《…『次こそ』…!?まさかお前…!》
カオス《……ああ…『以前までのやり方』では民に支配を一任してきた。だが全て醜い歴史になったからな…全部リセットしてやった。そしてまた一から創られたのがこの世界なのだ》
早苗「…そ、それって…!」
鈴仙「…何度も世界を創造して…思う通りにならなかったら、その世界を生命ごと滅ぼしてたの!?」
ブラフマー《てめぇぇ…!》
カオスのやり方にもう創界神達の怒りは限界点を軽く越え、漏れ出した神力が牢屋の檻をガタガタ揺らし始める。それにもカオスは眉一つ動かさず、ただ飄々と話し続けた。
カオス《醜い者達を消すにはその方が手っ取り早いからな。そうだろう?博麗 霊夢、八雲 紫はお前の道具としてしか扱わず、母親を良いように利用した》
霊夢「……………」
カオス《風見 幽香、周りのものどもはお前を理解しようともせずに怪物扱いし、お前の心を折りかけた。》
幽香「……………」
カオス《ヘカーティア・ラピスラズリ。なぜ純狐に手を貸した?安っぽい友情のためにどれだけの混乱をもたらした?》
ヘカーティア《…………》
カオス《宇佐見 蓮子、馬神 弾が『神々の砲台』を使わなければお前は旧友と別れずにすんだ。他人が誰かを救おうとした時、また別の誰かが傷つくのだ》
蓮子「…………」
カオスが順番に顔を向けて人の醜さを指摘する。名指しで指摘された何人かは話しが終わるまで、黙って聞いていたが、カオスの話が終わった瞬間反論を返し始めた。
霊夢「それはもう拳一発でチャラにしてるわ!たとえ争っても仲直りできる人を『醜い』とは思わない!」
幽香「怪物扱い結構結構。私には支えてくれる『仲間』がいる!その限り私の心は折れることはない!」
ヘカーティア《『安っぽい』?全てを知ったような口で純狐を語るな!お前は『私達の友情を侮辱した』。ただそれだけの理由で貴様を地獄に落とす!》
蓮子「そうね。誰もは幸せを求めて奮闘し、自分にとって最善の行動をするわ。現にあなたもね。だからこそ私は目の前の人だけでも助ける!それが『王様』の務め!」
カオス《…やれやれ…結局お前らの歴史は醜かったな。ならば全員まとめて消えてもらおう!ふんっ!!》
ドゴォォォンッッ!!!!
もう話し合いは無意味だと悟ったのか、カオスは頭をかいていた手を霊夢達に向ける。そしてカオスの手から発生した特大の衝撃波が全員に襲いかかった。
霊夢「きゃっ!!」
フラン「わぁぁ!?」
依姫「…ズザザ…!」
幽々子「…っっ…!!」
妖夢「わわっ!?」
カオス《出でよ!式神ども!奴らを抹殺せよ!》
霊夢達はおもいっきり後ろへ吹き飛ばされ、牢獄の壁をぶち破ってツクヨミの神殿内部に転がった。さらにカオスの周りに湧き出した闇から、この前霊奈が作り出したのと同じ式神達を呼び出す。
まるでロボットのような人間サイズの式神が鎧を纏い、槍や剣を持って前進してくる。
紫「全員行くわよ!」
永琳「ここで奴を倒す!」
二人の声が開戦の火蓋を切った……!
はい。ありがとうございました。
最初は純狐さん自身に嫦娥とバトルしてもらって、倒すつもりでしたが…尺や嫦娥のキャラ設定がめんどくさくて没にしました……許して…
あと『モイライ』達はオリジナルキャラですが、ギリシャ神話では結構重要なポジションの女神達として有名です。なんか雰囲気がマッチしてたので、出しちゃいました。