パラサイト・インクマシン   作:アンラッキー・OZ

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イフ・アナザーバース

 

 

 

 Chapter 39?

 

 

 

 見覚えある玄関。少し雑草の背が伸びた庭。外から見える窓の桟には埃が積もってる。

 

 いつの間にかサンドイッチはぺろりと平らげ。

 ムーンウォークでゆーっくり歩いていたはずなんだけど。

 目の前には実家! いやだ、肌の上を走る蕁麻疹が疼く…! あ、肌なかったわ。

 ハイ、正直気は全ッ進まない! やってられっかぁ!

 

「…どっちがいいかな」

 

 さあ、ここで選択肢がある。極東のハイクオリティゲームで例えるとこうだ。

 

 

 

Q.どこに行きますか?

  →マイスイートホーム実家

  →ゴゥトゥヘルスタジオ

 

 

 よし、実家にしよう。

 隣がP.P.の家だけど…多分、メイさんは出かけてるしP.P.は…学生だよね? だからまだ学校が終わる時間ではないはず。スタジオなんてその気になればいつでも行けるし、P.P.と鉢合わせするのは…なんだか、気まずい。

 

 実家の玄関の扉は鍵が掛かっていたが…最近開けた形跡が見られる。パパンが来たりしたのかな? もしくはどこかの組織の連中? 仮にそうだとして、扉を開けたらピンが外れてドカン!とかなったら嫌だなぁ。一応指先をインク状に溶かして罠がないか探る。

 

「……あれ?」

 

 感触は普通だった。

 でも何かがおかしかった。

 ブクブクしたインクのような、泡のような何かに触れた感覚。まさか…柔軟剤たっぷりの洗濯機が暴走!?

 

 んなわけあるか。

 

 罠はない。罠という感触は無いけど…()()()()()()。奇妙、と言うべきか。少なくとも生まれてこのかた一度たりともこんな感触を味わった覚えはない。まるで、空気が切り替わったような───

 

 コンコンコン。

 

「おじゃましますよっ……と」

 

「おーマイルズ戻ったか…って、あり?」

 

「遅かったじゃない…え?」

 

「あークソ、このなんちゃらキューブ難し…なんだ、みんなどうした? ア?」

 

「待ちくたびれたよ、どうやら覚悟は決まっ…誰?」

 

「あちち、このコーヒーあっついよ……ンン?」

 

 ヒゲの剃り残しが目立つ三段腹八頭身の赤青タイツおじさん。

 右の刈り上げ以外はクールビューティなブロンドヘアの白タイツお姉さん。

 トレンチコートにフェドラハット、パイロットゴーグルの白黒おじさん。

 ジャパニーズっぽい感じの子とメカメカしいロボット。

 ブタ。

 

 なんだ。いつからウチは仮装大賞のコンクール場になったんだ。

 夢にしては、えらく突拍子もないよ、コレ。

 そもそも夢って睡眠時の記憶の整理の際の残滓が映し出すモノだから、普通見たことも聞いたこともないモノを映すことは無いって聞いたんだけど。

 

 ……これ、入る家間違えたな、てへ☆ ウッカリー。

 

「……お邪魔しました」

 

 ドアを閉じて奇妙な仮装集団が視界から消える。ちょっと冷静じゃないだけだ、実家に帰るのにそこまで緊張していたのか私。精神状態脆弱すぎでしょ。

 一旦玄関から離れて家と反対側の方を振り向いたら──少なくとも、クイーンズの通りでは見たことのない風景が。アレェ? 私アパートに居たはずよね??? え?

 困惑していると背後のドアが開きニュッと伸びた手が私の肩をがっしり掴んできた。

 

「おいちょっと待て」

 

「待ちません振り返りません。私は全身タイツの変態集団なんか見てないしモノクロ人間やロボットや豚も見てないです」

 

「ウソつけ! お前そこまで言っといて「見てません」は無いだろ!」

 

「知らないよ! ていうかか弱い女の子の肩掴まないでよヘンタイ! ストーカー! 加齢臭!」

 

「最後のマジでやめろ!」

 

 インクに溶けて逃げようと考えた矢先、後頭部に何か取り付けられたのかそこから、ぐんと引っ張られて家の中に引き込まれた。いった!

 地面に水平に引っ張られるのとは対照的に、私の眼前を横切った白い糸のような何かが玄関のドアに付着すると、その糸を引っ張られたのかバタンと扉が閉まる。くそぅ、逃げ道塞がれた。

 びたーん! と盛大に背中から着地すると、仮装した変態集団がわらわらと寄ってくる。やめろぅ、大勢にじろじろ見られるのは慣れてないんだ!

 

 

 見ていいのは、見られる覚悟がある奴だけだ!

 

 

「…あなた達誰よ。なんか、クモっぽい格好してるけど」

 

「俺はピーター・B・パーカー。なな、お前さん…どっかで俺と会ったか?」

 

「私はグウェン・ステイシー。もしかして貴女……レインなの!?」

 

「オレはピーター・パーカー。どちらかと言えばノワールの方が呼ばれ慣れてるな、同郷さんか?」

 

「私の名前はペニー・パーカー! この子は私の親友のSP//dr!」

 

「ボクはピーター・ポーカー。デイリー・ビューグルのカメラマンさ。っていうかアンタ、ベンディだろ? 何やってんだ? お前さんまでこっち来ちまってたのかよ」

 

「……何者?」

 

「「「「「スパイダーマンだ」よ」な」!」ね」

 

 スパイダーマンって複数人の仮装集団の総称なの?

 というか、私は見覚えないけど何人か私を知ってるっぽいという事実が。いや…会ったことない気がするけどなぁこんな濃ゆいキャラ。会ってたら絶対忘れないよ。

 

「……私は、レイニー・コールソン。あなたたちとは…初対面のはずだけど」

 

「コールソン!? あー思い出した! 隣に住んでたあの性悪女じゃんか! え、でもすっごく若くなってるな、グフフフフ…ちっこくなってて威厳も形無しだヌフフフフ」

 

 ぶっ飛ばされたいのかこのヤロウ。

 

「やっぱレインじゃない。でもいつものパンクスタイルじゃないわね…『N・B・C』風のパンクメイクしてないし、ピアスも開けてない。全体的にちっちゃくなった? 胸の小さい貴女なんて見るの始めて…ふふふ、なんか新鮮」

 

 そんなチャラい女になった覚えないんですけど。というか胸の大きい私がいるのか! あとその映画のメイクには興味あるね!

 

「あぁー! 陰険根暗で眼鏡外したレイニーそっくり! でもこっちの方がまだパリピ感ある? 新せーん。 BEN//dyにはもう負けないよ! リベンジしてやるんだから!」

 

 陰険根暗眼鏡ってどんな私だ。そこまで陰キャになった覚えはないぞ、どちらかといえば陽キャだ。それに陰キャになるヒマなんかなかったからね。あとBEN//dyって何?

 

「お前さん、オレのとこに来た依頼人にソックリだな。名前は…ユカリ、だったか? オレと同じで白黒だからピンと来たぜ。この世界は色が多過ぎて訳わからんよなぁ」

 

 いや、私普通にトリコロールカラーのレディですけど。

 ウソごめんそこまで色少なくなかったわ。もっと色あるわ。極彩色!(嘘)

 

「ボリス元気か? あいつよくお前にイジメられててそろそろ八つ当たりでボクに噛み付きそうなんだよなぁ。というかベンディ、お前女だったのか」

 

 ボリスってどのボリスで、そのベンディはどのベンディなんだ。 豚が喋るくらい驚かないけどさ。ベンディはともかくボリスは数えるのも飽きるほどいるからリアルネームで呼ばないとわからないですって。

 

「…ていうか、ここ私の家じゃ……?」

 

「何言ってんだ、ピーター・パーカーの家だろ。この次元じゃ、もう故人だけどな」

 

「はぁ?」

 

 故人?

 この次元?

 空気も全然違うし、アパート密集住宅地でもない、窓から見える景色からしても、一軒家ばかりが等間隔で並んでる。

 仮にここがクイーンズだとして、過去に遡った…いやこんな設備は過去にも未来にもそぐわない。文字通り現代だ。

 ……じゃあ、並行世界か? いやいやいや待て待て待て私はただ実家の玄関開けただけだぞ!? そんなお手頃感覚で世界を跳べるわけないでしょ! ド◯衛門か!

 

「何? また別の次元のスパイダーマンが来たの? って…アラ?」

 

「今度は誰…え?」

 

 そこにいたのは、白髪が増えた壮年の女性で/

違う、あの人はもっと地毛の色が濃い。

 顔にシワが増えて、身体は年相応に痩せこけて/

違う、もっと肌は綺麗で年齢以上に健康そうな身体。

 少し嗄れた、でもまだ張りと芯ある活力に満ちた声/

違う、もっと柔らかくて高い声。

 

「メイ…さん…?」

 

「レニー!」

 

 立ち上がってすぐの私へタックル! じゃない、ハサミみたいなロック! 抱擁! いやちがう、腕ほっそいクセにめっちゃ力強いんですけど!? キリキリ痛む! でもインクになるのは憚られるくらい感動的そうなシーン! これがハメ技か! レバガチャする選択肢はないんですか!? えっ、コントローラー労る勢? そっかーそれなら仕方ない。

 

「あぁレニー、生きてたのね? ピーターに続いて貴女も失うなんて耐えられなかった…あなただけでも無事で…」

 

「ちょ、ちょっと待って。私、違う。メイさんの知るレイニーじゃないし、私の知るメイさんでもないと、思う。ていうか、」

 

 ()()

 

 なんだ。

 なんだその動詞は。それはまるで、亡くなったピーター・パーカーの後を追うように死んだみたいな言い方。

 

「あ…ご、ごめんなさい。貴女は別の次元のレニーなのね。こっちのレニーは…ピーターの訃報を聞いてすぐ、投身自殺したのよ…」

 

 なんだそれ。ここの私何があったし。

 

 

 

 

 

 Chapter 40?

 

 

 

「……つまり、そのキングピンとかいう人が粒子加速機を使って実験した結果……その、スパイダーマン? とかいうマイナーヒーローが」

 

「マイナーじゃねぇよ田舎娘!」

 

「うっさい三段腹。…話戻すよ、その、スパイダーマンが、別次元から引っ越ししてきた訳ね」

 

「引っ越し…うん、まぁ細かいところは置いといて、その見解で合ってるわよ」

 

 グウェン・ステイシー/スパイダーグウェンの説明を聞いたレイニーは途中茶々を入れるB・パーカーに蹴りを入れつつ、頭を抱えた。

 説明の内容は、仮にこの場に友人のトニー・スタークがいれば、あまりにも非現実的で非科学的かつ荒唐無稽なものだと吐き捨てるようなものだった。その分、レイニーは死にかけた自身がベンディという悪魔に呪われて蘇った、所謂ファンタジー枠のヒーロー(ヒロイン?)だった経緯から、ある程度非科学的な事実を飲み込める。

 だが、グウェンから聞いた内容は明らかにその範疇を大いに逸脱していた。論点の相違とでも言えばいいのだろうか。

 

 まず、グウェンの話を認めるには〝スパイダーマン〟というヒーローが世界に一人だけ存在しているということが前提条件として挙げられる。

 だがレイニーは元いた世界でそんなヒーローを聞いた覚えがない。ただし、レイニーがいた時間軸で存在していないだけで、これから生まれるニューヒーローの可能性も否めない。だからこの前提条件は一時棚上げとする。

 

 次に、並行世界の実在。

 ここから先は専門家には遠く及ばないためレイニーも強く言えない。

 言ってしまえば、悪魔の証明(Probatio diabolica)。〝無い〟と証明できなければ〝有る〟を否定することができないということ。

 

 つまるところ、目の前の出来事は全て事実として受け入れるしかないということだ。レイニーはその現実に思わず目眩がしそうになるも、なんとか胸の内にその燻りを溶かして受け入れる。

 

「……うーん、うん、うん…ハイ、わかった。わかりました。否定する材料がないからその話は信じる」

 

「よかったわレイン…じゃなかった、こっちじゃレイニーなんだっけ」

 

「……うん。それで、そちらの世界にも私の同一存在がいるみたいだけど…なんで私までこの騒動に巻き込まれてるの?」

 

 それが疑問だった。

 それはスパイダーマン(仮)たちも同様のようで、三段腹を指摘されて落ち込むB・パーカーも、ロボットの上で唸るペニーも、グウェンも、ノワールも、ポーカーも、皆一様に首を傾げる。

 

「…レディ・ユカリ、お前さんの次元には、スパイダーマンはいないんだよな?」

 

()()()()ね……ただ、ピーター・パーカーという人物なら…知ってる。だから、もしかしたら彼がそうなる可能性はあるわ、えと…」

 

「ノワールだ。しかしそれなら…そのピーターの代わりに連れてこられたという可能性はあるな。オレたちは法則性もなく別々の時代からやってきた。俺は1933年から来た」

 

「私の宇宙は3145年! ニューヨークから来た!」

 

「俺とグウェンはそんな変わらないな、少なくとも2000年代だ。あとマイルスのいる次元も多分あまり変わらない」

 

「……たしかに、いくつか年代に差はあるけど、変わらないわね。私は2014年のクイーンズから来たわ。アベンジャーズのメンバー」

 

「「「「「アベンジャーズ?」」」」」

 

 スパイダーマンたち全員が首を傾げた。そんな組織は彼等の次元には存在しないからだ。

 

「ア、アブェ、アヴェンジャーズ? なんだそりゃ、ゴロツキヴィランの集まりみたいな名前だな。濁った音が多過ぎないか?」

 

「……キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソー、ブラック・ウィドウ。この名前に聞き覚えは?」

 

「無い!」

「知らないわ」

「ま、未来にはいるかもしれんがそんな最先端っぽい組織知らんなぁ。何色なんだ?」

「えー私の宇宙にもなかったよ、少なくとも3145年より昔には。教科書にもなかったし」

「ボクも記者だけどそんな名前聞いたことないなぁ。ベンディなら知ってるかもだけど」

 

「…そっかぁ」

 

 アベンジャーズがいないということは、文字通り彼等スパイダーマンがニューヨークの秩序を守っているのだろうとレイニーは思った。

 ただ、ヒーローになるということはそれ相応の責任と、危険が伴う。アベンジャーズというチームでも危機的状況は数え切れず、常人であっては命がもたない。それをスパイダーマンというヒーローひとりだけで背負っていると考えると、ある意味最も過酷で残酷な宇宙が存在していることを暗に示していた。

 

「……それは、大変ね」

 

「「「「「……」」」」」

 

「え、何その反応」

 

「あ、いや…コールソンの顔でそんなこと言われると…戸惑いというかだな? いつもバツイチの俺をからかってたから、その、な?」

 

「…歯ギターしたりマラカスでドラム叩いたり楽器とメンバーに黒ペンキぶちまけて演奏するキチガイのトンチキレインとはギャップあり過ぎるのよ。ま、対バンしたときにヘルシェイク節持ち出された時はサイコーにアツかったけどね」

 

「いつも陰キャのシンジやシモンとオタク談義してるレイニーとは全然ちがーう。私こっちのレイニーの方が好き!」

 

「悪党ぶっ飛ばすだけぶっ飛ばしといて組織から金騙し取るユカリとは大違いだ、これくらいお淑やかな方がまだ…いや、なんでもない」

 

「アリスちゃんと歌って踊ってボリスをいじめるベンディとは全くの別人…別キャラ? だからちょっと驚いちゃったぜ。でも結構面倒見いいんだよなアイツ」

 

 どうやら、ここに集うスパイダーマン同様に彼等の次元にいるレイニーの人格や見た目は多種多様らしい。

 

「…それで、みんなはなんでここに集まってるんだっけ」

 

「あ! そうだ、マイルス! あ、マイルスってのはこの次元の新しいスパイダーマンでな」

「まだ新人中の新人だけどね、糸も能力も使えないし」

「正直、あまり期待はしてないんだけど…ね」

「キングピンの野郎に突撃する前に待ってやろうってことになっててなぁ」

「一応、あいつもこの次元のスパイダーマンになっちまったからな」

 

「ふーん…ん? 今来た人?」

 

 え、と声を合わせてスパイダーマンズが振り向くと、意図せずして発動していた透明化を解除したマイルス・モラレスが息を荒げていた。

 

「あ、お、叔父さんが! ていうかアンタ誰!?」

「別次元のレイニー・コールソン。よろしくー」

「レ、レ、レイニー!? えと、よろしく…じゃなかった! あの、アーロン叔父さんが! キングピンの手下で! プラウラーで! それでッ僕を殺そうとした!」

 

 焦るマイルスを見て、レイニーはああ、とどこか懐かしい感傷に浸る。

 

 ──数ヶ月前、母エニシ・アマツはレイニーと敵対した。よりにもよってアベンジャーズの敵組織であり、しかも長年にわたって敵組織の基盤を築き、支えていた。未だ目的は不明だが、潤沢なヴィブラニウムをふんだんに使った武装を整えており、謎の力で空間を移動する能力も備えている。

 近親者が敵であったという事実は、自然とレイニーに親近感を抱かせた。

 

 よく、自分より焦っている人を見ると返って己は冷静さを取り戻すという場面に出くわす。この場合焦っているのがマイルスで、冷静なのがレイニーだ。

 マイルスは、その叔父さんだったというプラウラーに追われてこの家に逃げ込んだ。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 スパイダーマンたちがスパイダーセンス(ムズムズ)で敵意を感じ取ったものと同様のものを、レイニーは自身の力で感じ取っていた。

 ベンディの能力。すなわちインクの身体。

 こと空気中の振動を感知する流体の身体は、不気味なほど一直線に向かってくる複数の気配を察知していた。

 スパイダーマンたちはマスクを、レイニーはベンディのインクを身に纏う。

 全員がギョッとしてレイニーを見たが、それよりも玄関を突き破って侵入してきた蛸の足のような半透明のマニピュレータがメイ・パーカーめがけて突っ込んできた。レイニーはインクの腕を伸ばしてそれを払い落とす。

 

「あ、ありがと」

 

Don't worry . Quickly, get out of here

 (気にしないで。はやく逃げて)

 

「アラ? 別のお客様もいるわね? スパイダーマン…とは、別の存在かしら?」

 

「何人いようが俺たちがやることに変わりはねぇがな」

 

「クモ以外にヘンなモノが紛れてるな(※スペイン語だぜ)」

 

 オリヴィア・オクタヴィアス/ドクター・オクトパス。

 トゥームストーン。

 スコーピオン。

 

 いかにもヴィランという姿の連中が三人──否、四人。家に入らず外で警戒して突入の機会を窺う敵が一人。マイルスの動揺の波が少ないことから、この場にいない最後の一人が叔父だろう。一触即発の空気の中、メイは眉を顰めて苦言を漏らした。

 

「暴れるなら外でやって」

 

They say

 (だってさ)

 

 ───返答の代わりは、オクトパスのマニピュレータによる刺突だった。

 開戦の火蓋は切って落とされ、スパイダーマンたちとヴィランズによる目にも留まらぬ戦闘が始まる。瞬く間に庶民的な民家の内装はボロボロになり、壁は抉れ、床は剥がれ、家具は砕け、何もかもがめちゃくちゃ。

 

 インクの身体を引っ込めたり窪めたりしながら敵・味方の攻撃を避けていたレイニーは、それを目の当たりにして、()()()

 

You guys

 (オマエら)

 

 ぎゅるぎゅるとインクが耳障りな音を鳴らして床を這う。縦横無尽に飛び交っていたスパイダーマンたち、ヴィランたちの足を縛り上げ、固定。突如戦闘が強制的に止められた双方は一様に戸惑いの表情をレイニーに向ける。

 

 ベンディの顔は、嗤っていた。

 

She's telling you to go outside!

 (やるなら外でやれ、って言ってんでしょうがぁ!)

 

 ───物理学の法則を無視した吸引力、収納力で全員をインクの身体に沈ませ、自暴自棄になったレイニーは勢いよくパーカー宅から飛び出す。そしてその勢いのまま身体を大の字に、胸を大きく反らすと吸収してきたスパイダーマンたち、ヴィランたちを吐き出した。

 

「ッブっ、ぶへぇ! おま、ちょ、コールソン! 無茶苦茶だよお前!」

 

Noisy ! Are you going to break Mei's house !?

 (うるさい! メイさんの家ぶっ壊す気!?)

 

「いや、割と高確率で何回も壊れてた気がしなくもないわね…」

 

No way , Really ── Gut

 (ウッソ、マジで──ガッ)

 

 パァンと、住宅地に銃声が鳴り響いた。

 音源は、黒い高級車から降りた恰幅のいい、坊主頭の偉丈夫。黒いスーツを着込み、煙吹く拳銃を構えるは、ウィルソン・フィクス。

 

 またの名をキングピン。彼等ヴィランズの首領。

 

 銃弾の餌食になったのは、憤慨していたレイニーの頭部。破裂し粉々になった頭部はインクの飛沫に成り果て、頭を失ったインクの身体が倒れる。

 

「レイニー!」

 

「なんだそのバケモノは。おい、お前等もグズグズしてないで蜘蛛どもを殺せ」

 

「アンタ、よくもレインをやったわね…!」

 

「……あー、目が覚めたわ。ハッキリしたわ」

 

「…へ?」「ハ?」「え?」「お?」

 

 ポーカーを除く、スパイダーマンたちが驚きに目を見開く。そこには飛散したはずの頭部の形を取り戻したレイニーがなんでもないように立っていたからだ。

 ポーカーだけは、カートゥーンの宇宙からきた、ベンディをよく知るポーカーだけは、ベンディの不死性を理解していた。

 

「あー、そうだよな。だってベンディ、インクの悪魔だもん。銃弾程度で死ぬわけ無いよね」

 

「そういうこと。さて…キングピン、だっけ? 一人(タコに)二人(ゴリラに)三人(サソリに)四人(コウモリ)……みんなまとめてタイマン張らせてもらうから! 覚悟しなよ!」

 

「ヒッ、デスメタ・レインだ…こっちでもめっちゃ怖かったよ…」

 

「えっナニソレ、デスメタ?」

 

「あなた音楽ジャンル詳しかったわよねモラレス。『DEICIDE』とか『OBITUARY』って知ってる?」

 

「駄弁ってる場合じゃないぞお前等! 来るぞ!」

 

「ッそこのバケモノ諸共、全員ぶっ殺せェ!」

 

 

 

 

 

←……To Be Continued

 

 

 

 

 

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