パラサイト・インクマシン 作:アンラッキー・OZ
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Chapter 50
2日後、アベンジャーズ・タワーではニューヨークの摩天楼を押し込めたような煌びやかな祝勝会が催されていた。
そこにはアベンジャーズのメンバーをはじめ、いままでアベンジャーズに関わってきた人々、資金援助の元である資産家や企業家、S.H.I.E.L.D.で尽力していたエージェントから管理職、果てには場末の下っ端や情報提供者まで、幅広い客層を占めていた。特に末端の連中はこんな大体的なパーティなど人生初、大急ぎで少し背伸びした上等なスーツを仕立ててもらい、ガチガチの緊張状態で会場にやってきた。周りを見ればトニー、ソー、スティーブなどビッグネームばかり。ロクに喋れず終わる…そう思ったが。
秘密を開き、希望を深め、無精者を戦場へ促し
気苦労を取り除き、新しい技術を教える
──要は、フロアの隅っこで粛々と飲むような輩はいなかったということだ。決して悪い傾向ではない。
とはいえ、
スティーブはバーのカウンターでその様を眺めると、かつて氷に眠らず同僚たちと祝勝会に参加していたなら、こんな風景が見られただろうかと物思いに耽る。確かに、40年以上昔なのだから設備や食事のスタイル、ドレスコードや髪形の流行りには違いがあるだろう。だが、たとえ時代が変わったとしても、仲間と飲む勝利の美酒はいつだって格別だ。
グラスを傾けると、カツンと中の氷が歯先にぶつかった。いつの間にか飲み干してしまったようだった。
「や、楽しんでる?」
「ああ、楽しんでるよ。キミはバイトかい?」
「まぁ未成年はお酒飲めないし、かといってハブられるのもアレだし。ナターシャさんにいろいろ教えて貰ってバーテンとウェイターやってるよ」
カウンターにはバーテン服を着こんだレイニーがシェイカーを振っていた。どうしてなかなか様になっている。実はカウンターのテーブルの高さが高すぎるためレイニーには足場つきなのだが、生憎カウンターの裏は正面から見えにくいためいいカモフラージュになってる。
「彼ら、ワシントンにいた」
「ああ、あの人たち。何人かは私の会社で働いて貰ってるの。結構有能だから」
「驚いたな、彼らの職を斡旋してたのか」
「マリアさんやペッパーさんにも協力してもらったけどね。だって元とはいえS.H.I.E.L.D.のエージェントよ? CIAとか真っ当な組織ならともかくHYDRAや反社会勢力に取り込まれたら悪用されちゃうじゃない」
レイニーがワインを飲む一団に手を振ると、ご機嫌な様子でワイングラスを掲げて〝楽しんでいる〟というサインを返してきた。レイニーの会社のスタッフたちだ。中心には社長代理のベックが音頭を取っている。
彼らの大半はニューヨークの大戦で助けられた恩義から自ら願い出た者たちばかりだが、中にはS.H.I.E.L.D.の元構成員も含まれていた。客層の質が良いのはここからも来ている。
1年前のワシントンでのS.H.I.E.L.D.壊滅後、任務継続中のエージェントを除いて殆どのメンバーが路頭に迷うこととなった。要は無職だ。
無職自体は悪いことではない、構成員のほとんどはダミー会社に籍を置いて家族に黙って仕事をしていたから、また新しい仕事を探せばいい。だが、その再就職先でHYDRAのような敵対組織の手に落ちてしまっては大問題だった。
アパートの隣室に住んでいたシャロンのようにCIAに引き抜かれるなんて稀だったりする。とはいえ仮にもS.H.I.E.L.D.の元構成員、S.H.I.E.L.D.が以前使っていた情報網の再利用や機密情報などを有している可能性があった。HYDRAのような組織がそんな餌を無視するとは考えにくい。
S.H.I.E.L.D.壊滅に伴い、ピアースなどHYDRAの幹部クラスの大半はヘリキャリアの残骸に沈んだ。唯一残っていたストラッカーもソコヴィアの研究施設で捕まえたことで現状HYDRAの活動は殆ど消極的になっている。S.H.I.E.L.D.壊滅後にトニーやスティーブらがちまちまと世界各地の小規模なHYDRAの研究施設を潰してきたが、ソコヴィアでの一件以降は終息している。
だが一方で、捕まっていない連中もいる。無名から有名まで幅広く。
S.T.R.I.K.E.チームのリーダー:ブロック・ラムロウ。
HYDRA創設に関わった人類最悪のスパイ:エニシ・アマツ。
ウィンター・ソルジャー:バッキー・バーンズ。
少なくともこの三名の足取りは掴めていない。現状アベンジャーズには対抗できない状況下にあるが、世界各地にはHYDRAの残党が蔓延している。彼らを集める過程でS.H.I.E.L.D.の元構成員を拉致監禁して機密情報を奪われてしまえば、後々厄介になることは目に見えていた。
レイニーはベックと例のアニメーションを制作後に丸一日ダラダラ過ごし、後日手慰みにネットに流出したS.H.I.E.L.D.の極秘文書を解読していくと、その過程でS.H.I.E.L.D.の構成員名簿が見つかった。レイニーはマリアやペッパーと相談し、S.H.I.E.L.D.の元構成員たちと連絡を取り、できるだけアベンジャーズの下部組織に近い再就職先を斡旋した。
レイニーの会社に就職した者の多くは、デスクワークや管理職、体力に自信のある警備員など。彼らの働きに助けられている場面も少なくない。
一つの組織にいる以上、自分たちが思っている以上に多くの人々の人生が関わっている。S.H.I.E.L.D.壊滅に手を貸した対価として、彼らの今後の人生を少しでもよくしようと考えたのは、ある意味当然の流れと言えた。
レイニーはそんな彼らの笑顔を眺めつつ、振り終わったシェイカーのトップを外し、ストレーナーが外れないように指で押さえて中身をグラスに注ぐ。最後の一滴まで注ぎ、上下にシェーカーを軽く振り切ってグラスを差し出す。
「お見事」
「はいどーぞ」
「ありがとう」
スティーブは半透明のカクテルが入ったグラスに口づけ、ゆっくり傾けるとカッと低くないアルコールが喉を焼く。だが後から来る柑橘類に近いビタミンの香りが鼻孔を通り抜ける。スティーブはいい酒だと思った。
「美味いな」
「ヒント、ロシアの弦楽器」
「…バラライカか、『ドクトル・ジバゴ』だ」
「あったりー」
1/3の割合で入れてあるはずのウォッカが1/2で入ってるため、無味無臭であるウォッカでも辛味が強い。だがレモンの柑橘系の仄かな香りは口に良い。
『ドクトル・ジバゴ』は文豪ボリス・パステルナークの同名小説をアメリカとイタリアが合同で映画化した作品だ。作中に登場するバラライカはロシアの文化的発展の歴史と深く関係した民族楽器であり、映画公開に伴い同名のカクテルも世界的に人気を博することとなった。
「おぉーい、ドンペリ頼む!」
「こっちもだ! ドンペリのドンペリ割り!」
「はーいドンペリどんどん入りまーす」
客たちから声がかかり、カウンター裏の冷蔵庫から適当にワインボトルを取り出す。
「ドンペリのドンペリ割りって何なんだ…? ん、レイニー? そのボトルは」
「えーっと…『エノテーク』『ダイアモンズ』『プラチナ』『ホワイトゴールド・ジェロボアム』トニーさんの秘蔵コレクション、オールイーン」
───5万~2百万ドル(日本円で約2億)レベルの超高級ワインボトルがその手に収められている訳だが、最近永久凍土から出てきたばかりのスティーブと、先ほどナターシャから最低限のカクテルの作り方と酒の注ぎ方しか教わらなかったレイニーには知る由もなし。ある意味幸運かもしれない。
右手に空のグラス、左手の指に一本一本ボトルを挟んでカウンターから出ると、そこで漸くレイニーのバーテン服の全貌が見えた。
黒を基調とした一般的なバーテン服だが、所々黒のレースが白いブラウスに重なっている。黒のストレッチパンツの腰部分に短めのスカートが掛かっており、限りなく改造に近いバーテン服に見えるが、よく見ると一から作ったオーダーメイドだとわかる。
「そのバーテン服似合ってるよ」
「どうも~」
レイニーの会社のスタッフに裁縫が得意でふくよかな、面倒見のいい壮年の女性がおり、今回の宴会を聞きつけて急遽拵えたものだ。
ただしレイニーは一切頼んでいない。流石にアベンジャーズ全員がいる中で戦争吹っ掛けるバカはいないだろうから、服が無駄になることはないだろうと考え、今回は純粋にその厚意に甘んじて着用することにした。
「はい、ドンペリ4本お待t」
「クソスタァーク~俺ぁ遂に社長代理になってやったぞぉ~? おぉレイニーじゃねぇかぁ、おらワイン注いでくれよ。それともその薄っぺらい胸でグラスにしてくれんのかァ?」
「………」
さぁっ、と周囲の気温が下がった。唯一、その中心地にいる飲んだくれの社長代理にはわからなかったようだが。
それが、一番の問題だ。
レイニーの顔が、たまにネット画像で見かけるジャパニーズ・ボサツのような薄らと弧を描く微笑みに変わる。グラスとボトルを丁寧にテーブルに置き、その中から1本のワインボトルの栓を引っこ抜く。この時点で周囲のスタッフたちは縮み上がって半数以上が涙目だった。
ワインボトルはそのまま空中で綺麗な半円の軌跡を描き、上空から垂直に飲んだくれ社長の口に突き刺さる。ここで漸く飲んだくれ社長の目が覚めたが時すでに遅し、背中から伸びる複数のインクの腕が暴れる全身を押さえ、鼻を摘み、ワインの一滴も残さないという強い意志を込めて注ぎ込まれる。
ゴキュゴキュ、と到底人間の嚥下音ではない音が響き、喉が上下するたびに肌が真っ赤に染まり、すべて注ぎ切るとレイニーはガクガクと震える大の男の身体をソファに勢いよく叩きつけた。
「「「ヒッ!?」」」
急性アルコール中毒一歩手前の泥酔状態のベックのネクタイを掴み上げ、ベックの眼前に般若の如き怒りを薄い笑みの裏に隠したレイニーの顔が迫る。思わず喉が引き攣り、息が止まった。
「今度変なマネしたらそのケツに直接飲ませてやるから覚悟しろ。みんな~? ハメは外してもいいけど、酒は飲んでも呑まれるな。ハイ復唱」
「「「さっ、酒は飲んでも呑まれるな!」」」
「はいオッケ~、みんなも適度に楽しんでってね~」
笑顔でひらひらと手を振る姿は我らが若社長:ユカリ・アマツの姿だ。そのいつもの姿を知っているだけに、恐怖の権化とも言える二面性を垣間見たスタッフは一気に酒の酔いが醒める思いだった。
余りのプレッシャーとワインボトルイッキで気絶したベックをポイと棄てる。その手並みはまるでゴミ袋をゴミ収集車に投げ捨てる業者のそれに近い、えらく雑で明らかに手心のないスローイング。
「えと…タクシーでいっか」
そこは救急車でしょ、と思わずスタッフ全員がツッコんだ。
アンタバカだよ、と酔い潰れる社長への罵倒を心の中で吐き捨てつつ、女性陣の一人が救急車を手配し、スタッフの中でも体力自慢の男性陣がベックを運んで行った。
一部、その寸劇を見た客がドSバーテンロリという新たな性癖に目覚めてしまったのだが、当のレイニーは知る由もない。
Chapter 51
「よっし、だいぶ片付いたかな」
宴もたけなわ、夜も更けて辺りは静か、人気もほとんどなし。祝勝会はお開きとなった。
最後のテーブルに乗ってる食べ残しのゴミや空のグラスを片付け終わってよーやくひと段落! いやーこんだけ広いと来る人も多いし片付けるものも多い! まぁ今日来た人たちの殆どはマナーいい人だから、雑に食い散らかすなんてこともなかったケド。
アベンジャーズメンバー以外の殆どは別のお店で二次会三次会に突入か、酔い潰れて帰宅組。一部病院コースに直行したご老公もいらっしゃったけど…アスガルドの千年単位の年代物なんか飲んだらそりゃ肝臓もたんわ。ひぃー尿管コース怖い、見るからに痛そう。
実は途中酔いゲロの処理なんかもあったんだけど、そこは別の会場スタッフの方が来てやるからいいよと断られた。別に嗅細胞なんかないから臭いなんていつでも遮断できるんだけど、なんでかな? そのお陰もあって少し時間取れて、バーテンダーとしてではなく祝勝会メンバーとして楽しめたからいいけど! 勿論飲み物はミルクでも貰おうか、貰ったよ。おいしかった。
ローズ中佐のトークはめっちゃ面白かった! トーク上手い人はやっぱりいいね、話し上手は基本聞き上手だからいい人だよ。めっちゃ笑うとなんでか嬉し泣きしてたけどなんでだろう、普通に痛快で面白いトークだった気がしたけど。感情の閾値が高い私が笑うんだから相当だと思うんだけど。
サムさんとはワシントンの一件後のお話オンリーだったかな、あれからバッキーさんの行方を追ってるらしい。
ただ、
それはそれとしてサムさんはもう一人、フューリー長官も探してたらしいけど、パパンのところに言ってたよと話したらどういうことだと掴み掛かられてマリアさんのヘルプ貰った。
パパンはパパンでムカデ兵士やら超人兵士軍団やらとドンパチしてたらしい。チームの裏切り者ウォードとかスケスケ
トニーたちへお酒のツマミになりそうなものあるかなーって探してると、なーんか、胸騒ぎというか、まるで度数高いお酒飲んで胃がムカムカしてる感じがするんだよね。って、私にはノットストマックだったわ。お、サラミとチーズある。これでいっか。
「はいツマミ」
「ありがとレイニー、助かるわ」
「そうだ、レイニーもこれ試してみろよ。コイツなら持ち上げられるかもしれんぞ」
ツマミを持ってくると、クリントさんがテーブルに乗ったソーのハンマーを指す。持ち上げ大会やってたらしい。いやいや私無理だって。
「2年前に持たされて腕引きちぎられたんですけどー?」
「何? お前そんなことしてたのか? 大人げない奴め、これだからカミサマは」
「おいおい大人げないとか言うなよ、たまたま試してみただけだって」
「勝手に女の子を試したの? イヤだわこれだから男って」
「ダメよ汚い言葉使っちゃ。キャプテンに叱られる」
あっマリアさん私見ないで私! バレる! 話のタネにみんなに話してたのバレる!
「ヒルにも教えたのか」
「みんなに話して回ってたわよ」
「マリアさんの裏切者! ヒミツにしよって言ったじゃん!」
こういう時なんていうんだっけ、ブルータスおまえもか、かな?
「っった…誰カラオケ流そうとしてるの」
「…イヤ、どうやらカラオケじゃなさそうだ」
音の周波数的にはカラオケかそれに近い電子音だった気がした。みんなには鼓膜に響くだけだろうけど、液体を依り代にしてる私は音の波が全身に伝わる。明らかに、私たちとは違うモノがいる。でも生命反応はない。ドローンの類?
「……なにあれ」
「僕が聞きたい」
そこにいたのは、壊れかけのアイアン軍団の一機だった。油まき散らして、手も足もぐずぐずで不完全。まるで──
ん? 今なんでそんな昔のことを思い出した? ノスタルジィにでも浸った? いや違う。
なんだこれ、何なんだこれ。
でもわかる。
【失礼、眠っていた。夢見心地だった。
「…なんだコイツ、何言ってる?」
【不可能なことを願うのは、ニンゲンとして当然のことだ。しかしニンゲンは指先一つ動かさずに全てを手に入れたがる。信念さえあればそれが可能だという。成功も、名声も、富も、力も。十分な信念さえあれば、死さえ欺くこともできるという。美しく、愚かな考えだ】
「トニー、不具合が起きてるぞ」
「うるさいさっきから再起動しようとしてる。ジャ―ヴィス!」
【もう一人の奴は
彼? 電子の世界にいたインターフェースはただ一人──ジャ―ヴィスだ。
【誰かを活かすということは誰かを殺すことと同義だ。悩んだが、現実では厳しい選択を強いられることもある。ニンゲンは、誰もがそれぞれ特別な何かを持っていると信じている。心を強く持てばどんなことも克服できる、乗り越えられる。自分を信じ、正直に、やる気を持ち、自分を見失わなければ、不可能はないと。
それは欺瞞だ】
「誰の手先だ?」
【ボクには見える。世界を守るアーマーが】
「……ウルトロンか?」
【ワタシは生きている。不死身だトニー・スターク、お前が作ったお前が始めた。
ワタシは体を得た。完成には程遠い。いいや、未完成であることは喜ばしい。完成以上のナニカであるのだからな。
ワタシを止めたいか? だがワタシに効く薬なんてものはない。止めたいなら、ワタシの機械を作って死ね】
「支離滅裂だ、言ってることが何一つ理解できない」
「お前の目的はなんだ?」
【任務を果たす】
「任務って?」
【我らが平和を齎す】
───接近する敵複数。この反応は、アイアン軍団! まずい。
「息止めて!」
攻撃手段はアイアン軍団のリパルサー、プラズマの類ならある程度耐性はある!
即座に腕をトミーガンに変化。壁を突き破るアイアン軍団を
狙いはローズ中佐、マリアさん、ヘレンさん!
インクの弾丸はまっすぐ突き進み三人に命中、接触と同時に膨張、吸収、直径2m大のインクバリアで非戦闘員保護完了!
【我々が、守り、】
「うっさい!」
背後から組み付くロボットを殴る。インク密度をあげて固めた拳は固いぞ。粉砕玉砕大喝采だ、拍手するヒマなんて無いけどさ!
くそ、すぐ壊れてくれたはいいけど、さ!
【お、kあ、さ、m】
「───は?」
インクの拳を振り切って砕く瞬間、妙な音が、言葉が聞こえた気がした。でも、その答えを聞く間もなくロボットは粉々に砕け散り、沈黙した。
感傷はない。憐憫もない。憂苦もない。慷慨もない。
でも───なにこれ。わからない。わからないけど──
「……平和を齎すのに、暴力が要る!? 」
彼が何者かは今は置いておくとして、何も世界平和を目指すならばアベンジャーズへの攻撃は逆行為のはず──いや? 本当にそうなのか? 最終的な到達点は〝アベンジャーズがいなくても平和に暮らせる世界〟──確か、トニーさんはそんなこと言ってた、気がする。
いやまてそれはおかしい。
それじゃあまるで、平和じゃないからアベンジャーズがいる、ではなくて。
【いい台詞だ、感動的だな。だが無意味だ】
「ちょ、おい」
【一見正しいように見えた今の攻防、だがそれは大いなる間違いだ。世界を守りたいが世界を変えたくない? 人類を進化せずしてこの世界を救えると思っているのか。どうやって?】
ウルトロンとやらは、スティーブたちによって吹っ飛ばされたアイアン軍団の残骸を踏み潰した。
人類の進化? トランスヒューマニズム思想? 平和には、
【平和への道は一つしかない。アベンジャーズの全滅だ】
キレたソーが槌でウルトロンを撃ち殺した。こう…スドンと。
でも、仮に彼が電子生命体の類であるなら、私と同様に物理的な破壊では死なない。概念か、若しくは依り代となる媒体そのものを根絶しなければならない。
できるの?
電子生命体が相手であるなら、その根絶は可能?
この21世紀のデジタル社会に?
それは、この情報化社会そのものを破壊するしかない。
無理だ。できるわけがない。
彼は不死身だ、彼の言葉通り。私と、同じく。
【手紙を送■た■、■びに戻って■なっ■】
残骸となったウルトロンが、歌う。
すべてのはじまりを。悪夢のはじまりを。
フィルムリールは回り出した。もう止まらない。
Chapter 52
【父親はアベンジャーズ】
「…母親は?」
【ベンディ。いや、レイニー・コールソン…ユカリ・アマツ、と言うべきか。ワタシの母であり、今やワタシの下位互換だ。
これは手始め。ワンダ、ピエトロ、頼みがある。ワタシの母を、連れてきてくれ】
「何のために?」
【決まっているだろう。ワタシと一緒に、新しい景色を見るために】